第四十七話 モンチャレ大会第3予選
○モンチャレ大会第3予選 その1○
情報収集に回っていた水島の話では予選会場の観客スタンドの一画にある出場者待機席がもう既に解放され昼食をそこで取る事も可能だとか。
賢斗達は早速ダンジョン入口の方へと歩いて行く。
するとその大穴は幅100m高さ10m程という巨大なサイズのまま奥へと繋がっている。
ほえ~、このだだっ広い空間が通路なのか。
そして会場となるのはこの広い通路空間の入口付近。
そこにはバトルスペースを取り囲む様に3列型の観客スタンドがダンジョン入口に口を開けたコの字型に三面設置され奥側に2基設置された照明設備で十分な明るさが保たれていた。
また各スタンドの背部には観客用に大きな電光掲示板とデジタル時計が設置されこれなら前回の様な討伐タイムが確認出来ないというトラブルも起こらない。
そんな随分と広くなった会場に一同は目を丸くしていた。
ひゅ~、警備の探索者さんも前よりずっと多いな。
職員に声を掛け出場者待機席区画まで来ると最後列のベンチシートに「ナイスキャッチ様」と書かれた五人分の着席スペースを発見。
女性陣を先に行かせた賢斗は最後に一番端の通路側に腰を下ろした。
「はい賢斗ぉ、お好み焼き串ぃ~。」
「おっ、サンキュっ。」
「桜ぁ、お茶ないの~?モグモグ」
「ほいよぉ~。」
グビグビ、にしてもこれだけ広いと警備のプロ探索者の人も大変そうだな。
「賢斗ぉ、たこ焼きもあるよぉ~。」
お好み焼き串の次はたこ焼きか・・・
う~ん、粉ものばっかだな、まっ、好きだけど。
「おう、サンキュっ。」
ドヨドヨドヨ・・・おっ、一般のお客さんも入って来たなぁ。
「ここってどのくらい観客が入るんですか?」
「えっと予選チケットは会場毎に限定500枚の抽選販売ですから500人の筈ですよ。」
パク、モグモグ、見たい人はもっと居そうだけど、まっ、ダンジョン内じゃ仕方ないわな。
「ちなみにチケットは前列から3000円、2000円、1000円って感じですね。」
ほう、意外とリーズナブル。
「と言ってもネットのオークションとかだと優に10000円を超えちゃってましたけど。」
ハハ・・・でしょうね。
「ところで先輩、そういやスキル研の人達全然見掛けませんけど。」
「あら気付いちゃった?
とってもとっても残念なお話だけど他の皆は第2予選落ち。
でも私がしっかり慰めておいたから君が心配しなくても大丈夫よ。アハッ♪」
うむ、俺的にはこの人の慰め方の方が心配だ、パクッ、ゲフォッ、ゲフォッ、何これ辛いっ!
「おお♪やっと当たったぁ~。」
「ええ、私もワクワクが止まりませんでした。」
「「アハハハ~♪」」
「ゲフンゲフン、なっ、何だよっ、この滅茶苦茶辛いたこ焼きはっ!」
「ロシアンたこ焼きぃ~。」
「お店は私が発見しました。」
ふざけんなっ!
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○モンチャレ大会第3予選 その2○
午後2時45分、第3予選開始時刻が迫ると協会職員が出場者待機席区画までやって来た。
「予選順の1番から5番のパーティーは選手入場口前まで集合お願いしまーす。」
指示に従い5番目である賢斗達も席を立つ。
「じゃあみなさん、頑張って来て下さいねぇ。」
「ここから私も精一杯応援させて頂きます。ほら小太郎もっ。」
「あにきは遊びに行くのかにゃ?」
「おう、まっ、そんなとこだ。」
程無くスタンドから出た出場者達は中央スペースへと入る。
そして指示を受けた1組目のパーティーがバトルスペースへと進んで行くと観客が入る今回の予選では会場内に実況も流れ始めた。
『さあモンチャレ大会第3予選がいよいよ始まろうとしています。
本日1組目の挑戦者は前回の決勝大会第2位。
そして今回予選通過順位1位のパーティーソードダンス。
その名の通り剣士三人で構成されパーティーメンバーの平均レベルは13、リーダーの服部高貴君に至ってはレベル15というかなりの猛者であります。
一体どんな戦いを見せてくれるのでしょうかぁ。』
ちっ、どおりでどっかで見た顔だと思ったぜ。
此処へ来てようやく賢斗は先程受付に居た男が誰だったのかを思い出していた。
『そして今ぁ~、開始を告げるカウントダウンが始まりましたぁー。
8、7、・・・・2、1、ゼロォーッ!
おおっとぉ、召喚されたのはワイルドベア、オーク、ハーピーの3体だぁっ!』
バシュシュシュシュシュ―――ン、スタート開始と同時に彼等はその立ち位置のまま斬撃を放つ。
『っと早くもソードダンスのメンバー全員による無数の飛ぶ斬撃五月雨スラッシュが魔物に向かって行くぅ。』
ザザザザザザァ―――、そして連続したその斬撃はものの見事に魔物達を正確に捉える。
『これは凄いっ!まるで絨毯爆撃のような攻撃だっ。
どうだぁ?これは決まったかぁー!』
瞬殺とも言える数秒の出来事。
3体の魔物は既にその動きを止め討伐時の消滅現象が始まっていた。
『・・・っとけっちゃーくっ!レベル9の魔物3体をなんと瞬殺です。
討伐タイムは驚きの7秒56。
流石は予選第1位、その実力を如何なく発揮してくれましたぁー。』
ウォォォォーパチパチ~
ゴクリ・・・おいおい、7秒台とか凄すぎだろ。
相手が強くなってるのに更にタイムを縮めて来てるじゃねぇか。
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○モンチャレ大会第3予選 その3○
「それでは2番目のパーティーは中央に進んでくださーい。」
さて次はどんな魔物が召喚されますかね・・・
「おぅ、これはこれは多田のお坊ちゃまじゃありませんか。」
2組目のパーティーがバトルスペースへ進んで行くと入れ替わりで引き上げて来た一組目のリーダーが賢斗に声を掛ける。
ちっ、何話し掛けて来てんだよっ。
こっちはお友達になった覚えはねぇぞ。
「ん、その様子だと俺達のタイムに驚いて声も出ないって感じか?
ふっ、でもまあそう気落ちすんなって。
1年のお前がまだここに居るってだけで相当立派なもんなんだしよ。」
ああっ?なに俺達が第3予選で落ちる前提で話進めてんだっつの。
「あっ、そうだ、お前はお嬢のお気に入りみたいだしこの大会が終わってからならこの服部さん自ら剣術指導をしてやっても良いぞ。
魔法だけに頼りっきりの戦法じゃこれから先もこの第3予選の突破は無理だろうからな。」
「んなもん間に合ってるよ。」
「そうか、まっ、そう言うなら仕方ねぇ。
精々いい経験積んで帰ってくれ。」
ったく、言いたい放題好き勝手言いやがって・・・
『・・・っとけっちゃーくっ!討伐タイムは驚きの8秒56。
これまた優秀な討伐タイムでありますぅー。』
お蔭で2組目の魔物を確認できなかったじゃねぇか。
でもまああいつが舐めた口を利くのも分かるか。
魔法主体の戦法であと3秒も討伐タイムを縮めるのはかなり難しいだろう。
かと言って俺達が魔法を使わない戦法を取ったところで元々奴等と肩を並べられる様な実力は持ち合わせちゃいないからな。
そうこうしている内に予選は滞りなく進んで行く。
『・・・っとけっちゃーくっ!第3組の討伐タイムは驚きの9秒16。』
『・・・っとけっちゃーくっ!第4組の討伐タイムは9秒98。』
うわっ、4組目まで10秒切るのかよ。
決勝進出枠は10組、第3予選の会場が3か所に分けられている点を考えればこの時点で賢斗達も最低限10秒を切るタイムを出さなければ予選落ち濃厚なのが容易に想像できた。
「それでは5番目のパーティーは中央に進んでくださーい。」
ちっ、こりゃマジでヤバいかもな。
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○モンチャレ大会第3予選 その4○
いよいよ賢斗達の順番、スキル共有を済ませた彼等はバトルスペースへと歩いて行く。
「賢斗君、他はみんな10秒切っちゃってるけどホントにサンダーストーム威力マシマシ作戦で良いの?」
「まあ現状最大のパフォーマンスを発揮する手段はアレ以外無いと思いますからね。
雷魔法のレベルアップと身体レベルのアップで上手く行けば俺達にだって10秒を切るタイムが可能な筈です。」
まっ、検証時間も無かったしブッツケ本番も良いとこだけど。
「ふ~ん、大分リーダーらしくなったわね。」
「そっすか?」
「うんうん、ダメだった時に全部責任を背負ってくれそうなオーラが良い感じに出て来てるわよ。」
いやいやそんなオーラ微塵も出して無いっつの、ったく。
「うっわぁ~な~んか盛り上がって来たねぇ~、賢斗ぉ~。」
「ふっ、だな。」
にしても結構な大舞台だと思うんだが・・・
普段の彼ならこういった場面緊張してしまうのが常である。
しかし今不思議と緊張していない自分に改めて気付く。
所定の位置に辿り着いた彼は両脇に居る二人の顔を見てその口角を僅かに上げていた。
まっ、やるだけやってみますか。ニヤリ
『さぁ~本日前半戦最後となる5組目のパーティーの登場です。
本大会初参加となるそのパーティーの名はナイスキャッチ。
巷では全メンバーが攻撃魔法を使う成金パーティー美少女付き等と呼ばれたりしてますが・・・』
えっ、何、この実況・・・ホントにそんな風に言われてんのか?
『その実力は範囲魔法まで使いこなす本格派、単なる成金ではありません。』
おいおい、それはちょっと酷いだろっ。
『果たしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうかぁ。』
ったく、一体どの面下げてこんな実況してやがんだっ!チラッ
賢斗が実況席に鋭い視線を飛ばすと実況者の隣に座る人差し指と中指をパチパチしている女性の姿が否が応にも目に入る。
なっ、くそっ、あのアマァ・・・
『そして今開始を告げるカウントダウンが始まりましたぁ。
8、7、・・・・2,1,ゼロォーッ!』
彼が実況席を睨み付けていようがお構いなしに魔物は召喚される。
『召喚されたのはワイルドベア1体とハーピーの2体だぁ。』
「「「サンダーストーム・アンリミテッド。ビリッバリバリッビッビッビィィィィ~」」」
『おっとこれは凄いっ!3人同時にサンダーストームを放ったぁー。』
ヒュ~、あっぶねぇ、危うく実況席に雷魔法を放つとこだったぜ。
放たれた雷嵐が合わさった途端その電撃は激しさを増し3体の魔物を見事その威力の範囲に捉える。
『うぉおおおっ直撃ぃっ!これは凄いっ、何と威力が増幅されている様だぁっ!
どうだぁ?これで決まったかぁー!』
数秒の後魔物の姿は完全に消失。
そこには未だ残り香の様な放電現象が残されていた。バチバチィッ、バチィッ、
『・・・っとけっちゃーくっ!
何という凄まじい威力っ!
討伐タイムは驚きの8秒41でぇすっ!ウォォォォー』
おや、気付けばかなりの好タイム。
『この会場ではソードダンスに次ぐ第2位のタイムです。
いや~これは本当にお見事でしたぁー。パチパチ~』
これはきっと俺の怒りのパワーが・・・ってそんな事無いわな、うん。
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○モンチャレ大会第3予選 その5○
予選を終えた賢斗達は出場者待機区画へと戻った。
そして気になる予選結果は予選終了後各会場の結果も集計され直ぐに発表されるとの事。
待つと言っても1時間程なので賢斗達は帰らずそのまま後半の予選を観戦する事にした。
『・・・っとけっちゃーくっ!第6組の討伐タイムは驚きの11秒16。』
モグモグ
『・・・っとけっちゃーくっ!第7組の討伐タイムは12秒98。』
モグモグ
『・・・っとけっちゃーくっ!第8組の討伐タイムは15秒28。』
通過順位が下の後半は特に見どころも無く進んだ。
『越前ダンジョン第3予選の参加者すべての挑戦がこれにてすべて終了しましたー。』
ふむ、ダークホースは居なかったのは実に喜ばしい、モグモグ
『予選結果の集計には10分ほど掛かりますので、そのままお待ちください。』
まっ、他の会場もあるがこの会場で第2位の成績なら問題なさそうだな。
そしてしばらく待っていると結果発表のお時間。
『それでは発表します。
第3予選第1位通過は討伐タイム7秒56、ソードダンスだぁっ!ウォォォォーパチパチ~』
ちっ、結局あいつらがトップか。
『続きまして通過第2位は討伐タイム8秒05、シュヤリーズぅっ!』
あっ、これは他の会場のパーティーか。
『続いて通過第3位は討伐タイム8秒27でガンマニアッ!』
これまた他の会場。
でもタイム的には次あたり俺達が呼ばれても・・・
『続きまして通過第4位は討伐タイム8秒41、ナイスキャッチぃっ!ウォォォォーパチパチ~』
おっ、やったね♪
「賢斗君、やったやったぁ、決勝進出よぉ~♪
これも私達皆が一丸となって頑張った成果よね。」
まっ、そうだけど今の台詞をダメだった時の責任を全部俺に押し付けようとしていたさっきのアンタに聞かせてやりたい。
「やったぁ賢斗ぉ~、また祝勝会開こぉ~。」
「それなら今回はもう予選通過のご褒美予算を貰って来てありますよぉ。
帰りに好きなもの食べさせるようにって先生から。」
なんとっ!また特上生が食えるのか。
「じゃあまた帰りに出店に行っちゃおぉ~♪」
待て待て、折角の機会なのに何で露店で買い食いなんだ?
「そうねぇ、昼間は回りきれなかったしそれもいいかも知れないわねぇ♪」
何でそうなる?
「私もああいう物はあまり食べた事が無いので嬉しいです♪」
なっ、お嬢様まで・・・しかしどうする?
この状況で仮に俺が特上生などと言い出せば他人の奢りだとついつい高いものを思い浮かべるさもしい人間に・・・
「多田さんは何か希望はありますか?」
う~む、何か打つ手はないのか?
「できたら粉もの以外でお願いします。」
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○モンチャレ大会第3予選 その6○
午後18時、露店巡りを終えた賢斗達は駐車場の車に乗り込み帰路に就く。
と言ってもこの季節のこの時間まだ外は明るく見通しの良い海岸沿いには人気も多い。
転移使用をしばらく諦めた彼等は空腹も手伝い車中で先程買って来た露店の品を広げ祝勝会・・・
「「「「第3予選突破にかんぱぁ~いっ!」」」」」
という名の普通の夕食タイムを始める。
よしっ、先ずはコイツから行こう。
賢斗が購入したのは海老串焼き、フランクフルト、焼きトウモロコシの3品。
その中から海老串焼きを手に取り口に頬張る。
モグモグ、うむ、流石浜焼き、潮の香りを感じるな、美味いっ!
さて次はフランクフルトにするか。
と、そんな彼の隣では円が巾着の口を広げ小太郎に話しかけている。
「小太郎そろそろ起きて下さい。
お前も夕ご飯ですよぉ~。」
顔を出した子猫は目を擦りながら大きなあくびを一つ。
「ふぁ~あ、腹減ったにゃ。」
う~ん、これが惰眠をむさぼる猫か。
円の膝の上に置かれた小太郎は嬉しそうにキャットフードを食べ始めた。
へぇ、飯時だけか知らんがちゃんと円ちゃんにも懐いて来てるじゃん。
などと見ていると子猫はその食事を一時中断しスンスンと鼻が動かし始める。
そしてキョロキョロと周囲を窺っていたその視線は賢斗の右手で止まった。
「あにきぃ、おいらもそれが食べたいにゃ。」
ったく、ホントにこいつまだ生後2、3カ月か?
あれこれ何でも食べたがりやがって。
賢斗はキャットフードの小皿に食べ掛けのフランクフルトを置いてやる。
「二パッ、流石あにきだにゃっ。」
すると子猫の顔は嬉しそうなアホ面に変わる。
っとにこういう時一番良い顔するんだよなぁ、こいつ。
「どうも済みません、賢斗さん。」
「平気平気、まだ焼きトウモロコシも買って来てあるし。」
と今度は焼きトウモロコシを袋から取り出す賢斗、車中には香ばしい香りが広がる。
おお美味そう・・・ん、チラッ
ふと視線を感じた賢斗が目をやると口元をケチャップまみれにした小太郎が彼の手にある焼きトウモロコシを雷にでも撃たれたようなショック顔で凝視していた。
スゥ~、賢斗はその手をスライドさせてみる。
クルゥ~、すると子猫の顔はそれを見事に追い掛ける。
スゥ~、クルゥ~、スゥ~、クルゥ~、ぷっ、何これ面白い。
左右に焼きトウモロコシを動かし小太郎の反応を楽しむ賢斗。
しかしその娯楽は直ぐに終焉を迎えた。
スゥ~、クルゥ~、ガシッ、あっ、くそっ、こいつ。
「離せっ、小太郎。」
「捕えた獲物は離さないにゃ。」
「賢斗君、それは君が悪いわよ。
その焼きとうもろこしはもう諦めて小太郎に上げちゃいなさい。」
「ちっ、フン、おまえ子猫の癖にそんなのばっか食って腹壊しても知らないぞっ。」
「余計なお世話だにゃ~♪」
ったく、こっちはまだ全然腹が膨れてないってのに。
「じゃあ賢斗ぉ~、代わりにこれ上げるぅ~。」
おっ、たこ焼きか、流石は先生。
パクッ、モグモグ、って辛っ!ゲフォゲフォッ
「桜ぁ、またロシアンかよっ!」
「アハハ~、でも今度は生き地獄バージョンだから殆ど辛い奴だよぉ~。」
余計性質が悪いわっ!
夕日が沈む海岸線の道を賑やかな一台のワゴン車が走り去って行った。
次回、第四十八話 ルンルン気分。