第六十八話 お誕生日会
○6月10日、月曜日、午前8時30分、校門前○
う~ん、良い眺め。
『~祝モンスターチャレンジ決勝大会優勝おめでとう! 紺野かおるさん 多田賢斗君~』
にしてもあれだなぁ。
凄ぇ、注目浴びてる感。
まあテレビ中継までされた訳だし、客観的に見ても、致し方ない所ではあるが・・・思わず不登校になりそうだ。
そんな居心地の悪さを感じつつ、教室にやって来ると、黒板には・・・
『~本日、朝から臨時全校集会があります、来た生徒は体育館に集合して下さい~』
う~む、実に行きたくない。
「多田君、昨日はおめでとう。ちょっとかっこ良かったわよ。」
「それと、今日の全校集会、主役は体調不良とか、通用しないからね。」
流石、委員長・・・よくお分かりで。
「へぇ、主役の人は、大変ですねぇ。」
「そう、主役の多田君達はスピーチもあるし、今から考えておいた方が良いわよ。」
ちっ、常に先回りして相手の逃げ道を塞いていく、その手腕・・・もっと他に生かせばいいのに。
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○臨時全校集会、スピーチシーンダイジェスト○
「お早うございます、みなさん。3年A組の紺野かおるです。
今回私達は、モンスターチャレンジ大会という大きな大会に於いて、何とか優勝という最高の結果を残すことが出来ました。
これもひとえに皆さんのご声援のお蔭と心から感謝しています。どうも有り難う御座いました。」
ワァ~パチパチ~
あ~、なるほど。今回は少し短めでも許されるのかな・・・イケる。
「あっ、どうも1年C組の多田賢斗です。
え~~~、皆さんの応援のお蔭で、良い結果が出せました。有難うございました。」
ワァ~パチパチ~
(ちょっとちょっとぉ、賢斗君、短すぎぃ。)
(いや、あんまり長いと、俺の場合トチっちゃうんで。)
(うん、だからそれを期待してるんじゃない。)
性根の腐った人がこんなところに。
(あ~あ、こんな事なら、賢斗君が何でもいう事聞いてくれる権利、今使うんだったぁ。)
無闇に凶器を振りかざすのは、お止め下さい。
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○お昼休み○
昼休憩、当たり前の様にモリショーと高橋が机を合体させて、一緒に昼食を取る態勢に入った。
まあいつもは鬱陶しく感じるこいつ等ではあるが、今日みたいな日には、少しばかり、ホッとしてしまう。
「いやぁ、賢斗っちー、昨日は大活躍だったっしょー。
お蔭で、休憩中は他のクラスの女子達まで、引っ切り無しにうちの教室を覗きに来てたっしょー。」
「まあ確かに午前中は、モンチャレ優勝効果は絶大と言ったところだったな。」
「僕からは感謝の意を表しておこう。ライバルの君が優勝すれば、僕の株もまた、否が応にも上がってしまうからな。」
まあ、お前の株はそれ以上落ちないしな。
「ところで賢斗っち、あのビリビリ剣って、どうやるんだ?今度教えてくれっしょー。」
おう、勝手に変な名前付けんじゃねぇよ。
「愚かなことを言うな、モリショー。あれは最新の空間映像という技術だ。
多田、あれをして貰うには、局側に幾ら取られるんだ?」
なるほど、そういうサービスあったら面白いな。
「1000円だったな。」
「安すぎるぞ、それは。よし、決めた。僕も秋の大会には必ず出場する。分かったな、モリショー。」
「当たり前っしょー。このままだと、このクラスの女子たちの人気が賢斗っちに集中しかねないっしょー。」
う~ん、まるでそんな気配は感じないが・・・
「お前等、何のために探索者始めたんだ?」
「そりゃ勿論、モテる為っしょ―。」
「そんなもの、モテる為以外に何がある?」
・・・ある意味、潔良いな、こいつ等。
とそこへ。
「賢斗っち隊長ぉー、私をお嫁さんにして下さいであります。」
えっ、なに、水谷って、俺に惚れてたの?
まさかモリショーの言った俺人気というのが、真実だったとは。
そして、急に水谷の奴が可愛く見えてくる不思議。
「急にどうしたんだ?水谷。」
「はい、只今戦況がかなりの劣勢に追い込まれ、このままでは、隊長を他の部隊に引き抜かれてしまいかねません。
真紀隊員と相談した結果、今回は不肖私が、生贄とあいなりました。」
『生贄』というワードの破壊力って凄ぇな・・・お蔭で、全てを台無しにされた気分だ。
「なんつーか、あのだな水谷、俺が何時からお前等の部隊とやらに入隊したんだ?」
「なっ、なんとっ!あのなし崩し作戦が、無かった事だとでも言うでありますかっ。あれほどいい雰囲気で、事を運べていたというのに。」
どこにそんな雰囲気があったんだよ。
「何をやっているんですか、雫。賢斗っち隊長に正攻法で挑むのは愚策と言ったでしょう。
ここは一旦引きますよっ。」
「ラジャ―。」
ったく、何だったんだ?今のは。
逃げるように去っていく、鈴井、水谷ペアを見つめならがふと気付く。
はっ、今のはまさか・・・俺の人生における初告られってことになってしまうのだろうか?
いや、待て待て、あんなもの、断じて告白だったなどと認められない。否、認めてはいけない。
少しも好意というものが存在していなかった訳だし。うん。
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○授業終了後、教室内○
ふぅ~、ようやく今日という日が終わってくれた。
やっぱ、こういうハイリスクな日は、休んだ方が正解だな。
疲労度合、5割増しだったし。
などと思いつつ、席を立つと、教壇に立った委員長が大声を上げる。
「出入口封鎖っ、急いでっ!」
なっ。
委員長の言葉に数名のクラスメイト達が教室の前後の出入り口の前に立つ。
「これより、1年C組による多田君の祝勝会を開催したいと思います。」
イエーイ!!!!!
委員長の叫びに呼応し、クラスメイト達の雄叫びが上がると、教室内の机を大きなコの字を作るように移動していく。
そしてポテチやらチョコフレ、ジュースに紙コップといった具合に着々と準備は進み続ける。
更に出入口のガード配置に女子を使う周到な手口、これでは強引に押し通ることも出来ない。
「委員長っ!何バカな事を言い出してるんだ?俺は何も聞いてないぞっ!」
少しお怒りモードで、委員長に詰め寄ると・・・
「だって、話したら、嫌って言うに決まってるもん。」
よくお分かりで・・・・・・じゃない。
「こういうのは、本人の承諾を得てからするのが筋ってもんだろ。」
「そんな事ないわよ。お誕生日のプレゼントとか、当日まで隠したりするじゃない。
これはそう、サプライズってやつね。」
いやこれどちらかっつーと、騙し討ちっていう奴だろ。
そもそもサプライズってのは、本人が喜ぶことが前提で、初めて成り立つ理論だし。
「もぉ、そんな顔しないでよ。昨日はテレビの前で、私も含めクラス全員が、あなたの応援をしていたのよ。
少しくらい、こっちの我儘を聞いてくれても、バチは当たらないんじゃないの?」
う~ん、まあその理屈は分からんでもないが・・・
「多田君も1時間くらい付き合いなさいよ。お菓子でも摘まみながら、モンチャレのお話を聞かせてくれれば、こっちは満足なんだし。」
西田さんまで加勢に加わって来たか・・・
「そうだぜ、賢斗っち、一人一人に話して回るより、これなら一回で情報共有できるっしょー。」
「賢斗っち隊長ぉ~、ファンサービスは大事であります。」
そして気が付けば、クラスメイト達全員が準備作業の手を止め、俺の次の言動に神経を尖らせていた。
まるで、ここで俺が嫌だと言ったら、稀代の大罪人の烙印が押されてしまうかの様に。
ゴクリ・・・これが全面楚歌ってやつか。
「ああ、良く分かったよ、降参だ、ったく。おっかねぇなぁ~、委員長はぁ。」
イエーイ!!!!!
はぁ~、今日はこの後、行くとこあんだけどなぁ。
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○午後6時10分、クローバー拠点部屋○
今日はパーティー活動オフなのではあるが、俺がクローバーの拠点部屋に行くと、桜と先輩の姿がそこにある。
「遅いよ~、賢斗~。」
「ああ、悪ぃ、悪ぃ。野暮用が入っちゃって。」
「何よその野暮用って?放課後からの10コクリを受けて立った私ですら、6時前にはちゃんとここに着いていたのに。」
・・・この差はなんだろう。
ガチャリ
「みなさ~ん、揃ったみたいなんで、そろそろ出発しましょうかぁ。」
「「「はぁ~い。」」」
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○午後6時30分、蓬莱邸前○
と向かった先は、和風の高い木塀で覆われた豪邸。
そう、ここは円ちゃんの家、蓬莱邸である。
門にある呼出しブザーで連絡を取ると、車用の入り口は、他にあるそうで、水島さんはそちらに向かい、俺達3人はやって来た執事さんの後について、門をくぐった。
そして歩みを進めるその先には、見事な日本庭園が広がっており、池には大きな錦鯉。
カーン
響き渡った音の方に目をやれば、日本庭園でよく見掛ける、竹筒に水が流れて、いい音がするアレまである。
「鹿威しまであるなんて、本当、このお庭、凄いわね。」
あっ、そうそう、それそれ。
などと5分ほど歩いていると、ようやくお屋敷にご到着。
案内された8畳間の和室に入ると、豪華な和風御膳が並べられ、煌びやかな着物を身に纏った円ちゃんが上座で俯き加減に座っていた。
「円ちゃ~ん。来ったよ~。」
「遅いじゃないですか、皆さん。
もう来てくれないんじゃないかと・・・うぁ~ん。」
俺達の姿を見た円ちゃんは目を潤ませながら、開口一番不満の声を発すると、そのまま泣き出した。
「ほうら、賢斗君が遅刻するから。」
「賢斗はちょっとデリカシーってもんが無いよねぇ~、円ちゃんはねぇ~、お誕生日会するの初めてだったんだよ~。」
ちっ、桜にデリカシーを諭されるとは・・・
とはいえ、普段は意地っ張りな円ちゃんが、いきなり泣き出したのには、面食らった。
虚弱体質で友達少ないって言ってたし、こういうのに憧れみたいなものを感じていたのかもしれない。
「ごめん、ごめん、円ちゃん。はい、これ、お誕生日プレゼント。」
「あっ、ありがとうございます、賢斗さん。ひっく。開けても良いですか?」
「勿論っ。」
と包みを開けて、円ちゃんが取り出したのは、豪華な宝石が埋め込まれた指輪。
「うわぁ、綺麗。」
「ああ、それは収納石の指輪っていうマジックアイテムだよ。
なんか、その指輪ひとつで、トラック一台分くらいの物が収納できるらしい。」
「おお~、すっご~い。」
「ちょっと賢斗君。そんな凄いアイテム、一体何処で手に入れたのよ?」
「いやぁ、ほら、MVP賞で貰った箱の中身がこれだったんだよ。」
「うそぉ、それなら私、もっとルンルンしとくんだった。」
いや、あれ以上があるのかよっ!
「そんな大切なアイテム、私が貰っても宜しいのですか?」
まあなぁ、確かにこれは高校生が友達の誕生日にプレゼントするには、不相応なほど高価な代物。
勿論俺としても、売れば高価なこのアイテムを現金化することは考えた。
だがしかし、こういった収納アイテムは、いずれ、メンバー全員所持しているのが理想形。
ならばここで売って、後々また買うという愚行を犯すより、パーティーの誰かに託そうという考えに至った訳である。
ちなみに俺がこのアイテムを自分で所持しない理由は3つある。
まず一つ目は、確かにモンチャレMVPの大事な記念の品ではあるのだが、これを服部の奴も持っているかと思うと、何とも気分が悪くなるというのが全体の4割を占める。
次は俺的に先日、空間魔法のレベルが上がり、異空間収納の魔法を覚えてしまっていたため、全く実用性がないというのが5割くらい。
そしてこういった記念品を飾って置く様な趣味が俺にはない、というのが最後の1割といったところだ。
「うん、勿論。円ちゃんが持ってれば、パーティー的にも助かるし。」
「それでしたら、賢斗さんがお持ちになった方が・・・」
「いや、俺の場合はこの間、空間魔法のレベルが上がって、同じような事が出来る様になっちゃってるから。
それにこういうポーションとか備品の管理は、分散した方がリスク低減に繋がるって思うし。
あっ、桜と先輩の分は、その内パーティー資金が貯まったら、それで何とかしようと思ってるんだけど。」
「ほ~んと~?私の分も買ってくれるの~。」
「ああ、まあ指輪型の奴は無理かもだけど、パーティー資金が貯まったらな。」
「あら、私、目の病気かしら?賢斗君がとても太っ腹なカッコイイ人に見える。」
「はいはい御大事に、先輩。これでも最近少しは余裕が出て来たんすよ。」
最近は、生活費に悩む必要無くなってきたもんなぁ。
ニタァ
「へぇ~、そうなんだぁ~♪」
何故ここでこの人は、えげつない笑みを浮かべているんだろう。
「あ~あと、それをプレゼントするにあたって、条件をひとつ。
もし万が一、みんなの分の収納系アイテムが揃う前に、円ちゃんがナイスキャッチを脱退するようなことが有れば、その指輪は返してくれ。
一応みんなの分が揃うまでは、パーティーの共有財産的な意味合いを持たせたいから。」
「何を言っているのか分かりませんよ、賢斗さん。私が脱退するなどあり得ません。」
「ああ、うん。わっ、分かってるって。だから例えばの話だって。」
「なんか婚約指輪みたいだね~。」
何を仰る桜さん。
これは、円ちゃんがもし脱退した場合、残されたパーティーの事を考えてだな・・・
「そうねぇ、『俺と別れるなら、指輪は返してもらうぜ』的なぁ~♪」
先輩、わざと勘違いを生む方向に誘導してますよね。
「とても高価な婚約指輪・・・もう私の身体は、賢斗さんから離れられない・・・」
ほら、言わんこっちゃない。
このお嬢様、盛大に勘違いしているぞ。
「円ちゃん、良かったね~。」
「はいっ♪」
「なあ、ちょっと勘違いして・・・」
「はい、は~い。次は私の番よ。巷で品切れ続出中のキャットフード、猫猛突進よ♡」
ちょっ、こんな強引なインターセプトは、レッドカードだろ、先輩。
「有難う御座います。かおるさん。実は最近小太郎が、グルメさんで困っていたんです。」
いや、あいつは何でも食うだろっ。ってか、それどころじゃなかった。
「さっきの話だけ・・・」
「じゃあ次は私だよ~。はい、これ。駄目人間クッショ~ンっ!」
拠点部屋に居た時から、大事そうに抱きかかえていたでかい包みの正体はそれだったか。
っていうか、今度は桜か・・・ええい、忌々しい。
「もう、桜はいつも変なものばかりですね。うふふ。
皆さん今日は本当に素敵なプレゼントをどうもありがとう。」
そう言うと円ちゃんは、巨大な駄目人間クッションを抱きかかえ、目尻に涙を滲ませながら、満面の笑みを浮かべていた。
「それで賢斗くぅ~ん、さっき何か言いたかったみたいだけどぉ?」
白々しいな、おい。
「・・・お誕生日、おめでとう御座います。」
あんな笑顔見たら、もう何も言えねぇだろ。
次回、第六十九話 サイン色紙と朱色の落款。