第四十四話 ミサイルフィッシュにご用心
○ミサイルフィッシュにご用心 その1○
午後3時、クラス合同探索を終えた賢斗はそのままクローバーへと向かい拠点部屋のドアを開ける。
さてちょっと待たせちまったかな。ガチャリ
しかし部屋に入ってみると三人の姿はなく、黒い忍び装束姿の小太郎がテーブルの上からムササビの術の練習をしていた。
トンッ、スッ、コテ
「にゃっ、何だあにきか、ノックくらいするにゃ。」
「ああ悪い悪い、で、何やってんだ?小太郎。」
「こっ、これはあのメスの部屋の窓から脱出する為に密かに・・・にゃっ!内緒だにゃ。」
・・・はいはい。
にしても良くできてんなぁ、こいつの忍者服と風呂敷。
「ところで小太郎、みんながどこ行ったか知ってるか?」
「興味ないにゃ。」
ふ~ん、ま、いっか、念話すりゃ良いだけだし。
(お~い、桜ぁ、今どこだ?)
(あっ、賢斗ぉ~、只今お菓子の買い出し中ぅ~。)
なぁ~んだ、それなら直ぐ戻って来るな。
としばらく待っていると・・・
「たっだいまぁ~。」
「おう、お帰り。」
「結構遅かったのね、賢斗君。
お昼に終わる予定だって言ってたのに。」
「ええ、まあ何か、神社の本殿の裏にできてたスズメバチの巣の駆除を頼まれちゃって。」
「へぇ~、賢斗君にそんなボランティア精神があったとは。
さては頼んだ相手が可愛い女の子だったりして・・・あっ、これは失敬失敬。」
何だろう、この失礼極まりない言葉に反論できない不思議。
「あららぁ、小太郎、巾着から出ちゃったんですかぁ。
いけない子ですねぇ、もう。」
円は壁に掛かっていた大きく白字で「忍」と書かれた焦げ茶色の巾着を手に取ると小太郎の首根っこを摘まみ上げその中に入れた。
家だとこんな感じなのか・・・
死んだ魚のような目でされるがままの小太郎。
再び壁に掛けられた巾着を見ればまるでミノムシの様に首を出し放心している子猫の姿。
頑張れ、小太郎。
「円ちゃん、その巾着と小太郎の衣装はどうしたの?」
「はい、これは賢斗さんが居ない間に私がデザインしてかおるさんに作って頂きました。」
ほう、あの見事なお忍びセットは円ちゃんと先輩の合作か。
にしてもこのご主人様は小太郎を忍者猫にでも育てるつもりかねぇ。
「先輩、裁縫得意だったんすねぇ。」
「あ~これはこの間円のグローブを作る時に裁縫スキルを取ったからよ。
元々好きではあったけどここまで上手くは無かったわ。」
そういやあのグローブの出来もかなりのモノだったしなぁ。
「あっ、そうだ桜、これ椿さんに渡しておいてくれ。」
賢斗は思い出したように、お裾分けで貰った回復草を手渡す。
「なにこれぇ~?」
「それはポーションの原材料になる薬草で名前は回復草。
まっ、ポーション1本作るのに10個必要みたいだけど椿さんの錬金練習用にでもって思ってな。」
「そっかぁ~、でもそれならあと9個採って来ないとダメじゃ~ん。
1個じゃ意味ないしぃ~。」
「むっ、でもスキルが無いと薬草採取も結構大変みたいだぞ。」
「じゃあその採取スキルを取得するとこから始めなきゃだねぇ~。」
いや、何もそこまで・・・
「うふっ、それ良いわね。
桜が採取なんかしたら凄く価値のある薬草が採取できたりするかもよ。」
あっ、確かに肝心な事を忘れてた。
うちの先生の手に掛かれば採取の際にも何かが・・・
ふっ、これは新たな金策手段が見えて来たかもしれないぞっ!
「よしっ、それなら直ぐ行こう。
今日の俺達の活動場所は緑山ダンジョンだ。」
「「「お~♪」」」
「では賢斗さん、これを。」
円は小太郎入り巾着袋を賢斗の首に掛けた。
「えっ、何、これ?」
「ダンジョンに行く時は賢斗さんに小太郎の面倒を見て頂こうと思いまして。」
「賢斗の傍が一番安全だしねぇ~。」
「うん、良く似合ってるわよ、賢斗君。
その巾着の色も君のその装備に態々合わせたんだから。」
何だろう、このさも当然といった空気。
近接戦闘の多い俺の近くがこの中では一番小太郎を危険に晒す気もするんだが・・・ん?
ゴソゴソ、スリスリ・・・
「あっ、あにきぃ、おいらを見捨てちゃダメだにゃ。」
「馬鹿だなぁ、別に嫌だなんて一言も言って無いだろぉ?」
ったく・・・甘えた子猫の可愛さって奴は反則級だな。
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○ミサイルフィッシュにご用心 その2○
午後4時、緑山神社。
人目に付かない様一旦雑木林の茂みの中へ転移して来た賢斗達はそこから緑山ダンジョン協会支部のある社務所の方へ向かった。
「あっ、おみくじあるよぉ~、円ちゃん。」
ふっ、そんなの桜が引いても結果は分かり切ってるだろ。
「ねぇ、賢斗君、この破魔矢ってホントに効果があるのかしら?」
「あっ、それなら・・・」
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『破魔矢』
説明 :ひのき製の矢。聖属性(弱)。ATK+2。
状態 :10/10
価値 :★
用途 :武器。
~~~~~~~~~~~~~~
「・・・って感じっすよ。」
「へぇ~、属性付与の矢なんて珍しいわねぇ。
2、3本買って行こうかな。」
三人が店先を物色する中、賢斗は一人侵入申請を済ませに行った。
その後ダンジョンに入った彼等は賢斗が午前中にも訪れた採取ポイントを目指し歩いていく。
「ねぇ、賢斗君、また同じとこに行っても薬草はあんまり採取できないんじゃないの?」
確かになぁ、そんなに時間も開いてないし他にも結構人が・・・
つか緑山はこの辺じゃ人気のダンジョン。
こんな時間から来たって良い採取ポイントが都合良く残ってる筈が・・・
「アハハ~そうっすねぇ、よくよく考えたら今日はもうダメかも知れません。」
オマケに今日は休日と来とる・・・うん、勢いだけで決めた時には良くある事だな。
「ちょっとぉ、賢斗君、何よそれ。」
いやいや、皆さんもノリノリだったしこれは連帯責任でしょ。
「どっか穴場はないのぉ~?賢斗ぉ~。」
う~む、穴場って言われてもなぁ・・・よし。
パーフェクトマッピングでもフィールドに生えた草までは流石に判別されない。
少し思案した賢斗は超感覚ドキドキで穴場を探してみる事を思いつく。
「じゃあ先ずは桜を残した皆でハイテンションタイムを消化してみよう。
そうすりゃ穴場って奴が残ってるか直ぐに分かるだろぉ?」
「仕方ないわねぇ、じゃあ賢斗君、まずはあの遠くに見える湖まで移動しましょ。
あそこなら周りを気にせず攻撃魔法を放てそうだし。」
かおるの言う湖ポイントは何故かその周辺に人影も無くまさに彼等がハイテンションタイムを消化するには打ってつけ。
その上多少距離はあるが視認でき、短距離転移を使えば簡単に移動が出来る場所であった。
確かにあの場所はいい感じだな。
湖のほとりに移動した四人は早速スキルを共有、採取スキル取得が目的の桜を除く面々のハイテンションタイムが始まる。
ちなみにこの四人のスキル共有の輪にはパーティーメンバーとなって以降何時も小太郎が交ぜられる様になっている。
子猫がそれを上手く活かせるのかには疑問が残るところだが、これは一方的に利用する形を良しとしない賢斗達なりの配慮の結果でもあった。
そしてそんなスキル共有の際巾着から出された小太郎だが、今回は事が済むとそのまま賢斗の肩にしがみ付いてしまっていた。
う~ん、まっ、別にいっか、邪魔って程でもないし。
ドキドキジェット、発動っ。
「サンダーランス・アンリミテッド。ビリビリビリビリィー・・・・」
「みゃぁぁぁっ!」
魔法を放った瞬間、驚いた小太郎が賢斗の肩から上方へジャンプ。
『ピロリン。スキル『雷魔法』がレベル5になりました。『サンダーストーム』を獲得しました。』
おっ、やっと来ました範囲魔法っ!
一人喜びに浸っていると・・・プカ、プカ、プカ、プカァ~
上方から風呂敷を広げた小太郎がゆっくり目の前を通過していく。
う~~~ん、コイツも遂に習得しやがったのか。
「あにきぃ、あんまりビックリさせないでくれにゃ。」
「お、おう、悪ぃ悪ぃ。」
っと、それどころじゃなかった。
賢斗は超感覚ドキドキを発動すると薬草の群生ポイントを探してみる。
おっ、かなり近い。
でもどうすっかなぁ・・・これって湖に浮いてる島だろ?
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○ミサイルフィッシュにご用心 その3○
「桜ぁ、一応今採取できそうな薬草の群生ポイントが見つかったぞ。」
「お~さっすが賢斗ぉ~。」
「でもさぁ、場所があそこに見える湖の浮島なんだよ。
帰り分の残MPを考えると今ここで短距離転移を使うのはなぁ・・・」
「じゃあダメなのぉ~?。」
「まあ水面ダッシュを使えば桜一人くらいは何とかってとこだけど。」
「なら桜と賢斗君だけで行って来なさいな。
私と円はここで少しくらい待ってるし。」
「じゃあその間は小太郎を私が。
さあこっちにいらっしゃい、小太郎。」
円の呼び掛けると小太郎は自分から巾着の中に潜り込んだ。
「あにきはおいらを見捨てたりしないにゃ。」
巾着から顔を出す子猫は不安げな表情で訴えかける。
ふむ、別に見捨てたりするつもりは無いが・・・
「悪い、小太郎。
湖に落ちたりすると危ないし、大人しく円ちゃんの下で待っててくれ。」
賢斗は躊躇なく巾着を首から外すと円に渡した。
「あっ、あにきぃー。」
・・・許せ小太郎、これもお前の為だ。
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○ミサイルフィッシュにご用心 その4○
スキル共有の残り効果時間はあと半分程。
桜を抱っこした賢斗は早速湖中央にある浮島に向かう事にする。
「じゃあ桜、急いで浮き島に渡るぞ。」
「おっけぇ~。」
パシャパシャパシャパシャ・・・
水面へと駆け出すと浮島までは凡そ500mといったところ。
順調に見えるその道のりだが100m程行ったところで桜が賢斗の首に手を回して来た。
ん、何するつもりだこいつ?
フゥ~フゥ~フゥ~
「ちょっと桜、こんな時に耳に息を吹き掛けないでくれ。」
「キャハハ~、賢斗ぉ~くすぐったい~?ねぇ。フゥ~フゥ~」
ちっ、こいつ俺が身動きできないのを良い事に・・・
サッ、サッ
賢斗は首の動きだけで何とか桜の吐息攻撃を避けて見せる。
フゥ~フゥ~、サッ、サッ
「賢斗ぉ~、避けちゃダメ~。」
何でだよっ!
彼女の顔を窺えば口をタコの様に突き出し賢斗を睨み付けていた。
こんな顔してても愛くるしいとは、美少女ってのは随分お得な生き物だな。
とはいえ水上を全力疾走してる今、コイツのお遊びに付き合ってる場合ではない。
「うぅぅぅ~。」
っておいおい今度は威嚇か?この小っちゃい猛獣め。
パシャパシャパシャパシャ・・・
フゥッフゥッフゥッ
スピードアップとは小癪な・・・負けるかっ。サッサッサッ
と全力疾走の最中、二人でじゃれ合っている時だった。
ドカッ
「うっ、痛てっ!」
賢斗の背中に痛みが走る。
「きゃあ。」
前方へと転倒しそうになると懐の少女が小さな悲鳴を上げる。
危うい態勢を何とか立て直すと賢斗は後方を振り返った。
何あれ?
そこには20を超える湖面に浮かんだ黒い影。
じゃれ合っていた彼の周囲警戒は疎かになってしまっていた。
ったく、だから言わんこっちゃない。
足を止めればダッシュスキルの効果が切れ水中に落ちてしまう。
また両手の塞がったこの状況では迎撃も不可能。
そして目的の浮島まではあと50m。
もうこうなったら・・・
少女の顔を胸元に押し付けしっかり抱きしめる。
その力強い抱擁に抗う術を持たない少女は「う~う~」ともがき声を上げた。
今は緊急事態、ちっとばかし我慢してくれ。
シュンシュンシュンシュン・・・
音速ダッシュを発動するとそのスピードは後方の魔物達を一瞬で置き去りにした。
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○ミサイルフィッシュにご用心 その5○
ふぅ~、始めっからこうすりゃ良かった。
浮島に辿り着いた賢斗はようやくほっと一息。
バシャッ、バシャッ・・・
しかしまだ先程の魔物達の追跡を振り切れてはいなかった。
賢斗の後を追う様に水面から飛び出して来る細長い魔物。
なっ、しつこい奴等め。
「サンダーボール・アンリミテッド・ディカプル。ビリビリビリィ~」
ボト、ボト、ボト・・・
ったく、この魚の魔物がさっきの攻撃の正体か。
にしても岸に上がっても攻撃してくるとか・・・
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名前:ミサイルフィッシュ
種族:魔物
レベル:1(22%)
HP 2/2
SM 3/3
MP 1/1
STR : 8
VIT : 1
INT : 1
MND : 1
AGI : 7
DEX : 1
LUK : 1
CHA : 1
【スキル】
『魚雷ミサイルLV1(23%)』
【属性】
なし
【弱属性】
なし
【ドロップ】
なし
【レアドロップ】
なし
~~~~~~~~~~~~~~
ふ~ん、レベル1でSTR値がこんなに、そりゃ結構な痛みがある訳だ。
それにAGI値も・・・
ここの1階層は虫系と植物系しか出ない初心者向けって話だったけど、まさかこんな厄介な魚がいるとは。うん、抗議しよう。
と魔物の解析をしていると・・・
「う~う~。」
あっ、ゴメン、忘れてた。
「大丈夫かぁ?桜。」
賢斗が腕の力を緩めると胸に顔を埋めた桜はようやく解放された。
「ふっ、ふちゅちゅか者でしゅが、しゅえ永くよろしくお願い致しましゅ~。」
ふむ、何が言いたいのかまるで分らん。
「ほら桜、時間も無いんだから早く採取スキルを取得して来いよ。」
「うぅ~、わっ、わかったぁっ~!」
耳の先まで真っ赤に茹で上がった少女は語気を荒げて草むらへと入って行った。
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○ミサイルフィッシュにご用心 その6○
しばらく待っていると桜が草むらから出て来た。
「採取スキルは取得できたのか?」
「うん、ばっちり~。ほらっ。」
彼女はパンパンに膨れたレジ袋を掲げて賢斗に見せつけた。
この短時間で鈴井さんより多いとは・・・
桜の強運は量的な意味でも働くのか?
「凄いな、桜。」
「そっかなぁ~♪取ろうと思えばまだまだいっぱい取れたよぉ~。」
とはいえここは湖の真ん中にある浮島。
他の探索者の誰からも荒らされていなかったって事が一番の要因かもな。
まっ、それはそれとして・・・
~~~~~~~~~~~~~~
『回復草』
説明 :食べるとHPを少し回復する。10個で回復ポーション1個の作成が可能。
状態 :良好。
価値 :★★
~~~~~~~~~~~~~~
ふむ、確か鈴井さんが採取した薬草の回復度合は「僅かに回復」だった筈。
それに価値の方だって・・・
まあ場所の違いもあるし判断を下すには早過ぎだが、桜が採取した場合品質向上が見込める可能性は大いにありそうだ。
「とはいえ今日のところは皆を待たせてるしそろそろ戻ろう。
桜、悪いけどまた音速ダッシュを使わせて貰うぞ。」
「う、うん、分かったよぉ~っ!」
なに興奮してんだよっ。
桜を抱き上げしっかり胸元に押し付けると賢斗は水面へと駆け出した。
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○ミサイルフィッシュにご用心 その7○
「お~い、二人ともぉっ、湖畔から離れてろぉっ!」
湖上を疾走して来た賢斗は岸際で待つ二人に叫ぶ。
そして岸に辿り着くと下ろした桜を小脇に引き寄せ素早く短剣を抜いた。
シュピンシュピンシュピンシュピン・・・ピチピチピチッ
迎撃されたミサイルフィッシュはその後しばらく地面を跳ねまわると消滅して行った。
ホ~ントこいつ等しつこいな。
「賢斗君、今の魔物って?」
「ああ、ミサイルフィッシュって魔物ですよ。
何か一度ロックオンすると追尾してくる厄介な奴なんです。
攻撃力もスピードもレベル1とは思えないほど高いですし。」
「そんな危ないのがこの湖に居たとはねぇ。」
「はい、お蔭で余計なMPを使わされましたよ。」
「ふ~ん、でもまあ今はそれよりそろそろ桜を解放してあげたら?」
あっ・・・
「う~う~。」
抱き寄せていた手を離してやると彼女は「ふぅ~、ふぅ~」と荒れた息遣い。
「大丈夫、桜?顔が真っ赤よ。」
「なっ、なんでもないよっ!だいじょぶぅだいじょぶぅ~。」
・・・何かゴメン。
まっ、そんなに怒ってないみたいだけど。
「では賢斗さんは代わりにこちらをお預かりください。」
円から巾着を受け取ってみればそこには見事に仏頂面した子猫が一匹が入っていた。
う~む、こっちは随分拗ねとるな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ミサイルフィッシュにご用心 その8○
活動を終えダンジョンから出た賢斗達。
しかし咄嗟に雷魔法を使ったお蔭で賢斗のMPはガス欠状態、これでは直ぐ長距離転移を使う事は出来なくなっていた。
この緊急事態に対応すべく水島そして椿の二人へ連絡を取ってみれば椿の方からは色よい返事。
三人に椿を待つため駐車場へと向かわせた賢斗は帰還報告を済ませに一人社務所へと赴く。
「あのぉ~、帰還申請お願いします。」
「あっ、はい、ナイスキャッチさんですね。
えっとぉ~帰還予定時刻の方は・・・」
おや、これは・・・
申請の最中、脇に置かれた簡易マップが目に入る。
『~※ミサイルフィッシュにご注意ください~』
・・・あの湖の周りって初心者進入禁止エリアだったのか。
ふむ、だからあこで出現する魔物である魚系は情報になかったと・・・
危ない危ない、これは文句を言ったら赤っ恥をかくとこだった。
「はい、帰還報告完了です、お疲れ様でしたぁ。」
今度から新たなダンジョンに入る時ぐらいはこういったマップをしっかりチェックせねば、うんうん。
と受付を終えた彼が社務所の外へ出てみると・・・
「あっ、勇者様ぁ、もう帰られたものだとばっかり。キャッ、また会っちゃった。」
お~、これは昼間のマドモワゼル。
「ああ、昼間はどうも。」
「それで、もう今日の探索の方は終わったんですか?」
「ええ、今日はもう帰るだけですよ。」
「でしたらさっきお店でたい焼きを作ってたんですよ。
よかったらまた少し寄って行って下さい。」
「いや~お誘いは嬉しいけど今ちょっと人を待たせてるんで。」
「そうでしたかぁ、しょんぼり。
ではちょっと待ってて下さい、今お土産に包んできますから。スタタタタッ・・・・」
ほう、これは見かけに寄らず・・・
緑山はそのおっとりした顔立ちからは想像し難い俊敏な動きで甘味茶屋へと向かって行った。
にしても人助けってのはやっとくもんだなぁ。
あんな取るに足らんカラス退治や蜂の巣駆除であんな美少女巫女にここまでお礼をして貰えるとは。
と、しばらくその場で待っていると・・・
「まだアツアツですから気を付けてください。」
丁度小腹がすいて来たとこだし、みんなも喜びそうだな。
「はい、何か逆に悪いなぁって感じですけど、折角なので遠慮なく頂いておきます。」
「そんな事仰らずにまたこちらにいらした時は是非うちのお店にも寄って下さい。
三回出会っちゃったらもう運命ですよ。キャッ」
いやいや、そういうのは偶然要素が多分に含まれていて初めて言える理論。
まっ、相手がこんな可愛い巫女さんならどう思って貰おうが別に構わんけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ミサイルフィッシュにご用心 その9○
お土産を手に駐車場までやって来るとそこには見覚えのあるSUV車の傍らで話す四人の姿。
賢斗が近づいて行くと早速椿が挨拶して来る。
「あら、賢斗君お久しぶり。元気だった?」
「はい、お久しぶりです椿さん。」
「あっ、そうだ、賢斗君聞いてくれるぅ?
私の錬金スキルもうレベル4になったのよぉ。
これって結構早いと思わなぁ~い?」
椿の場合はハイテンションタイムに頼ってない。
また彼女が探索者志望では無い点を鑑みれば、確かに大したものである。
「そっすねぇ、あれからまだ2週間ってとこなのにもうレベル4なんて凄いっすよ。」
う~ん、この人どんだけコーヒー錬金してんだ?
「もうね、目標は夏にはレベルカンストよ、見てて頂戴。」
ハハハ・・・ホントに実現しそうな勢いだな。
「あ~そうだこれ、さっき知り合いにたい焼きを貰ったんですよ。
温かい内にみんなで食べましょう。」
「えっ、たい焼き?賢斗君てホント気が利くわねぇ~。」
袋を広げて差し出すと四方から一斉に手が伸びた。
あ~5個しかなかったかぁ。
「ほら小太郎、いい加減機嫌直せって。
たい焼きあるぞぉ~。」
賢斗は残った最後の一つを半分に分けると小太郎に声を掛けてみる。
すると絶賛おムクレ中の小太郎はその小さな手だけをソロソロと巾着の外へ伸ばす。
ふっ、食べ盛りの子猫がこの美味そうな匂いに抗う事など出来まい。
たい焼きを受け取るとその手は再び巾着の中へ。
程無くクチャクチャと勢いのある咀嚼音が聞こえて来た。
まっ、これでコイツのご機嫌もちっとは直るだろ。
なぁ~んて思っていると・・・
「全然足りないにゃっ!」
口の周りをあんこまみれにした子猫が巾着から顔を出した。
はいはい、ったく凄ぇ食欲だな、ほらよ。
賢斗が残りの半分も小太郎に渡してやると子猫はニパッとご機嫌なアホ面を披露していた。
よしよし、いつもの調子が戻って来たじゃねぇか。
「えっ、抵抗するあんたをあの賢斗君が無理やり力ずくで抱き寄せたのっ?!」
「うっ、うんっ、そ~なんだよぉ~、お姉ちゃん。」
「良かったわね、桜。
これであんたは勝ち組よ。」
「そっ、そっかなぁ~♪」
おい、そこの姉妹は何の話をしている。
次回、第四十五話 このタイムなら上出来だ。