第四十九話 オークションカタログ
○オークションカタログ その1○
5月28日火曜日午後1時、中間テスト2日目である今日も賢斗は拠点部屋に来て昼食を取っている。
午後からは一人で緑山ダンジョンにでも行ってみようかな。モグモグ
ちなみに先日の第3予選の会場であった越前ダンジョンも彼の転移ポイントになっているのだがあそこは本来Bランクダンジョン。
パーティーランク的に今の賢斗達では普段入る事が出来ないダンジョンなのである。
「ガチャリ、あら多田さん今日も来てたの。
今週は自粛期間って言ってたわよね。」
「アハハ、一応桜達の手前そういう事にしてますけど俺の場合は別に自粛するつもりないですから。」
「そう、あんまり学校の成績も悪くならない様にしてね。」
へ~い。
「それはそうとちょっとこのテーブル使って良いかしら。」
食事を終えた様子を見て中川がそう言うと賢斗は散らかしていたお弁当の容器等をコンビニ袋に詰め込みスペースを作る。
どぞ。チラッ
中川は微笑みながら「どうもありがと」と言ってソファに腰を下ろすと革張りで豪華な表紙のカタログをテーブルの上で開く。
「何すかそれ?」
「ああ、これは今週のアイテムオークションのカタログよ。
さっき光に買って来てもらったの。」
そのカタログはバインダー式で中川は出品されるアイテムが載ったファイルを取り外すと一つづつテーブルの上に並べていく。
「ああ、昨日の記者さんが言ってた奴ですか。
にしても随分豪華なカタログなんですね。」
「まあねぇ、このカタログは30万円もするものだし。
といってもオークションの参加費込みの値段だから仕方ないんだけどね。」
ほぇ~参加費30万円のオークションとか流石はダンジョンアイテムのオークション、さぞ高額なアイテムが出品されてんだろうな。
興味にかられ賢斗もテーブルの上のファイルに目をやっていく。
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『エアリアルシューズ』
説明 :空気を踏みしめ、空中移動を可能とする靴。
入札開始価格:1000万円
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ほほう、こんなの如何にも桜の奴が欲しがりそうだな・・・あいつ空飛びたがってたし。
つっても入札開始価格が1000万円とか一体幾らで落札されるのやら。
「ハァ、今回の入札開始価格は500万円なのねぇ、
これだとやっぱり落札価格は1000万円以上になっちゃうかしら。」
中川は解析のスキルスクロールが載ったファイルを手に取り溜息を吐く。
「中川さんは何でそんなに解析スキルが欲しいんですか?」
「そりゃあ解析スキルと言ったら鑑定士を目指す者全ての憧れだもの。
欲しくなるのは当然よ。」
そりゃ知らなかった。
つかうちのボスにもそんな純粋な面が・・・
「解析スキルがあれば鑑定士としての箔がつくし鑑定士協会のエロジジイ共に舐められる事も無くなるのよぉ。」
と思ったらそうでもなかった。
でもまあそこまで欲しいのなら・・・
「もし良かったら中川さんもハイテンションタイムで習熟取得出来るか試してみますか?
まっ、他の皆が良いって言ったらの話ですけど多分俺みたいに解析スキルを無料で取得出来ると思いますよ。」
「あら多田さん、それ本当ぉ?助かるわぁ♪ニコォ」
ゾワッ、えっ、何この寒気?何かボスの笑顔が怖いんですけど。
「ええ、まあ。タラリ」
「私も多田さん達にお願いできたらなぁってずぅ~っと思ってたんだけど私の方からお願いするのは色々と問題になっちゃうのよねぇ。
でも多田さんの方から言って貰えたのなら大丈夫、是非お願いするわ。」
元々普通にお願いしていても賢斗が嫌だと言わないであろう事くらい中川も先刻承知していた。
しかし守秘義務や顧客の秘匿情報の私的運用禁止といった内容はプロ鑑定士として守らなければならない。
彼女は賢斗に先程の台詞を言わせるために一芝居打ったという訳である。
ふっ、そういうことか、まっ、この人らしいわな。
「あっ、でも勿論無料にしてなんて言わないわよ。
報酬は期待して頂戴。」
えっ、ホント?
「ガチャリ、あっ、先生お客様です。」
「分かったわ光、直ぐに行くから少し待ってて貰って。
多田さん、悪いけどこの話はまた後でね。バタン」
・・・何ちゅうタイミングの悪さ。
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○オークションカタログ その2○
中川が部屋から出て行った後、賢斗はダンジョンへ行こうとしていた事も忘れ未だテーブルの上に残されているアイテムオークションのファイルを眺めていた。
おおぅ、流石は日本全国からレアアイテムが集められるオークション。
珍しいアイテムばっかだなぁ・・・あっ、そうだ。
(お~い桜ぁ、今暇かぁ?)
(あっ、うん、賢斗ぉ、ひまひま大まじ~ん。)
なんだよそれ。
(じゃあ今拠点部屋に来ると面白いもんが見れるぞぉ。)
(えっ、ホントぉ~じゃあ今直ぐ行く行くぅ~。)
少し気を効かせ桜に念話を送った賢斗だったがその15分後には呼んでもいない二人と一匹も拠点部屋に集合していた。
う~む、結構うちのパーティースクランブル能力高いな。
「賢斗ぉ、私これが良いぃ~、エアリアルシューズゥ~。」
別に俺がお前に買ってやるって話じゃないからな?
「賢斗さん、円はこのロケットパンチグローブというアイテムをご所望ですよ。」
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『ロケットパンチグローブ』
説明 :拳撃を飛ばすことが出来るグローブ。
入札開始価格:400万円
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ほほう、これがあれば円ちゃんのクイーン猫パンチを遠距離攻撃として使えたりして。
って、何でお嬢様まで俺におねだりする感じで言って来る。
「あっ、賢斗君、私はコレコレこのお高いフルーツにするわ。」
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『レインボーフルーツ』
説明 :至高の美味。食べると寿命が10年延びると言われる。
入札開始価格:2000万円
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ふ~ん、寿命が延びる果実ねぇ。
でも寿命が10年延びたかなんて確認出来っこ無いしなぁ~んか胡散臭い・・・
「つかお前等ぁっ!これ別に俺がお前等にプレゼントする話じゃないからなぁっ!」
「アハハ~そうだったんだぁ~。」
「はい、私も薄々そんな気はしてました。」
「だってこんな美味しい流れに乗らない手は無いでしょ♪」
ったくこいつ等は・・・ツンツン、ん?
振り向けば小太郎がファイルを1つ口に咥えて賢斗に差し出していた。
・・・お前もか。
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○オークションカタログ その3○
小太郎が咥えて来たファイルを手に取る賢斗。
買ってやるつもり等更々ないがこの子猫が何を欲しがっているのかには興味があった。
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『インビジブルクロース』
説明 :無色透明の布、物体を覆い隠すことが可能。サイズ50cm×50cm。
入札開始価格:900万円
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おおっ、こっ、これは正しく全男子の夢アイテム、透明人間に成れちゃう系の奴じゃないですかっ!
やるな小太郎、お前も男のロマンというモノが・・・って待て待て。
通常衣類を着ない猫にこの男のロマンが分かるとは思えない。
しかもよく見りゃこれハンカチサイズじゃねぇか。
「う~ん、何でお前こんなの欲しいんだよ?」
「これがあれば完璧に姿を隠せるにゃ。」
あ~隠れ身の術か。
そういやこの間白い壁に黒い風呂敷使って失敗してたもんな。
「でも小太郎、お前の場合忍術スキルを取得してるんだしその内隠れ身の術くらい覚えるだろ。
こんな布切れなんかよりもっと他に欲しいアイテムを探せよ。」
「分かったにゃ。」
うんうん、って別に買ってやる訳じゃないからな。
「賢斗は何が一番欲しいのぉ~?」
「ん、ああ俺はやっぱりこの勇者リングって奴だなぁ。」
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『勇者リング』
説明 :装備時、最大HP及び最大MPが2倍。
入札開始価格:5000万円
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「おお~、それすっごいかっこいいねぇ~。」
「だろぉ?」
さっすが桜は分かってんなぁ♪
この鈍い輝きの中に刻まれた古臭い紋章のデザイン。
しかも最大HP及びMP2倍とかいう飛んでも性能、これで欲しくならない筈ないでしょ~♪
「でも買うのは無理無理大まじ~ん。」
わかっとるわっ!
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○指名依頼と破格の報酬○
午後2時、30分程拠点部屋でワイワイやっていた賢斗達の下に中川が戻ってきた。
「ガチャリ、あらみんな集まっちゃってどうしたの?」
「賢斗がさぁ面白いものが見れるよぉ~って言うから緊急出動して集まったのぉ~。」
「ああ、そういう事、でもそれなら丁度良かったわ。
さっきの話の内容を光に言って依頼書にしたから皆もちょっと見て貰えるかしら。」
中川は一枚のプリント用紙を賢斗の前に置いた。
すると他の三人は賢斗の後ろに回り覆い被さる様に覗き見る。
ちょっとっ、重てぇだろ、お前等。
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指名依頼
指名先: ナイスキャッチ
依頼人: 中川京子
依頼内容: 依頼人中川京子に『解析』スキルを取得させる。
期限: ○○年5月末日まで
報酬: 5月31日開催のアイテムオークション参加権利及びアイテム1つ分の落札金(限度額1200万円)。
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「さっき言った報酬なんだけどこんな感じでどうかしらね。
多田さんには他の皆のOKがあればこの私の依頼を受けてくれるって言って貰ったのだけど。」
「京子ちゃんのお願いだったら全然良いよぉ~。」
「賢斗さんが決めたのなら私もそれで構いませんよ。」
「まあ中川さんなら私達のスキルの事も知ってる訳だし受けても良いんじゃないかしら。
でも解析スキルを習熟取得させるだけなのに報酬が1200万円とか逆に気が引けちゃうわね。」
確かにこれ程の高額報酬を出してくれるとは。
「それは価値観の相違って奴だわ、紺野さん。
今度のオークションで解析のスキルスクロールが一体幾らで落札されるか、この報酬の妥当性が貴方達にもきっと分かる筈よ。」
まっ、言われてみればそうか。
これまで取得したスキルをスクロールのお値段で換算したら偉い事になりそうだし。
「それに知り合いだからと言って遠慮しなくて結構よ。
1200万円までなら次のオークションで出すつもりで居たしこの金額で解析スキルが手に入るのなら私にとっては安いものなの。
でもそれ1200万円がそのまま貴方達の報酬って訳じゃないから注意してね。
私が貴方達に提供するのはあくまでアイテムオークションで1200万円までのアイテムを一つ落札する権利。
落札に失敗した場合は報酬が0円になる可能性だってあるんだから。」
ふむ、あんまり欲をかくと痛い目を見そうな気がする。
「それと後付けで申し訳ないけど自分達で落札資金を補完するのは勘弁して頂戴。
これは自腹であなた達に支払う報酬なので私もなるべく安く上げたいの。」
となるとつまりは1200万円ギリギリのラインのアイテムを落札出来れば一番お得という事か。
「ええ、それは構いませんよ。
こんなに報酬が頂けるとは思ってませんでしたし。」
クイクイ、ん、何?先生。
「でもさぁ賢斗ぉ、私と円ちゃんは金曜日までダンジョンには行けないよぉ~。」
「ああそれなら全然問題ないって。
俺と先輩が居れば何とかなる案件だし。」
「でもだったら落札するアイテムは賢斗とかおるちゃんが二人で決めちゃったら良いよぉ~。
私と円ちゃんは役に立ってないしぃ~。」
「そうですね、桜。
私も今回はそれが妥当だと思いますよ、賢斗さん。」
「う~ん、まあそういう気持ちになるのも分からなくはないけどそれは何か違うって、二人とも。
これはナイスキャッチというパーティーが受けた依頼だしパーティーが受け取る報酬ならメンバー全員が平等に受け取るべきだと俺は思うんだ。
だって確かに今回の依頼は俺と先輩だけで事足りる内容だけどこれは単に自分の出来る事でパーティーに貢献しているだけの話。
そのパーティーへの貢献って事なら桜や円ちゃんだって別の形で十分やってくれてるだろぉ?」
先生のお宝開封能力にはいつもお世話になりっぱなしだし、円ちゃんの・・・う~ん、あっ、そうそう雑魚処理能力にはお世話になってますからね。
「うんうん、賢斗君もたまにはいいこと言うじゃない。
桜も円も変な気なんか使ってないで一緒に落札するアイテムを選びましょ。」
「いいのぉ~?」
「当たり前だろ。」
「有難う御座います、賢斗さん、かおるさん。」
ふっ、まっ、こういうのは多分お互い様システムが一番だ。
「それでナイスキャッチの皆さんはこの私からの指名依頼を引き受けてくれるのかしら?」
「ええ、喜んで引き受けさせて貰いますよ。」
その言葉に他の面々も笑顔で頷いていた。
次回、第五十話 やはり俺は天才なのかもしれない。