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第五十九話 俺の名前を呼ぶ声が聞こえる

○午後4時30分、クローバー拠点部屋○


 探索者委員会があったにもかかわらず、拠点部屋に来てみればなんと一番乗り。


ズズッ


 みんなの到着を待ちながら、俺は探索者マガジンを捲って優雅なティータイムと洒落込んでいる。


パラパラ


『モンスターチャレンジ高校生大会決勝特集 ~出場10パーティーに電撃インタビュー~』


 ふっ、あのインタビュー内容で電撃って・・・

 これだから丸石さんの記事はゴシップっぽさが抜けないんだよなぁ。

 まっ、写真はちゃんとしたのを使っているし、文句は無いけど。


 おっ、出場パーティーの戦力評価か。

 え~と、うちの評価は・・・どれどれ~。


『評価 B :魔法主体の高校生大会では異色のパーティーで将来性は十分。しかしまだ発展途上の今大会では、身体レベルの低さによるMP不足が不安視される。』


 ふむふむ、それっぽい質問なんてまるで聞いて来なかったのに、なかなか鋭いとこついてるな、丸石さん。


 んで他はっと・・・ちっ、優勝候補は服部のところのソードダンスか。


『評価 S :メンバー全員が片手剣スキルをカンストした剣士集団。身体レベルも高く、遠近自在の火力と高い経戦(継戦)能力で、全く隙の見当たらない今大会の大本命。』


 まっ、前の大会が2位で、その時優勝したパーティーがすでに卒業・・・

 とくれば、俺のこの偏見極まる目から見ても、この評価も当然だわな。


 で、あとは俺達より上位だったパーティーあたりは、チェックしとくか。

 予選第2位はシュヤリーズ・・・


『評価 A :槍装備の巨漢3人組で、長槍をまるで棒きれの様に扱うパワーは破壊力十分。スピード面ではやや不安があるものの、決勝は正に彼らにとって格好の舞台。』


 で、お次は第3位ガンマニア。


『評価 A :敵により様々なタイプの魔法銃を使い分ける2人組。事前に魔力を弾丸に充填しておける魔法銃という武器は、一撃の火力も自由自在だが、弾切れに一抹の不安が残る。』


 まあこの2組までは、決勝でも要注意ってことかな。

 あとの残りのパーティーは軒並み評価がCかDだし。


ガチャリ


「やっほ~、賢斗~。いやぁ~帰りにみんなに捕まっちゃってさぁ~。」


 さいですか・・・人気者は大変そうですなぁ。


「本当、今日の桜は大人気でしたよ。」


「そっか、円ちゃんもお疲れ。」


「いえ、私は桜と違って普段通りでしたし、遠くの桜を羨ましく眺めてました。」


 おおっ、なんと理想的ポジション・・・俺はあなたが羨ましい。


ガチャリ


「はぁ、はぁ、おまたせ~。遅れて・・・ないわよね?」


「はい、大丈夫ですよ。そんなに息を切らしてどうしたんですか?」


「はぁ、はぁ、本日7告り。新記録達成っ。やっほい。」


 ・・・心配して損した。


○ミーティング開始○


 さて、全員が揃ったところで、今日これからの予定を立てていく。


 本来はもっと色々と試行錯誤の期間を長く取りたかったというのが正直なところ。

 しかし如何せん決勝までの時間は限られ、そろそろ既存の戦術を決勝の舞台で使えるよう準備に入らねばならない時期。


 そんな事情もあり、俺は今日このタイミングで、決勝への基本戦術として、ウォーターバルーンアタックを戦術の主軸として採用する事をご提案。

 勿論そこには、俺を水魔法役として加え、タイム的な短縮やMP消費の分散を図るといった説明も付け加えておいた。


 するとこの提案に、みんなも賛同の意を表した。

 まあここで異を唱えても、時間的に更に状況が悪化していくだけといったところをみんなも分かっていたのだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後4時、白山ダンジョン協会支部○


 はてさて、拠点部屋から白山ダンジョン協会支部まで移動。


ウィーン


 そして協会支部の自動ドアを通り抜けると・・・


チラッ


フリフリ


 ちっ、相変わらずマークがきついな。

 って待て・・・あいつってメガネかけてたか?

 いや、あれは間違いない・・・落札価格1億円の透視メガネ。


 その瞬間、俺は反射的に股間を押えつつ協会支部の外へと回れ右。


 いきなり外へ出てしまうという俺の不審な行動に気付き、みんなも後を追いかけて来た。


「賢斗~、どうしたの~?」


「挙動不審よ、賢斗君。」


「いいか、理由は斯く斯く云々だ。あいつのメガネはあの落札価格1億円の透視メガネなんだよ。」


「そういえば、オークションでありましたね。憶えていますよ、私も。」


「うっそ~。すっご~い。私貸して貰ってくる~。」


 おい、ちょっと待て、桜っ。


テケテケテケテケ


 しばらく待っていると、透視メガネを掛けた桜が戻ってくるのが見えた。


テケテケテケテケ


 っておい、桜先生、なんてものをお掛けに。


 俺は股間を押え、斜に構える。


「賢斗ぉ~、全然透視なんて出来ないよ~、これ~。」


 えっ、嘘。本当か?

 ・・・俺は確かにあいつがこれを落札するのを目撃した。


 半信半疑のまま俺も桜からそのメガネを貸して貰って掛けてみると、確かに多少度が入った程度の普通のメガネ・・・これは一体。


 腑に落ちないが、物証的に奴は白。

 改めて協会支部へと入ると、侵入受付を済ませることにした。


「あ、あの侵入申請お願いします。それとこのメガネ有難う御座いました。」


 俺は先ほど桜が借りてきたメガネを差し出す。


「多田さんも私のメガネが気に入ったんですかぁ~?でもそれ特注なんですよねぇ、他じゃ売ってませんよぉ。」


「あのちょっと質問なんですけど、この間アイテムオークションで透視メガネを落札してませんでした?」


「おお、ついに多田さんが、私に興味を示しましたよぉ。ありがとぉう。」


 いや、俺の関心はメガネにしかないから。


「あ~いや、そういうの良いんで、実際どうだったんですか?」


「それはきっとうちのお姉ちゃんですね~。よく間違われるんですよぉ。双子なもんで~。」


「えっ双子?」


「そうですよぉ、これはもう多田さんは、私に興味津々丸ですねぇ~。ありがとぉう。」


 いや、まあそうだけど、そうじゃない。


「じゃあそのメガネは何なんだよ?」


「あ~これはですねぇ、うちのお姉ちゃんがオークションで落札した透視メガネが気に入ったので、レプリカを作ってみましたぁ。かっけ~。」


 あ~そういう事か、ったく、紛らわしいもん作りやがって。


「多田さ~ん、本物の透視メガネなんて、こんなとこで掛けてる訳ないじゃないですかぁ。私お縄になっちゃいますよぉ~。」


「そっすね、じゃあ侵入申請お願いします。」


「それでうちのお姉ちゃんはですねぇ、趣味がアイテムコレクターなんですよぉ。そしてまた性格も瓜二つ、これがっ。」


「いやもう十分なんで、侵入申請お願いします。」


「ですか~、ではお任せくださ~い。今日ちょっとお早目の帰還予定は18時。頂きました~。」


 ったく、人騒がせな姉妹もいたもんだな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○白山ダンジョン右ルート宝箱部屋○


 先ほど決めた基本戦術を完成させる為にも、俺が早急に水魔法を取得し、レベル4に持っていかなくてはならない。

 一方それと同時に清川での模擬戦検証及びレべリングを進めるのも、決勝に向けてやっておかなければならない重要事項。

 この2つの両立を図る為、今日は白山ダンジョンと清川ダンジョンの2か所を巡るかなりのハードスケジュールとなった。


 急ぎ白山ダンジョンに移動し、右ルート拠点部屋に来た俺達は、早速睡眠習熟を開始した。


 今日睡眠習熟をしたのは、俺と桜の2人。

 桜に関しちゃ予定には無かったものの、俺同様水魔法を取得してもらう事にした。


 本来桜は着火役なので、水魔法をあえて覚えてもらう必要はない。

 がしかし、不測の事態を想定し、桜による一人ウォーターバルーンアタックが出来る手札を準備しておくというのも大事と判断。


 丁度火魔法をカンストし、次に覚える魔法を模索中だった桜は、快く引き受けてくれた次第である。


 そしてこの15分後には、睡眠習熟も小慣れた2人が失敗するはずもなく、見事な成功を収めた。

 その後は喜び合うのも束の間、直ぐに白山ダンジョンを後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後5時30分、清川ダンジョン2階層大部屋○


 拠点部屋に帰還後、すぐに転移で清川ダンジョン2階層大部屋前へと移動。

 小太郎の変身の儀を終えると、俺は首だけ出して部屋の中の様子を覗いてみた。


 えっ、嘘っ・・・俺としたことが、迂闊すぎたな。


 レベル12で特異個体にならなかったといっても、更に育成を続ければ、当然その個体が後日特異個体化するという可能性は考慮して然るべき。

 大部屋内には、通常サイズのスライムの中に、一際目立つ2mほどに巨大化したジャイアントブルースライムが1体確認されていた。


~~~~~~~~~~~~~~

名前:ジャイアントブルースライム

種族:魔物

レベル:14(31%)

HP 56/56

SM 18/18

MP 30/30

STR : 14

VIT : 17

INT : 16

MND : 13

AGI : 8

DEX : 20

LUK : 15

CHA : 7

【スキル】

『酸吐出LV7(8%)』

『物理耐性LV8(72%)』

『水魔法LV5(43%)』

『触手LV2(1%)』

【強属性】

水属性

【弱属性】

火属性

【ドロップ】

『スライムジェルの大瓶詰(ドロップ率30.0%)』

【レアドロップ】

『水魔法のスキルスクロール(ドロップ率0.01%)』

~~~~~~~~~~~~~~


 ステータスもかなり上昇。

 『触手』スキルまで増えてる。


 ・・・ゴクリ。


 こんなのもう特訓とかどうこう言ってる場合じゃねぇな。


「どう、賢斗君。あれ、強いの?」


 俺の頭の上に顎を乗せた先輩が、質問をしてくる。


「そっすねぇ、相当強いです。

 今の俺達じゃ、全員で協力して挑んでギリギリ倒せるかどうか・・・」


「では、私の出番もおありですか?」


 そう言うと円ちゃんは、徐にシャドーを始める・・・


シュッ、シュシュッ、シュッ


 クイーン猫パンチは効かないんだけどな。


「じゃああれ、どうすんの~?」


 桜先生は俺の顔にほっぺを当てつつ聞いて来る。


「どうするも何も、先ずはどれ程のものか、確認くらいはしてみないとな。」


「ちょっと賢斗君、何する気?危険よ。」


「わかってますって。」


 危険だからこそ、先ずは俺がパラライズエッジで麻痺らせないことには、始まらないんだよなぁ。


「じゃあまず俺だけ大部屋に入って、あいつを麻痺させてみるから、みんなはそれが旨く行ったら、部屋に突入して総攻撃してみる作戦で。」


「本当に大丈夫なの?」


「大丈夫、大丈夫。」


 凄ぇ~怖いけど。


「了解しましたにゃん。」


「おっけ~。」


「にゃあ?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○清川ダンジョン2階層大部屋内○


 俺は1人で大部屋の中に入ると、ジャイアントブルースライム目掛け音速ダッシュで急接近。

 AGI値自体はこちらがかなり上だし、麻痺するまで、パラライズエッジを繰り返せば行けるはず。


シュピンッ、HP 56/56


シュピンッ、HP 56/56


 この調子なら行けるか。


 と思った矢先、鞭のような触手が飛んでくる。


シュルシュルシュル、バチンッ


 ひゅ~、危ない危ない。

 これが『触手』の攻撃ってやつか?

 この攻撃、予兆がほとんどないから、かなり厄介だわ。


シュピンッ、HP 56/56


シュピンッ、HP 56/56


 おっ、やった、今回は4撃目で麻痺ってくれた、ラッキ~。


 俺は皆の方へ視線を向けるとサムズアップして見せた・・・


「賢斗っ、危ないっ。」


「賢斗君っ、後ろっ!」


 えっ。


シュルシュルシュル、バチンッ


 一瞬何が起こったか分からなかった。


ヒューン、ドカッ


 真横からスライムの触手が、俺の身体を撃ちつけ、そのまま大部屋の横壁へと叩きつけられた。


 くはっ。


 人生で初めて口から血を吐いた。

 くっ、左腕に肋骨・・・骨まで折れたか?

 こんなに早く麻痺が解けちまったのか?


HP 9/22


 ヤベェ、半分以上持ってかれてる。

 くそっ、じわじわ近づいて来てるじゃねぇか・・・

 早く皆のところに転移で・・・痛っ。

 ・・・ダッ、ダメだ、痛みで意識が集中できねぇ。


「ファイアーストーム・アンリミテッドッ!」


ボォファボォファボォファボォファ・・・・


「ジェットストーム・アンリミテッドッ!。」


ビュオビュオビュオビュオー


「ストーンバレット・アンリミテッドにゃんッ!。」


シュッ


 おい、お前ら何で部屋に入って来てんだよ。


「ファイアーストーム・アンリミテッドッ!」


ボォファボォファボォファボォファ・・・・


「ウィンドブレス・アンリミテッドッ!」


ブロロロロ~


「ストーンバレット・アンリミテッドにゃんッ!。」


シュッ


 バカッ!もう良い。部屋の外に避難し・・・痛っ。


 3人による全力の魔法攻撃が終わると、ジャイアントブルースライムは動きを止めた。


HP 18/56


 あれでもダメージはこの程度なのか・・・

 くそっ、俺も加わってれば、何とかなったかもしれないのに・・・


 部屋入口の辺りから声がする。


 あ~はいはい、そんなに叫ばなくても、俺だって分かってるって。

 ここは今の内に一旦退避して、作戦を練り直さないと・・・


 俺の考えをあざ笑うかのように、巨大スライムは明滅を繰り返す。


ボワ~ン、ボワ~ン、ボワ~ン、ボワ~ン


HP 56/56


 なっ、こいつ・・・回復魔法まで使えるのか。


 そして再び魔物の巨躯は動き始めた。


 くっそ、何とか部屋の外まで転移しないと・・・痛っ。

 もうあいつの射程距離に入っちまった。


 みんなが必死に俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。


 落ち着け、呼吸を整えろ、精神集中しろ・・・俺はあそこへ帰るんだ。

 痛っ・・・はっ、そうだ。『感度ビンビン』でこの痛みを・・・


 ヤベェ、間に合わないっ!


ピカッ


 大部屋の入り口で何かが光った・・・


シュルシュルシュルー


 ジャイアントブルースライムの触手が伸びてくる。


 くっ、やられるっ!


キランッ


 その彗星の如き金色の煌めきは、光の残滓を放ち、真っ直ぐこちらに迫った。


バコォォォ~~~ン


 俺は痛みも忘れ、目の前の光景を只茫然と見つめていた。


 ほんの2m先には中心に風穴を開けた魔物の巨躯。


 1m手前には、黄金のオーラを纏った猫仙人がオーラハンドで頭上に大きな核を掲げていた。


バシャァ―


 数瞬遅れて、核を失ったジャイアントブルースライムの身体が液状崩壊すると、猫仙人が持つ核もまた消失。


 そして金色の輝きが失われた子猫は・・・


「なんかあにきがヤバそうだったから、助けに来てやったにゃ~。」


 小太郎があのジャイアントブルースライムを、一撃で倒したってのか?


 ・・・・・・・・・ふっ。


 ・・・ふふっ。


「ふっはっはっはっはっは・・・あっ、痛っ。

 ったく、遅せぇよ、小太郎ぉ~。」


 そんな凄ぇ力持ってんなら、もっと早く使えっての。


 入り口付近にいたみんなも、こちらに駆け寄ってきた。


「賢斗ぉ~、だいじょぶぅ~?」


 初めて味わう痛みで、完全に気が動転しちまってたな。


「ああ、まあ何とか、痛っ。」


 油断して攻撃を喰らった上に、その後の対処もお粗末そのもの。


「何やってるんですか賢斗さん。私を冷や冷やさせないで下さい。」


 全く、随分大きな借りを作っちまったもんだな。


「ああ、悪りぃ悪りぃ。」


 でもまあ、今は・・・


「ほら、早くヒール掛けちゃいなさいよ。」


 取り敢えず・・・


「そうっすね。ヒ~ル、ヒ~ル、ヒ~ル、ヒ~ル・・・ふぅ。」


 きちんと礼を言っとくか。


「ありがとな、小太郎。」


「ご褒美は何かにゃ♪」


「焼きとうもろこし、3本だっ。」


ニカッ!

次回、第六十話 空白の12分間。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、基本格下や豊富なスキルでハメ殺しみたいな戦い方してたから、ピンチに対するリカバリー能力が低かったりするのか。 まあ、取り返しの効く危地で良かったですねぇ。 ……ぶっちゃけ、モンチャ…
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