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第四十五話 このタイムなら上出来だ

○入学から一か月半○


 5月21日火曜日、お昼休みの教室では高校生活にもかなり慣れた生徒達の笑い声が楽し気な光景を作り上げている。

 そんな中一人黙々と昼食を取る少年の下にこのクラスの委員長がやって来た。


「多田君、今週のみんなの探索予定のチェックお願いね。」


 白川は賢斗の食事を遮る様に探索予定用紙を眼前に突き出す。


 そんな目の前に出されちゃ逆に見え辛いっつの。

 んで、ふ~ん、今週は他の奴等全員一緒に緑山ダンジョンかぁ。

 となると鈴井水谷ペアと高橋との軋轢も少しは改善されてきたと・・・


「ん、もうチェック終わった。」


「うん、ありがと。」


「なぁ、これならいっそ委員長達のパーティーに鈴井水谷ペアを入れるというのはどうだ?

 そっちの方が委員長も何かと楽出来るしあの二人にとっても安全だろ。」


「うん、私もそう思って声を掛けたんだけど自分達には最強の隊長が後ろに控えてるからとか言われちゃって、それで今回のところはこういう形になってるの。

 多田君が思っている程簡単には行かないのよ、人間関係は。」


 そこまで言うと自分の席に戻って行く白川。


 なるほど、中々いい仕事してますな、委員長。

 ・・・で、その最強の隊長とは?モグモグ


 すると今度は彼女と入れ替わりで賑やかな男子生徒が現れる。


「ほら賢斗っちぃ、コイツを見てくれぇ~い。

 何と賢斗っちの偽物が載ってるっしょー。」


 ん、俺の偽物?モグモグ


 モリショーはページを開いた今週号の探索者マガジンを机の上に置いた。


 ほう、モンチャレ第2予選の特集記事か。

 おっ、今回の写真は見切れていないし俺と先輩の姿がさり気なくフレームの隅にお邪魔してる感じが・・・

 ふむ、これこれこの感じ、今回の記者は中々出来るな。ニヤリ


 つかこの写真は紛れもなく俺なんだが・・・


「同姓同名なんてホントビックリっしょー。」


「ああそうだな、世間って奴は広いな。」


 まっ、放っとこう、うん。モグモグ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○第3予選に向けて その1○


 モンチャレ予選の対策は実践を交えながら考えて行くのが賢斗達のスタイル。

 その為先週行っていたスライム1体のみを育成する方針は迫るモンチャレ第3予選を見据えまた元の全体育成に戻されていた。


 そしてその育成が完了した本日午後4時。

 清川ダンジョン3階層大部屋を訪れた賢斗達の前にはレベル9のブルースライム達が10体。

 個々の攻撃の威力検証といったところからその対策は始まる。


「それじゃあいくぞぉ。

 3,2、1、スタートッ!」


 賢斗の合図で隣の円はタイムウォッチをカチッ

 検証1番手の桜が火魔法を放つ。


「ファイアーストーム・アンリミテッドッ!ボォファボォファボォファボォファ・・・・」


 以前より火力の増した火嵐はレベル9のブルースライム3体を見事に霧散させた。


 おおっ、一撃で殲滅出来る様になったんだ。


「円ちゃん、タイムは?」


「15秒98です。」


 賢斗達が今第3予選突破の目途にしているのは10秒台前半といったところである。


 う~ん、でもタイムの方はちと厳しいな。


「桜ぁ、また火魔法の威力が上がったみたいだな。」


「うん、火魔法がレベル8になったから威力が20%アップしたんだよぉ~。」


 ほう、レベルアップ後半には威力上昇を図れたりするケースもあるのか。


 そして検証2番手は賢斗、雷魔法での挑戦である。


「よぉ~い、ドンッ!」


「サンダーストーム・アンリミテッド。ビリッバリバリッビッビッビィィィィ~」


 渦状の雷が瞬時にレベル9ブルースライム3体を包む。

 しかし殲滅する程の威力は無く魔物のHPはまだ半分弱残っていた。


 あ~、やっぱりダメだったか。

 とはいえ見た目は派手で結構カッコいいな。


 そして最後はかおる、彼女は3本の矢をつがえ準備に入った。


「先輩、ジェットストームにしないんですか?」


「うん、だってあれスライムと相性悪いでしょ。」


 確かにこっちの方が良いかもな。


「それじゃあ行きますよぉ、先輩。

 3,2、1、スタートッ!」


「ブリーズアロー。ヒュ~ンヒュ~ンヒュ~ン、グサァッ!」


 ブリーズアロー?


 風に乗った3本の矢がブルースライムへと飛んで行くとその1本が見事魔物の核を射止めた。


 おおっ、やった。


「次っ!ヒュ~ン、あれ、次っ!ヒュ~ン、ちょっとぉ。」


 しかし他2体を仕留めるのにはかなり手こずり最後には諦めてしまう始末。


 う~ん、あの急所攻撃が決まったのは偶々だったか。

 とはいえそよ風魔法を利用した矢の威力自体は悪くない。

 つっても予選の相手はスライム以上に素早い魔物が相手になるだろうし・・・


 一番威力が高い桜のファイアーストームでもタイム的には無理。

 到達速度だけはピカイチの俺のサンダーストーム。

 そしてその完成形には程遠い感じの先輩のブリーズアローによる急所攻撃かぁ。


 こりゃもう少し煮詰めて行かないとダメだな。


 検証を終えてみればどれを取っても物足りなさを感じざるを得ない結果。

 幾つか対策案が頭に浮かぶ賢斗であったが今それをするのは残MPが許さない。

 その後彼等は途中で他階層の瀕死処理を済ませつつダンジョン出口へと向かうのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○薬草採取とMP回復ポーション その1○


 入口付近にやって来るとそこには椿がコーヒー錬金に勤しんでいる。


「お姉ちゃ~ん。」


 彼女には第3予選対策を進める上で予想される賢斗のMP枯渇対応の為予め帰りの足を頼んでおいてあった。


「あら桜、もう終わったの?

 私の方もそろそろ終わりにしようと思っていた頃合いだから丁度よかったわ。」


「いやぁ、無理言ってすみません。」


「良いの良いの、ついでだし。

 あっ、そうだ、今日できたこれ、賢斗君ちょっと調べてみてくれる?」


 と椿に渡されたのは1本のポーション。


 あれ、回復ポーションってこんな色だったっけ?


~~~~~~~~~~~~~~

『MP回復ポーション』

説明 :飲むとMPがある程度回復する。

状態 :良好。

価値 :★

~~~~~~~~~~~~~~


「どうしたんですか?これ。

 MP回復ポーションじゃないですか。」


「あっ、ホント?

 それは昨日桜が持ってきた薬草の中に紫色の薬草が混じってたからそれを集めて作ってみたのよぉ。」


「じゃあその紫色の薬草はきっと魔力草だったのね。

 ダンジョンの1階層で魔力草が採取出来るとかちょっと耳を疑う感じだけどそこは流石桜ってとこかしら。」


「えへへ~、あそこの浮島にはまだまだ一杯あったよぉ~。」


 お~それならマジで新たな金策手段が確立できそうだな。

 つかこのMP回復ポーション俺にくれないかなぁ。


「よかったらそれ差し上げるわよ。

 賢斗君にはお世話になってるし。」


「えっ、良いんですか?」


「ほら、賢斗君が物欲しそうな顔してるから気を使わせちゃったじゃない。」


「そんな事無いわよ、かおるちゃん。

 私はスキル練習になって助かってるし、桜が薬草を採って来れるのは賢斗君やかおるちゃん達のお蔭でもあるでしょ。

 だからまた薬草採取にこの娘をどんどん連れていって頂戴。

 そしたらまた錬金で作ったポーションを提供してあげるわ。」


 おおっ、買えば10000円くらいはするMP回復ポーションを。


「ありがとう御座います。

 あっ、でも瓶代は払いますよ。」


「ああそうね、瓶代くらいは貰っておこうかしら、ふふ。」


 ・・・早速明日あたり採取して来ねば。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○採取スキルとMP回復ポーション その2○


 5月22日水曜日午前6時。

 今朝のダンジョン活動の場は緑山ダンジョン1階層にある湖の浮島。

 昨日の椿とのやり取りを踏まえより多くのMP回復ポーション獲得を目論んだ賢斗達はメンバー全員で採取スキルを取得しようとこの採取ポイントの穴場までやって来ていた。


「ほ~い、みぃ~けっ。」


 既に採取スキル所持者の桜がスポッと薬草を引き抜き採取して見せる。


 う~む、俺にはまだここの薬草は緑一面の雑草にしか見えないのだが。

 まっ、兎に角俺も早いとこスキルをゲットしちまおう。

 えっと、おっ、こいつが薬草か。


 採取スキル未取得状態ながらも賢斗は超感覚ドキドキにより薬草と雑草の違いを判別する。


 確か桜の話では最初は根っこの先まで丁寧に掘って採取しないとダメだとか言ってたな。


 そんなアドバイスを思い出しつつ1本の草を丁寧に抜き取ってみると・・・


『ピロリン。スキル『採取』を獲得しました。』


 ふぅ、スキルゲット完了・・・おっ。


 それまで雑草ばかりだと思っていた中に発光して見える植物がそこかしこに。

 スキルを取得してみれば周囲の景色に変化が現れていた。


 なるほど、これなら簡単に見分けがつく、ソレッ


 賢斗が桜と同じ手法で薬草の茎を掴んで引っ張るり上げると、スポッ


 おおっ、結構優秀だな、採取スキル。


 その後そのまま10分程採取作業を続けた賢斗が他の面々に集合を掛けると各々がレジ袋一杯の薬草を持っていた。


 おっ、皆も一杯採取したな。

 とはいえ俺の採取した薬草の中に紫色の薬草はまるで無いんだが・・・


「桜、ちょっとその袋の中見せてくれ。」


「あいよぉ~。」


 彼女の持つレジ袋の中の半分くらいは紫色の魔力草で埋められていた。

 一応かおると円の袋も確認してみたが結果は賢斗と変わらない。


 ふむ、つまり通常この穴場ポイントであっても魔力草は滅多に採取できない代物という事。


「やっぱ桜は凄ぇなぁ。」


 となるとそこまで大した金策手段って訳にも行かないか。


「まぁ~ねぇ~。」


 今後は先生に一任するのが一番。

 コイツには逆立ちしたって敵わないしな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○第3予選に向けて その2○


 午後4時、昨日に引き続き夕方の活動は清川ダンジョン3階層大部屋での第3予選対策。

 そしてその対策第1弾として今回試してみるのは火魔法三人共有によるファイアーストームの多重攻撃である。


 部屋に入り昨日残したレベル9個体を確認してみれば都合良く4個体が範囲魔法の効果範囲内に収まってくれている。

 その絶好のタイミングを逃すまいと賢斗は早速二人に合図を出す。


「皆っ、あそこに固まってる4個体だっ。

 今の内に直ぐ行くぞっ、3,2、1、スタートっ!」


「「「ファイアーストーム・アンリミテッド。ボォファボォファボォファボォファ・・・・」」」


 三人の声が重なると3つの火嵐が放たれる。

 そして目標付近で交わった火嵐は大きく広がり通常効果範囲外であった筈のスライム達をも燃やしていく。


 おおっ、一気に7体くらい殲滅したぞ。


「円ちゃん、今のタイムはどうだった?」


「はい、14秒87でした。」


 あれ、タイムの短縮は1秒程度か。

 もうちょっと縮まってると思ったんだけどなぁ。


 火魔法の攻撃力とはその燃焼温度で決まる。

 そしてそれを司っているのは燃焼物と酸素供給量。

 確かにファイアーストームを重ね掛けすれば燃焼物となる魔素量は増える。

 しかしもう一方の酸素供給量が変わらないのでは燃焼温度は左程上がらず酸素を求めその効果範囲が広がる現象が引き起こされるだけ。


 ふむ、そう考えるとこの結果にも納得出来るな。

 とはいえ俺的予想ボーダータイムである15秒は切ってるし何とか及第点ってとこか。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○採取スキルとMP回復ポーション その3○


 第3予選対策に区切りをつけた賢斗達は昨日と同様の流れで出口へ向かった。

 するとそこには今日も椿が待ってくれている。


「あっ、椿さん、今日も有難う御座います。

 それでこれ、今朝採って来た薬草なんですけど。

 あとこっちの袋にはポーション瓶が入ってます。」


「ふふ、凄い量ねぇ。

 嬉しいけどちょっと時間が掛かっちゃいそうだわ。

 でもこうなったら頑張るしかないわね。

 MP回復ポーションの方を早めに欲しいんだっけ?」


「あっ、はい、あと回復草の方は椿さんの作業報酬って事で自由にしてください。」


 回復魔法もあるし、MP回復ポーションがあれば取り敢えずは何とでも出来るしな。


「まあ嬉しい、じゃあMP回復ポーションの方は任せといて、明日中に何とかして見せるから。」


「はい、宜しくお願いします。」


 まっ、桜しか魔力草をゲット出来ない以上金策手段にはなりそうにないが、MP回復ポーションの供給経路が確立できただけでも有り難い、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○第3予選に向けて その3○


 5月23日木曜日午後4時、清川ダンジョン1階層の大部屋には新たに育成が完了したスライム達がズラリ。

 昨日のファイアーストームの重ね掛け検証はあくまで及第点。

 更なる結果を求め今日の賢斗達はサンダーストームの多重攻撃を検証していく。


「それじゃあいくそぉ、3,2、1、スタートッ!」


「「「サンダーストーム・アンリミテッド。ビリッバリバリッビッビッビィィィィ~」」」


バチバチバチィィィィ~ッ!


 雷魔法・・・それは即ち電力の塊。

 3つのサンダーストームが交わればその電力は単純に3倍。

 攻撃力がそのまま正比例で跳ね上がる事は無いが雷系魔法の重ね掛けは攻撃力の増幅に直結。


 生み出された結果は明らかにファイアーストームのそれとは違っていた。


 凄かったな、今の。


 しばし言葉を失う四人。


「円ちゃん、タイムは?」


 賢斗がボソリと口にした。


「あっ、はい、10秒78ですよ、賢斗さん。」


「うぉ~、やったぁ~。」


「凄いタイムが出たじゃない。」


「これなら第3予選突破も夢じゃないよねぇ~?賢斗ぉ~。」


「ああ、このタイムなら上出来だ。」

次回、第四十六話 神出鬼没の受付嬢。

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