第七十二話 『神界キュンキュン通信』
○6月14日金曜日午前8時10分、通学中○
うちの学校の生徒も多くなって来た校門近くの道。
チャリンチャリン
歩く人波を縫うように自転車を走らせると・・・
「あっ。」
という間抜けな感嘆詞がそこかしこから聞こえてくる。
UFOでも飛んでんのか?ったく。
今週最後の登校日、未だにこれである。
まっ、それはさておき今朝方までの話をすれば、件の清川人気問題によりダンジョンへは行けていない。
そして第2ホームダンジョン計画の方も、水島さんに不人気かつ管轄外という条件付ダンジョンリストの作成をお願いしたところで頓挫している。
とはいえ『探索者マガジン』、『探索者新聞』、『月刊それゆけ探索者』と3日間続いた取材攻勢は昨日で終わり。
中川さんの言うモンチャレ優勝記念のお仕事関係も、本日午後5時からのサイン会&握手会を残すのみとなった。
そして学校もない明日からは、水島さんが作成中のリストから適当なところを選び、みんなで実地調査に乗り出すといった予定である。
キィー
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○午後2時、日本史のお時間○
「日本の稲作の始まりは、縄文時代であることは、以前やりましたね。そしてその当時の日本の人口は約26万人・・・」
5限目、授業の真っ最中・・・
(賢斗く~ん、さっき清川人気の続報をキャッチしたわよ。)
先輩から念話が入る。
(へぇ~、それはそれは、で、一体その続報とは?)
(えっとね、お昼休みに古谷君達から聞いたんだけど、どうやら清川ダンジョンには、私達が活躍した秘密があるってネットで噂になってるらしいのよ。)
(ふ~ん、でも秘密って言っても、あそこのダンジョンには、特に何もありませんけど。)
(まあ、それはそうなんだけど、それを知ってるのって、私達くらいのものじゃない。
知らない人達からすれば、ナイスキャッチは4階層への階段を見つけたに違いないとか、4階層以降には魔法のスキルスクロールをドロップする魔物が居るはずだとか、想像力が豊かに働いちゃう訳なのよ。)
(そんなもんすかねぇ。)
まっ、魔法のスキルスクロールをドロップする魔物が居るって事に関しちゃ当たってる気もするけど。
(それに、探索者協会から再調査依頼を受けたプロの人達までいるらしいし。)
(えっ、何すか、その再調査って?)
(それは多分、4階層が本当にあるのか~とかも含めた、資源や危険度の調査でしょ。)
あらら~、探索者協会まで、ネット情報に踊らされる時代かぁ・・・
いやでも確かに、清川ダンジョンの最下層は3階層ってなってるけど、それと同時に未だダンジョンコアが見つかっていない最深不確定ダンジョンでもあるんだよな。
それにダンジョン成長説ってのを信じるならば、出現から50年以上経ってる清川が、いくら不人気とは言えあの狭さで最深3階層ってのは、可笑しな話でもある。
そんな中、清川ダンジョンをホームとするポッと出の急造パーティーが、魔法スキルを主体にモンチャレ優勝・・・
あれ、何だろう?
・・・協会が再調査に乗り出すのも分かる気がする。
(じゃあ賢斗君、そろそろ念話切るわよ。
先生からご指名受けちゃったぁ。)
(はいはい、お好きにどうぞ。)
にしてもホ~ント、授業中だってのに、余裕あるよなぁ。
「ほらっ、多田っ、モンチャレ優勝だか何だか知らんが、何時までもボケーっとしとらんで、日本で最初に古墳が作られたのは、何時頃か答えてみろっ。」
「え~、日本最古の古墳は、福岡県糸島市にある「三雲井原遺跡」で、紀元前200年頃と推定されています。」
「おっ、おう。よく答えられたな。」
うん、意外と答えられるもんすね。
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○午後3時、クローバー内、中川京子の執務室○
さぁ~て、そろそろあの子達の今後の戦略も考えてあげなっくちゃねぇ。
カチカチカチ
ふ~ん、これが噂の未成年者ランキングってやつね。
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~未成年探索者個人ランキング高校生部門~
1位 伊集院信長(18) Fランク(3年目) 1114352円
2位 今泉比呂(18) Fランク(3年目) 1009724円
3位 金城開志(18) Gランク(3年目) 884769円
4位 宇崎凛(17) Gランク(2年目) 869375円
5位 服部高貴(18) Gランク(3年目) ソードダンス★ 778256円
・・・
183位 多田賢斗(16) Gランク(初年度) ナイスキャッチ★ 69534円
183位 小田桜(16) Gランク(初年度) ナイスキャッチ 69534円
183位 紺野かおる(17) Gランク(2年目) ナイスキャッチ 69534円
・・・
57042位 蓬莱円(16) Gランク(初年度) ナイスキャッチ 0円
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「先生、コーヒーお持ちしました。」
「有難う、光。」
「これが新設の未成年者ランキングですかぁ。ちゃんと高校生部門とかカテゴライズされてるんですね。」
「ええ、これなら見易いし、上位への注目も集まる感じね。でも逆に、上位に居ないと鳴かず飛ばずって事にもなるけど。」
「でも意外です。多田さん達は、モンチャレで優勝したのに、こんな順位だなんて。
それにモンチャレで優勝候補だったソードダンスのリーダーさんですら5位なんですか?」
「まあ光がそういうのも無理はないわね。個人ランキングは基本的にパーティー組んでる人には、不利になるランキングだし。」
「どうしてですか?」
「それはほら、魔物と遭遇する回数って、ソロでもパーティーでも、そんなに差は生じないってことよ。
それに経験値だってある程度分散される訳だし、ソロの実力者の方がどうしたって有利になるのよ。」
「あ~、そういう事だったんですね。でもこのランキングだと、パーティーでは強いけど、個人ではそれほどでもないって感じちゃいますね。」
そうなのよねぇ。
特にあの子達に関しては、4月スタートってことも加味すると、十分凄い順位なんだけど・・・
そんなフィルター掛けてくれる程、世間の目は肥えてないし。
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~探索者パーティーランキング高校生部門~
1位 ソードダンス(3) Eランク(3年目) 1832050円
2位 ガンマニア(3) Eランク(3年目) 1564030円
3位 紅華のトナカイ(6) Eランク(3年目) 1487530円
・・・
86位 ナイスキャッチ(4) Eランク(初年度) 214070円
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パーティーランキングにしたって、これじゃまるでパッとしない。
こんなの公開されたんじゃ、この間のモンチャレ優勝が、単なるラッキーパンチみたいに捉えられてしまいそう。
とはいえそんな泣き言いっても始まらないわね。
何とかこの新設された未成年ランキングを味方につける方法を考えないと・・・
普通に考えれば、協会からの実入りの良い依頼をバンバンこなして行くって事になるんだけど、そんな依頼、Gランクパーティーがおいそれと受ける事なんてできない。
それにあの子達にしたって、仕事の負担が増えるのは、あまり歓迎しないだろうし・・・
ホ~ント、困ったものねぇ・・・ん?
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『ランキング改革第2弾~7月からのギルド制度導入のお知らせ~』
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ふ~ん、協会もあの手この手と良く考えるわねぇ~。
「あっ、先生。そういえば多田さん達、もしかしたらアレに選ばれるかもしれませんよ。
今のところ50位圏内に入ってますし。」
「あらそう・・・でもその人気投票ってまだ始まったばかりでしょ。
来月になれば圏外に順位が落ちてるわよ、きっと。」
「まっ、そうですね。」
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○午後5時、白山ダンジョン協会支部、サイン会&握手会○
水島さんの車で、白山ダンジョン協会支部までやって来た。
ウィーン
入口の自動ドアが開くと、協会のちょっぴりお偉いさん風男性職員が、こちらに歩み寄ってくる。
「いや~お待ちしてました、ナイスキャッチのみなさん。もうファンの方々がお待ちかねですので、ささっ、どうぞこちらに。」
後について進んで行くと、会場となるフードコーナーでは、30人ほどの人だかり。
客層的には、中高生が半数以上・・・あとは親子連れやご年配の方々。
そんな中を促されるまま進んで行くと、集まった人達から一際大きなどよめきと拍手。
ウォォ、パチパチ~
そしてフロア端に置かれた長テーブルまで辿り着くと、そこにあるパイプ椅子に4人並んで御着席。
「え~、それではこれより、白山ダンジョン協会支部主催、サイン会&握手会を開催しま~す。
サイン色紙をご購入された方には、握手券が一枚ついてます。
その握手券一枚でお好きなメンバー1人と握手が出来ますので、ご希望のメンバーの元へお並び下さ~い。」
ふむ、サイン会と銘打っておいて、その場でサインを書かないとは何たる詐欺。
・・・俺なら抗議事案だな。
と言ってもちゃんとこのサインは正真正銘直筆・・・このイベント用に事前にサインは書かされてましたけど。
まっ、それはこの際他人事なんで良いとして、サイン色紙1枚に対し、握手できるのは一人だけ・・・うんうん、中々こっちの負担が少ない良いシステムじゃないですか。
・・・いや、待て。
このシステムではひょっとして、俺のところには誰も寄ってこないんじゃないか?
う~ん、不味い・・・負担がどうこう言ってる場合じゃなかったな。
このままでは、俺の人気の無さが白日の下に晒されてしまう・・・
と思いきや。
「たっださ~ん。ナイスキャッチの公式サイン第1号ゲットしましたぁ~。いやっほぉー。」
「何でお前が先頭に並んでんだよっ、お前は主催者側の人間だろっ!」
「いやぁ、何なんですかねぇ、私・・・この企画の発案者の癖に、今日はお休み頂いちゃいましたぁ~。パチパチ~。」
そこはパチパチ~じゃねぇだろっ。
「あっ、あと、お前はダメです。蛯名っちです。
ファンは大切にしないといけませんよぉー。」
あ~面倒臭ぇ・・・これが仕事という奴か。
「分かったよ、蛯名っち。握手してやるから、さっさと手ぇ出せ。」
「わっかりましたぁ~。」
ぐわしぃっ!
なんだぁ?この女性らしからぬゴツイ手は。
「うぉ~エキスきたぁ~、滾るぅぅ~っ!」
ちっ、なんだか精気を吸い取られてる気がする。
「おい、いい加減手ぇ離せ。」
「嫌です・・・割とマジで。」
こっ、こいつ。
緊迫した空気が二人を包む。
ブンブンブンッ
ブンブンブンブンブンッ!
はぁはぁはぁ・・・手間取らせやがって。
「ハァ~、この幸せタイムは短すぎるぅ~。」
握手会ってのは、こんなに疲れるのかよ。ったく、初っ端から厄介なのが出てきやがって。
後が詰まってんだから・・・・・・いえ詰まってませんでした。
「もう一枚買ってこよ~♪」
うぉいっ!
そしてほどなく2回目の蛯名っち退治を終えた。
ふぅ~、ふぅ~、結局、あんなゲテ物×2で終了とは・・・握手会ってのは最悪だな。
と、思いきや・・・
目の前に立っていたのは、目の覚めるような黒髪美少女。
「うふっ、お久しぶりです、勇者さまぁ。」
おおっ、私服だから一瞬分からなかった。
「これはこれは、マドモアゼル。」
「ここに来ればお会いできると思って楽しみにしてたんですよぉ。」
アハハ~なんか照れちゃいますなぁ。
と、俺が右手を差し出すと・・・
フワリ
女性の柔らかくしなやかな両手が包み込んだ。
うわぉ~、握手会最高ぉ。ずっとこうしていたい。
「あぁ~、感激ですぅ~。とってもキュンキュン♪」
アハハ~、相変わらず感情駄々漏れですなぁ、この巫女さん。
「あっ、これはいけません。来てます来てます。」
えっ、何が?
ガクッ
彼女は急に頭を垂れ、そのまま動かなくなった。
「だっ、大丈夫?緑山さんっ。」
「はっ!勇者さま大変です。たった今、神のお告げがありました。」
へっ、何?神のお告げ?
「それでは参りましょう、これより神界キュンキュン通信のお時間です。」
ほう、そう来たか。
次回、第七十三話 神のお告げとキュンキュンパワー。