第八十話 新たなホームダンジョン候補
○6月17日月曜日午後0時20分 お昼休み教室内○
昼食を取りつつ今朝コンビニで買ってきた探索者マガジンを開く。
モグモグ
ふっ、流石に今週号は買っておかねばなるまい。
パラパラ
『~モンスターチャレンジ大会優勝、ナイスキャッチスペシャルインタビュー、知られざる優勝の裏側~』
おっ、あったあった。
にしても何時も何時も大層なタイトルつけるな、あの人。
そんな大したインタビューじゃ無かったろうに。ったく。
まっ、インタビュー欄は知ってるから良いとして・・・えっとなになに~。
『ナイスキャッチリーダー、多田賢斗。
4月に探索者資格を取得した彼は、この2か月で既にレベル10。
短剣を主武器に戦う彼だが、魔法スキルも数種類所持し、その戦い方は多彩の一言。
正に十年に一人の逸材と言えるだろう。』
ふむふむ、中々良い事書いてくれてるじゃないですかぁ。
今度缶コーヒーでも奢ってあげよう。
続いて・・・
『ナイスキャッチメンバー、小田桜。
こちらも4月に探索者資格を取得した高校1年生にして、リーダーの多田賢斗君同様、レベル10。
またその小さな体から放つ火魔法の威力は、ベテラン探索者達も舌を巻くほどであり、その魔力の高さは、パーティー随一。
彼女こそ百年に一人の逸材と言えるだろう。』
ふむ、俺が十年に一人の逸材で桜が百年か・・・
まあ異論はないが、缶コーヒーは止めておこう。
『ナイスキャッチメンバー、紺野かおる。
探索者資格取得から2年ほど経つ彼女は現在高校3年生で、こちらも同じくレベル10。
また彼女の使う弓技は今大会の舞台では、周囲を大きく驚かすほどの急成長を披露し、更には風・水魔法スキルを手に入れた彼女の成長は留まるところを知らない。
そしてパーティー最年長である彼女は、このパーティーの影のまとめ役として大切な役割を担っている。』
丸石さん、随分先輩を持ち上げてるなぁ・・・先輩推しか?
影のまとめ役とか言っちゃってるし・・・まっ、当ってるか。
『ナイスキャッチメンバー、蓬莱円。
こちらの彼女は、高校1年生であり、歴とした日本人。
今月探索者資格を取得したばかりで、今大会には間に合わなかったそうだが、それ以前から引率され、活動を共にしていたという。
そんな彼女のレベルは既に驚きのレベル8。
正に次の大会への秘密兵器となるだろう。』
まあ、円ちゃんに関しては、実力が分かるはずないわな。
ふぅ~、まあ使ってる写真も問題ないし、今回の記事は75点、うん。
・・・ん?
『~異世界帰りの探索者アイドル、三角桃香の真相~』
おお、見つかってたのか?このアイドル。
って、異世界帰りとか・・・まだ言ってんの?丸石さん。
えっとぉ~。
ふむふむ・・・違うダンジョンに飛ばされる事もあるのかぁ。
って・・・なぁ~にこんな分かり易い嘘ついてんだか。
まっ、所詮アイドルなんて裏で何やってるか分からんしなぁ。
「多田君、はいこれ、今週分。」
ん、ああ何時ものクラスの探索者予定か。
「あと今月の合同探索なんだけど、期末試験も迫ってるし、来月初めの土曜日に7月予定の人達と纏めてやっちゃうって事でいいかな?
多田君的にも1回で済んで嬉しいでしょ?」
あ~やっぱやるんだ、それ。
まっ、2回の所が1回で済むのは確かに好感触だが・・・
「はいはい、それでいいですよ。」
あ~早く探索者委員から解放されてぇ。
「ところで委員長、探索者委員の任期も、9月一杯までいいんだよね?」
「何でそんな事聞くのよ。」
「いやだって、この委員会って途中で発足してるだろ?
前期の終わりはどうなってるのかなぁ~って。」
「ああ、そういう事ね。
それなら9月までだったはずよ、普通の人は。」
「普通の人は・・・とは?」
「前期と後期を継続して探索者委員に選ばれるような人も居るって事。多田君みたいに。あはっ。」
おい、それ冗談に聞こえねぇぞ。
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○午後3時40分、クローバー○
「水島さん、お待たせしましたぁ。」
アパートから直接拠点部屋に転移した俺は、部屋から出ると店頭に居る水島さんに声を掛ける。
「あっ、多田さん。準備はもう良いんですか?」
「はい、大丈夫です。」
水島さんの車に乗り込みクローバーを出発。
ブロロロロロ・・・
そしてこれから向かう先はここ。
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『北山崎ダンジョン』
説明
ダンジョン形式 フィールド型
ランク D
危険度 ★★★
資源 ★★★
人気 ★
最深層 5階層
出現後経過期間 38年
所属 国有(管轄外)
所在地 ○×▽□・・・
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目的は勿論、第2ホームダンジョン計画に於ける侵入禁止の管轄外ダンジョンの下見。
今週はこうして俺が単独で、水島さん作成のリストに載っていたDランクの管轄外ダンジョンを順次見て周る予定である。
単独行動になっているのは、今回は片道3時間程かかる遠出。
そんなものを平日の女性陣に付き合わせる訳にもいかないという配慮の結果である。
まっ、水島さんもまだお若いのだが、社会人という理由だけで無理言っちゃってるけど。
それはそうと今回のこの北山崎ダンジョン。
周囲は見蕩れてしまう程の絶景で、打ちつける波の迫力は凄いらしい。
そしてそのダンジョン入口はというと、海に面した断崖絶壁の横穴。
・・・流石管轄外になるだけはありそうだ。
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○午後6時30分、北山崎断崖展望駐車場○
ブロロロ・・・キィー
「水島さん、どうも有り難う御座いました。」
「いえいえ、多田さんも気を付けて下さいね。」
「はい。」
バタン、ブロロロ・・・
車から降りた場所は海を臨む高台。
水島さんの車を見送ると、俺は景色を一望する。
眼下の海に目をやれば、ここの高さは海面からおよそ8m。
波の方は聞いていたイメージとは異なり、かなり穏やか。
風もそんなに強くなく、今肌に感じるこの潮風はとても心地いいと感じる。
そして岸沿いに目をやれば、この高台から更に高く切り立った断崖。
隆起した地層が長年による荒波により垂直に削られた岩肌が遠くまで続いていた。
ふぅ~む、確かにこりゃ絶景・・・
そして周囲が絶景と言えば、清川繋がりで何か良い予感がしますなぁ。
侵入禁止の管轄外ダンジョンは初ではあるが、土曜日の2件を合わせればこれが既に3件目のホームダンジョン探し。
出来ればここ等で最低限キープできる物件くらいは引き当てておきたいものである。
にしてもこれからこの絶壁の何処かにあるダンジョン入口を探さないとってとこなんだが・・・
う~ん、この角度からじゃ、まるで見えん。
となれば一旦、あの岩礁あたりから断崖を見渡してみるか。
転移っ。
○岸壁から20mほど離れた岩礁○
海面から5mほど飛び出ている岩の上。
少年は岸壁全体を見渡す。
そしてその視線の先は、高さ20mほどの断崖の中腹、ぽっかりと口を開く洞穴で止まった。
おっ、あれか?
にしても流石Dランクで管轄外・・・
普通ならダンジョンに入るだけでも命懸けだな。
スッ
○北山崎ダンジョン1階層入口○
フッ
バババッ
ダンジョン入口に転移した途端、脳内マップが広がる。
ふっ、ここがダンジョンってことで、良かったみたいだな。
はてさて、危険度星3つがどれほどのものか、早速行ってみましょうか。
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○午後6時50分、北山崎ダンジョン1階層○
20mほどの通路を抜けると、そこには巨大なフィールド空間が広がる。
ザッパ―ン
スタート地点は10m四方程しかない断崖の上。
眼下には広大な海が広がり、小島があちらこちらに見える中、遥か先には山まである大きな島。
う~ん、お外と似た様な景色だな。
でもまあここはダンジョン内、1階層はこの海と島のフィールドって事だな。
しっかしこんな崖の上スタートだと、普通ここのダンジョンの更に先へと進むのは、相当苦労しそうだな。
大きな船なんて用意できないだろうし、海上に小さいゴムボートを浮かべて移動?
そして足場も少なく不安定な状況で海中の魔物に襲われちゃったら、あら大変。
う~む、なるほど・・・流石危険度星3つ。
とはいえそこは俺達的には好都合。
移動は転移をすれば良いだけだし、重なった悪条件のお蔭か、人っ子一人見当たらない。
少し不安もあったが、ここなら清川レベルの人気の無さという最低条件はクリアしている様だ。
で、先ずは今回の下見の主目的、ハイテンションタイムの消化場探しなんだが、それももうここで良い気がしている。
遥か遠くには鳥型の魔物が見えるが、この距離なら問題視するほどではない。
この断崖の上に居る限りでは、海からの攻撃なんて無いだろうし、出口通路に直ぐ逃げ込める利点も含め、かなりの安全地帯と言って良い。
といっても、ハイテンションタイムの消化場は安全であれば良いというだけではなく、程よく美味しい魔物の存在というのもまたプラスαとして欲しい所。
時間もまだ余裕がある事だし、ここはもう少し探ってから帰りますか。
転移っ。
○北山崎ダンジョンスタート地点から5km程沖、最寄りの小島○
フッ
バババッ
瞬間、脳内マップが広がった。
転移して来たのは、2分も有れば走って1周出来そうな程小さな島。
海抜はそれほど高くなく、砂浜海岸。
中央にはヤシの木風の植物が3本生えている。
シュタッ、シュピン・・・ボトボトボト
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『石鹸ヤシの実』
説明 :芳醇な香りを放つ実。その実からヤシの実石鹸を錬成できる。
状態 :良好。
価値 :★★
用途 :錬金素材。
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へぇ~、また椿さんへのお土産になりそうだな。
にしても、さっきからこの島周辺に、かなり反応が集まって来てる気がするんだが・・・
こいつ等、ミサイルフィッシュみたいに海面から飛び出してくるんじゃないだろうな?
パシャパシャパシャパシャ・・・
って、いきなりかよっ。
「サンダーボール・アンリミテッド・ディカプル。」
ビリビリビリィ~
ボト、ボト、ボト・・・
ふぅ、おや、何かと思えば、シーミサイルフィッシュって・・・
でもこいつらレベル3か。
ピチピチピチ・・・
『海上探知』なんてスキルまで増えてるし、この攻撃力でこの数のお相手はちょっと勘弁だな。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ・・・
さて、こんな奴らが海中に居ると分かれば、こんな海抜の低い島に長居は無用。
・・・あの山のある島に行ってみるか。
転移っ。
○北山崎ダンジョン1階層 大きな山のある島○
フッ
うん、この島なら広いし、海岸から距離を取ってりゃ大丈夫だろう。
ガサガサッ
えっ、おっさん?
ウキッ・・・ウキッウキッ
・・・の顔した猿・・・だよな。
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名前:顔マネモンキー
種族:魔物
レベル:7(6%)
HP 24/24
SM 18/18
MP 8/8
STR : 11
VIT : 11
INT : 14
MND : 6
AGI : 13
DEX : 15
LUK : 7
CHA : 9
【スキル】
『顔モノマネLV6(49%)』
【強属性】
なし
【弱属性】
なし
【ドロップ】
『モノマネバナナ(ドロップ率(35.0%)』
【レアドロップ】
『サルの手鏡(ドロップ率(0.00001%)』
~~~~~~~~~~~~~~
なるほどなぁ、顔モノマネか・・・
にしても今は知らないおっさん顔だから良いものの、これが自分や知り合いの顔だったらかなり嫌だな。
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『顔モノマネLV6(2%)』
種類 :アクティブ
効果 :直近で見た人間の顔マネが出来る。効果時間スキルレベル×10分。
~~~~~~~~~~~~~~
なっ・・・直近で見た人間の顔っ?
つまりこいつが次にこのスキルを発動した時、その顔は・・・
この猿は全力で葬っておかねばっ!
転移っ。
フッ
後ろからなら心置きなく・・・
シャキィーン
少年が背後から剣戟を浴びせる。
ウッキィィ―ッ!
叫びを上げる魔物に対し・・・
グサッ
今度は剣先を立て、突き刺すと、魔物はその動きを止めた。
ふぅっ、危ない危ない。
とはいえこの辺はあまりうろつかない方が良いかもなぁ、きっと。
こんな奴が大量に居たら始末に負えない。
ここは早めにあの山頂にでも行ってみるか。
転移っ。
○北山崎ダンジョン1階層 大きな山のある島 島山の頂上○
フッ
へぇ~、流石山頂、結構眺め良いな。
大きな岩がゴロゴロと散在する山頂から遠くの海を見渡す。
この島の向こうにもまだ島があったんだなぁ。
眼下に広がる景色には、鳥形の魔物の姿も映る。
付近には堆積層がむき出しとなった色の違う岩肌。
天辺付近には、ぽっかりと空いた空洞。
ふむ、出現する魔物は1階層からレベル7なんて奴まで居たが、それも今の俺達的には寧ろいい感じか・・・結構ここのダンジョンは当たりかもな。
少年はチラリと時計に目をやると・・・
「まっ、続きはみんなと一緒の時って事で。」
スッ
その姿を消した。
次回、第八十一話 新天地と空飛ぶスキル。