第七十九話 最下層ボス攻略認定
○午後4時30分、緑山ダンジョン7階層、スタート地点○
さて、武器メンテを終えると、いよいよこのダンジョンのラスボス討伐に・・・
と思ったのだが、肝心な事を忘れていた。
折角の格上の魔物3体が相手、出来る事なら小太郎のジャイアントキリングを共有して臨みたいところなのだが、只今肝心のスキルシェアリングはクールタイムの真っ最中。
ちょっと獲得経験値的に勿体ないのである。
といっても、この最下層のボス戦を後回しにするのも、お膳立ての時間的な後れを生むだけのお話。
今このタイミングでケリをつけて帰りたいというのが、俺の心境だったのだが・・・
「そんな細かい事、一々気にする事ないわよ。
今倒しておけば、当日まで来る必要なくなるんだし、時間は効率的に使いましょ。」
と先輩の鶴の一声、俺達は7階層へと向かう事となった。
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○緑山ダンジョン7階層○
この階層のスタート地点に皆で転移し、そこから300m近く離れた例の岩山へと歩いて行く。
「何か気味が悪いわねぇ~、この階層。」
「お化けが出るかもしれないねぇ~。」
「お化けは出ないと思うけど、あそこにカラスの魔物が居るぞぉ。」
「あっ、ホントだぁ~。」
「あんなカラスなど、私の力で一ころです。」
シュッシュシュッシュッ
○岩山の下付近○
3つの岩山の下まで辿り着くと全員揃って岩山の天辺を見上げる。
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名前:ジャイアントクロウ
種族:魔物
レベル:13(22%)
HP 44/44
SM 24/24
MP 28/28
STR : 24
VIT : 26
INT : 12
MND : 11
AGI : 26
DEX : 18
LUK : 25
CHA : 14
【スキル】
『嘴突きLV6(49%)』
『吹き飛ばしLV3(31%)』
【強属性】
なし
【弱属性】
火属性
【ドロップ】
『クロウフェザー(ドロップ率(35.0%)』
【レアドロップ】
『魔銀のフォーク(ドロップ率(0.00001%)』
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さてここまで来てみたが、あいつ等襲ってこねぇなぁ。
周囲の岩山と比べ、ここの尖った岩山は群を抜いて高く、優に20m超え。
カラス達はその山頂を占拠し、俺達が岩山の下までやって来ても、未だその山頂に佇んでいる。
う~ん、これはこのほぼ垂直にそそり立った岩山の斜面をよじ登り、身動きのとり辛くなった探索者相手に攻撃してくるパターンか?
この距離じゃ先輩の弓でも厳しそうだし、小太郎の羽化登仙を敵を誘い出すのに使ったんじゃ勿体ない。
ここは俺がカラスの近くに転移する一撃離脱作戦を試してみるか。
「ちょっとこのままじゃ埒が明かないから、俺が一撃加えて誘い出して来ますね。」
「賢斗君、ああいう遠くの敵を誘き寄せるのは、私の仕事でしょ?」
「まあ、それはそうですけど、流石に厳しいんじゃ・・・」
「そんな事やってみなくちゃ分からないでしょ?
弓矢もスペックアップしてるんだし。」
まっ、確かに・・・
「はいはい、じゃあ先輩、お願いします。」
「よろしい、私の弓の威力を見てなさい。」
先輩は自信あり気に挨拶代わりの先制の矢を射る。
ビュゥ~ヒュン・・・
しかし鳥の魔物達はそれを歯牙にもかけない。
山頂付近で失速した矢は、敢え無く地上に戻ってくる。
カランカラン
「やっぱりダメだったじゃないっすか。」
結構惜しかったけど・・・
「あはは~、ゴメンなさぁ~い。こうなったら次の手で行ってみるわ。」
「ダメですよ、先輩。今度は俺の番。
一回俺の一撃離脱作戦を試させてください。」
「むぅ、仕方ないわねぇ。」
スッ
フッ
1体のカラスの魔物の横に突如現れた少年、剣を振り上げ魔物に切り掛かる。
ギロリ、バサァ
魔物は少年の姿を見るや片翼を広げ、その攻撃諸共吹き飛ばした。
ひゅ~ん
あっ、やべぇ・・・転移っ。
フッ・・・グキッ、ズシャァァァァ、ゴロゴロゴロ―
地上に転移した少年は、空中での勢いそのままに地面に打ち付けられると、それを何とか横方向へと転がって逃がす。
ぐはっ・・・感度ビンビン発動・・・
「キュア、キュア、ハイヒール。」
「ちょっと賢斗君、大丈夫なのっ?
今のかなり危険に見えたけど。」
「ああ、はい。直ぐ回復魔法使ったんで、全然平気です。」
ふぅ、こういう事態で即座に感度ビンビンを発動出来た・・・
まっ、俺もちっとは成長してるみたいだな。
「そう、なら良いけど、あんまり心配させないでよぉ?」
にしても、カラスの攻撃というよりこの落下時のダメージはちょっとヤバイな。
転移したからといって、転移前に掛かっていた力の大きさやベクトルは消えない。
落下中に地上に転移すりゃ、当然こうなる。
それに潜伏使ってても流石に目の前に転移したんじゃ、効果無かったみたいだし・・・
くそっ・・・思ってた以上に危険だわ、これ。
「分かってますって。
でもこうなると、ちょっとあの魔物を誘き寄せるのは無理かもしれないですねぇ。」
「そんな事ないわよ、賢斗君。さっきも言ったでしょ?
私には未だ打つ手はあるもの。
いいから賢斗君はもう黙ってみてなさい。
私の新技、披露してあげるから。」
ん、新技?先輩、何する気?
ギィィ
弦を最大限に引き、狙いを定める少女。
「ウィンドボール・アンリミテッド・ディスタンスモデル。」
少女の唱えた風の魔法は、矢の射出方向に気流でできた長い真空トンネルを作り上げた。
おおっ、確かにこんなの初めて見たな。
ピュン
弾かれた矢はその初速を失うことなく真空トンネルを抜けると・・・
ヒュゥ―――ン
中央の岩山の頂へと一直線に飛んで行く。
バシュンッ
すると矢は魔物の頭部を掠め、その役割を見事果たした。
カァーカァーカァー
バサバサバサッ
こんなの有るなら、最初から使ってくれりゃ良かったのに・・・
でもまあ確かにこういうのは、先輩の領分って事か。
上空より降下を始めた3体のジャイアントクロウ。
戦闘の火蓋がようやく切って落とされた。
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○ジャイアントクロウ戦開始○
「みんな、油断するなっ。
小太郎も今回は頼むぞ。」
「う~ん、3体いるから焼きとうもろこし3本だにゃっ!」
「じゃ、やっぱり良いわ。」
「まっ、待つにゃ~、あにきぃっ。1本で良いにゃっ!」
「そっか、じゃ、それで。」
「4連ウィンドアロー。」
ビュゥ~ヒュンヒュンヒュンヒュン
4本の矢が降下してくるジャイアントクロウに対し弾幕を張る。
「ウォーターバルーン・アンリミテッド・トリプル。」
ポヨ――ン、プカ―――――
少年の前には3つの水球。
「ロックオンッ。」
それが夫々別の軌道を描きながら3体の魔物へと飛んで行くと、2体はくるりと旋回し見事に回避、1体の魔物の頭部が水球に包まれる。
「ファイアーボール・アンリミテッドッ!」
ドォ~ン
「ロックオンッ。」
バッシャ―――ン
頭部に被弾し、背から落下して来る魔物。
「ストーンバレット・アンリミテッド・タイプスピアッ!」
そこへ1mほどもある石槍と化した少女の土魔法が、ジャイアントクロウの背に突き刺さる。
ドサァー、バサ・・・バサバサッ
背中から地面に激突した魔物。
かなりの深手。
しかし尚も翼を動かし、起き上がろうとしている。
ドコ―――ン
そこへ右手にオーラを集中した子猫の巨大化オーラハンドが、上から殴り伏せる。
地面へとめり込んだ魔物、その身体は静かに消失して行った。
○残り2体○
他方、2体のジャイアントクロウは夫々少年と小柄な少女へと急降下。
カァァァー
その突き立てられた嘴が今正に2人の身体を貫かんとする時。
桜の奴・・・ホントに大丈夫だろうな?
スッスッ・・・ドガァァァ
目標を失った魔物達は、地面へと激突。
フッフッ
2人が魔物の背後に現れると・・・
「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」
ビリビリビリィー・・・ブォ~ン
少年は雷を纏った剣戟を浴びせていく。
ブォン、バチバチ、ブォン、バチバチ・・・
「ファイアーボールッ・金平糖モデルぅ~っ!」
ブォフッ!
片や少女は手にした杖の上端、角の生えた炎の球体を作り上げた。
「え~いっ!」
ボワァフ、ボワァフ、ボワァフ、ボワァフ・・・
炎の鈍器で撃ち続けられる魔物。
「桜ぁ、それなんだ?」
「賢斗のマネぇ~。」
カァーカァー、バサバサバサッ
少年の切り付けていた魔物が再び激しく暴れ出す。
「あにきぃ、邪魔だにゃっ!」
「おっ、すまん。」
スッ
少年が消えると、子猫の巨大化オーラハンドが魔物を地面に撃ちつけた。
バコ―――ン、ドカァ
あいつ、良いとこばっか持ってくなぁ。
「桜、そろそろ行くわよ。」
「ほ~い。」
スッ
「ストーンバレット・アンリミテッド・タイプスピアッ!」
グサァッ!
1本の石槍が魔物の身体に突き刺さる。
・・・形状変化は土魔法と一番相性が良いかもな。
「コメットアロー。」
ドヒューン
一筋の光を纏った矢が喉元に射貫くと、鳥の魔物はその動きを完全に止めていた。
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル11になりました。』
まっ、誘き出せさえすりゃ、問題なかったな。
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○戦闘終了後○
「先輩、さっきのコメットアローって技、決勝でも使ってましたよね。」
決勝の時より威力が無かった気もするけど・・・
「うん、でもあれ1日1回の限定技なのよねぇ。
やっぱり切り札って最後に取っておかなくちゃって思うと、普段使う機会があんまりなくて。」
さいですか。
「賢斗さん、私の活躍の場が少ないです。」
魔物より手強いのが来たな・・・
「いやぁ~、円ちゃんの土魔法も凄かったって。
それにほらっ、円ちゃんは5階層でも大活躍だっただろぉ?」
「むぅ、そういう事なら仕方ありませんね。今回は特別に許してあげます。」
許すと言って睨み続けるのはお止め下さい。
「賢斗ぉ~、フォークと羽のドロップがあったよぉ~。」
おっ、相変わらずやりますなぁ、先生。
レアが2つもドロップするとは。
「その魔銀のフォークは、只の食器だな。
でもまあ価値は星3つだし、売ればそれなりに高いかもだけど。」
「じゃあこれ売っちゃお~。」
「あとそっちのクロウフェザーは飛翔力を高める素材アイテムらしい。
先輩の矢に今度付けてみますか?」
「そうねぇ、貰っておこうかしら。」
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○緑山ダンジョン最下層、巨木の洞の中○
ドロップ品の回収を終えると、満を持して巨木のある岩山の上へ転移。
そのまま巨木の根元にある洞の中に入った。
思いの外こじんまりとした小さな部屋。
その中央には床から伸びた幾本もの枝が編み込まれた台座、その上に黒い球体が讃えられていた。
へぇ~、こいつがダンジョンコアって奴か。
ツンツン
「ちょっと賢斗君。無闇に触って壊したらどうすんのよっ。
みんな生き埋めになっちゃうでしょ。」
まあダンジョンコアが壊れると、そのダンジョンは消滅するなんて言われてるけど。
「ふっ、先輩、大丈夫ですよ、俺達だったら。
転移があるから生還できますし、きっと。」
「もう、賢斗く~ん、ホ~ント馬鹿ねぇ。
私達だけがこのダンジョン内に居るって訳でもないでしょ?
それに加えて国からだって損害賠償請求されちゃうし、うっかり壊しましたじゃ済まないの。」
あっ、全くその通り・・・
「何故かこういう時の犯人って、絶対捕まっちゃうんだから。」
でもそんな頭ごなしに言われると・・・
「そっすね、大変悪ぅ御座いました。」
無理やりルンルンさせたくなるな、うん。
とそこへ。
「ではみなさん、そろそろ写真を撮りましょうか。」
そう言って円ちゃんは収納指輪から自撮り棒付きカメラを取り出す。
「そうね、こんな所に長居は無用ね。」
ちなみにこのカメラは協会から1日500円でレンタルされる代物。
撮影したデータは弄ることが出来ない仕組みとなっている。
「それでは皆さん行きますよ、はいチーズ。」
パシャ
ダンジョンコアとの記念撮影が終了すると、本日のダンジョン活動も終了である。
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○午後5時30分 緑山ダンジョン協会支部○
協会支部へと戻り、受付で帰還申請及びカメラのご返却。
「あっ、ダンジョンコアの写真も撮って来たので、攻略認定もお願いします。」
「そうなんですか?
流石ナイスキャッチさん、お若いのに凄いですねぇ。
ではデータの確認が取れ次第、攻略認定もしておきますので、少しお待ちください。」
○10分後○
「お待たせしました。
お写真の確認が取れましたので、攻略認定の登録は完了です。
あと攻略認定の証明が必要な時は、その都度こちらで証明書を発行することになっていますので、宜しくお願いします。」
ふ~ん、カメラレンタルに加え、ここでも手数料が発生する仕組みか・・・
色々抜け目ないな、探索者協会。
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○甘味茶屋○
帰りしな、あの巫女さんの居る甘味茶屋へと立ち寄る。
「いらっしゃいませ~。あっ、勇者さま。」
店に入ると以前のボックス席にご案内。
「じゃあお好み焼きとほうじ茶、それと焼きとうもろこし3本お土産で。」
俺に続き、女性陣もそれぞれオーダーを済ませると・・・
「少々お待ちください。」
と彼女は店の奥に戻って行った。
「ねぇ、賢斗君。彼女って探索者資格とか持ってるのかしら?」
「どうなんすかねぇ、まっ、30日は俺等が引率するって形を取れば、何も問題ないと思いますけど。」
「違う違う、そうじゃなくって、彼女、もうちょっとでレベル2になりそうよ。」
えっ、嘘・・・あれっ、82%?
金曜日の時は、確か0%だったはずだよな。
「お待たせしましたぁ。」
彼女が注文の品々をお盆にのせて、こちらにやって来ると・・・
「ねぇ、緑山さんって・・・」
と少し質問のお時間。
すると彼女は現在高校2年、探索者資格自体は、去年取得済みだそうである。
しかしここ最近までペーパー探索者だった彼女は、金曜日から彼女の親父さんによる特訓を受けているそうだ。
「その特訓って?」
「あっ、はい。護符術です。勇者さまと御一緒にうちのダンジョンの最下層を目指すのですから、少しでもお役にと思いまして。えっへん。」
護符術ねぇ、どんなスキルなんだろ?
にしてもちょっと言い辛いな・・・
「ああ、その30日の予定だけど、往還石を使ってダンジョンコアの部屋まで一気に転移で行こうと思ってるんだ。
それにここにいるみんなも当日は同行してくれる予定だから、緑山さんは何も心配しなくて良いからね。」
「えっ、あっ、やっぱりそうなりますか?
う~ん、分かりました。
ではやはりここはBプランに・・・」
最後は何やらブツブツの独り言を呟き、彼女は去って行った。
○15分後○
食事も終えた俺達は、店を出ようと席を立つ。
そしてレジまで行ってみんなの会計を纏めて済ませている俺。
その裏では・・・
「かおるお姉様、桜さん、円さん。こちらが当店自慢のたい焼きで御座います。ささ、どうぞ。
この緑山茜、お姉さま方のまたのご来店、心よりお待ちしております。」
「あら、サービス良いわね。」
「ありがとぉ~。」
「私ここのたい焼き好きですよ。」
巫女さんによるあからさまな懐柔工作が始まっていた。
次回、第八十話 新たなホームダンジョン候補。