第七十三話 神のお告げとキュンキュンパワー
○6月14日金曜日午後5時15分、白山ダンジョン協会支部フードコーナー○
・・・ぶっ飛んだ巫女さんだとは思っていたが、ここまでとは。
「ねっ、ねぇ緑山さん。で、何なの?その神界キュンキュン通信って?」
「あっ、はい、承知しました。
それでは先ずは神様への質問コーナーから参りましょう。
来てます来てます・・・」
彼女は両手を俺と握手しつつも、俯き加減にフルフルと体を揺すって何やら見えない何かと交信中といった雰囲気。
「それは私の持つスキルの事だと神様は仰っていますよぉ、勇者さま。」
はっ、そうか・・・これは神様とお話中とかいう設定か。
そしてこの一連の小芝居。
しかも自分の所持スキルを『神界キュンキュン通信』なんつー恥ずかしい名前シリーズに加わりそうなものにでっち上げるあたり・・・
これまた随分と拗らせちまってるようだな。
「へっ、へぇ~そうなんだ。」
しかしまあそれはそれとして、折角の俺のファンにしてこれほどの美少女・・・
ここで無碍に扱い、失望させる訳にもいくまい。
「他に御質問は御座いませんか?勇者さま。
これは神様とお話できる大チャンスなんですよぉ。」
彼女は楽し気に言い放つ。
よしっ、ここは取り敢えず彼女のペースに合わせて。
「あはは~、やったぁ~。
そっ、それじゃあそのスキルってどんな効果なのかなぁ?」
「はい、少々お待ちください。
来てます来てます・・・それはですねぇ、キュンキュンパワーが上昇すると、霊感や霊媒資質が上昇し、一定時間神様とお話が出来ちゃう優れものだそうです。」
くっ、くそっ・・・気になる。
キュンキュンパワーって何だろう?
中々練り込まれた設定・・・やるな、巫女さん。
「そっ、そっか。それは凄いねぇ~。」
「もっと他に聞きたいことは御座いませんかぁ?」
チラッ
まっ、不味い・・・
流石にうちの閻魔様がこの異常事態に感づき始めている。
名残惜しいがここは早々に切り上げねば・・・
う~ん、よし、この作戦で行こう。
変わって居るとは言え、この巫女さんだって花も恥じらう年頃の美少女・・・
こんな意地悪な質問をされれば、その恥ずかしさで、この小芝居も終わりを迎えてくれるだろう。
そして万が一逆の目が出ても、それはそれで美味しいナイスな作戦、うんうん。
「じゃあ緑山さん、最後に神様に緑山さんのスリーサイズでも聞いて貰えるかな?」
どうでしょう・・・
普段の巫女姿からでは窺い知れなかったが、今日のこの娘はとても見事なプロポーション。
この神様は教えてくれちゃうのかなぁ~?
「まぁ、勇者さまったら、そういう事は直接私に聞いて下さればいいのにぃ。」
えっ、そうなの?
「でもそうですね、折角ですから神様にお尋ねしてみましょう。」
よしっ!逆の目来たぁ~っ!
「行きますよぉ、来てます来てます・・・」
焦らしますなぁ~。
「うふっ、神様は勇者さまが御自分で確認してみろと仰ってますよぉ。」
えっ、まさかの触診っ?!
「えっ、確認しちゃっていいんですかぁ~?」
「はい、勇者さまなら構いませんよぉ。
でも恥ずかしいので、私に気付かれない様、帰る時にでも遠目でこっそりお願いします。」
あれ?どういう事?
「はぁい、勇者さまぁ。それでは次は取って置きの神様からのお告げのコーナーに参りまぁ~す♪」
「えっ、あっ、はいはい。」
つか終わらねぇぞ、この小芝居。
ここへ来て更にノリノリになってるじゃねぇか・・・
「それでは行きますよぉ、来てます来てます・・・」
彼女は身体をまたフルフルと震わせ続け・・・
「来てますよぉ~・・・こっ、これはかつて無いほどのキュンキュンパワーの高まりっ!」
徐々にその激しさを増して行った。
う~ん、何か一人で盛り上がっちゃってますけど。
そして一転、ピタリと停止。
「来ましたっ!勇者さまっ、神様は仰っていますっ。
次のお祭りの日の終わりを告げる午前零時。
緑山ダンジョン最下層にあるダンジョンコアのお部屋に行くと、とても良い事があるそうです。」
ふっふっふ・・・これまた大層な神のお告げが出ましたなぁ。
「あっ、勇者さまぁ、もしご都合が宜しければ、私をそこへ連れて行ってくださいませんか?
私一人じゃ、とてもそんなところまで行くことはできませんので。」
なるほど、そういう事だったか・・・
これは所謂この巫女さんからのデートのお誘いっ!
神のお告げなんつー胡散臭い小芝居をここまで演じたのも、この変わり者の巫女さんが乙女心を盛大に拗らせちまったと考えれば、まあ説明がつく。
「りょ~かい、りょ~かい。まあ都合がつくか分からないけどね、あはは~。」
と言っては見たものの、実際この彼女とのデートの実現はかなり難しい。
誰も居ないダンジョンの奥深く、彼女と2人っきりでとても良い事というデート内容にはとても惹かれるものがあるが・・・隣の閻魔様がもう既に憤怒の表情を浮かべていらっしゃる。
パッ
俺はここでようやく自分の右手をそっと引き戻した。
「あっ・・・キュンキュンパワーが減少していきますぅ~。ショボ~ン。」
にしてもこのキュンキュンパワーの設定についてだけは今度詳しく聞いてみたい。
「じゃあ今日はわざわざ握手会に来てくれてありがとう、緑山さん。」
「はい、今度は緑山ダンジョン協会支部でも握手会を開いてください。」
まあそれはそっちの協会の人に言って下さいね~。
ペコリ
軽く一礼して踵を返す少女。
ふぅ~、にしても俺のとこには、変わった奴しか来ない呪いでも掛かってんのかなぁ?
「勇者さまぁ、そろそろ良いですよぉ。」
おっ、そうだったそうだった。
お楽しみのスリーサイズをチェックチェックぅ~♪
ってあれ?・・・やっぱり可笑しいよな。
彼女は俺が『解析』スキルを持ってるなんて知らない筈なのに。
しかも解析でスリーサイズが見える事まで知ってるなんてどんだけ・・・
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名前:緑山茜 16歳(156cm 48kg B82 W56 H87)
種族:人間
レベル:1(0%)
HP 9/9
SM 7/7
MP 1/1
STR : 6
VIT : 4
INT : 6
MND : 9
AGI : 8
DEX : 5
LUK : 8
CHA : 13
【スキル】
『神界キュンキュン通信LV1(29%)』
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ふむ、やはり安産型か・・・なんて素晴らしい。
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○午後6時10分、サイン会&握手会終了後○
白山ダンジョン協会支部からの帰りの車中。
ブロロロロ・・・
俺は女性陣からやいのやいのと猛口撃を受けていた。
「ねぇ賢斗君、な~んであの美少女のスリーサイズまで鼻の下伸ばして聞いちゃうのかなぁ?」
先輩、そんなに顔を寄せて来るとキスしちゃいますよっ。
にしてもやはり先輩には俺と緑山さんの会話は筒抜けだったか・・・
まっ、この人聴覚強化持ってるし、下手な嘘は通じまい。
「いやあれは、話を早く終わらそうと、ちょっと意地悪な質問しただけの事じゃないですか。」
「っとにもう、ほっとくとこれなんだから。」
へいへい、そいつは悪ぅ御座いました。
「それでどうするの?その彼女の話に乗って、お祭りデートに繰り出すの?
ま~あ、勿論部外者の私が口を出すつもりはありませんけどっ!」
う~ん、これはかなりのご立腹・・・ここで行くとか言ったらマジ殺されそうなんですけど。
にしてもどうすっかなぁ、これ。
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『神界キュンキュン通信LV1(29%)』
種類 :パッシブ
効果 :キュンキュンパワーが上昇すると、神界通信が可能となる。
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流石にこんなもん見せられちまったら、さっきのホラ話の確認くらいはしたくなる。
しかし彼女と2人でお祭りデートは流石に許されそうにない。
となれば・・・
「先輩、あれはデートなんかじゃないですって。
何ならみんなで一緒に行きましょう。
それなら問題も無いでしょ?
まあ時間が6月30日の真夜中なんで、前以てみんなの家の許しが貰えたらになっちゃうでしょうけど。」
「ふ~ん、じゃあ賢斗君は行く気満々って事じゃない。
あ~んな神のお告げなんて胡散臭い話に乗っちゃってさぁ。
いくら相手が美少女だからって、甘い顔するのは私だけにしておきなさいよ。」
う~ん、自分は良いんだ・・・
「そうです賢斗さん、女性と握手がしたいなら私が幾らでもして差し上げますから、私にも甘々でお願いします。」
おう、それはそれで魅力的。
「ねぇ~賢斗ぉ~、私はイチゴが乗った奴がいいぃ~。」
うん、ケーキの話じゃないからね、先生。
前の席で良く聞こえてなかったな、こいつ。
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○午後6時20分、クローバー拠点部屋○
ガチャリ
「たっだっいまぁ~。」
拠点部屋に戻ると桜が誰も居ない部屋に帰還報告。
「いやぁ、疲れちゃったわねぇ~。」
「そうですねぇ、お2人の人気にはビックリしました。」
「いやでも円の所にも、モンチャレに出てないにもかかわらず、結構人が集まったじゃない。」
「そうでしょうか。」
「みなさん今日はお疲れ様でした。大盛況でしたね。」
そぉそっ、俺抜きでお疲れ会でも開いて、今日はもうサッサと帰ってくれ。
ソファで寛ろぐみんなを余所に、俺はコーヒー片手にパソコンデスクに腰を下ろす。
ズズッ
カチカチカチカチ・・・
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『緑山ダンジョン』
説明 神社の敷地内にある典型的なフィールド型ダンジョンで資源もそれなりに豊富。探索初心者から愛され続け、地元では根強い人気を誇って・・・
ダンジョン形式 フィールド型
ランク E
危険度 ★★
資源 ★★
人気 ★★
最深層 7階層
出現後経過期間 28年
所属 国有(管轄)
所在地 ○×▽□・・・
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ふ~ん、最深層が7階層で危険度星2つか。
となると最後の階層ボスのレベルとしては、レベル10は超えてるだろうな。
しかも階層ボスは特異個体並みだったりするケースもあるし、数で押してくるパターンも有ったりと様々。
一筋縄ではいかない場合も多いって聞くけど・・・
まっ、取り敢えずは俺一人で何とかなるか試してみるか。
「ねぇ、賢斗くぅ~ん。何調べてるのかなぁ?」
「あっ、緑山ダンジョンについてちょっと。
先輩達はさぞ握手会でお疲れでしょうから、さっさとお帰り下さい。」
「そうはいかないわよ。
賢斗君にはこれから大事な事を聞かなくちゃならないんだから。
それに可笑しくないかなぁ~。
その件はさっき諦めちゃったと思ったんだけど。」
「俺は諦めたなんて言いましたっけ?
確かに俺だってあの神のお告げなんて話を100%信じてる訳じゃありませんけど、解析で彼女のスキルを見てしまったんで、ほっとく訳にもいかないんです。」
「あ~、そうやって他人のステータスを勝手に解析するのはいけないんだぁ~。」
「いやあの場合は仕方ないでしょ。あんな話されたら相手の頭が大丈夫かなぁって心配になるし。」
そう、俺は只彼女のスリーサイズが見たかったから解析した訳ではない。ホントホント。
「まあそれもそうねぇ。でも賢斗君には前科があるし・・・」
ちっ、もうその件は許してくれたはずなのに。
「あ~、先輩の場合は特別なんだから仕方ないでしょ?」
同じパーティーメンバーなんだし・・・
「そっかぁ、うんうん、わかったぁ~♪」
何故にご機嫌?
「じゃあその確認したスキルってどんなスキルだったのかなぁ?」
「それはあれです、神様と交信出来るような能力スキルですよ。」
「ホントにぃ?そんなスキルを彼女が持ってたって言うの?」
「いやまあ俺も未だに信じられませんけど、何なら今度中川さんにでも見て貰いますか?
俺一人の解析じゃ満足できない様でしたら。」
「いいわよ、そこまでしなくても。」
おおっ、何だかんだ言って、ちゃ~んと信頼して下さってる辺り・・・
「あの人だとお金取られちゃいそうだし。」
・・・確かに。
でもまあ今の内に誤解の種は無くしておくに限るか・・・
「じゃあちょっとみんなにも誤解されない様、今俺の考えてる今後の予定について言っておくよ。
まず普段の俺達のダンジョン活動に関して特に変更するつもりはありません。
今回の緑山ダンジョンの神のお告げの件については、おれが基本的にはソロ探索である程度お膳立てしておきます。
みんなは6月30日の深夜、もし外出許可が取れるようなら、俺に付き合って下さい。
そしたら一緒にまああの緑山さんも含めた形で、あそこの最下層のダンジョンコアの部屋に行って、今回の神のお告げの真実を確認してみようと考えてる。
まっ、この神のお告げに全く興味が無ければ、パスして貰って全然構わないけどね。」
「賢斗さん、お膳立てとは何をなさるのですか?」
「ああ、それは魔物との戦闘を避けて只単に最深部目指して最高到達地点を進めておくだけだよ。
そしたら緑山さんの様な一般人を連れても、安全にダンジョンコアの部屋に転移で行けるだろぉ?」
「何で賢斗が一人でやろうとするのぉ~?」
「まあさっきも言った通り、このお膳立ては魔物と闘ったり宝箱を開けたりといった事をするつもりがない。
となれば最深部に向かって只移動するだけなんだし、俺一人の方が身軽で色々と都合が良いんだよ。」
「まあ~それはそうかもだけどさぁ~。」
「じゃあ賢斗君、階層ボスはどうするの?基本は5階層ごとにボス魔物が居るはずでしょ?」
「それはまあ取り敢えずは俺一人で挑んでみて、ダメそうならみんなに協力して貰おうかと。」
「それじゃダメね、賢斗君。
階層ボスと闘う時は必ず私達を呼びなさい。
それだったらその賢斗君の計画を認めてあげる
・・・もうあんな思いしたくないし。」
「そ~だよ~賢斗~。階層ボスはみんなで倒さないとぉ~。」
「お2人の言う通りですよ、賢斗さん。」
あ~、もしかしてあん時の事が俺以上にみんなのトラウマになっちまってんのかなぁ?
となれば俺がここで不平を言える立場でもないか。
まっ、6月30日までは日程的にも余裕あるし、安全面を考えればそっちの方が良いっちゃ良いけど。
「分かったよ、階層ボスの手前で皆の協力を仰ぐとするよ。」
「うんうん素直で宜しい。じゃあ6月30日はみんなで緑山ダンジョンの最下層で記念撮影ね。」
「何で記念撮影なんかするんすか?」
「だってあそこは管轄ダンジョンだし、攻略認定貰えるでしょ。」
「あ~、あの1円にもならないやつ。」
「そぉ~んな事ないわよ。
攻略認定があればそのダンジョンの協会支部からの依頼を受け易くなるって水島さんが前に言ってたし、探索者履歴に箔がつくでしょ。
将来探索者辞めちゃって、何処か他の就職を考えた時にも役に立つらしいし。」
ほう、先々の就職先の心配とは流石3年生・・・大人だな。
にしても依頼を受け易くなるってのはどうだろう?
俺にはデメリットにしか聞こえないんだが・・・
「まっ、別に良いっすけどね。」
嫌な依頼は断りゃ良いし。
「あのさぁ~、私みんなでお祭り行きたぁ~い。」
「あっ、それも良いわね、桜。折角夜にお出かけするんだし、友達とお祭りに行くって言えば、うちの親も簡単に納得しそう。」
「じゃあ皆さん、当日は浴衣を着て行きませんか?」
「あ~、そうしよぉ~、円ちゃん。」
何故かダンジョン最深部で神のお告げの真相を解き明かすという計画が、只祭りに遊びに行くという普通のレクリエーション予定と化していく・・・
いやぁ~うちのパーティーは実に平和ですなぁ。
ズズッ
「ねぇ~、ところで賢斗君、一つ質問があるんだけど。」
にしても、あのキュンキュンパワーって何なんだろうなぁ~?
「ん、なんすか?先輩。」
ズズッ
「解析スキルって、スリーサイズまで見えるの?」
ゴフォッ、ゴフォッ、ゲフン、ゲフン
「そんな事はごじゃりませんっ!」
殺す気かっ!
次回、第七十四話 ホームダンジョン探しと第三種特別許可。




