第七十四話 ホームダンジョン探しと第三種特別許可
○6月15日土曜日午前10時30分、ホームダンジョン候補その1○
ブロロロロ・・・
本日は第2ホームダンジョン計画の実地調査として候補に挙がった管轄外ダンジョン2か所を周る予定。
その第1候補として今、水島さんの車で向かっているのが葦中洲ダンジョン。
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『葦中洲ダンジョン』
説明 1級河川の巨大な中洲に入口があるダンジョン。まだ出現間もないダンジョンで・・・
ダンジョン形式 洞窟型
ランク E
危険度 ★
資源 ★
人気 ★
最深層 2階層
出現後経過期間 12年
所属 国有(管轄外)
所在地 ○×▽□・・・
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選んだ理由としては、立地条件がかなり悪そうだったから。
人気が星1つといっても、1日平均5~6人前後の出入りくらいあるのが普通。
しかし俺達の求める人気の無さは、以前の清川に匹敵する人気の無さ。
となると清川がかなりの山奥だったように、プラスαの負の要素が求められるのである。
事前情報によれば、この葦中洲ダンジョンは1級河川の巨大な中洲に入口があるダンジョンで、橋なんてものは架かっていない。
必然的にこのダンジョンに入ろうとする探索者達は、普通ならわざわざゴムボート等を用意する必要性が生じる。
これがこの葦中洲の負の要素であり、つまり俺達の求めるダンジョン像に合致したという訳だ。
ブロロロロ・・・キィー
1時間半のロングドライブを経て、車はようやく目的地に到着。
「やぁ~っと着いたぁ~。」
「あの中洲にダンジョン入口があるのかしら?」
「ここから見てても葦が邪魔で良く見えませんね。」
「それじゃあ俺が転移でちょっと様子を見て来るから、みんなはここで待機しててくれ。」
と俺は車の中から直接中洲の僅か上空3mといったポイントに転移を試みる。
フッ・・・ひゅ~ん、ガサガサガサァー
あ痛たたたたぁ。
中洲の上空に転移し、生い茂る葦の上にそのまま落下。
流石に無事では済まず、身体のそこかしこに切り傷すり傷等々。
「ヒールヒールっ。」
ふぅ~、はてさて、とんでもないとこにダンジョンが出来てるなぁ。
ガサゴソガサゴソ
葦地帯を抜けだし、丈の長い雑草を掻き分け、中洲の中心へと進んでいくと、まあ足場自体はしっかりしている。
ズシャァァー
突然俺の身体は地上から姿を消した。
見上げれば5mほど上にぽっかりと丸い穴。
痛っつつぅ~。
バババッ
脳内マップが広がると、既にダンジョン全域が掴め、このフロア全体で300㎡もないだろう。
うわっ、低ぅっ!
目の前には高さ1m半あるかないか、幅3mほどの通路。
幅こそ十分ではあるが、人が通行するには高さが非常に物足りない。
中洲にあるという立地条件の悪さに加え、こんな悪条件まで兼ね備えていたとは・・・
「ヒール。」
落下時の傷を癒しつつ、思考する事3分。
ポンッ
よしっ、ここは止めとこう。
流石にこれじゃ奥まで探索を進める気になれないしな。
そう結論付けると、俺は再び皆の待つ車内へと転移した。
スッ
○車内○
フッ
「お帰りぃ~。」
「おう、ただいま。」
「賢斗君どうだったの?」
「ダメっすねぇ、ここはちょっと通路の高さが低すぎて、桜でも頭ぶつけそうでしたよ。」
「え~、そ~なの~?」
「まあなぁ、悪いけど他の候補にしとこうぜ。
流石に奥まで行く気になれなかったし。」
「そうでしたか。賢斗さんお疲れ様でした。」
「まあ仕方ないわね、そんな動きを制限される様なところをホームダンジョンなんかにしたくないものね。」
まっ、奥に進めば通路の高さが改善される可能性は残っているが、他にも候補はあるんだし、何もここに固執する必要もあるまい。
こうして第2ホームダンジョンとして第1候補に挙がった葦中洲ダンジョンは、早々に見切りをつけられたのだった。
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○午後12時30分、ホームダンジョン候補その2○
ブロロロロ・・・キィー
さて第2候補としてやって来たのは、海の見える埋立地にある新海ダンジョン。
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『新海ダンジョン』
説明 埋立地に出現したダンジョン。ダンジョン内全域に渡って悪臭が漂い、マスク着用が求め・・・
ダンジョン形式 洞窟型
ランク E
危険度 ★
資源 ★★
人気 ★
最深層 4階層
出現後経過期間 18年
所属 国有(管轄外)
所在地 ○×▽□・・・
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ここはゴミ埋立地に出来た結構新し目のダンジョンで、入ると毒性はないが鼻が曲がるほどの悪臭がするらしい。
そしてそれが原因となり、それなりの資源があるにもかかわらず不人気で管轄ダンジョンにすらなっていないというのが前情報。
といってもこの悪臭に関しては、感度ビンビンがある俺達なら大丈夫。
嗅覚を遮断してしまえば、さほど問題ではないだろう。
車を降り、みんなでダンジョン入口へ歩いて行くと、平らな空き地に地下道へと導く斜めに下降していくダンジョン入口を発見。
傍らの立て看板には『ここはダンジョンです。探索者資格所持者以外の侵入禁止』。
はいはい、分かってますよぉ~。
一歩踏み入れたその途端、強烈な腐った生ゴミ系の悪臭が襲う。
こりゃ堪らん・・・と俺は早速感度ビンビン発動っ。
ダンジョン奥へと歩き始めた。
バタバタバタッ
えっ、どうしたっ?
振り返ればうちの女性陣は一目散にダンジョン外へ・・・僅か数m進んだところで引き返してしまった。
俺も一旦引き返し、彼女等に声を掛ける。
「なぁ、みんなどうしたんだ?」
「超臭かったぁ~。」
「あの臭さは予想以上よ、賢斗君。ここは止めときましょう。」
「いやそれは感度ビンビンで無効化できるでしょ?」
「賢斗さん、そういう問題じゃありません。
あれほどの臭いでは、装備から体に至るまであの臭いが染みついてしまいます。
それとも賢斗さんは、臭い女がお好みですか?」
まあ円ちゃんなら多少臭っても我慢できるが・・・
「いやまあそう言われるとなぁ・・・でもそれを覚悟の上でここに来たんだろぉ?」
「アハハ~、賢斗ぉ~、あれは無理だってぇ~。」
まっ、物には限度ってもんがあるわな。
○帰りの車中○
ブロロロ・・・
実地調査の初日を終えた俺達は、車に再び乗り込むと予定よりも随分早めの帰路に就いた。
「な~んの収穫も無かったわねぇ~賢斗君。」
確かに・・・
勢い勇んでホームダンジョン探しに乗り出したはいいが、いざ実地調査に入った途端この有様。
「そっすねぇ~。敢えて条件の悪いとこをチョイスしたのが裏目に出てしまったんすかねぇ。」
これはちょっと管轄外ダンジョンに求める俺達の理想が高過ぎるのかもしれない。
「でもこんな調子で清川程に恵まれた管轄外ダンジョンなんて、ホントに見つかるのかしら?」
ですなぁ、こうして見ると改めて清川さんの偉大さに敬意を表したくなる。
「ではみなさん、ここは清川ダンジョンを貸し切るというのは如何でしょう?」
う~ん、こういうのがお嬢様的発想の転換という奴か。俺には無理だな。
「あっ、それが良いよぉ~、円ちゃん。」
ちょっとちょっと先生まで・・・それに一体幾ら掛かるのか考えてますか?
まっ、そもそも貸切できるかどうか知らんけど。
「あ~小田さんに蓬莱さん。
管轄外ダンジョンの貸切レンタルは、協会の方ではやってませんよ。
まあ個人所有のプライベートダンジョンでしたら、そういう事をやってるところもあるみたいですけど。」
「そうでしたか・・・それなら致し方ありませんね。」
「そっかぁ~。ざんね~ん。」
「水島さん、詳しいっすねぇ。」
「うふっ、これでも皆さんのマネージャーとしてお役に立てるよう、探索者関連の事を結構勉強してますからねぇ~。」
お~それはそれは。
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○午後2時、クローバー拠点部屋○
殆ど調査らしい調査もせずに終えた今回の実地調査。
そのお蔭でまだ帰宅するにはかなり早いお時間。
「いやぁ~、水島さん。今日は付きあってもらっちゃって有難う御座いました。」
「いえいえ、これもお仕事ですから。」
「でもお店の方とか大丈夫なんすか?」
「うふっ、そんな心配いりませんよぉ。みなさんと一緒に出掛ける時とかは、ちゃんと本社から助っ人を先生が手配してくれてますから。」
ほほう、そんな黒子の存在が・・・俺は一度も見たことありませんけど。
まっ、それはそれとして、この後どうすっかなぁ?
まだ時間も早いし、ここは気持ちを切り替えみんなを誘って何処かのダンジョンにでも・・・
「でも皆さんは、どうして一般開放のダンジョンばかりを選んでたんですか?
折角私が管轄外の侵入禁止ダンジョンの方もリストアップしておいたのに。
今の皆さんならもう少し高ランクのダンジョンをホームにした方が良いと私的には思うんですけど?」
あ~それで・・・
侵入禁止ダンジョンとは、その多くが一般開放するには危険度が高過ぎる高ランクダンジョンの事を指し、そういった所では必要ランクに満たない探索者の侵入申請は受理されない。
といってもこれは管轄ダンジョンに於けるお話。
管轄外ダンジョンの場合、原則的に資源や人気が無くとも危険度が高ければ管轄ダンジョンに指定されるので、本来管轄外の侵入禁止ダンジョン等というものは有り得ない。
しかし現実として危険度が高くとも立地が悪い等別の要因から、やむを得ず管轄外としているようなダンジョンもまた例外的に少なからず存在していたりする。
そして今、水島さんが言った管轄外の侵入禁止ダンジョンというのは正にこれの事なのだろう。
でもそれって確か・・・
「いや、水島さん。侵入禁止ダンジョンって高ランク探索者じゃないと入れないところでしょ?」
管轄外の侵入禁止ダンジョンに出入りするには、一々侵入申請は不要だが事前に許可が必要だったはず。
「ええ、まああそこに入るには協会の許可が要りますけど、それが何か?」
「いやだから俺達Gランクの探索者ですし、許可なんて取れないでしょ。」
「あ~、多田さんはちょっと誤解されてるみたいですけど、高ランクの方達の場合は実技試験が免除されるだけです。
Gランクの探索者でも条件を満たせば第三種特別許可は貰えるんですよぉ。」
へぇ~、そうだったの?
とその第三種特別許可なるものを俺はあまりよく知らなかったので、ここからしばらく水島さんに詳しくご説明願った内容がこちら。
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第三種特別許可証申請要綱(第三種に指定された管轄外Dランク以下ダンジョン侵入許可証申請要綱)
許可申請資格 :以下の審査基準、身体レベル基準をどちらも満たす者。
審査基準 :Dランク以上、3カ所以上のダンジョン攻略認定、探索者協会主催の各種大会決勝進出の何れかを満たす探索者又は探索者パーティーであること。
身体レベル基準 :レベル10以上(パーティーの場合は、その過半数がレベル10以上)
実技試験 :魔物召喚士に召喚されたレベル15の魔物1体を討伐成功で合格。
※Dランク以上探索者は実技試験免除。
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ふむふむ、確かにこの条件なら俺達パーティーは許可申請を出せる。
実技試験の方もまあ俺達なら大丈夫そう。
とはいえレベル15の討伐とか、普通の高校生基準で言ったらかなり厳しそうだけど。
「私達の最寄りでは、緑山ダンジョン協会支部で毎週希望者があれば、日曜日に実技試験をやってるんですよぉ。
申請受け付けは午後3時まで大丈夫ですから、今なら何とかギリギリ明日の試験に間に合いますけど。」
「う~ん、みんなどうする?」
みんなに相談してみれば、今日の実地調査の結果に先行きの不安を感じていた俺達。
意見はほどなく纏まり、この第三種特別許可の取得に乗り出す事に決まった。
次回、第七十五話 『クイーン猫エボリューション』。