第七十話 雷のショートソード
○6月12日水曜日午前6時、クローバー拠点部屋○
本日朝のハイテンションタイム。
早速みんなで清川へと長距離転移・・・と思ったのだが。
「う~ん、な~んか大部屋の近くに人の気配が結構ありますねぇ。
多分ですけど、このまま大部屋前に転移すると、誰かに見られてしまうかも。」
空間把握を使えば、転移先の周囲状況はある程度確認できる。
「あらそうなの?こんな時間に?清川でこんな事は初めてね。」
「なら白山ダンジョンにするぅ~?」
「う~ん、でもなぁ、白山ダンジョンまでの自転車移動や申請とかの時間を考えれば、まだ清川の方がマシな気がするけど。」
「ねぇ、賢斗君。今回は白山ダンジョンにしておきましょう。
こんな時間にあの清川に人が居るって、ちょっと異常だもの。
もしかしたら何かダンジョン内で事件が起きちゃってるって事も考えられるでしょ。それで捜索隊なんかが出ちゃってるとか。」
それはそれで気になるけど・・・まあそんな事に首を突っ込んでたら、ハイテンションタイムどころじゃないわな。
「そっすね、じゃあ白山ダンジョンにしときますか。」
○6時30分白山ダンジョン1階層、右ルート宝箱部屋○
と時間も無い中やって来たのは、白山ダンジョンの右ルート宝箱部屋。
ここなら今のところ、余所様に迷惑も掛からなそうである。
「ねぇ、賢斗ぉ~、私睡眠習熟にしてもいい~?」
「ああ、折角ここまで来たんだし、別にそれは構わないけど・・・
何か欲しい魔法スキルでも思いついたのか?」
「だってさぁ~、賢斗にいっつも転移させて貰ってるからさぁ~、私もその魔法取ろうかと思って。」
う~ん、普段はノー天気なくせに、たま~にこういう事言い出すよなぁ、桜は。
とはいえ、桜が空間魔法を取ってくれれば、かなり俺的に助かるのは事実。
「そっか、そうしてくれると俺的に凄く助かるよ、桜。」
「えへへ~。」
「なら賢斗さん。私も睡眠習熟でお願いします。」
「えっ、円ちゃんも魔法スキルを取るつもり?」
「いえ、そういう訳では御座いませんが、魔力操作はイメージ力が強化される睡眠習熟でないと取得出来ないと前に聞きました。
そして今、私はある一つのスキルが中々取れず、壁にぶちあたっているのです。この機会に一度睡眠習熟を試してみようかと。」
ふ~ん、イメージ力の強化がキモになるスキルって事ならまあ、それが原因で取得できないケースはあるだろうけど・・・
「それってどんな奴?」
「それは当然内緒です。賢斗さんには私が取得した時、驚いて頂きたいですから。」
そっすか・・・お嬢様まで俺に対して秘密主義とは。
といっても取得した時俺に教えてくれる辺り、どっかの意地悪な先輩とは違いますなぁ。
で、その意地悪な・・・
「先輩はどうします?睡眠習熟。」
「私より君はどうなの?賢斗君。
2人がこう言った以上、私が監視役を務めるのはもう決定しているもの。」
ちっ、そっすね。
「俺はそうですねぇ、今日はスキルのレべリングにしておきます。
上げたいスキルもありますんで。」
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○睡眠習熟中○
今日は流石に相手が悪い。
大人しく自分のハイテンションタイムに勤しむことにする。
という訳で、今日の俺のレべリング対象はこれ。
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『雷剣LV1(6%)』
種類 :アクティブ
効果 :剣装備時、STR10%上昇、AGI10%上昇。習得特技の使用可能。
【特技】
『紫電一閃』
種類 :アクティブ
効果 :研ぎ澄まされた閃光の刃。決まればATK3倍ダメージとなる。発動確率スキルレベル×10%。
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こいつのレベルがカンストすれば、俺は常時攻撃力が3倍という勇者真っ青な選ばれし者になってしまうかもしれない。
まっ、サンダーボールを消費しなきゃならんけども。
「じゃあ先輩、みんなの事はお任せしますね。
俺は今からゴブリンの相手をしてきますんで。」
「はいはい、行ってらっしゃい。」
シュタッ
大部屋から抜け出すと、俺は潜伏&忍び足に加え、音速ダッシュでゴブリンの元へと急ぐ。
ドキドキジェット、発動っ!
シュタシュタシュタシュタ
『ピロリン。スキル『潜伏』がレベル9になりました。』
『ピロリン。スキル『忍び足』がレベル4になりました。』
『ピロリン。スキル『限界突破』がレベル8になりました。』
『ピロリン。スキル『感度ビンビン』がレベル4になりました。』
おお~、久々にこの辺のスキルが上がったなぁ。
おっ、対象発見。
「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」
ビリビリビリィー・・・ブォ~ン
紫電一閃っ!
ブォン、バチバチ
ゴブリンは俺に気付く間もなく霧散を始めた。
今のは只の通常攻撃、つまりは発動しなかったって事だよな。
決勝の時のは、こんな感じじゃなかったし。
まっ、発動率が10%って事を考えれば、これが普通か。
バチンッ
なっ、もうサンダーボールの効果が消えちゃったの?
決勝の時は4回もったのに・・・
もしかしてこの特技使うと、サンダーボールの消耗も激しいとか?
う~ん、だとすると常時攻撃力が3倍なんて思ってたけど、少し考えを改めるべきかもしれない。
とはいえ今回のハイテンションタイムは予定通りに遂行する。
時間も少ないし、もう一体くらい倒しにいこう。
シュタシュタシュタシュタ
よしっ、居たっ!
「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」
ビリビリビリィー・・・ブォ~ン
紫電一閃っ!
ブォン、バチバチ
『ピロリン。スキル『雷剣』がレベル2になりました。』
ドッドッドクドク、ドクン、ドクン、ドックン、ドックン。
ふぅ、何とか一つレベルアップしたか。
にしてもこの偉い燃費の悪いMP消費を考えると、レベルカンストしてもきっと、いざという時の必殺技的特技だなぁ、これ。
ピキッ!
えっ、嘘っ・・・
短剣を見ると、まるで陶磁器の貫入を思わせるヒビが刀身全体に広がっていた。
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○6時45分、白山ダンジョン1階層、右ルート宝箱部屋○
「先輩、先輩っ!一大事ですっ!」
右ルート宝箱部屋に戻ると、俺は開口一番先輩を呼ぶ。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「これ見て下さい。」
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『魔鉄鋼のライトニングダガー』
説明 :魔鉄を使用して打たれたダガー。雷属性(弱)。STR+7。
状態 :2/80
価値 :★★
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「あら、かなりヤバいわね、これ。
どうしてこうなっちゃったのかしら?まだ決勝前にリフレクトエクスペリエンスをしてから一週間も経ってない筈よね。」
「ええまあ、でもそれは多分あのサンダーボールを使ったソードモデルの所為だと俺は思ってるんですけど。」
「ああ、あのビリビリ剣。」
先輩までその名前で呼ぶのは止せ。
「先輩の力で何とかなりますか?」
「うん、まあギリギリ完全破壊は免れてるから大丈夫だとは思うけど・・・ちょっと試してみるわね。」
そう言うと先輩は俺から受け取った短剣を床に置き、右手をかざす。
すると手をかざされた短剣の部位は白い輝きを帯び、徐々にヒビが修復されていく・・・
「ふぅ、これ結構神経使うわね。」
そう言って以前の倍の時間を掛け、ようやく3分の1程処理が終わったところで手を止め、汗を拭う先輩。
「ねぇ、賢斗君。ただボケーっと見てるだけなら、私を誉めそやして、ちょっと良い気分にさせてくれない?」
おい、何いきなり無茶振りしてんだよっ!
「あっ、ついでにマッサージでもしてくれるかな?
あの決勝でやった気分の良くなっちゃう奴。
そしたら私のルンルン気分の力も併用して、簡単に修理できそうよ。」
おっ、それは名あ・・・ん?
いや、あれ使うとあんた馬鹿になるだろっ。
う~ん、でもまあここで先輩にへそを曲げられても困るし・・・
「分かりましたよ、先輩。でも短剣の方は、真面目に修理お願いしますね。」
「何言ってるの?賢斗君。そんなの当り前じゃないっ。」
・・・自覚なしか。
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「じゃあ行きますよぉ~、先輩。」
と俺は先輩の背後から肩をモミモミ。
・・・そろそろいいか。
パッ
「なぁ~んか調子でて来ちゃったわぁ~。短剣の修理頑張っちゃおうかしらぁ♪」
ほっ、取り敢えず前向きに修理に取り掛かってくれるようだ。
「そぉ~れっ。」
先輩はまた最初からリフレクトエクスペリエンスを施しはじめた。
う~ん、途中まで終わってるんだから、そこから始めりゃいいのに・・・こういうとこがお馬鹿さん。
などと微笑ましく見ていると、信じられない光景が広がっていく・・・
何これ?刀身が伸びて行ってないか?
「あっ、ほらぁ、賢斗くぅ~ん。私を誉めそやす約束を忘れちゃってるぞぉ~♪」
ちっ・・・それはしっかり覚えてんだな、ったく。
「あっ、相変わらず、見事なお手並みですなぁ。いっ、いよっ、大統領っ!」
「う~ん、もう一声っ。」
このアマァ・・・って、それどころじゃないぞ、ホントにこれ。
「先輩、先輩っ、分かってますかっ!俺の短剣、どんどん長くなっちゃってますけど?!」
「え~、そんなことぉ~・・・
・・・
・・・はぁ~い、賢斗君、終わったわよぉ~♪」
おい、何しれっと無かったことにしてんだよっ!
短剣を先輩から受け取り、刀身を鞘に収めてみれば・・・
カツカツ
「ほら、先輩、見て下さいっ!
この短剣、刀身が10cmも伸びちゃってるじゃないですかっ!」
「あははぁ~。ホントだぁ~。不思議だねぇ~♪」
俺はあんたの方がよっぽど不思議だよっ!
「じゃあ賢斗くぅ~ん、その鞘も貸してちょうだぁ~い。」
俺は先輩に鞘ごと短剣を渡す。
すると先輩はまた最初からリフレクトエクスペリエンスを施しはじめた。
う~ん、ホントに大丈夫か?
10cmも伸びた刀身・・・
普通なら追加素材無しにどうにかなるレベルじゃない・・・
がしかしそんな俺の思いとは裏腹に、先輩のかざした手は鞘の長さを伸ばして行く・・・
うそっ・・・こんな事まで出来るスキルだったの?
「はぁ~い、賢斗君、終わったわよぉ~♪」
今まで簡素なつくりだった鞘は、硬質な質感に・・・
そして表面には何か綺麗な模様の様なものまであしらわれていた。
まるで狐につままれたような気分。
ブンブンッ
俺は鞘から刀身を抜きとり、一振り二振り・・・
クルッ
そして持ち手を変えると・・・
チャキンッ
再び鞘に収めた。
見事なまでにシックリと鞘に収められた刀身。
最後には小気味良い音まで立てていた。
何かこれ・・・今までよりかなり良いかも。
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『雷のショートソード』
説明 :雷の力を帯びたショートソード。雷属性(小)。STR+10。
状態 :110/110
価値 :★★★
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ふむふむ、これは最早別もんだな・・・もう短剣ですらなくなってる。
それに耐久度上限が30も一気に上がって110。
雷属性も弱から小、STRが3つも上昇してるなんて・・・
何この劇的進化?
「あらぁ~、賢斗くんの短剣が随分立派になっちゃってるぅ~。
どうしちゃったのかなぁ~♪」
いや、こっちが聞きたいっ・・・つかいい加減元に戻れっ。
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○睡眠習熟終了後○
「賢斗ぉ~、空間魔法取れたよぉ~。」
おおっ、流石桜先生・・・あれは俺でもハイテンションタイムを2回も費やした難関スキルだというのに。
「おおっ、やったな、桜。でも長距離転移を覚えるのはレベル7だから、まだまだ頑張ってレベリングする必要があるぞぉ。」
「りょ~か~い。」
と桜と話していると、後ろで妙な気配がする。
シュッシュシュッシュッ
「とうっ。」
バタバタ・・・チラッ
振り向けばお嬢様が何時もの貧弱パンチに足をバタつかせるだけの妙な蹴りを交えたシャドーを続け、最後には俺の方をチラ見するという何とも対処に困る光景。
う~む、これは俺にどうして欲しいのだろう?
いやまあその答えは、あのご機嫌な表情を見れば自ずと推測はできるが・・・
「まっ、円ちゃん、さっき言ってたスキルは取得できたのかな?」
答えは聞くまでも無いな。
「はい、勿論イメージ通りのスキルを手に入れましたよ、賢斗さん。私に失敗など有り得ません。」
さっきは壁にぶち当たって、何度も失敗してたって言ってたけどね。
「じゃあ円ちゃん。そのスキルを解析してあげよっか?」
「はいっ、是非お願いしますっ♪賢斗さん。私じゃスキル効果まではまだ分かりませんので。」
円ちゃんはキラキラとした期待を込めた眼差しを俺に向けた。
んじゃ、お言葉に甘えて・・・
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『シャドーボクシングLV1(0%)』
種類 :アクティブ
効果 :イメージした対戦相手に遠隔攻撃を放つ。効果範囲半径1m以内。ATK半減。
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へぇ~、本来トレーニングであるはずのシャドーボクシングがスキルになると、仮想相手に遠隔攻撃まで出来てしまうのか。
欠点としては、効果範囲が半径1mと極端に狭く、攻撃力まで半減してしまうところ。
でもまあ効果範囲については恐らくだが、レベルアップによる範囲拡張が容易に推測できる。
そして攻撃力半減に関しても、円ちゃんの場合、固定ダメージのクイーン猫パンチ&キックと併用すれば、全く気にならないだろう。
なるほどねぇ・・・将来的にはこのスキル、クイーン猫パンチ&キックを強力にサポートする存在になり得るな。
「どうでしたか?賢斗さん。私の新たなスキルの方は?」
「一応遠隔攻撃が出来る良さそうなスキルだね。円ちゃんのクイーン猫パンチ&キックと相性が良さそう。
まあまだスキルレベルが低いから、遠隔攻撃って言っても半径1mの範囲制限付きだし、そこは今後に期待ってとこだけど。」
「あっ、そういうスキルだったんですね。」
ヨロヨロヨロ・・・
「あにきぃ、さっきいきなり何かに殴られた気がしたにゃ。」
へっ?これはひょっとして・・・
「ねっ、ねぇ、円ちゃん。円ちゃんって何時も誰を対戦相手としてイメージしているの?」
「それは勿論、小太・・・」
「ヒーーールッ!!
円ちゃん、その対戦相手は魔物だけにしておこうか。」
「分かりました、賢斗さん。私も薄々そうした方が良いのかなぁ~って思ってました。」
次回、第七十一話 第2ホームダンジョン計画。