第八十四話 ギルド制度の導入
○6月20日木曜日午前6時50分 クローバー拠点部屋○
朝のハイテンションタイムから戻ると、先輩が俺達の武器メンテをしてくれている。
その待っている間のちょっとした寛ぎのひと時。
そんな拠点部屋の光景に今日は椿さんも加わっていた。
椿さんと言えば、今日はハイテンションタイムを使って錬金スキルのレべリングをしていたそうである。
俺としては感度ビンビンに続き、早めに念話スキルの取得をという思いだったのだが、この人も中々の自由人らしい。
一方俺の今日の成果としては『片手剣』スキルを取得。
まあ俺的にはこの辺のスキルも早めに取得しておかねばなるまい。
「はぁ~い、賢斗くぅ~ん。剣のメンテが終わったわよぉ~ん♪」
おっ、今回も劇的進化があったかなぁ~。
「あっ、どもっす。」
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『雷のロングソード』
説明 :雷の力を帯びたロングソード。雷属性(小)。雷耐性(弱)。ATK+13。
状態 :140/140
価値 :★★★
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ふむ・・・今回は見た目上の劇的進化はなしか。
まあこれ以上刀身が伸びるような使い方をしてなかったからな。
そしてATKや耐久度の伸びは、前回、前々回と比べりゃやや物足りない感じ。
一般的に短剣よりはショートソード、それよりはロングソードの方が攻撃力は高くて当たり前。
この効果には、こういった事も関連しているのかもしれない。
とはいえ雷耐性を付ける事には成功したし、これがソードモデル時の消耗の軽減に繋がってくれる事を期待するとしよう。
コト、コト・・・
「はい、これが今日の私の成果。
先ずはMPポーションを5本。
ちょっと数は少ないけど、受け取って下さいな。」
「ああ、有難う御座います、椿さん。
普段はそんなに使いませんから、これだけあれば1週間くらいは余裕で持ちますよ。」
取り敢えず後でみんなに1本ずつ渡しておくか。
「あら、そうなの?
素材はまだ沢山あるのに、余分はこの店にでも買い取って貰おうかしら。」
「ああ、それが良いと思いますよ。
錬金は何かとお金も掛かっちゃうでしょうし。」
「そういって貰えると助かっちゃうわねぇ。
まだ錬金釜の元も全然取れてないのよぉ。
あっ、でもそうだ。聞いてくれる?私の錬金スキル、今朝のハイテンションタイムでなんとレベル7になったのよぉ。
お蔭で属性エンチャントってのまで覚えたみたいだし、これでようやく協会でエンチャントのアルバイトが出来るかしら?
賢斗君、前にそんな話してたわよね。」
ほう・・・この短期間でレベル7まで上げてたのか。
「ああ、はい、そうっすねぇ。
協会からの依頼には、魔石の属性エンチャントをするお仕事なんかもあるって前に聞いた事ありますから。
じゃあちょっとその属性エンチャント、解析してみて良いっすか?」
「うふっ、賢斗君は私のスリーサイズにも興味があるのかな?
いやもう既にお姉さんのスリーサイズはばれちゃってたかなぁ。」
うっ、そこまで情報漏洩が進んでいたとは。
「って、年下の男の子を苛めちゃ悪いわね。
解析料って考えれば安いものだし、どうぞしっかり解析結果を教えて下さいな。」
う~ん、まるで異性として見られていない大人な対応。
ちょっと悲しい気もするが、この場合は結果オーライとしておこう。
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『錬金LV7(0%)』
種類 :アクティブ
効果 :魔素エネルギーを触媒として、素材から完成品を錬金する能力。基本成功率スキルレベル×10%。習得技能の使用が可能。
【技能】
『レシピ解読Ⅰ』
種類 :アクティブ
効果 錬金可能な低価値のアイテムのレシピを解読できる。
『劣化軽減(小)』
種類 :パッシブ
効果 :錬成時の劣化を軽減できる。効果小。
『レシピ解読Ⅱ』
種類 :アクティブ
効果 錬金可能な中価値のアイテムのレシピを解読できる。
『劣化軽減(中)』
種類 :パッシブ
効果 :錬成時の劣化を軽減できる。効果中。
『レシピ解読Ⅲ』
種類 :アクティブ
効果 錬金可能な高価値のアイテムのレシピを解読できる。
『属性エンチャント』
種類 :アクティブ
効果 :使用可能な魔法の属性をアイテムにエンチャントできる。
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あらっ・・・この属性エンチャントをするには、魔法スキルが必要だったのか。
となると今の椿さんだと無理という事に・・・う~ん。
「椿さん、何かこの属性エンチャントには、その属性の魔法スキルが必要になるみたいですよ。」
「へっ、魔法スキル?じゃあ今度は魔法のスキルスクロールを買わなきゃいけないのぉ。
もぉ、ホ~ント、この錬金スキルは金食い虫ねぇ。」
アハハ~、確かになぁ。
普通に考えれば、素材代や錬金道具の他にこんな数百万円の出費・・・
錬金士が稼げるようになるまでかなりの投資が掛かるってのは、本当の話みたいだな。
とはいえ椿さんは睡眠習熟の事までは知らない御様子。
まっ、桜の火魔法はスキルスクロールで取得したものだし、その辺の疑問には触れていなかったのだろう。
「大丈夫ですよ、椿さん。
俺達なら椿さんに魔法スキルを習熟取得させることが出来ますから、今度一緒に白山ダンジョンに行ってみましょう。」
「えっ、嘘っ。
ハイテンションタイムって、魔法スキルまで取得できるのぉっ?!」
はいはい、ご安心下さいませ。
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○お昼休み○
学校のお昼休み、モリショーと高橋が勝手に机を合体させて来たが、俺は気にする事無く昼食を取る。
まっ、特に仲の良いお友達というつもりはないが、こいつ等が居ると何故か他の人間があまり寄って来なくなるのは助かる。
モグモグ
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『明鏡止水LV1(8%)』
種類 :アクティブ
効果 :取得特技の使用が可能。
【特技】
『精神洗浄』
種類 :アクティブ
効果 :あらゆる精神異常を回復し、その心までも浄化できる。
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ふ~ん、あらゆる精神異常を回復する効果ね・・・
思った以上に使えるスキルを取得したもんだな。
にしても何で俺はこんなスキルを取得したんだっけ?
あっ、そうか、先輩のセクシーボイスに掛かっちまったからだったよな。
ったく、先輩も酷い事するもんだ。
いたずらのつもりか知らんが、何の罪もない仲間に魅了を掛けるとはけしからん。
こりゃ後で絶対抗議しよう。うん。
ってあれ?なぁ~んか大事な事を忘れている様な・・・う~ん。
「義則っち、今日はいよいよ4階層っしょー。
気合入れて行くっしょー。」
「分かっている。今日あたり5階層のボス部屋前に辿り着くくらいはしておかないと手遅れになるからな。」
あ~例の白山ダンジョンイベントの話か。
「高橋、何が手遅れになるんだ?」
「ん、参加しない貴様には関係ない話だが、まあいい。
この周辺の高校は来週から期末試験に突入するところが多いのは分かるだろう?
そんな理由で今回のイベントを今週中に何とかしようという思惑が何処のパーティーにも働いてしまう訳だ。
その証拠にもう5階層のボスが居る大広間前には、リスポーン待ちの並びが出来始めている。」
ああ、なるほどねぇ。
5階層あたりなら、クリア可能な高校生パーティーの数も多いだろうしな。
「まっ、学年で一桁順位の多田は、家でしっかり勉強でもしていろ。
このイベントくらいは俺達に勝ちを譲って貰わんとな。」
参加もしてない奴と勝ち負けを争うなよ。
「そうだぜ賢斗っち。
高校一年のパーティーが5階層クリアとなれば、ちょっとした評判くらいにはなりそうっしょー。
俺達のサクセスストーリーに水を差すんじゃないっしょー。」
「へいへい。まっ、精々頑張ってくれ。」
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○午後3時50分 クローバー拠点部屋○
学校を終えると、今日もまた何時もの様に拠点部屋に集合。
そしてその頃合いを見計らったかの様に部屋のドアが開く。
ガチャリ
入室してきたのは、最近この部屋にはご無沙汰だったうちのボス・・・その後ろには何故か椿さんが続いていた。
う~ん、何この組合せ?
そんな俺達の戸惑いを意にも介さず話し始める中川さん。
「お早うございます、皆さん。
先ずはこれでも食べながら、話を聞いて頂戴。」
と中川さんはテーブルの上にに紙包みを置いた。
「あっ、茜ちゃんのたい焼きだぁ~。」
確かにその紙包みには見覚えが・・・
「どうしたんすか?中川さん。
緑山神社にでも行って来たんですか?」
「ああ、それはさっき店に来たとっても可愛い女の子があなた達への差し入れだって置いて行ったのよ。
うふっ、何でも今日差し入れする様、神様からお告げがありましたって言ってたわ。
ホ~ント、変わったファンがいるわね、あなた達には。」
おお、それは間違いなくマドモアゼルだな。
来てくれてたならお茶くらい出したのにぃ。
「まっ、それはさて置き早速本題に入るわよ。
先ずはこのプリントを見て頂戴。」
と渡されたプリントに目をやると・・・
『~白山ダンジョン期間限定高校生チャレンジイベントのご案内~』
なっ、これはっ!
まっ、まあよくよく考えれば、うちのボスがこれを見逃す事など有り得ん話だったか。
「どう?みんな。
今なんと地元の白山ダンジョンで、高校生対象のイベントを開催してるらしいのよっ。
これはもう探プロ契約で、自己研鑽の努力義務が発生している新米プロ探索者さんとしては、積極的に参加するしかないわよねっ。
それに今回は最下層の攻略にまで賞金が付けられてるし、モンチャレ優勝パーティーのあなた達にもピッタリなイベント。
まあ、イベント中は多少混みあっちゃうでしょうけど、そんなものは我慢我慢。
是非頑張って参加してみて頂戴。」
はぁ~、久しぶりに顔を出したかと思えば・・・なんという正論。
そしてこんなプリントを自ら配り「知りませんでしたぁ、アハハ~♪」作戦を封じると同時に、それに続くサラリとした説明で「混むからやだぁ」作戦をも封じてくるとは・・・
う~ん、悪ぃ、モリショー、高橋、俺も不本意だが、お前等も諦めてくれ。
・・・これは相手が悪過ぎだ。
にしてもさも最下層の攻略が当然であるかの様に俺には聞こえたんだが・・・冗談ですよね?
幾らモンチャレ優勝パーティーといえども、17階層のボスといったらレベル17以上の強敵だろう。
そんなの幾らボスでも本気で・・・
チラッ
ニコリッ
・・・そっすか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えっとじゃあ次の連絡事項だけど、今度はこっちのプリントを見て頂戴。」
もう何か2枚目のプリント用紙には、嫌な予感しかしなくなって来たな。
え~、なになに~。
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『~ギルド制度導入及びそれに伴うギルドランクキングのお知らせ~』
来たる7月より、ランキング改革の一環として、探索者協会ではギルド制度を立ち上げます。
それに伴いギルドランキングも同時に進めて行く予定となっております。
趣旨 健全な民間探索者機関による探索者を取り巻くサポート人財の育成
ギルド登録対象者 探索者プロダクション事務所
ギルド登録条件 最低定員8名以上(探索者資格所持者が半数以上、サポート人員最低1人以上)
ギルド登録申請書類 ギルド登録申請用紙 商業登記謄本 印鑑証明書 他・・・
ギルド登録料 5万円
ギルド登録特典
協会からの探索者、鑑定士、回復魔法士、錬金士、鍛冶師、調合士等各種依頼の優先
ギルドによるダンジョン所有資格
他・・・
ランキング制度について
協会からの依頼報酬及び探索者の魔石買取金の合計によるランキング
ギルドランクについては、当面区分されません。
他・・・
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「とまあこれまでの探プロ事務所をこぉ~んな民間育成機関みたいな形にして、協会はお金を掛けずに探索者以外の人材の育成も活性化させようってのが狙いなのよ。」
流石ボス・・・協会の狙いを的確に把握してるな。
「と言ってもこれに登録しないと、今後の協会からのお仕事の受注優先度に影響が出て来るのは明らか。
何処も歓迎はしないでしょうけど、登録要件を満たせる探プロ事務所はこぞって登録するしかないって訳。」
う~ん、そんな事有りませんよぉ、ボス。
今迄だって大した依頼を受けて無い訳ですし、今後も細々とやって行く道もあります。
「そこでみんなに大事なお知らせ。
ここに居る小田椿さんを今度うちのギルドメンバーとして専属契約して貰う事にしました。」
くっ、こっちはギルド登録の是非について、今一度御一考願いたいところなのに、話は既にそこまで・・・まあそうでしょうとも。
「アハハ~。みんなぁ、よろしくぅ~。」
「彼女ならもう少ししたら錬金士として協会からのお仕事依頼も受けられるだろうし、その依頼報酬はランキングにも貢献してくれる。
それに何より、みんなのポーション類のサポートをこれから担ってくれるのよ。
みんなとの信頼関係もあるし、何も問題ないでしょ?」
まあ椿さんがこの事務所の専属錬金士として契約する事自体は賛成だが、あと3人も必要定員が足りていない。
うちのボスはその辺り、どう考えているんだろう?
最早ギルド登録を回避する道が閉ざされてしまった今、俺の興味は既にそちらへ移行しているのだが・・・
「そしてこれで何とか私と光を含めてギルドメンバーは7人揃った事になるわ。」
ああ、ギルドという枠組みは事務所全体として登録するんだったな。
となれば当然クローバーの専属契約者だけでなく、スタッフも含めた全員がメンバーという事か。
とはいえまだあと一人、定員が不足してるよな・・・
「そこでみんなに大事なお願い。
私としては今回のギルド登録にあたり、加入させる必要が生じる最後の一人。
みんなの知り合いに良い人が居ないか教えて欲しいの。」
ほう、これはちょっと予想外な展開。
「えっ、俺達の知り合いをここに入れるんですか?」
「ええまあ勿論最終判断は私がするつもりでいるけれど・・・
出来ればギルド制度のスタートに出遅れたくはないし、かといってこの短期間で将来有望な若い探索者を見つけ出すのは望み薄。
となればスカウトにこだわる必要のないサポート人材をって考えると、その人選に何より重要なのは実際にサポートを受けるあなた達との信頼関係だと私は思ってるのよ。」
なるほどねぇ、それで椿さんと契約したのか。
「という訳で今回は別に探索者資格を持ってる知り合いじゃなくても良いし、スキルを所持してなくても全然構わない。
強いて私から希望があるとすれば、皆の様に若くて可愛い女の子だったら言う事なしって程度のものね。
皆も嫌でしょ?大した実力も無い見ず知らずの年上の人がこの事務所に加入するとなったら?
そうならない為にも是非協力して頂戴。」
確かにそれはまあ、どんな人かも分からん訳だし。
「そっすねぇ、分かりました。」
しかしサポート人材の発掘か・・・
中川さんは可愛い女の子なら誰でも良い的発言をしていたが、果たしてそれで良いのか?
いやこの人選に求められるのは、俺達ナイスキャッチをサポートする力。
となれば今現在俺達にどんなサポートが必要とされているかという自己分析辺りから始めるべきだろう。
俺達に必要なサポートって言うと・・・
回復魔法士や調合士なんて人は俺達的には間に合ってるし、鍛冶師のような人でさえ先輩のリペアがあれば事足りる。
う~ん・・・あれ、これ以上サポートなんていらなくね?
「なあみんな、今の俺達に必要なサポートって何だと思う?」
「そんなの決まってるじゃない、賢斗君。モグモグ。」
えっ、そりゃどんな?
「あっ、私もそれが良いぃ~。かおるちゃん。モグモグ。」
どれだよっ。
「私もそれに一票入れておきます。モグモグ。」
「つかお前等、食ってばっかいねぇで、いい加減具体的に言ってくれっ。」
「「「たい焼きサポートっ!」」」
ああ、ったく、何だよっ、たい焼きサポートって・・・
俺達は探索者のサポート人材について考えていた筈だよな。
幾らなんでもそんなふざけたサポート人材をうちのボスがお許しに・・・
「あらっ、それって今日来たあの娘の事かしら?モグモグ。
凄く可愛いかったし、もう一度店に来る様、あなた達から彼女に伝えて頂戴。」
・・・有りなのか?
あっ、ボス・・・ほっぺにあんこついてますよ。
っと、イケない。
たい焼きもう1個しか・・・
サッ
なっ。
「いただきにゃ。」
・・・確かにたい焼きサポートは必要だな。
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