第七十八話 一新される武器達
○午後3時30分、緑山ダンジョン6階層スタート地点付近○
あっ、そういや武器の耐久度が結構ヤバい状態だったんだ。
ここは先輩がエンジェルモードの内に頼んでおくか。
「あっ、先輩。このショートソード、またリフレクトエクスペリエンスして貰って良いですか?
さっきちょっと牛型の魔物と戦闘してきたら、また耐久度が下がっちゃったので。」
「あら、もう?
いつも頑張り屋さんね、賢斗君は。
勿論やったげるから、そのショートソードをこっちに渡してくれる?」
う~む、やはり気持ち悪いほどお優しい。
・・・何時まで持つんだろう。
○雷のショートソードのメンテナンス○
まっ、それはさて置き、前回の武器メンテの際には、俺の短剣はショートソードへと劇的進化を遂げた。
そしてこの現象の原因について俺としては・・・
1つはソードモデルによる短剣を普通の剣並みの長さとして使用した為。
そしてもう1つは、先輩のリフレクトエクスペリエンスの効果がルンルン気分により強化されていた事。
という2つの要因より、引き起こされたものだと推測している。
「せっ、先輩、肩でも揉みましょうか?」
そして今回それらを踏まえ、先輩には是非前回同様の武器メンテを施して頂きたいところなのだが・・・
「うふっ、気を使ってくれて有難う、でも今は全然大丈夫よ。
それより賢斗君は疲れてるんだから、少しゆっくりしてなさいな。」
今日の先輩は件の優しさが祟ってか、余計な無茶振りもして来ない。
「それじゃあ始めるわ・・・」
そしてそのまま作業に取り掛かろうとする先輩。
が、それでは困る。
「いっ、いや、先輩。やっぱり始める前に是非私めに肩を揉ませて下さい。」
「うふっ、なぁ~にぃ?賢斗君。そういう事ぉ?
うんうん、わかったわかった。
好きに揉んでくれていいわよぉ。」
おおっ、凄いな、エンジェルモード。
今の先輩ならどんなお願いでも・・・
って、違う違う。
これではまるで、俺が下心満々で先輩の肩を只揉みたがっているだけみたいに受け取られている気がする。
失敬なっ。
今回に限っては目的はそれにあらず。
湯上り後ならいざ知らず、普段の肩もみ程度をそこまで有り難がる俺ではない。
それにこの誤解を解かなければ、俺の意図は伝わらず、ルンルン気分を使わない恐れまである。
やはり最初に説明しておくべきだったな、うん。
と前回の劇的進化についての俺の推測をみんなに一通りご説明。
「なるほどぉ、やっぱり賢いわねぇ、賢斗君は。
じゃあちょっと申し訳ないけど、肩もみマッサージをお願いさせて貰うわね。」
「畏まりました。」
「あとそういう事なら、桜や私の武器もこの方法で試してみようかしら?
私や桜の武器にも賢斗君の短剣の様な劇的進化が起こるかもしれないしね。」
「ああ、それ名案ですね。
みんなの武器もやってみる価値はあると思いますよ。」
という訳で、先ず最初に処理して貰ったのは、俺のショートソード。
しかして、その仕上がりは・・・
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『雷のロングソード』
説明 :雷の力を帯びたロングソード。雷属性(小)。STR+12。
状態 :130/130
価値 :★★★
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フッ、ついに普通サイズの剣になってしまった・・・
まあ目論見通りではあったが、やはりソードモデルでリーチを延長した経験が、刀身を伸ばすという結果に繋がるのだろう。
しかも刀身の太さも、前より少し太くなってる。
ふ~む、このシステムを利用すれば、短剣を大量購入し長剣として売却・・・結構儲かるかもしれない。
まっ、そんな手間な事する気も起きんが。
「ほらぁ~賢斗くぅ~ん、私を誉めそやすの忘れちゃってたぞぉ~♪」
うむ、遂にエンジェルモード終了のお知らせ。
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○火の杖のメンテナンス○
とその傍らでは・・・
「ファイアーボール。」
ドォ~ン
桜が自分の火の杖にファイアーボールを放っていた。
メラメラ・・・
「ウォーターボール。」
バシャン
ジュゥ~
俺が慌てて火消をすると、黒焦げとなり湯気を上げる火の杖。
「何やってんだ?桜。そんなことしたら大事な杖がダメになっちゃうだろぉ?」
「え~、だって賢斗の剣はこうやって強化されたんでしょ~?」
「全然違うわっ!
俺の場合は雷魔法を武器に纏わせ、それで攻撃をしてただけ。
そんな風に武器に直接魔法攻撃当ててどうすんだよ。
それに俺の武器は素材が金属だし、お前のはまんま木材だろ。
そういうやり方は完全にアウトなのっ。」
「そっかぁ~。」
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『火の杖』
説明 :小魔石を2つ埋めこまれた檜製の杖。火属性(弱)。ATK+4。
状態 :3/110
価値 :★★
用途 :武器。
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ほら見ろ、完全破壊寸前じゃねぇか。
それに魔石が一つダメになっちまってるし。
「ねぇ先輩、この杖何とかなります?
随分焦げちゃってるんですけど。」
「あはは~、わかんなぁ~い♪」
ちっ、この状態になった先輩に聞いても無駄だったな。
お馬鹿モードの先輩ではまるで頼りにならん。
う~ん、よし、こうなったら俺の創意工夫でリフレクトエクスペリエンスの能力を引き出してやるしかないか。
となれば今回の最大の問題点は魔石が1つダメになってしまった点。
これを補うには・・・う~む、随分安直な考えだが、修理する際に魔石を幾つか追加する作戦で行ってみよう。
「先輩、この魔石を追加素材として使ってみて下さい。
その埋め込まれてる魔石、もう使い物にならなそうなんで。」
俺は焦げた杖を先輩の前に置くと、それと一緒に魔石の埋め込まれた杖の先端部の脇に新たな魔石を数個添えた。
「ふ~ん、そんな事出来るかなぁ~。
でも面白そうだから、やってみよぉ~♪」
まっ、実際俺もそこまで期待している訳でもないが、上手く行ったら儲けもの。
それに何か知らんがこのお馬鹿な不思議ちゃんと化してる先輩なら、何かが起こる、そう思えてならない。
先輩は火の杖の先端部分に右手をかざし始める。
が、何時もならここからスライド移動して行くのだが、その手はずっと魔石の埋め込み部分にかざされたまま。
そしてついにはその手を離してしまう。
「ハァ~全然ダメねぇ。賢斗君、ちょっと私、気分が盛り下がっちゃったみたい。」
ん・・・マッサージ効果が切れてしまったか?
まあさっきは多少雑になってしまった嫌いがあったしな、ふむ。
ならば仕方ないっ、ここは念入りなスペシャルコースをお見舞いしてやるか。
時に優しくスロウリィ、はたまた激しくスピーディ・・・
秘技マッサージ三昧っ!
ナーナーモミモミ、ナーナーモミモミ・・・・・・・・・・
よしっ、終了っ!
パッ
「よ~しっ、やっちゃうぞぉ~♪」
ルンルンと修復作業に戻る先輩。
再びかざされたその手は件の部分にたっぷりと時間を掛けたかと思うと、ゆっくりと、しかし確実にスライド移動を始めた。
そしてその光景を見つめる俺の目には、驚きの光景が飛び込んでくる。
おやおやぁっ!
埋め込まれた魔石が、大きな1つの魔石に・・・
これって魔石融合とかいう奴じゃないか?
確か錬金スキルでしかできないなんて言われてたはずなんだけど。
ペリペリペリ・・・
更に注視していると、火の杖の焦げた表面は剥がれ落ち、炭化してしまっていた部分をも再生されていく。
「わぁ~い、できちゃったぁ~♪はぁい、さくらぁ。」
と先輩は仕上がった杖を桜に渡す。
「おお~、凄ぉ~い、かおるちゃん。何か杖が太くなってるよぉ~。」
いや、他にもっと凄い驚きポイントがあんだろっ。
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『火炎の杖』
説明 :中魔石が埋めこまれた檜製の杖。火属性(小)。火耐性(弱)。MATK+3。ATK+6。
状態 :130/130
価値 :★★★
用途 :武器。
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ふむふむ、やはりかなりの劇的進化だな。
軒並み既存のスペックが上がっているのはこの際置いておくとしても、火耐性に魔法攻撃力アップの付加効果まで・・・
にしても武器に属性耐性か・・・
これは寧ろ俺の剣にこそ必要な奴だろ・・・
ソードモデル時の消耗を軽減できそうだし。
しかし解せんのは、あれだけ雷魔法を纏わせて戦ってきた俺の武器にはこんな耐性が付いていないって事。
つまり魔法を纏わせて使う経験ではこの付加効果は付与されない?
桜がやった様に武器に直接属性攻撃を放たないとダメって事か。
う~ん、まっ、その辺はまた次回だな。
「桜、・・・てな具合に強化されてるぞっ、名前も火炎の杖なんつーかっこいいのになってるし。」
「ほんとぉ~、やったぁ~。」
「ちょっとその杖の付加攻撃、試してみろよ。
以前のちんまい火球がパワーアップしてるかもしれないぞっ。」
「あっ、そ~だねぇ~。」
ドォ~ン
「おおっ、これもう普通のファイアーボール並みじゃねぇか。」
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○魔竹の弓のメンテナンス○
「じゃあ次は私の弓矢もやっちゃうぞぉ~。」
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『魔竹の弓矢』
説明 :魔竹製の丸木弓と矢。弓:ATK+4、矢:ATK+2。
状態 :52/100
価値 :★★
用途 :武器。
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ふむ、先輩の弓矢にはまだ風属性もついて無かったんだなぁ。
・・・試してみるか。
俺は先輩の前に置かれた弓の握り部分辺りに魔石を5つほど置く。
この弓には元々魔石なんて埋め込まれちゃ居なかったけど・・・はてさて。
「ああ、それ良いかもぉ~♪賢斗君やるぅ~。」
と、先輩もノリノリでリフレクトエクスペリエンスを施した結果がこちら。
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『風遠の弓矢』
説明 :小魔石が5つ埋め込まれ、風の魔力を宿した丸木弓と矢。風属性(小)。飛距離上昇補正10%。命中率上昇補正10%。弓:ATK+6、矢:ATK+4。
状態 :120/120
価値 :★★★
用途 :武器。
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「ねぇ、賢斗くぅ~ん。弓がちょっとだけ太くなっちゃったぁ~。」
お前もか・・・太さより先に気にするポイントがあるだろっ。
まっ、それはこの際どうでも良い。
注目は藤頭部から握りに掛けて見事に埋め込まれた5つの小魔石。
これにより今後は手から弓そして射出される矢へと繋がる風魔法の伝達効率向上が見込めるはずだ。
しかし俺の目論見に反し、魔石は5つに分離したまま融合現象は発現しなかった。
その辺の理由は現状定かではないが、効果の性格上、魔石同士の連動効果を発揮した経験なんてものが必要なのかもしれない。
とはいえこれはこれで、弓を握った時、埋め込まれた魔石が指間に収まり、グリップ力の強化という福次効果まで期待出来きてしまう。
はっはっは、侮るなかれ、この俺の素人設計。
更には只の竹弓だった見た目も、何か補強素材みたいなものまで巻かれてるし、見た目も別物。
そして解析結果を見れば、こちらもかなりのスペックアップを遂げている。
風属性なんていきなり(小)まで付いてるし、新たに飛距離上昇補正10%、命中率上昇補正10%なんてものまで。
これ等全てを合わせれば、これもまた劇的進化に成功したと言って良いだろう。
「とても素敵な弓矢になりましたね、かおるさん。」
「あはは~、そ~だねぇ~、不思議だねぇ~♪」
っとに、凄ぇな、この不思議ちゃん。
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○ハンドガードグローブのメンテナンス○
「かおるさん、私のこのグローブも、宜しければ、あの、その、メンテナンスをお願いしたいのですが。」
「勿論良いわよ、円。そんな遠慮しないで、さあ貸して御覧なさい。」
ありゃ、また先輩のルンルンが切れちゃってるな。
にしても、う~ん、円ちゃんのこれはどうなんだろう。
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『ハンドガードグローブ』
説明 :ワイルドウルフの皮で作ったハンドガードグローブ。
状態 :17/20
価値 :★
用途 :雑貨。
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これは単に直接魔物に触るのが嫌で装備していた武器ですらない代物。雑貨だし。
そして円ちゃん的に遠隔攻撃を覚えた今、このグローブの存在価値は最早無きに等しい。
「あっ、あの、良かったら、そのっ・・・ルンルンでお願いします。」
「ほら、賢斗君。ルンルンオーダーが入ったわよ。」
へいへい。
まっ、お嬢様にとっては、先輩からプレゼントされた大事な一品。
それにもしかしたら、触れてもいない攻撃を無理やり命中判定させられ続けた経験なんてものが反映され、ど偉い武器になるなんて可能性も無くは無い。
ふっ、このお遊びにも全力で付き合ってやりますか。
俺は先輩にマッサージ三昧をお見舞いしてやるとハンドガードグローブの上に魔石を5個置く。
その準備が整うと先輩は早速作業に取り掛かる。
かざされた右手が通過すると、黒色系の毛並のグローブは金色の毛並へと変化して行く。
こんな変化を生み出す事もあるのか・・・中々奥が深いな、リフレクトエクスペリエンス。
そしてほどなく処理が終了。
先輩がその仕上がったハンドガードグローブを手に取ると・・・
ボトボトボト
あらら・・・魔石は埋め込まれなかったか。
先ほどの先輩の弓で成功したからと言って、所詮何の根拠も無く只魔石を乗せてただけ。
現状さっき上手く行った理由も不明だし、まっ、この結果も致し方なかろう。
それはそれとして解析の方も確認してみるか。
見た目的にもかなり変わっちゃったし。
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『やる気満々グローブ』
説明 :装備者のやる気に応じてATKが僅かに上昇するグローブ。
状態 :40/40
価値 :★★
用途 :武器。
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ふむ、やる気に応じて攻撃力が上がるグローブかぁ・・・また随分特殊な付加効果が付いたもんだな、大した効果じゃなさそうだけど。
とはいえこんな付加効果が付いた理由は、円ちゃんがいつもやる気満々でこのグローブを使い続けた結果といったところか。
「はぁ~い、まどかぁ~、出来たわよぉ~ん♪」
そして全体の色変化は、この何てことない先輩お手製グローブに対する円ちゃんの愛着の表れ・・・ハハ、これは我ながらかなりのこじ付けだな。
とするとこのリフレクトエクスペリエンス不思議ちゃんバージョンには、装備者に合わせたカスタマイズ進化の様なものまであるのかもしれない。
何気に俺の剣も柄の握りが妙にしっくりきていたし、ショートソードの時も違和感なく使いこなすことが出来ていた・・・うむ、こっちの方が理由としては正解な気がする。
「どうも有難う御座いました、かおるさん。」
とはいえど偉い進化なんつー俺の予想は大きく外しちまったが、只の雑貨が武器になっちまうほどの大きな進化を遂げている。
「うぉ~、なんか円ちゃんの髪の色そっくりぃ~。」
これなら本人もさぞ大満足・・・
「う~ん可笑しいですねぇ。」
「えっ、何が?円ちゃん。」
「あっ、賢斗さん。私のこのグローブ、何処が太くなったんでしょう?」
いやグローブに太くなる部分なんかねぇだろ。
「そっ、それは・・・円ちゃんとそのグローブとの絆かな。」
あっ、俺今うまい事言った・・・ニヤリ。
次回、第七十九話 最下層ボス攻略認定。