第八話 『キッスシェアリング』
○三人目のパーティーメンバー その2○
大岩の陰で突然パーティーを組もうと賢斗を誘った紺野。
彼女はその理由を話し始める。
「君のそのドキドキ星人スキルを使えばスキルを沢山習熟取得できるってことでしょ?
だとしたら、私のスキルと相性抜群だと思うの」
「先輩のスキル?」
「うん。私が恩恵取得したスキルはキッスシェアリングっていうの。
条件を満たせば、他の人が持っているスキルを3分間だけ共有できるのよ」
スキルの共有って何気に凄いな。
「私は賢斗君のドキドキ星人を共有することで色んなスキルを習熟取得できる。
一方、君の方はこんな美人の先輩と一緒にパーティーが組めちゃう。
どう? これぞ正にウィンウィンな関係って奴よねぇ、うんうん」
そう言って紺野は満面の笑顔でダブルピースしてみせた。
う~ん、先輩とパーティー組めることを俺のメリットにカウントされちまうのはどうなんだ?
確かにこんな美人で可愛い女子高校生と探索者パーティーを組めるとなれば、世の男子にとっては最高のご褒美以外の何物でもないが。
とはいえ肝心のスキルの組み合わせで言えば俺の方にはメリットが見当たらない。
いや・・・そうとばかりも言えないか。
個人ではなくパーティーとしてみた場合、先輩が俺同様スキルを沢山取得できれば大きな戦力アップに繋がるし、情報その他色々な点に於いて俺にもメリットが生じる。
そして俺の予想が当たっているとすれば、その最大のメリットは・・・
「あの先輩、一つ質問いいですか?」
「えっ、何? もしかして不満なの? こんなチャンス滅多にないわよ」
「いやその・・・先輩のスキルの発動条件っていうのは?」
「あ~、それかぁ♪
それはほらぁ~、スキル名で分かるでしょ。ウフ♡」
そう言って紺野は賢斗に意味深な視線を送る。
おおぉ~これはやっぱり・・・
こんな美人の先輩と一緒にパーティー組んでキスまでできる。
う~む、これは幸せ過ぎて死ぬんじゃないか?
・・・何と恐ろしい。
いや待て待て・・・一つ問題があったな。
俺はまだ活動こそしていないが既に桜という美少女とパーティーを組んでいる。
3人でパーティーを組んだとして、俺と先輩がちょくちょくキスなんかしてたら彼女はどう思うだろう?
・・・まるで上手くいくビジョンが浮かばんな。
となると先輩とパーティーを組むには桜とのパーティーを解消しなければいけないということに・・・
いやそれでは流石に先約の桜に申し訳ない。
でもこの申し出を断ることが俺にできるのか?
う~ん、くそぉ・・・
賢斗が一人苦渋の決断に迫られていると紺野から声が掛かる。
「賢斗君は私を抱きしめてキスまでしようとしてたんだから不満なんて無いはずなんだけど、何か他に問題でもあるの?」
なっ、やはり全てお見通しだったのか・・・
がしかし、あれは青少年としては至って正常な流れ、なんら恥ずべきことではない。
とはいえそれを敢えて女性である先輩に訴えるのは寧ろ藪蛇・・・
よし、華麗にスルーしよう、うん。
「あっ、いや先輩、実は俺もうパーティーを組む約束をした女の子が居るんですよ」
あっ、しまった。ついつい正直に事情を話してしまった。
こんなことを言っちゃったらこの話は流石にお流れ。
先輩とのキスの話も・・・ハハ、勿体ねぇなぁ、ちくしょう。
「それって、その娘が賢斗君の彼女ってこと?」
「えっ、あっ、いや、別に、そっ、そういう訳じゃごじゃりません。
さっ、3人で上手くやって行けるかなぁって思った次第でごじゃります」
しっ、しまった、また噛んでる。平安式で2回も。
「ぷふっ、君は本当に分かり易いね。でもまあ事情はなんとなく察したわよ。
ちょっと気になる女の子とパーティーを組む約束を取り付けたところに、横から私が現れてあら大変ってところかな?」
スゲェー、エスパーかよ。
「でもそういうことなら私に良い考えがあるの。その娘と一度会わせてくれないかなぁ?」
へっ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○三人目のパーティーメンバー その3○
午後5時30分、ダンジョンを出て協会内にあるフードコーナーに移動したお二人さん。
そして賢斗が連絡を取った10分後にはその場に桜も到着し、開口一番不満の声を漏らした。
「賢斗ぉ~、2週間も連絡くれないなぁとか思ってたらいきなりこんな美人を連れてきてさぁ、お金を貯めるって話はどこ行っちゃったのぉ~? プンプン」
はい。仰る通りでございます。
にしても予想通り随分怒っちゃってるなぁ、桜の奴・・・ハァ~、この後どうなっちまうの?
「まっ、まあ桜、とりあえず話を聞いてくれ。
こっちの人は俺の学校の先輩で三年の紺野かおるさん」
「こんにちは小田さん。私が無理言って貴女と会わせてもらったの。急に呼び出してごめんなさいね」
「むぅ~、それでどんな話なのぉ~? お金は貯まったのぉ~? 私はずっとダンジョン入るの我慢してたのにさぁ~。プンプン」
なんだろう・・・怒ってても可愛いな、こいつ。
「それは私から説明するわ。
ということで賢斗君は少し席を外してくれるかな?」
はい、助かります。
俺にこの状況をなんとかできる術はない。
ここは紺野先輩の良い考えとやらに全てを賭けるしかないのだが・・・
ホントに大丈夫なんでしょうね? 先輩。
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○三人目のパーティーメンバー その4○
素直に席を立った賢斗は直ぐ10m程離れたフードコーナー入口へと移動。
遠目から先程のテーブルに座る美少女2人を見守る。
う~ん、こうして見るとやはりかなり目立ってますなぁ、あの2人。
見渡すとこの時フードコーナーに居るほぼ全てと言って良い男性達の視線が彼女達に注がれていた。
そして俺はあそこに座っていたのか・・・
我ながらかなりの勇者さんだったな、うん。
5分くらいで終わるだろうと見当を立てていた賢斗、しかし席を離れてかれこれ30分程が経過。
う~ん、長いな・・・
何を話しているのかまるで分らんが、やはり交渉は難航していると見るべきか。
まあ簡単にこの事案が丸く収まるとも思えないし、もうここは最悪のシナリオを覚悟しておくべきかもしれない。
賢斗がそんな事を考えていると、先程のテーブルから紺野が手招きしているのが見えた。
それに応えて彼が右手を上げると、男共のピリピリとした視線が賢斗に突き刺さる。
ほう、これが殺気という奴か。
でも今はそんなことを気にしている時ではない。
スゴスゴとテーブルに戻った賢斗は早速二人の顔色を窺ってみる。
すると紺野のにこやかな表情に対し先程までお怒りモードだった桜は何故か耳の先まで真っ赤にして下に俯いてしまっていた。
う~ん、なんだろう、この状況。
「あの~、それでお話の方はどうなりました?」
「それは私から説明するわね。
桜さんとの交渉の結果、私も賢斗君と桜さんのパーティーに加わることになりましたぁ」
えっ、ホント?
それに桜もOKしたの?
この人、どんな魔法使ったんだよっ!
「まあ私のスキルがあれば桜さんも賢斗君のスキルの効果が共有できるし、これはそう、ウィン×3な関係という奴なのよ」
そんなこと言われても、何が何やら・・・
「う~ん、ちょっと説明不足だったかなぁ。
私のキッスシェアリングって双方がお互いの持つスキルを選択的に1個ずつ共有できるの。
だから桜さんも一時的に私のキッスシェアリングを使えるってこと。
そしてそれはつまり、私が加わることで桜さんも私同様賢斗君のドキドキ星人によるスキル習熟効果の恩恵が得られるようになるってわけ」
へっ、あっ、なるほど、そういう効果システムだったのか。
となるとつまり桜にとっても先輩の加入はメリットが大・・・ふむふむ。
「賢斗君だって私の所持スキルからキッスシェアリングを選択すれば、私だけじゃなく桜さんのスキルを共有することだってできるはずよ」
あっ、そっか、つまりはそうなるよな。
そして桜の持つラッキードロップを二人で所持できたら・・・
いやあの効果的に二人で所持していてもあんまり意味が無いかもなぁ。
「と言ってもキッスシェアリングは殆ど使ってなかったからまだレベル1なのよねぇ」
まっ、それはさておき先輩が加入すれば単純に考えてハイテンションタイムによるスキル習熟力が現状の3倍。
ということはつまり・・・あれ? これはひょっとして凄いことになるんじゃないか?
あのハイテンションタイムをパーティーメンバーが全員揃って使えるとしたら爆発的に成長しそうな気がするし。
「でもまあそれだけ伸び代があるってことだし、レベルアップすれば現状3分のスキル共有時間ももっと長くなるかも。
というわけで、その辺は今後に期待してもらえるかな」
いや3分もあれば十分でしょ。
ハイテンションタイムをほぼ消化できるだろうし。
にしてもあれだなぁ。
良く桜の奴は俺とキスすることになるこんな話OKしたよなぁ。
まあ先輩にも言えることだけど、我ながらそれほど色男さんでもないぞ、俺は。
とはいえ人にはそれぞれ好みのタイプというものもあるはずだ。
ここは少し照れるがご本人に直接聞いてみちゃいましょう、うんうん。
「さっ、桜・・・あ、あのさ、俺とキスすることになっても・・・その・・・良いのか?」
「・・・う、うん」
かっ、可愛過ぎる・・・なんだ、この生き物はっ。
にしてもいったいどんな話をすればこんなことになるんだろう。
「とまあこうして話は纏まったのだけれど、ここで一つ賢斗君にお願いがあるの」
そう言うとかおるはちょっと耳を貸しなさい的な手招きを賢斗に向かってしてみせる。
なんすか? 神様。
彼が耳を近づけると彼女は小さな声で囁く。
「私と桜さんは今後君とスキルの共有化のためにキスをする必要があります」
そっ、そっすね、神様。
「でも私達は別にあなたと恋人同士になるわけでもなんでもないでしょ?」
コクンコクン
「だから君も変な勘違いをしないことに注意してね」
「もっ、勿論です」
あ~そっか。そうだよなぁ~、気を付けないと。
この場合キスしてもOKイコール惚れているではない。
彼女達はスキル共有化の手段としてやも得ずOKしてくれているに過ぎない。
ちょっと舞い上がり過ぎてて肝心なことを忘れるところだった。
いや~危ない危ない。先輩ナイス。
「それともう一つ。これから私ともキッスシェアリングを使っていくことになるけど、その前に桜さんとキスの練習をしてあげて頂戴」
ふぇ?
「これは乙女の心の問題だから、賢斗君は何も聞かずにOKしてあげなくちゃダメよ」
「はいっ! 喜んで」
その後かおるは「じゃあ今日のところは帰るわね」との言葉を残し一人帰っていった。
そして残された賢斗は先程の約束を果たすため桜を誘いダンジョン内の大岩ポイントに向かうのだった。
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○三人目のパーティーメンバー その5○
午後6時45分、大岩の陰で向き合う二人。
賢斗は胸を高鳴らせながらも優しい眼差しを桜に送り、桜は少し俯き加減でじっと一点を見つめていた。
「桜、先輩をパーティーに入れるの、なんでOKしたんだ?」
「・・・バカ賢斗ぉ~。」
「あっ、いや俺は桜がダメって言えば、先輩に断るつもりだったんだぞ」
「2人だけの内緒だって言ってたのにさぁ~」
あ~スキルを先輩に教えた方か。
「あれはそのぉ・・・先輩の勘が良過ぎるというか、不可抗力みたいな感じで・・・ほら・・・ごめん、悪かったって」
「まあ良いけどね~、お蔭で私も賢斗のお荷物さんにならなくても済むしぃ~」
いや、先輩が加入しなくても、そんなことにはならないだろ。
「逆にかおるちゃんが入ってくれなかったらまずかったよぉ~」
まあ先輩が加入する事は桜的にもプラスになるだろしなぁ。
「私はずっと賢斗とパーティーを組んでいたいしぃ~」
「ハハ、俺だってできればずっと桜とパーティを組んでいたいぞ」
う~ん、にしても俺がこれだけ緊張しているというのに、こいつにとってキスはあまり気にするようなことでもないのだろうか?
「じゃあかおるちゃんがどうしてもって言うから、私が最初に賢斗にキスしてもらうねぇ~」
「えっ、あっ、うん」
おお~ようやく桜とキスができるっ。
って、あれ? 先輩がどうしても?
「じゃあはい」
へっ、これってどういうこと?
桜は自分の右手の甲を賢斗の前に差し出している。
「なぁにぃ~賢斗ぉ~?
キスする場所は右手の甲だってかおるちゃんが言ってたよぉ~」
この時、彼の脳裏に先程帰っていった少女の高笑いが響き渡っていた。
フハハハハハッ
・・・にゃろう、許すまじ。
次回、第九話 ハイテンションタイムの副作用。