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第八十一話 新天地と空飛ぶスキル

○6月18日火曜日午前5時40分 北山崎ダンジョン1階層 島山の頂上○


 昨夜、昨日の下見結果を念話連絡した所、みんなの盛り上がりは俺の予想を超えるものだった。

 そしてその成り行き上、何時もより更に早いこんな朝っぱらから、ここ北山崎ダンジョンの島山の頂上へとみんなをご招待する羽目となっている。

 とはいえ最近平日のハイテンションタイムがお預けを喰らい続けていた事を思えば、この展開も致し方なかろう。


「ひっろ~い。」


「あ~なんか、良い風。目が覚めるわねぇ。」


「ここなら思いっきり特訓できそうですね。」


 うんうん、この山頂付近には魔物の反応も無く、周囲も一望できる。

 そして今現在、俺達のハイテンションタイムを消化するスタイルは各自分散型へと移行しつつある。

 そんな点も踏まえれば、この山頂は正に起点及び集合場所には持って来いのポイントだろう。

 

「ハハ、ホントは円ちゃんには小島の方を特訓場所にお勧めしたいとこなんだけど、あそこは索敵系のスキルが無いと危ないからなぁ。」


「えっ、そうなんですか?賢斗さん。

 索敵系のスキル等早々に取得して見せますので、その小島の場所を是非教えて下さい。」


 あら、やる気満々ですなぁ、お嬢様も・・・にしてもどうすっかなぁ。


「じゃあ教える代わりに、今日も小太郎の面倒をお願いして良いかな?

 ちょっと負担になっちゃうかもだけど。」


「いえそのくらい全然平気ですよ、賢斗さん。小太郎の事は私にお任せください。」


 ふぅ、まっ、小太郎を護衛に付けとけば大丈夫だろう。

 首輪を着けた小太郎の実力は今のところ円ちゃんの護衛としてかなり役に立つ。

 桜と先輩に関しちゃ心配ないが、円ちゃんはまだちょっと不安だしな。


「うん、じゃあ場所はあそこの小さい島、見えるかなぁ?」


「おいらは負担なんかじゃないにゃっ。」


 悪ぃ、ここは堪えてくれ、小太郎。


「あっ、あれですね、賢斗さん。」


 うんうん。


「じゃあ先輩と円ちゃんの移動は桜に任せていいか?」


「おっけ~。」


「私の事は放って置いて良いわよ、桜。

 今日はこの辺でハイテンションタイムをやる事にしたから。」


「りょ~か~い。」


「あと最後に一つだけ注意点。

 この島の麓には極力近づかない事。

 昨日もちょっと言ったと思うけど、顔モノマネとか言う妙なスキルを持った猿型の魔物がいて、出会うだけで厄介な事になるからな。」


「そ~なの~?」


「うん、最後にあった人間の顔を真似るスキル効果だから、もしその猿に顔を見られたら、みんなの顔した猿がこの島を闊歩することになる。

 俺的には万が一その猿と遭遇したら、速攻で倒すことをお勧めする。」


「わかったぁ~。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○残された2人 島山の頂上○


 スキル共有を済ませると、桜達は転移で例の小島へと向かった。


「あら、賢斗君はどこかへ行かないの?」


「ええ、俺はあいつ等相手に、空中戦闘の練習をしようかと。」


 少年は眼下に見える鳥型の魔物を指さす。


「ちょっとそれ、大丈夫?

 この間の緑山7階層でのボス戦、忘れた訳じゃないでしょ。」


 そうなんだよなぁ。

 緑山ダンジョンのジャイアントクロウ戦では、空中に転移して攻撃するも呆気なく吹き飛ばされ、挙句怪我までする始末。

 普通ならこれ以上空中戦闘に挑む気など起きないだろう。


 しかぁ~し、今日の俺は大丈夫。


「分かってますって。

 ふふっ、でも今日は小太郎から例の奴を共有してますから。」


 こちらも空を飛べるとなれば、話は別である。


「ああ、なぁ~んだ、羽化登仙ね。

 でもあんまり無理するんじゃないわよ。」


 そして相手は違うが同じ鳥型の魔物。

 この間の鬱憤も纏めて晴らさせて貰おうではないか、はっはっは。


「はいはい。」


 まあそうは言っても、勿論こんな憂さ晴らしだけが今回の目的ではない。

 前々からこの羽化登仙スキルの共有は一度試してみたかったし、この場所に来た時ピーンときた。


 この場所なら羽化登仙の持つ飛行能力の検証が思う存分できる。


 実際羽化登仙スキルの力で空を飛べている。

 となれば普通に飛べるだけの単一能力スキルなんてものが存在していても何ら不思議ではない。

 もし空飛ぶスキルの習熟方法なんてものまで解明できたら、ふっ、桜の奴喜ぶだろうなぁ。

 ・・・だからと言って取得出来るかどうかは知らんけど。


 まっ、何にせよ、空中での自由落下は大体1秒5m、それが2秒になると20m近くにもなる。

 羽化登仙の効果時間が切れるタイミングには、細心の注意を払って事に当たるとしよう、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○北山崎ダンジョンスタート地点から5km程沖、最寄りの小島○


「じゃあ円ちゃん、小太郎、まったねぇ~。」


スッ


 小柄な少女の姿が消えると、もう一人の少女は海を見据える。


 お魚の魔物が飛び出してくるという事ですが・・・

 先ずはハイテンションタイムに入りましょうか。


 ドキドキジェット、スタートです。


ドッドッドッキィィィィィィィィ・・・・・・・・・・・・・・


 あとは安全確保もしておかなくてはいけませんね。


「ストーンウォール・アンリミテッド・トリプル。」


ズシーン、ズシーン、ズシーン


『ピロリン。スキル『土魔法』がレベル5になりました。『クリエイトゴーレム』を覚えました。』


 少女の目の前に丁度その背丈くらいの3つの土壁が現れ、海岸線からの攻撃に対する壁を作り上げる。

 すると子猫はその上に飛び乗り、金色の光を放った。


「こっちは任せるにゃ。」


「頼みましたよ、小太郎。」


 さて、ここからですね。

 賢斗さんはああ仰いましたが、索敵スキルの取得方法とはどのようなものなのでしょう。

 あっ、そう言えば賢斗さんのパーフェクトマッピングの習熟方法なら以前聞きましたね。

 確かこのハイテンションタイム中の感覚を元にスキル化したものだとか・・・

 ふむ、私もその方法で行ってみると致しましょう。


 分かりますよ・・・この島の周囲に集まって来てます。

 あとはこの周囲状況を把握する意思のオンとオフを繰り返しです・・・


 その反復はまるで星の瞬きの様に加速して行く。


『ピロリン。スキル『パーフェクトマッピング』を獲得しました。』


 やりました。


「にゃあ、こいつらどうするにゃ?」


 喜びに浸る少女に子猫が問いかける。

 少女が土壁の切れ間から海岸線を覗き見れば、十を超えるシーミサイルフィッシュ達が跳ねていた。


「まあまあ小太郎、そんなに撃ち漏らして・・・」


 少女は少し呆れたようにそういうと・・・


「光が消えたから仕方ないにゃ。」


 猫人少女に変身した。


「言い訳はいけませんにゃん、小太郎。

 これから私がお手本を見せてあげますにゃん。」


シュッシュシュッシュッ


「とうっ。」


バタバタ


 瞬間、消滅現象の始まるミサイルフィッシュ達。


「そんなの手本にならないにゃっ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○北山崎ダンジョン1階層 大きな山のある島 島山の頂上○


 全くもう、賢斗君も懲りないわねぇ、この間は怪我してた癖に。

 でもまあ私も小太郎の羽化登仙を今度共有させて貰おうかしら。

 ここなら広いし、空を飛ぶのも気持ちよさそうだしね。


 まっ、それはそれとして今日の私のハイテンションタイムを始めましょうか。

 恐らくあの変色した堆積層辺りは採掘ポイント。

 あの辺から先ずは調べてみましょう。


 少女は赤褐色の岩肌へと歩いて行く。


 ここね・・・ドキドキジェット、オン。


ドッドッドッキィィィィィィィィ・・・・・・・・・・・・・・


 ふ~ん、ここの岩場からは、魔鉄鉱石が取れるのね。


 少女は手にした矢を壁面に何度も突き立てる。


ガツッ、ガツッ、ガツッ・・・


ボロボロボロ・・・


 どれどれ~。フムフム・・・


『ピロリン。スキル『解析』がレベル3になりました。』


ガツッ、ガツッ、ガツッ・・・


『ピロリン。スキル『採掘』を獲得しました。』


 よしよし、お目当てのスキルが取れたわね。


 にしてもここの採掘ポイントは資源が豊富そうねぇ。

 誰も来ないダンジョンならではってとこかしら。

 あっ、そうだ。

 これだけの採掘ポイントを独り占め出来ちゃうんだったら、今度採掘用のハンマーでも買ってみようかな。

 もっと採掘の効率が上がるだろうし、本気出したら結構な稼ぎになっちゃうかも、うふっ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○薬草が豊富な小島○


フッ


 あ~、この島薬草がいっぱい生えてるぅ~。

 勿体ないから採ってかないとダメだよねぇ~。


 あっ、そうだぁ~。


フッフッフッフッフッフッ


『ピロリン。スキル『空間魔法』がレベル3になりました。』


「えっとねぇ~、1号から3号はあっちの草むらぁ~。

 4号から6号は向こうだよぉ~。」


「「「「「「ほ~い。」」」」」」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○島山山頂付近の上空 空中戦闘訓練○


 空を飛ぶ1体のワシ型の魔物のその更に上。


フッ


 少年が姿を現すと、その魔物は旋回を始めた。


 ありゃ、気付かれたか・・・鳥の視野って広いんだな。

 背後を取れりゃ簡単にとも思ってたが・・・でもまあ。


 羽化登仙発動っ!


キィィ――ン


 急接近した少年は手にした剣でその魔物を切り裂く。


 グサァァー


 満足そうに墜落して行く魔物を眺め、空中に佇む少年。


 あ~スッキリした。

 前回はスキル共有できなかったからなぁ。


 さて、お次は羽化登仙の飛行システムの検証に着手しますか。


 ドキドキジェット、発動っ!


ドッドッドッキィィィィィィィィ・・・・・・・・・・・・・・


 え~と、今の俺のこの飛べてる状態は・・・

 ほう、重力自体はどうしようもないから力の反射でベクトルを操作してるのか。

 あと羽で浮力も発生させ、それも同時利用している感じ。

 そしてそのコントロールは自分のイメージと連動し自動制御され、それにはこの光のオーラも一役かっている・・・ふ~ん、風魔法関係無いんだな。


 しかしであるならば、飛べるスキルってのも基本仕様は同じ筈。

 重力を失くしたり発生させたりなんて方法は、膨大な魔素エネルギーが必要でスキル化は無理みたいだし。

 そうなると空を飛ぶという単一機能のスキルを構築するには・・・

 オーラハンド?そんなものは要らない。

 妖精の羽を形成?それじゃ効率が悪い。

 必要なのは羽化登仙スキルから飛ぶためだけに必要なメカニズムを抽出し、その機能を自分の身体に持たせるイメージ。

 それと同時に自分の潜在意識レベルで飛べるという強いイメージ構築も必要となる。

 うんうん、飛ぶにはこのシンプルな形で十分だし、これならスキルの効果時間の延長なんかも期待できるかもしれない。

 

 う~ん、何かこれ、睡眠習熟なら取れそうな気がする。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前6時40分 クローバー拠点部屋○


 北山崎ダンジョンでの活動を終え、拠点部屋に戻ると夫々感想を述べてくる。


「賢斗ぉ~、また薬草一杯採れちゃったぁ~。」


 う~ん、どうやったら一人でこんなに大量の薬草採って来れるんだろう?


「もうホームダンジョンは北山崎で良いですよ、賢斗さん。魔石が取り放題です。」


 これまたお嬢様もかなりの数の小魔石。


「そうねぇ、手つかずの採掘ポイントまであるし、道具を揃えてあの山頂に通えば、ウッハウハよ、賢斗君。」


 先輩まで魔鉄鉱石の収穫か。


 う~ん、これでは手ぶらで帰って来た俺の立つ瀬がないではないか。

 まっ、俺にも成果はあったし、ここは華麗にスルーさせて貰うが。


「じゃあ今週の予定は変更していいかな?

 他にリストアップされてたDランクの管轄外ダンジョンへも下見に行くつもりだったけど、そっちは追々暇を見つけてって感じで。」


「うん、それで良いんじゃない。

 そっちは急ぐ必要なくなっちゃったし。」


「あっ、そうだ、賢斗ぉ~。

 今度お姉ちゃんをあそこに連れてっていい~?」


「ん、椿さんか?」


「うん、そぉ~。」


「いやそれはほら、桜。椿さんは一応部外者だし、色々秘密がばれちゃうから不味いだろ。」


「え~、賢斗ぉ~。お姉ちゃんみんな知ってるよぉ~。」


 あれ、教えた事あったっけ?


「桜が椿さんに教えたのか?」


「ううん、教えてないけどお話してたらいつの間にか知ってたぁ~。」


 う~ん、これはどういう事だろう?

 まあ度々大量の薬草やその他のアイテムを椿さんに提供した訳だし、その度桜に質問くらいはするだろう。

 そして椿さんなら桜の嘘など御見通し、真実を桜から聞き出す事くらい朝飯前な筈。

 なるほど・・・桜から椿さんに俺達の秘密がばれているのは間違いない。


 とはいえ椿さんならある意味身内であり信用できるし、この結果に俺もそこまで警戒していなかった。

 というか、しっかりしたあの人を引き込み、桜がこれ以上秘密を漏らさぬ様監視役となって貰った方が良いくらいだしな、うん。


「そっ、そっか。うん、分かった。でも何の為に連れて行くんだ?」


「それはほらぁ~、清川で錬金出来ないって言ってたからさぁ~。」


 あっ・・・そういや椿さんも清川の住人だったな。

 そういう事なら尚更協力せねばなるまい。

 ポーション作って貰わないといけないしな。


「了解了解。椿さんには俺の方は明日からなら何時でもOKだって言っといてくれ。」


「え~、今日の夕方はダメなのぉ~?」


「ああ、桜。お前も付き合え。今日の夕方は睡眠習熟で空を飛ぶスキルにチャレンジするから。」


「えっ、ホントォ~?」


「ああ、習熟方法は掴んだからな。

 まあ取得できるって保証はまだできないけど。」


「やったぁ~。」


「賢斗君、それホントぉ?

 じゃあ夕方がそういう予定になるなら、私は空間魔法を取得することにしようかな。

 空飛ぶスキルってのも魅力だけど、それは2人の結果を見てからって事で。」


 おっ、これは中々の追い風・・・


「円ちゃんはどうする?

 転移や飛ぶスキルがあれば、あそこの新天地を思う存分楽しめると思うけど。」


「そうですね、わたしも是非・・・いえ止めておきます。」


「えっ、どうして?円ちゃん。

 睡眠習熟の監視役って事なら小太郎の奴が居れば十分だって。」


 首輪着けときゃ、かなり強いし。


「そういう事ではありませんよ、賢斗さん。

 仮に私が小太郎の様に空を飛べる力を持ったとしましょう。

 そんな素早さを手に入れてしまっては、おんぶチャンスが減るとは思いませんか?」


「思いませんっ。」


「嘘つき。」


 御免なさい。

次回、第八十二話 『フライ(ノーリミットカスタム)』。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です なるほど ナイスキャッチの実力的に、人が居なくてハイテンションタイムの消化ができて、かつ様々な素材を収集出来るなら、レアモンスターは二の次で良いのか。 これまで水魔法…
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