第六十六話 モンチャレ大会決勝3回戦・勝利の方程式
○ナイスキャッチ2回戦終了後○
待機席に戻ってくると、丁度時刻はお昼時。
「賢斗さん、お昼を椅子の上に置いておきましたよ。」
「あっ、サンキュ。円ちゃん。」
とフードパックを確認すれば、たこ焼きにフランクフルトにチョコバナナの3品。
座席に腰を下ろし、先ずは食いっぱぐれてばかりのチョコバナナを手に取ると、何処からともなく突き刺さるあつ~い眼差し。
チラッ
2つ席向こうの円ちゃんの膝の上では、ロック状態で撫でられつつ口を半開きにした小太郎が、脱出も出来ずに俺の手にするチョコバナナを凝視していた。
パクッ、モグモグ
「ふっ。」
さ~て2回戦のおさらいをしないとな。
えっと、2回戦終了時の俺達の残MPはこんな感じ。
俺が、MP 16/28
桜が、MP 0/34
先輩が、MP 18/24
で3回戦が始まる頃には、このくらいに回復してる感じか。
俺が、MP 24/28
桜が、MP 12/34
先輩が、MP 24/24
まっ、これなら想定通りだな。
「ちょっと賢斗君、大丈夫だったの?さっきの作戦。桜のMP無くなっちゃったけど。」
「それなら心配いりませんよ。計画通りですから。」
「どういうことよ、それ。」
「え~っと、ほら、忘れてませんか?俺達まだスキル共有使ってないでしょ。」
「あっ、な~んだ、そういう事ね。うっかりしていたわねぇ、私も。」
そうそう。
「じゃあ、着火役は誰がやるの?賢斗君?私?」
「それはまた後で、もうちょっと考えてから決めたいので。」
パクッ、モグモグ、ゴクン
チラッ
俺の足元に涙を流し固まる子猫がいた。
○3回戦の作戦立案○
にしてもどうするか?
問題は服部達の次の指定レベルと俺達の指定できる限界レベル。
まずあいつ等の指定レベルに関しては恐らく、平均レベルを1つ上げる程度。
つまりはレベル19が3体・・・
あいつの俺達を舐めきった態度からして、このくらい上げときゃ安全圏とでも思っている事だろう。
それを踏まえて俺達が指定すべきレベルは、平均レベル1+αが必要。
つまりレベル17を1体とレベル16を2体指定するのが、優勝への最低必要条件となる。
う~む、こんな不確かな予想、外れても何の文句も言えない訳だが・・・
まっ、そんときゃもう完全にお手上げだな。
この最低ラインでも俺達にしちゃもうかなり無理してるし。
という訳で、次はこの最低ラインの魔物を倒すための作戦を練っていくか・・・
まず俺達の今の基本戦術、ウォーターバルーンピンポイントアタックの威力について。
まあ1、2回戦での感触からして・・・
レベル16の場合、ピンポイントウォーターバルーン4回×2。
レベル17の場合、ピンポイントウォーターバルーン5回。
殲滅するまでの攻撃回数は大体こんな計算になるが、そこまで的外れでもない筈。
ここから消費MPを計算すると・・・
水魔法に関しては、トリプルで撃ってるから・・・トータル18MP。
ふむ、こっちはまるで問題無し。
方や火魔法に関しては・・・13発分で39MPか。
そしてこれを全体として考えれば、総必要MPが57MP、そして俺たち全員の3回戦における総MPが60。
う~む、やはり当初の予想通り、全員が着火役をしないと無理って結論か。
しかしまあ何にせよ・・・かなりギリギリだが、計算上は何とかなる。
でもなぁ、実際これ問題点山積みなんだよなぁ・・・
俺と先輩が着火役やっても、INT値で桜に劣る俺達じゃ、威力も落ちるだろうし代役としては心もとない。
それに弱点を狙えないモンスターが召喚される可能性だってある訳だし・・・はてさて。
○打ち合わせ○
かなりの不安は残るが、時間も無い。
一応の見積もりは立てたんだし、後は細かい打ち合わせ等を皆にも伝えておかないと・・・
「賢斗君、またマッサージお願いねぇ~、今度は爽快コースでぇ。」
う~んこの忙しい時にこの人は・・・まあいいか、肩もみしつつ打ち合わせくらいできるし。
「ふっ、分かりましたよ、先輩。」
ナーナーモミモミ、ナーナーモミモミ・・・・・・・・・・
「ねぇ先輩、一つ聞いていいですか?」
「なあに?賢斗く~ん。」
「次の3回戦で、先輩のセクシーボイスを使ってみるのはどうでしょう?」
ナーナーモミモミ
「ねぇ、賢斗く~ん。」
ナーナーモミモミ
「なんですか?」
「ぶつよっ。」
『ピロリン。スキル『マッサージ三昧』がレベル4になりました。『気分ルンルンマッサージ』を修得しました。』
・・・ん?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『そして今、電光掲示板に第2戦の終了結果が表示されましたぁ。』
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第2回戦終了結果
第1位 『ソードダンス』 90pt
第1位 『ナイスキャッチ』 90pt
第3位 『ガンマニア』 85pt
第4位 『シュヤリーズ』 70pt
第5位 『紅華のトナカイ』 65pt
第6位 『グリーンベレー』 57pt
第7位 『ホットスパイス』 42pt
第-位 『ねずみ小僧』 失格
第-位 『隠れキリシタン』 失格
第-位 『ピンポンダッシュ』 失格
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ワァァァァァ―――
『さあ優勝争いの方も盛り上がって参りましたぁ。泣いても笑っても残すは最終3回戦のみっ。
現在第1位は90ptで『ソードダンス』と『ナイスキャッチ』の2組のパーティーが、肩を並べる大接戦。
それを僅か差で追い駆けるのが第3位『ガンマニア』で85pt。
この辺りまでが、自力優勝圏内か。
しかしながら、それ以降のパーティーにも一発逆転のチャンスは、まだ残されています。
何が起こるか分からない第3回戦は、このあとすぐっ。』
○3回戦開始直前、指定レベル選択○
「え~それでは、第3回戦に進まれるパーティーの皆さんは、今からモンスターレベル指定用紙をお配りしますので、10分以内での提出をお願いしま~す。」
「賢斗君、3回戦目はレベル15を2体にレベル16を1体くらい混ぜた方が良いかしら。やっぱりダメ元でも、優勝目指すなら少しは指定レベルを上げとかないとね。」
「いえ、レベル16を2体に、レベル17を1体入れましょう。」
「ちょっと待って、賢斗君。それ大丈夫なの?。」
「指定レベルを上げるのは、優勝する為でしょ。俺達にとって最低限の優勝ラインがこの指定レベルなんですよ。」
「だってそんなに上げたら、失格になっちゃうじゃない。」
「はい、でもこっちの方が、失格の可能性も上がりますが、優勝出来る可能性も上がります。」
「でもそれじゃあ・・・」
「もしかして先輩はここまで来て、2位狙いだとか日和った事を言うつもりですか?」
「えっ、いや、だって・・・」
「ダメだよ~、かおるちゃん。優勝しようよぉ~。」
「もう、桜も簡単に言っちゃうんだから。」
「えへへ~。」
桜、それ褒められてないと思うぞ。
「まあまあ、先輩も言ってたでしょ。負けても特に何がどうなる訳でも無しって。」
「まあそれはそうだけど・・・」
「はい、じゃあ決まり。それに勝算も少しはありますから。」
・・・たぶん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○第3戦1組目○
『さぁ、泣いても笑ってもこれが最後っ!大注目の3回戦1組目の挑戦が始まるぞぉー。』
さて、おれの予想の答え合わせと行くか。
服部達のレベル指定の内容は恐らく、レベル19が3体。
しかしそこにレベル20が1体でも混じってきたら、俺達の優勝の目は無くなる。
同点決勝にもつれ込むとか、どう考えても俺達が負ける未来しか見えないし。
さあ頼むぞ、この第1関門・・・来てくれ・・・レベル19、3体。
『ソードダンスが指定したモンスターレベルはいくつだぁー。
きたぁぁぁー。
これは大きいぃー、レベル20ビッグホーンリザード。』
なっ・・・終わった。
『そして次にぃ、これまたきたぁぁぁー。レベル19のアイアンゴーレムゥ。』
・・・。
『そして最後はぁー、レベル18のトロールが出現したぁー。』
えっ、あれっ、レベル18?・・・よっ、よ~し、よしよし。
信じてましたよぉ、服部さん。
にしてもレベル20なんて、高校生探索者が倒せるレベルか?
・・・あいつ本当に凄ぇな。
っと、こっちもこうしちゃいられない・・・2位に上がって、次は俺達の番だし。
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○直前の作戦変更○
いよいよ俺たちの出番を直前に控え、俺は桜と先輩に作戦の変更を切り出す。
「あ~、悪いんだけど2人とも、ちょっと作戦変更させてくれ。」
やはりウォーターバルーンアタックだけに頼った今回の作戦、不安要素が多過ぎる。
「えっ、なに?さっきのがベストなんじゃなかったの?」
「じゃあど~するの~?」
「ああ、俺の共有スキルを火魔法からラッキードロップに変更する。」
「それじゃ着火役が足りなくなるわよ、賢斗君。」
「あっ、はい、その辺は・・・」
俺が『ラッキードロップ』を共有する理由は、1回戦で新たに覚えた短剣スキルのこの特技。
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『クリティカルエッジ』
種類 :アクティブ
効果 :攻撃時の10%の確率でクリティカル攻撃になる。クリティカル攻撃時、敵ダメージ3倍。
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まだ試してはいないが、俺が桜の『ラッキードロップ』を共有した場合には、5割近い確率を誇る高確率『クリティカルエッジ』へと変貌を遂げてくれるはず。
といってもこの作戦だと、ウォーターバルーンピンポイントアタック3発分のダメージが不足するという明確なデメリットもまた生じることになる。
がしかしそれでも尚、ここへ来てどうしてもこちらに可能性を感じてしまう。
「・・・って訳です。」
「ふ~ん、そんな特技を覚えてたの。でもそれもまた、ちょっとしたギャンブルじゃない?」
「そっすね、でもこうしてギャンブルにギャンブルを重ねるくらいじゃなきゃ、俺達が3回戦突破して、優勝なんて出来ないってことですよ。」
本来こんな大事な判断を下すなら、ハイテンションタイムを使うべきだろう。
「お~、なんかワクワクしてきた~。」
しかし不安だらけの3回戦。
「ふふっ、わかったわ。それが賢斗君が悩んだ末に導き出した勝利の方程式って訳ね。」
ここで使ってしまえば、後で取り返しがつかないことに・・・
「まっ、そんなとこです。」
そんな嫌な予感が俺にそれを使わせずにいた。
『あ~っとここで炸裂ぅぅぅーー。服部君の剣舞『桜吹雪』ィィィー。』
ウォォォォー
『正に見蕩れてしまう華麗な剣捌きに、観客からの歓声が後を絶ちません。』
ウォォォォー
『ソードダンス、これはもう優勝はきまったかぁぁぁーーー。』
ウォォォォーパチパチ~
・・・おめえらだって、十分派手じゃねぇか。
次回、第六十七話 モンチャレ大会決勝3回戦・激闘そしてフィナーレ。