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第五十三話 緑山ダンジョン攻略

○クイーン猫ダンス その2○


 円が提示した名案、それは彼女が新たに取得した新特技クイーン猫ダンスの効力発動とタイミングを合わせレベルアップブレスレットを小太郎に装着するというものだった。

 確かにこれを見事成功させられれば子猫に疲労感を与える事無くレベルアップさせてやる事ができるだろう。


「なるほどねぇ、じゃあ早速試してみようか」


 しかし当の子猫は・・・


「あにきぃ、おいらはもうその首輪は着けたくないにゃっ!」


 あらら、随分ヘソ曲げちまったもんだな。

 とはいえこの方法であればきっと上手く行く筈・・・


「小太郎、もう1回だけ頼むよ。

 今度はグッタリする様な事にはならないからさ」


「そんなの信じられないにゃ~」


 子猫は目を細め疑いの眼差しを賢斗に向けた。


 ちっ、すっかり信用を無くしちまってる。

 ・・・だがこのご褒美の前でもそんな事が言えるかな?


「あ~あ、今度はご褒美に焼きトウモロコシを御馳走してやるつもりだったのになぁ」


「ピクッ!そっ、それホントにゃ?

 だったら何でも言う事聞いてやるにゃ♪ニカッ」


 よし、この奥の手はまだ通用するようだ。

 がしかしこれはコイツに対する最終手段でもある。

 もし今度失敗する様な事になれば小太郎は二度とこの首輪を着けてくれないと覚悟しておいた方がいいだろう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○クイーン猫ダンス その3○


 小太郎さんの承諾を得たところで賢斗と円は本番前の予行練習。


 最早失敗など許されない、張り切って参りましょう。


 取り敢えず円に猫人化していない状態でクイーン猫ダンスなる踊りを披露して貰う。


「にゃんにゃにゃにゃ~ん、にゃんにゃにゃん・・・・・うぅぅぅ、にゃお。」


 妙に可愛らしい音痴な歌声と共に踏む出鱈目なステップ。

 不規則に発生する鬱陶しい決めポーズとその度に送られてくるドヤ視線は思わず目を背けてしまわずにはいられないえも言われぬ罪悪感を植え付ける。


 だっ、ダメだ。

 こんなもん見せて貰っていいのか?

 いやしかしこれは俺以上に円ちゃんの方が恥ずかしいに決まってる。

 彼女はこんな黒歴史レベルの踊りを恥を忍んで披露してくれているのだ。

 ここで俺が逃げ出す訳には・・・


「如何でしたか、賢斗さん。私の華麗な舞は?ドヤッ」


 えっ、何で自慢気?

 う~ん、まっ、これはこれで。


 そんなこんなでお次は二人で実践練習。

 何度も試して行く賢斗と円だったが・・・


「ちょっと賢斗さん、全くやる気が感じられせんよ。

 もっとしっかり私の動きを見て下さい。

 最後の「うぅぅぅ、にゃお」のタイミングです。」


 ・・・あの不規則なステップと音痴な歌声はずっと見てると混乱まで来たす程の代物。

 その反面、なまじ実演者の声と容姿が極上であるが故に見る者を惹きつけてやまない魅力まで持ち合わせている。

 こんなのやる気出して積極的に見てたらタイミングを取るどころの話じゃなくなっちまうっつの。

 それに・・・


「いやそれさぁ、「うぅぅぅ、にゃお」の「うぅぅぅ」の長さ、毎回変わってるよね?」


「それは当たり前です、賢斗さん。

 最後のシャウト部分は踊り手の心の昂ぶりに合わせて叫ぶものなんです」


 やっぱりか、どうにもおかしいと思ってたんだ。


 とそんなこんなで10分後、しばらく練習を重ねていくと何とかタイミングが取れるまでに。


 ・・・俺って凄いなぁ、うん。


 いよいよ迎えた本番、周囲に他の探索者が居ないことを確認し賢斗がゴーサインを出すと円は猫人化。

 その姿は中三レベルの体つきで猫耳と尻尾が無ければほぼ普段と違和感のないレベルであった。


「参りますにゃん。」


 何時でも来やがれ。


 賢斗はそっと目を閉じる。


「にゃんにゃにゃんにゃん・・・」


 この踊りを見ても惑わされるだけ。

 そして歌は精神を集中し限りなく無視するのがベスト。

 要は最後の「うぅぅぅ、にゃお」のタイミングに全神経を集中し居合抜きのような要領で臨むのが正解。


「うぅぅぅ・・・」


 くわっ!賢斗は目を見開らき、腕輪を掲げてスタンバイ。


 ここだぁっ!スポッ


「にゃお。」


 一切の誤差なく装着されたレベルアップブレスレット。


 ゾワァ、全身の毛を逆立たせた子猫は身震いを一つ。


「にゃ、にゃにゃ、にゃおぅぅぅぅ~。」


 天に向かって雄叫びを上げた。


「あにきぃ、おいらに触ると火傷するにゃ。」


 うむ、どうやら成功したようだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン探索 その1○


 小太郎の変身を済ませると緑山ダンジョン1階層にある林地帯に足を踏み入れた一行。

 その先頭には普段巾着の中で怠惰な時間を過ごす小太郎が皆を従えたかのように意気揚々と歩いていた。


 やっぱ意外と大丈夫かもな。


 未だ猫人化状態の円だが今回賢斗がおぶって潜伏スキルを発動するといった手間は掛けていない。

 これはフィールド型ダンジョンなら他の探索者との鉢合わせを避けることが容易であるといった理由からである。

 とはいえそれ以外でもけも耳コスプレ装備の探索者というのも賢斗達はこれまで何度か見掛けている。

 以前彼は大騒ぎになるかもと危惧していたものだがその認識も少しずつ変わってきていた。


「あの大きな木がそうかしら?」


 事前情報によれば緑山ダンジョン1階層のゴール地点は林地帯の奥にある巨木の根元に2階層へと繋がる穴が開いているという。

 賢斗達の今回の目的地はそこであり、かおるの指差した先にはその巨木と思しき一際高くそびえる1本の木が木々の合間から見えていた。


「ああ多分そっすね」


 あと2、3kmってとこかな。


 と巨木に向かって進んでいると・・・


「ちょっと遊んで来るにゃ。スタスタスタスタ・・・」


 隊列を乱し近くの木に登っていった子猫は枝から枝へと飛び移り始める。


 ・・・まっ、進行方向は分かってるみたいだし、好きにさせとくか。


「にしてもあの跳躍力は大したものねぇ」


 あの小さな身体で俺達並みのステータスだかんな。


「本物の忍者みたいだよぉ~」


「あれは私の忍者教育の賜物ですにゃん。」


 なるほど、小太郎の忍者路線は円ちゃんの英才教育ってわけか。


「おーい小太郎、あんまはしゃいでっと直ぐバテちまうぞぉ。」


「今のおいらは身体が疼いて仕方ないのにゃ~」


 ったく・・・ふっ、やっぱりここに来て正解だったな。


「賢斗君、近くに魔物は居ないの?

 私は早く小太郎君の戦いを見たいんだけど。」


「いや~、俺もさっきから探してるんですけどあいにく先行者が居たんですかね。

 この辺にはまだ戦えそうな魔物は見当たりませんよ。」


 歩いているのは2階層へと繋がる道筋、周囲に残っている魔物の反応は上空を飛んでいる蝶の魔物くらいであった。


 あの高さじゃ魔法は射程外、先輩の弓でもかなり厳しいだろうな。


 そうこうしていると戻って来た小太郎が賢斗の肩に。シュタッ


「おう、どうした?」


 お疲れさんか?


「あにきぃ、あいつを殺っちまえばいいのかにゃ?」


 小太郎は上空の蝶を右手で指し示す。


「おまえなぁ、あれ相当の高さだぞ。

 あんなの倒さなくたって特に問題ないし放っといて・・・

 お前アレ倒せんの?」


「余裕だにゃ~、あにきはここで見てるにゃ」


「おい、ちょっと待てって、小太郎っ!」


 賢斗の制止も聞かず子猫は1本の高い木をどんどん登って行く。

 しばしその木の天辺辺りを飛んでいる魔物を見上げていると、2つ黒い影が交錯した。


 眩しくてよく分からん・・・どうなった?


 目を細めながら静観しているとヒラヒラと舞い落ちてくる蝶の羽。

 それを途中で追い抜き、蝶の本体がきりもみ回転しながら落下してきた。ドサッ


 うわっ、近くで見ると結構デカいな。


 先程まで小さく見えていたその魔物の体長は1m位である。


 地上との激突と同時に霧散を始めた蝶の魔物を四人が取り囲んでみているとそこへ風呂敷を広げた子猫がゆっくり舞い降りてきた。プカ、プカ~


 おおっ、ムササビの術。


 子猫は魔石を拾い上げるとニパッと笑って上に掲げた。


「ゲットだにゃ」


「ふっ、お疲れ、小太郎」


「凄いわ、小太郎君」


「小太郎、超かっこいい~」


「日頃の成果が出ましたね、小太郎。

 今日は褒めてあげますにゃん」


 子猫は満面の笑みで労いの声に応える。


「朝飯前だにゃ♪ニパッ」


「でもまあこれでお前も一人前の戦力ってわけだ。

 拠点部屋の修理費はお前が自分で稼げよな?」


「にゃあ?」


 おい、さっきまでしっかり理解してただろっ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン探索 その2○


 再び巨木へ向け歩き出した面々。

 賢斗の肩にはやる気を失った子猫がへばり付く様に全身を預けていた。


「あにきぃ、ちょっと疲れたにゃ~」


 そっすか、まっ、スペック的に俺達と同等になっていても子猫の身体であんな激しい運動を続けるのはかなりのエネルギー消費に繋がっちまうだろうからな。


 30分程進んでいると林の中にぽっかり開けた草原に出た。

 巨木目指しその草原を横断していると・・・


「ちょっと待つにゃ」


 ん、何だ?


 周囲を注視すれば前方にはキラキラと金色の粉が降り注いでいる。

 そして上空には先程小太郎が倒した蝶の魔物が5体。


 ・・・ってことはこの粉はポイズンバタフライの毒鱗粉か。

 いや~これは小太郎の野生の嗅覚って奴に助けられたな。


「小太郎、お前のお蔭で助かったよ」


「任せるにゃ、あにきぃ」


 にしてもどうすっかなぁ。


 風に流された毒鱗粉は広範囲に降り注がれこれを迂回するとなれば結構な遠回りを強いられそうである。


「おにきぃ、おいらをあいつ等に向かって投げてみるにゃ」


 えっ、投げるってお前・・・あっ、なるほど。

 いやしかし・・・


「お前さっきまでグロッキーだっただろ?大丈夫か?」


「心配ご無用にゃ」

 

 まっ、疲れ易いが回復も早いってことか。


「よしわかった、そんじゃ行くぞぉ~、それっ、小太郎ロケットっ!ひゅ~~~ん」


 賢斗が上空に小太郎を放り投げると飛距離は十分、しかし彼のコントロールはかなり悪い。


 あっ、不味い、かなり逸れちまったな。


 子猫は魔物の飛行高度の更に上、そこで風呂敷を広げると風に乗り横移動を始めた。


 おおっ、やるもんだねぇ、いや、もとい、作戦通りだ、小太郎。


 魔物の上に乗ると羽の付け根に打撃を加え次の個体に飛び移る。

 片羽を失った魔物達は次々と落下を始め、ドサッ、ドサドサッ、ドサッ、ドサッ、程無く地上に激突すると霧散していった。


 ふっ、一気に5体も撃破するとは中々やりよる。


「横にも移動出来たんだねぇ~、小太郎」


 帰還した小太郎に声を掛ける桜。


「まあ、あにきがノーコンだったからにゃ~」


 うっさいっ、アレは作戦だっつの。


「小太郎、これからも頑張るんですよ」


「あったり前にゃっ。」


「ホ~ントあんな上空の敵を5体も倒すなんて立派よ、小太郎君」


 皆に褒められ満面の笑みを浮かべる子猫。


「ってことでお前、拠点部屋の修理費はやっぱ自分で稼げよな?」


「にゃあ?」


 お前それ絶対わざとだろっ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン探索 その3○


 その後再び林に入りしばらく歩を進めた賢斗達は午後1時30分、緑山ダンジョン1階層のゴール地点である巨木前に到着した。

 今日の彼等の活動予定としてはこのゴール地点に到達したら後はハイテンションタイムを消化し帰るといったところである。


「じゃあ目的地に着いたことだしちゃっちゃとハイテンションタイムを消化しますか」


「うん、でもここは流石に不味いわよ、賢斗君。

 他の探索者さん達のお邪魔になっちゃうし」


 2階層への通路であるここ周辺にはそれなりに他の探索者の反応があった。


「浮島のある湖にはいかないのぉ~?」


「う~ん、それができれば手っ取り早いんだが・・・」


 林の向こうにある湖をここからでは視界に収める事ができず短距離転移での移動はできない。

 かと言ってここで長距離転移を使うのは帰りの転移で使うMPを考えると得策ではない。

 しばし賢斗が頭を悩ませていると円が声を上げた。


「なら折角ですから、下の階層に行って探してみては如何ですか?」


 う~ん、まっ、この際それも有りか。


 四人は巨木の洞の中へ足を踏み入れて行った。

次回、第五十四話 カプセルモンスターを手に入れろ。

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