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第四十三話 カラスの群れとスズメバチの巣

○クラス合同探索 その4○


 午前11時、薬草採取に行っていた鈴井、水谷ペアが賢斗と白川が待つ集合場所へ戻ってきた。


「ただいま戻りましたぁー。」


 意気揚々と帰還報告をする鈴井の手には薬草が12、3個程入ったパンパンのレジ袋が一つ。


「全然取れないであります。」


 一方水谷のレジ袋にはせいぜい2、3個といったところ。


 ふ~ん、やっぱ採取スキルの有ると無しでは結構な差が出るんだな。


「はい、日向、お裾分けです。

 こっちは賢斗っちの分。」


「ありがとう、鈴井さん。」


「おう、サンキュ。」


 ふむ、これが所謂薬草って奴かぁ。


 賢斗は初めて手にするそれを繁々と眺める。


~~~~~~~~~~~~~~

『回復草』

説明 :食べるとHPを僅かに回復する時がある。10個で回復ポーション1個の作成が可能。

状態 :良好。

価値 :★

~~~~~~~~~~~~~~


 これ10個から回復ポーションが1本って事はだ・・・


 平均的な相場で言えば一番安い回復ポーションは1本5000円程。

 先の護符代3000円とポーション瓶の代金を差っ引いてみれば・・・


 おっ、一応調合持ってる水谷と組めば1700円くらい浮くんだな。

 つっても調合用具を買い揃えるまでは薬草をそのまま売るしか手は無さそうだけど。


「1時間でそれだけ取れれば大したもんだな。

 水谷さんの調合道具を買い揃えられるのも結構早くなりそうだし。」


「それ点はご心配なく。

 雫はもう初心者用のすり鉢と乳棒を買ってあります。」


「抜かりはないであります。」


 あら羨ましい、初心者用っつっても結構するだろうに。


「じゃあ護符に頼らずアタックフラワーから自衛できるようになるのが今後の課題ってところか。

 経費も削減できるし魔石まで手に入る様になるからな。」


「そうです、あと我が隊に残された問題は戦力のみ。」


「実はもうその点も考えてあります。」


「へぇ、意外としっかりしてるじぇねぇか。」


 まっ、どうせ安い短剣でも買って水谷が採取中の防衛係ってとこだろうな。


「はい、今後は賢斗っちを我が隊に引き入れる事で万全の態勢が整います。」


「イェーイ、賢斗っち隊長ぉ~。

 もうここまで打ち解ければ入隊したも同然であります。」


 この二人、しっかりではなくちゃっかりだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○クラス合同探索 その5○


 そんな初心者二人と話していると遠くで高橋の声がした。


「おーい、ちょっと助けてくれぇ。」


 目をやればモリショーを肩に担いだ高橋と西田がこちらに向かって走って来ている。

 そしてその背後には・・・


 何だ?あいつ等、アタックフラワーの集団に追われてるぞ。


「あれはモンスタートレインであります。」


 おおっ、あんな雑魚など何体が居ようが話にならんが魔物をこちらに引き連れて来たという傍迷惑な行為を考えれば確かに・・・

 よし、これは後でガツンと抗議してやろう。


 そんな事を考えつつも賢斗は飛び出すと10体以上は居たアタックフラワーの群れをあっという間に片付けて行く。


シュピンビリビリ、シュピンビリビリ、シュピンビリビリ・・・・・・・・・・


 ふぅ、一丁上がり。


「ちょっとあなた達、何があったの?」


「その前に多田君、モリショーを見てやってくれる。」


 彼の全身には結構な数の痣。


 あらら、結構痛そうだこと。


~~~~~~~~~~~~~~

名前:森正 16歳(174cm 60kg C90 W83 H88)

種族:人間

レベル:3(14%)

HP 3/14

SM 7/12

MP 4/4

STR : 10

VIT : 10

INT : 7

MND : 7

AGI : 9

DEX : 8

LUK : 8

CHA : 8

【スキル】

『アピール全開LV1(36%)』

『片手剣LV1(23%)』

『物理耐性LV1(0%)』

~~~~~~~~~~~~~~


 ふむ、軽く瀕死だが特に状態異常は無しと。


「ヒ~ル・・・もういっちょサービスしとくか、ヒ~ル。」


 賢斗が回復魔法を2度掛けてやるとモリショーのHPもほぼ回復。


「はっ、俺はどうしたっしょ~?」


 おっ、気が付いたな。

 にしても起き抜けであるにもかかわらず語尾が変わらんとか、もしかしてあれはワザとでは・・・


「お前はアタックフラワーの種子鉄砲を頭に喰らって、そのまま気絶したところに集中砲火を浴びてしまったんだ。」


「それを私と高橋君で抱えて逃げたの。そしてそれを回復魔法で助けてくれたのが多田君。」


 お~分かり易い説明ありがとう。


「そうかぁ、皆に迷惑かけたみたいで悪かったっしょ。

 賢斗っちもまた回復魔法掛けてくれてありがとっしょ。」


 おや、語尾が伸びなくなった・・・

 なるほど、それだけコイツも反省しているという事か。

 柄にも無く落ち込んでる様子だし。


「まあそう気にするな。

 お前が無事で何よりだったよ。」


「これは賢斗っちにまた借りが出来ちまったっしょ。」


 ふっ、何か可哀想だしさっきのモントレを問題にするのは止めておいてやるか。


「それよりお前、そのさっきの種子鉄砲の集中砲火で物理耐性スキルを取得したみたいだぞ。

 気付いていたか?」


「えっ、それホントっしょ~?賢斗っち。

 こりゃ痛い目に遭った甲斐があったっしょー♪」


 あっ、もう語尾が復活した。


 にしても物理耐性は結構有益だよなぁ。

 俺も出来れば・・・いや、止めとくか、コイツが気を失ったくらいだし。


「それより多田君が回復魔法だけじゃなく鑑定まで使えるのにはホントビックリだわ。

 良かったらさっきおススメされた索敵スキルを取得したみたいだからついでに私のスキルも確認してみてよ。」


 チラッ、不味いな、委員長がさっきからずっとこっちを見てる。

 ここで正確な鑑定を立て続けに行ったんでは・・・


「いやまあ見てやるのは別にいいけどさぁ、多分失敗すると思う。

 さっき委員長にも試したんだけど、どうやら俺のなんちゃって鑑定は異性に使うと成功率が下がる感じみたいなんだ。」


「へぇ~それは残念。

 そんな変わったスキルもあるんだぁ。」


 アハハ、無いけどね。


「それより西田さん、索敵が取得出来てるんだったらちょっと周辺に意識を集中してみれば直ぐ分かるんじゃない?」


「あっ、ホントだぁ、近い範囲なら魔物の位置が分かるみたい。」


「にしても多田、貴様一体どんな汚い手でそれだけのスキルを取得したんだ。

 できれば是非僕にも教えてくれないか?」


 人が汚い手を使ってる前提で話すんじゃねぇよ。


「そりゃ一応こう見えてプロ探索者だからな。

 事務所からスクロールを優遇して貰ってるんだよ。」


 まっ、ということにしとこう・・・説明できない内容多いし。


「「「「えーっ!」」」」


 おっとどうした、皆の衆。


 白川と西田を除く面々が驚いている。


「賢斗っちぃ、そんなビッグニュースを何で今まで隠してたっしょー。」


「多田がプロ探索者だと・・・一体どこまで差がついてしまったんだ。

 くっ、あの怪我さえなければ。」


「これで賢斗っちを我が軍に引き入れると決めた私の決断の正しさが証明されたわね。」


「さっすが賢斗っち隊長であります。」


 あ~こいつ等は今初めて俺がプロになったのを知ったのか。

 まっ、別に隠す様な事でも無いけど。


 などと集合場所で何やかやとお話していると帰還予定のお時間もそろそろ迫って来ていた。


「ほらみんなっ、お話くらい外でも出来るんだからそろそろダンジョンから出ましょ。」


 白川の言葉で一同が出口へと歩き出すとようやく負傷者が出たものの賢斗の活躍により事無きを得たこの初のクラス合同探索はその幕を閉じた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○カラスの群れとスズメバチの巣 その1○


 正午前、合同探索を終了しダンジョンを出た賢斗達。

 そんな彼等が鳥居階段を上っていると・・・


「きゃあぁぁぁ。」


 唐突に聞こえて来る若い女性の悲鳴。

 階段を見上げれば数羽のカラスに襲われている巫女が箒を振り回しながら駆け下りて来ている。


 おや、さっきもあったな・・・こんな光景。


 賢斗は本日2度目のモンスタートレイン・・・否、カラストレインに遭遇した。


「アレ助けないと不味いっしょー。」


「そうだな、モリショー。

 若い女性を救うチャンスなど早々あるもんじゃない。」


 おっ、意外と正義感があるじゃねぇか。

 ・・・しっかり動機が不純だが。

 まっ、それはそれとしてこんな鳥居に囲まれた状況じゃ長剣なんて真面に振れやしない。

 オマケに足場も階段で相性の悪い飛行型を相手にするというのは・・・


 う~ん、この二人に任せておくのはちょっと不味いかもしれない。


「おい、お前等、ここじゃ場所が悪い、一旦ダンジョン内に引き返すぞ。

 皆もついて来てくれ。」


 賢斗の指示で一同は再びダンジョンに引き返しフィールドフロアに出る手前の辺りで待機。

 すると程なく先程の巫女もダンジョン内に。


「早くこっちまで来いっ!」


 駆け寄って来た巫女はそのまま賢斗の胸に飛び込む。


「サンダーボール・アンリミテッド・ディカプル。」


 彼女の身体を右手でしっかり抱きかかえると賢斗は即座に雷魔法を放った。


 ビカビカビカビカ・・・

 10個の小さな雷球が互いに放電し合い網の目状のまま前方のカラスの群れへ飛んで行く。


 バサ、バサ、バサ・・・

 すると5羽のカラスは次々と床へに落下した。


 まっ、普通の動物が相手だし、やっぱこの程度の威力で十分だったな。


 今朝覚えたての魔力操作の新特技、発動数操作が早くもこんなところで役に立っていた。


「じゃあみんな、片付いたからとっとと帰ろうぜ。」


 そんな賢斗の言葉にぽか~ん口を開け固まっている面々。


 ってあれ、お~い皆さぁ~ん、帰りますよぉ~。


「ちょっ、ちょっとかっこ良すぎだろぉ、賢斗っちぃ。

 俺も攻撃魔法スキルとか欲しいっしょー。」


「多田、お前という奴は一体どれだけの悪事を重ねてきたんだ?

 流石の僕も、これには驚いたてしまったぞ。」


 あっ、雷魔法に驚いてたのか。

 うんうん、羨ましかろう。


「雫、これが我が隊の隊長の力よ、しっかり覚えておきなさい。フフフ」


「了解であります。ニコリッ」


 いやいや、その隊の隊長になった覚えは無いからね。


「あっ、あのぉ・・・」


 えっ、あっ、すっかり忘れてた。

 ってうわっ!


 少し恥じらいながら声を上げた少女を解放してやれば、おっとりした顔立ちと潤みのある大きな瞳はまるで何でも許してくれそうな優しさを感じさせる。


 さっきの巫女さんがこんなに別嬪さんだったとは・・・


 真っ直ぐ伸びたその艶のある黒髪は後ろで一つに垂れ流され巫女装束を身に纏うその姿は清潔にして清楚な落ち着きのある和風美少女といった印象を見る者に与えていた。


 こりゃ最近美少女に見慣れてる賢斗さんもビックリなレベルだわ。


「どうも有難う御座いました。キュンキュン」


 うむ、苦しゅうない♪


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○カラスの群れとスズメバチの巣 その2○


「皆さんこれから少しお時間はありますか?

 宜しければ先程のお礼がしたいので是非帰りにうちの甘味茶屋に寄って行って下さい。」


 別れしなに賢斗達は助けた巫女からこんな事を言われていた。

 帰還申請を済ませた彼等は早速誰一人遠慮する事無くその甘味処へ来ていた。


「皆さん先ほどは助けて頂き、誠に有難う御座いました。」


「ほえ~やっぱり滅茶苦茶可愛いっしょー。」


 まっ、これだけの美人さんだしこいつが騒ぐ気持ちも分かる。


「なあモリショー、この緑山ダンジョンをホームグラウンドにするというのはどうだ?」


「あっ、義則っち、そりゃ名案っしょー。」


 ふっ、こいつら意外と馬が合ってんだな。


「えっとそういえば自己紹介がまだでしたね。

 私はこの神社の宮司の娘で緑山茜と言います。

 この店は私の家がやっているので遠慮なく食べていって下さいね。」


 ふっ、人助けしたお礼は焼きおにぎりに白玉ぜんざいに焼き団子ですか。

 昼飯代も浮くしこれは骨を折った甲斐がありましたなぁ。

 ムシャムシャ、おっ、美味い、こいつはおにぎりに味噌を塗って焼き海苔で巻いた感じか。

 ズズズ、おおっ、こっちも甘さ控えめなのはグッド。

 にしてもこれが和三盆の甘味というやつかぁ・・・よく分からんがメニューに書いてあるしな。

 とはいえこれだけのもてなしを受けてはさっきのカラストレインの件は不問にしてやらねばなるまい、ハッハッハ


「・・・ということなのですが、お願いできないでしょうか?」


 モチュモチュ、ふむ、こっちの焼き団子も・・・


「そういうことなら、賢斗っち次第っしょー。」


 はい?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○カラスの群れとスズメバチの巣 その3○


 本殿裏の軒先にある徳利状のまだまだ小さいスズメバチの巣。

 賢斗はポツンとたった一人その巣を見上げていた。


 う~ん、これは一体どういう状況だ?


 カラストレインから助けてやったと思ったらお次は蜂の巣駆除まで頼んでくるとか。

 ったく、あの巫女さん・・・

 まあ可愛いから許すけど、俺は便利な蜂駆除業者じゃないっつの。


「賢斗っち隊長、がんばれー。」


「私はその巣の形状から、コダカスズメバチの巣だと愚考します。」


 フンッ、そんな長距離からの声援じゃ、丸投げ感しか伝わってこねぇよ、ったく。


 どいつもこいつもまるで俺なら簡単に蜂の巣駆除ができるみたいな顔しやがって・・・

 まあ出来るんですけどね。


 これはアレだなぁ。

 ちょっと俺のスキルを見せすぎたって奴だなぁ。

 幾ら他人に知られて別に困らんスキルであってもあいつ等に知られるとロクな結果にならん。

 今後はスキルを見せるのを少し控えておかねば、うんうん。


 すると待っていた緑山が賢斗の下へ駆け寄って来る。


「あっ、多田さん、父から許可を貰ってきました。

 もうここで攻撃魔法を使っても大丈夫ですよ。」


「あ、どもども。」


「ご無理を言って申し訳ありません。

 どうか宜しくお願いいたします。ウルウル」


 これが助けを求める美少女の眼差しという奴か。

 こんなモノを見せられちゃお願いされるしかないわな・・・まっ、お昼もゴチになっとるし。


「じゃあ始めるから緑山さんはちょっと離れてて。」


「はいっ♪」


 という訳でサクッと終わらせますか。


 シュタタタ、賢斗は壁面ダッシュを発動すると本殿の壁を駆け上る。


 いや~コレ初めて使ったなぁ~。


 そして蜂の巣がある高さまで来ると今度はジャンプ一番・・・


「とうっ。」


 シュピシュピンッ、スズメバチの巣のつけ根を短剣で切断。

 落下していくスズメバチの巣を横目で見ながら後方へ左手を伸ばす。


「サンダーボール・アンリミテッド・タイプドラゴン。ビリビリビリィ~」


 竜の頭に変形した電撃が大口を開け落下していく蜂の巣を飲み込んだ。


 ボトン、ビリ、ビリビリビリ・・・背後には電撃に包まれたスズメバチの巣。


 スタッ、賢斗は振り向きもせず華麗に着地する。


 フッ、我ながら見事に決まってしまった。


「凄いです♪勇者さまぁ。」


 へっ、勇者様?俺が?

 フッ、どうやら少し格好つけ過ぎてしまったようだ。

 だがそんな風に呼んでくれる美少女には俺も真摯にお応えせねばなるまい。


「これで良いかい?マドモアゼル。」


「はい、うっとり。」

次回、第四十四話 ミサイルフィッシュにご用心。

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[一言] >>緑山:「はい。うっとり。」 うっとりって口に出してる辺りこの子も良い性格してるとみたw
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