第四十六話 神出鬼没の受付嬢
○第3予選の最終調整 その1○
5月24日金曜日午後4時15分。
ダンジョン活動出発前、賢斗達は拠点部屋にてミーティングを開いていた。
もう既に第3予選での作戦は雷魔法の重ね掛けで行く。
またこれから予選までの期間は各自身体レベルの強化に時間を使う方針というところまではすんなり決定。
そして今は昨日椿から貰った3本のMP回復ポーションの配分について四人で話し合っていた。
「私の分は要りませんよ、賢斗さん。
私の土魔法はまだレベル3ですしMP回復ポーションなんて無くても困りません。
皆さん予選前ですからそれを使って存分に訓練に励んでください。」
「私の分も賢斗君が使っていいわよ。
予選の作戦を考えたら賢斗君の雷魔法を優先して上げるべきだと思うし。」
「私のも賢斗が使って良いよぉ~。」
「えっ、三人とも良いの?」
「はい、勿論です。」
「それ使って少しでも君の雷魔法のレベルを上げておいてね。」
「賢斗はいっつも転移でMPが足りないとか言って、ぶぅたれてるもんね~。」
いや別にぶぅたれちゃいねぇよ・・・
が、まあいっつもMP切れ起こしてるのは俺だけ。
となればここはみんなの気持ちに応えて大事に使わせて頂くとしよう、うん。
「そっか、みんな悪いな。」
そして彼等には出発前にもう一つ確認しておくべき事がある。
ベージュ色の部屋の壁にはとっても目立つ黒い風呂敷。
その裏側で身を隠したつもりになっている子猫に賢斗は声を掛けた。
「なあ、小太郎。」
ビクッ、一瞬風呂敷が揺れたが音沙汰はない。
仕方なく歩み寄ると賢斗はその首根っこを摘まみ上げる。
「にゃっ!なぜ分かったにゃ。」
「うん、隠れ身の術ってのは壁と同じ色の風呂敷を使った方が良いと思うぞ、小太郎。」
まあ同色にしたところで見れば直ぐに分るけど。
「にゃっ!流石あにきにゃ。」
「あったり前だろぉ?
まっ、それはそうとお前のステータスをちょっと確認させてくれ。」
「勝手にするにゃ。」
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名前:小太郎 0歳(0.2m 0.6kg)
種族:ペルシャ猫
レベル:1(1%)
HP 3/3
SM 3/3
MP 1/1
STR : 1
VIT : 1
INT : 1
MND : 1
AGI : 2
DEX : 1
LUK : 3
CHA : 6
【スキル】
『九死一生LV4(11%)』
『ジャイアントキリングLV3(5%)』
『忍術LV1(34%)』
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おっ、忍術、やっぱりあったか。
まっ、今はそれは置いとくとして。
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『ジャイアントキリングLV3(5%)』
種類 :パッシブ
効果 :自身よりレベルの高い敵を倒すと、取得経験値がレベル差×6%加算される。
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よしよし、レベル3まで上がってくれてる。
となるとその効果はレベル差×6%の加算、今日の殲滅対象からして獲得経験値は18%上乗せされるってとこか。
最後に小太郎のジャイアントキリングのスキルレベルを確認すると賢斗達は清川ダンジョンへと向かった。
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○第3予選の最終調整 その2○
さてやって来たのは清川ダンジョン2階層の大部屋。
中に入れば育成が完了しているレベル10のブルースライム達が10体お出迎えといった状況。
賢斗達にとってはまだまだ強敵と言えるこの魔物達を相手に今回の予選対策はその最終調整段階に入る。
「じゃあ先ずは桜と円ちゃんの二人でいってみてくれ。」
前回よりスライムのレベルが一つ上がった今回桜の火魔法であっても一撃殲滅は厳しいと予想。
また作戦はほぼ決定しているが各自の魔法の相性確認も兼ね賢斗はこんな指示を出した。
「ほ~い、ファイアーストーム・アンリミテッドッ!ボォファボォファボォファボォファ・・・・」
桜が火魔法を放つが彼の予想通りそれを殲滅するには至らない。
するとそこへ円が土魔法の石弾を放つ。
「ストーンバレット・アンリミテッド。シュッ、ドゴッ」
火魔法と土魔法に特に相乗効果の様なモノは生じていない。
しかし互いに干渉しないこの2つの魔法の相性自体悪くは無い。
結果この二人掛かりの魔法攻撃によりレベル10のスライムを殲滅する事に成功していた。
まっ、想定内の結果だな。
「それじゃあ次は俺と先輩で。
あっ、そうだ、先輩、今回は水魔法で行ってみて貰えます?
水と電気って何か相性も良さそうですし。」
「確かにねぇ、風魔法の相性はある程度もう分かってるし、うん、了解よ。」
「サンダーストーム・アンリミテッド。ビリッバリバリッビッビッビィィィィ~」
と先ずは賢斗が雷魔法を放つ。
しかし当然ここで倒し切る事は叶わず、スライム達は感電状態。
「ウォーターボール・アンリミテッド。ヒュ~、パシャーン」
そこへかおるがその1体に水球を放つとあら不思議・・・
そのスライムの感電状態が解除されてしまっていた。
あれ、水と電気は相性が良いと思ったんだけど・・・
「そう言えばよく水に濡れて感電したなんて話があるけど全く不純物を含まない水は絶縁体に近いって聞いた事があるわよ。
魔法で生成された水がどうなのかは分からなかったけど結果が全てを物語っているわねぇ。」
意外と雷魔法と水魔法は意外に相性悪かったんだな。
「あっ、そういう事っすか。」
事前に確認して良かった。
そんな会話をしつつもかおるはまだ感電状態のスライムに接近し至近距離で弓による急所攻撃を放ち3体を仕留めた。
残る感電状態が解除された個体には賢斗がサンダーランスを放つとそちら無事討伐完了。
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル8になりました。』
おっ、雷魔法ではないがこれはこれでよしよし。
これも小太郎さんのお蔭ですなぁ。
つってもお世話になってる感が今一ピンと来ないけど。
確かに経験値の獲得というのは体感できるものでは無い。
しかしレベルというのは上がる程にその必要経験値も上昇し次第に上がり辛くなっていく。
そしてレベル8といえばもう既に高三の上位レベルであり彼がここまでノンストレスでレベルアップ出来ているのは間違いなく小太郎のジャイアントキリングのお蔭でもあった。
グビグビ、にしても苦いなこれ。
今度椿さんに味の改善を提案しよう、うん。
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○第3予選当日 その1○
2日経った5月26日日曜日午前7時。
日付は第3予選日を迎え賢斗達は拠点部屋でその出発を待っていた。
「トントンガチャリ、おはようございます皆さん。
調子はどうかしら?」
姿を現したのは中川と水島の二人。
「はい、まあなんとか。」
「皆さん、聞きましたよぉ、もうレベル8になってるって。」
「ええ、まあ、円ちゃん以外は。」
「ここに来たときはまだレベル4だったのに半月で4つもレベルを上げるとか、私ホントにビックリですよぉ。」
「あっ、有難うございます。」
ふっ、まっ、これでも皆で色々頑張ってるし。
「レベル10になれば探索者協会の依頼の最低レベル条件もクリアしますしこの調子で頑張って下さいね。」
でも頑張り過ぎは良くない。
時には立ち止まる事も大事だと何処かで聞いた事がある、うんうん。
「それより光そろそろ時間よ。
私はついて行けないけど三人とも精一杯頑張って来て頂戴ね。」
「「「はい。」」」
この2日間で賢斗の雷魔法はレベルが1つ上がりその際魔法の威力が10%上昇。
これなら予選で10秒を切るタイムも十分期待でき彼等の顔にはやれる事はやったという満足感が漂っていた。
あの様子なら大丈夫そうね、ウフッ
かれこれ5時間程経過すると車は越前ダンジョン付近を徐行して走っていた。
モンチャレ大会第3予選ともなればTV中継こそないが観客席が設けられ大勢の一般客が観戦する。
越前ダンジョン協会支部に近づいた沿道には出店が並びまるでお祭りの様な賑わいを見せていた。
午後12時30分、車はようやく探索者協会前の駐車場に到着。
予選開始が午後3時なので時間的にはまだまだ余裕といったところ。
うぉ~、やっと着いたかぁ。
500m程先の海岸線には砂丘が広がり潮風が香る。
振り返って協会支部の方に目をやれば、その横に幅100m程もある大穴が口を開き準備のスタッフ達が忙しなく出たり入ったりを繰り返していた。
あのデカい穴がダンジョン入口かぁ。
何かスケールが違うな。
「お腹空いたから何か買ってくるぅ~。」
「あっ、桜、私も行きます。」
「じゃあ私もついて行っちゃおうかなぁ。
賢斗君受付よろしくっ。」
へいへい。
「じゃあ桜、俺の昼飯も適当に買ってきといてくれ。」
賢斗は一人協会支部へと向かった。
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○驚愕の事実○
建物内に入ると受付窓口は2か所。
接客中の一方を避け賢斗が空いている窓口へ歩いて行くと・・・
「たっださ~ん。こっちこっち。」
ん、この声は?チラッ
「げっ、蛯名。」
こんな遠くの協会支部まで助っ人で派遣されて来たのか?
・・・こりゃ完全に油断してたわ。
「あ~呼び捨てダメですぅ。
蛯名っちです~。」
う~ん、相変わらず面倒臭い。
「ほらお前、お嬢が呼んだらちゃんとこっちで受付を済まさなきゃダメだろっ。」
身長185cm程の大男、蛯名の受付に居たその男の言い草は体格以上に威圧的であった。
何だ?コイツ。
上目使いで睨み付けていた賢斗だったがガッシリと両肩を押えられ敢え無く蛯名の受付へと連行されてしまった。
う~ん、この長いもみあげにゴリラ顔・・・なぁ~んかどっかで。
「あ~服部君、乱暴はダメですよぉ~。」
「分かってますってお嬢。なっ、相棒。」
一転、馴れ馴れしく賢斗の肩に手を回す服部。
誰が相棒だよっ!
直ぐ様それを引き剥がそうとする賢斗だったがその手はビクともしない。
ちっ、くそぉ、もうこうなりゃさっさと受付済ませちまうか。
「はいはい、じゃあ予選受付お願いしますね。」
「わっかりましたぁ~♪
それではナイスキャッチの予選順は5番目ですので頑張ってください。
私、最前列で旗をフリフリしちゃいます。」
よし、今回の蛯名っちは観客席で応援か。
それなら討伐タイムが見えない等という、ふざけたトラブルはないな。
「なにっ!ナイスキャッチってあの魔法ばっかりバンバン使ってる成金パーティーかっ?!」
あっ、やっぱりコイツ初対面じゃねぇか。
にしても酷い言われようだな、おい。
「服部君違いますぅ。
ナイスキャッチは美少女3人付きのハーレム成金パーティーですよぉ~。」
うぉいっ、火に油注いでんじゃねぇよ。
「あ~やっぱアレだなぁ~、クルッ、お前、ギルティー。」
うっせぇっ!
「見ず知らずのアンタなんかにそんな事言われる筋合いはねぇよ。」
「いや俺の事は服部さんと呼べ。
これでも年上だぞ。」
んなこたぁ今はどうでも良いだろっ。
「ほらほら二人ともケンカはダメですよぉ~。」
蛯名が睨みあう二人の仲裁に入ると・・・
「すいやせん、お嬢。
ほらっ、お前も頭下げろっ。」
「やだよっ。」
こっちは何も悪いことしてないのにっ。
「バカッ、お前、探索者生命終わっちまうぞっ。」
「えっ、なんでっ?!」
「お嬢はこれでも探索者協会会長のお孫さんだからなっ。」
うっ、嘘・・・なんという驚愕の事実。ソロリ
賢斗がゆっくり蛯名の方へと目をやれば、彼女はご機嫌の笑顔でVサイン。
パチパチとその指を開閉させていた。
「ブイッ!」
黙れっ!この神出鬼没の受付嬢っ!
次回、第四十七話 モンチャレ大会第3予選。




