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第四十二話 マイダーリンの呪縛

○クラス合同探索 その1○


 5月19日日曜日午前9時。

 本日のクラス合同探索に参加する賢斗とそのクラスメイト御一行様はもう既に集合場所の校門前から40分程のドライブを経て目的地である緑山神社駐車場に到着していた。


 ふぅ、やっと着いたか。


 さてこの緑山神社であるがその歴史はそう古く無く、この地にダンジョンが発見された30年程前探索者の安全を祈願するために造営。

 またここで祀られているのはダンジョンの神様で御神体も当時最初にこのダンジョンを攻略した探索者が持ち帰ったとあるアイテムだったりと他とは一風変わった感じの神社である。


 にしてもやっぱ参拝客っつぅより探索者さんばっかだな。


 駐車場から雑木が囲む小石の敷かれた道を100m程歩くと見えてくるのは赤い大鳥居。

 そこをくぐれば真正面に本殿、その右手に社務所、左手には甘味茶屋なんかも見えた。


「じゃあ私と多恵で侵入申請を済ませて来るから、みんなはここで待っててね。」


 緑山ダンジョンの協会支部はここの社務所内にある。

 白川と西田がその建屋に入って行くと、残された賢斗達は社務所前の売店を眺めて回る。


 ほほう、おみくじにお守り、護符に破魔矢かぁ・・・

 回復護符に治癒護符、魔除け護符なんてのは如何にもダンジョン神社って感じですなぁ。


 その並べられた護符のお値段は2段階設定、効果の程が気になった賢斗は暇つぶしがてら解析していく。


~~~~~~~~~~~~~~

『回復護符』

説明 :祈祷により回復効果のある護符。

状態 :良好。

価値 :★

用途 :使用すると、HP+3回復。

~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~

『治癒護符』

説明 :祈祷により治癒効果のある護符。

状態 :良好。

価値 :★

用途 :使用すると、毒状態、麻痺状態の治癒効果有。治癒力微。

~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~

『魔除け護符』

説明 :祈祷により魔除け効果のある護符。

状態 :良好。

価値 :★

用途 :使用すると、レベル1の魔物が寄ってこない。効果時間1時間。

~~~~~~~~~~~~~~


 ふ~ん、意外とちゃんとした代物らしい。

 少しお高い奴もそれなりに効果が上だし護符ってのは携帯が楽で良いかもな。


「ねぇ賢斗っち、この魔除け護符があれば魔物に襲われないって事で良いのですか?」


 う~ん、鈴井の奴まで俺を賢斗っち呼ばわりか・・・

 これは後でモリショーへの抗議案件だな。


「まあレベル1の魔物しか出ないここの1階層に限れば大丈夫だな。

 効果が1時間しか持たない点には注意が必要だけど。」


「そっかぁ、じゃあちょっと高いけど買っちゃおうかなぁ。」


「じゃあ私も買うであります。」


 お好きにどうぞ。

 まっ、3000円も出費してこいつ等の採取の採算が取れるかどうかは知らんけど。


「はぁ~い、申請が終わったからダンジョンへ向かいますよぉ。

 入口は本殿の裏にあるらしいわ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○クラス合同探索 その2○


 一路本殿裏にあるダンジョン入口へ向かう御一行。

 男三人組は肩を並べて歩いていく。


「うっそっ!賢斗っちってもうレベル7っ?!

 それ高校一年のこの時期的に有りえないっしょー。」


 確かにひと月やそこらって考えれば・・・まっ、あんな特異個体まで倒しちまったからなぁ。


「多田、どんな汚い手を使ったんだ?

 できれば僕にも教えてほしい。」


 ・・・性格が悪そうだとは思っていたが、やはりこの勇者君汚い手にも躊躇がない。


「まあスライムばっか倒してたらこうなっちまったって感じだな。」


「そんな見え透いたウソをつくんじゃないっ!

 弱い魔物ばかり倒しても効率が悪い事くらい僕にもわかる。」


 いやホントの話ですけど。


 本殿裏まで行ってみると連続した赤鳥居に囲まれた下へと伸びる階段が目に入る。

 そこを50m程下っていくとようやく幅3m高さ2m程の半円形の洞穴が見えた。


「よっしゃー、一番乗りっしょー。」


「待てモリショー、僕が先だ。」


 やれやれ・・・


 喜び勇んでダンジョン内へ入って行く二人を尻目に賢斗もゆっくりした足取りでダンジョンに入って行った。


 そのダンジョン内、まず入ってしばらくは薄暗い通路が10m程続く。

 そしてその通路を抜けた先には・・・


 ほう、これがフィールド型ダンジョン。


 賢斗の脳内マップと視界情報から推測すればそこは直径10kmくらいの円形フロアといったところ。

 天井は高くその岩肌が光を発しているのかフロア内は昼間の様に明るい。

 遠目には林や湖まで見え近間に広がる草原にはまるで生き物の様に動く花の姿も。


 ふっ、まるでどっかの異世界にでも来た感じだな。


「お~いモリショー、その花魔物だから気を付けろよぉ~。」


 モリショーが近づいた瞬間、その花は窄まりビー玉サイズの種子を吐き出す。


「あっ、痛ってぇー。」


 ほら、言わんこっちゃない。


「こいつめっ。」


 右肩を押え跪くモリショーをカバーした高橋が両手剣を横なぎに振うと花の魔物はピンクの花を散らせ霧散していく。


「大丈夫か?モリショー。」


 賢斗が寄って行くとその右肩は真っ赤に腫れ上がっている。


「アハハ、このくらい全然平気っしょー。

 にしてもこいつの攻撃エアガンで撃たれたくらいには痛いっしょー。」


 ったく、初っ端から世話の掛かる・・・


「ヒール。」


「おお~サンキュー、賢斗っちぃ。

 ってこれ回復魔法っしょ~?!」


 ああ、存分に驚きそして恩に着とけ。


「そんな事よりお前ちょっと油断しすぎじゃないか?

 1階層とはいえ初見のダンジョンでヅカヅカ進んで行くとか普段からそんな調子なのかよ。」


「だってさぁ、俺が身体張って先行すれば皆に危険を知らせる事が出来るっしょ~?」


 まっ、馬鹿だがある意味好感は持てるな。


「なぁ、この中で誰か索敵系のスキルを取得した奴はいないのか?」


 そんな賢斗の問いかけに応えるクラスメイトは現れない。


 あっそ・・・全くの初心者二人を除けば探索者になって2週間以上経ってだろうに、索敵できる奴が1人も居ないとは。


「じゃあ今日のところは俺が索敵係をやってやるからあんまり勝手に動き回るなよ。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○クラス合同探索 その3○


 協会発行の簡易マップを頼りに最寄りの薬草系採取ポイントへと移動して行く1年C組御一行。

 すると先程のお花の魔物とは何度も遭遇。

 討伐がてら賢斗が解析してみればそいつはレベル1のアタックフラワー、自立歩行で移動し種子鉄砲なる攻撃スキルを持っている。

 と言ってもその攻撃前には花が窄まるという予備動作がありその状態に入ってから射出方向が途中で変わる事は無い。

 当たれば結構な威力の攻撃とはいえ、それが分かっていれば初心者でも十分回避可能なものであった。


 はてさてそんな初心者クラスメイトを引き連れた徒歩移動が30分程経過するとようやく採取ポイントにご到着。

 草むらが一帯に広がるそこには他の探索者の姿なんかもちらりほらり・・・


「じゃあ鈴井さんと水谷さん、この辺に見える草むらが採取ポイントらしいから始めて良いよ。

 今のところ周りには魔物は居ないけど一応さっき買ってた魔除けの護符を使っとけば1時間は安心だからさ。」


「わかりました。」


「了解であります。」


 草むらの中へ入って行く二人を見送ると賢斗は近くの岩に腰を下ろす。


 ふぅ、後はこの集合ポイントで監視してるのが今日の俺のお役目ってとこだな。


 するとそんな彼の下へラブリィなエンジェルさん達が集まってくる。


「ごめんねぇ、索敵できる人が居なくて。」


「まあ体力ありそうなモリショーを盾役にしてダンジョンを進むってのも最初の内は仕方ないかもだけど、それは索敵スキルを取得するまでの繋ぎみたいに考えた方が良いよ。

 それだと今後アイツが大怪我しかねないだろぉ?」


「そりゃ私も悪いなぁって思ってるわよ。

 でもどうやったらその索敵スキルが取得出来るのか分からないし、そもそも習熟取得なんて多田君の言うような簡単なモノじゃないでしょ。」


「そうだぜ賢斗っち。

 習熟取得に時間が掛かるのは常識っしょー。」


「多田、良かったらその索敵スキルを取得するコツを教えてくれないか?」


 ・・・確かに俺の物差しでこいつ等に苦言を呈するのはちと酷だったか。


「じゃあまあコツって程じゃないけど特別にレクチャーしてやるか。

 索敵スキルを取得したかったら・・・

 今言った内容をダンジョン内で意識して繰り返していればその内取得できる筈だ。」


 以前自分がやろうとしていた索敵の習熟方法を賢斗は説明してやった。


「そうか、恩に着るぞ、多田。

 行くぞモリショー。」


「ああ、合点承知っしょー。」


「あっ、私も行くよ。」


 いってら~、ふぅ、これでようやく・・・ってあれ?


「委員長は一緒に行かないの?」


「私まで行ったら何か多田君に悪いでしょ。

 同じ探索者委員なんだから。」


 ううん、そんなことない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○マイダーリンの呪縛 その1○


「いやいや、そんな気遣い全く必要無いって、委員長。

 この賢斗さんはそちらのパーティー活動が上手く行く事を心から祈っておりますので。」


 居ない方が何かと気楽ですし。


「あっ、今私が居ない方が気が楽とか思ったでしょ、もう。」


 ちっ、委員長の奴、相変わらず俺の思考をチョイチョイ読んでくるなぁ。

 どんなスキルか知らんがそういうのを相手の許可なく使うのは反則だっつの。

 よし、斯くなる上は俺がこの委員長様にその辺のモラルを教えて進ぜよう。


「そりゃ人の思考を覗き見出来る相手と一緒に居て落ち着ける奴なんて居ないだろ。

 どんなスキルを持っているのか知らないけど、そういうのを考え無しに使ってると委員長の周りには誰も寄り付かなくなるって。」


「えっ、そんなことしてないってば。

 本当よ、信じて、そういうスキルじゃないんだから。

 私のスキルは特定の相手にしか効果が無いし、何となく断りそうとか嫌がってる程度の事しか分からないモノだって鑑定士の人も言ってたもの。

 只・・・多田君の顔を見てると何となく分かっちゃうというか・・・」


「ふ~ん、でもまあ鑑定士さんの話がどうあれ、俺が委員長と心を開いて話すのがもう厳しくなっちまってるのは純然とした事実だしなぁ。」


「そんなこと言わないでよ。

 私にだってどうしてここまで多田君の気持ちが分かるのか良く分からないんだから。」


「じゃあそこまで言うなら委員長のそのスキルをちょっと調べさせてくれ。

 そしたら少しは俺の方も安心出来るだろうし。」


 何か回避可能な方法でもあれば別に遠ざける必要もないからな。


「えっ、何でそうなっちゃうのよ。

 調べるってどういうこと?」


「ああ、俺一応鑑定の真似事みたいな事も出来るから。」


 この言葉に白川は予想以上の動揺を見せ始めた。


「えっ、嘘、そんなことされたら・・・

 そっ、それは絶対ダメだからね、多田君。」


 おおっ、何だ何だ?この委員長らしからぬ焦り様・・・

 これでは逆に興味が湧いて来てしまうではないか。


 先程はスキル使用時のモラルに関し白川に語っていた賢斗だったが・・・


 でもまあこの件において俺は被害者、この委員長様のスキルを解析させて貰う権利くらいは既にある筈、うんうん。


 拒否する彼女を無視し賢斗は解析を強行した。


~~~~~~~~~~~~~~

名前:白川日向 16歳(156cm 46kg B80 W56 H82)

種族:人間

レベル:2(3%)

HP 8/8

SM 7/7

MP 4/4

STR : 3

VIT : 4

INT : 6

MND : 9

AGI : 3

DEX : 5

LUK : 9

CHA : 9

【スキル】

『マイダーリンLV2(11%)』

~~~~~~~~~~~~~~


 ほっほぉ~う、これは久しぶりに恥ずかしい名前シリーズのご登場だな。

 これなら委員長が取り乱すのも、いやでもここまで?


~~~~~~~~~~~~~~

『マイダーリンLV2(11%)』

種類 :パッシブ

効果 :習得特技の使用が可能。

【習得特技】

『ハートウォッチング』

種類 :アクティブ

効果 :意中の人の気持ちが何となく分かる効果。

『どこでもセンサー』

種類 :アクティブ

効果 :意中の人の居る方角が何となく分かる効果。

~~~~~~~~~~~~~~


 えっ、何これ・・・

 恐らく俺の思考を読む原因となっていたのはこのハートウォッチングなる特技。

 しかしこの効果説明からすると委員長の意中の人が俺ということになってしまうんだが?

 うん、意味が分からん。


 ・・・・・・チ~ン


 なるほど、どうやら俺は開けちゃいけないパンドラの箱を開けてしまったようだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○マイダーリンの呪縛 その2○


 さてどうしたものか、これは実に由々しき問題である。

 何故ならこの委員長から思考を読まれるというマイダーリンの呪縛から逃れるには彼女の意中の人で無くならなければならない。

 そして問題なのがその条件をクリアする手立てが今この俺には無いという事。

 だって委員長から告られてもいないのに俺から唐突に「お前俺に気があるのか?」とか言い出した上で一方的にお断りする?


 ・・・一体どこのイタイ勘違い野郎だって話である。


 となればここは今後を見据えた長期的視点による戦略を検討するしかあるまい。

 先ず注意すべきは単に意中の人と説明されているこの言葉。

 これにはちょっと気になる異性ってレベルからあなたに首ったけレベルまでその内包される感情の幅はかなり広い。

 ここを正確に掴まなければ戦略も何も無いだろう。


 つってもこれに関しちゃちょっと気になる異性って程度で間違いない。

 まだ出会ってひと月やそこ等、特に何等かの攻略イベントを経験した訳でも無し、この俺の見立てに狂いは無い筈。


 そしてここから今後に於けるマイダーリンの呪縛への対抗手段を模索する訳だが、まあ俺の味方になってくれそうなのは時の流れによる人間の感情変化のみ。

 特に何か俺から能動的に動くのではなく、なるべく委員長と距離を置いて付き合っていくのが正解って訳だ。

 ってあれ?これ今と変わらない気がする・・・う~む。


 あーだこーだと一人考えを巡らす賢斗。

 そんな彼に白川は我慢しきれず・・・


「ちょっと多田君っ!

 今私のスキルを見ちゃったでしょっ!?」


 ちょっ、委員長っ、顔近いっつの。


「いえ、見てません。」


 ・・・俺にはこんな委員長のトップシークレットは荷が重すぎる。


「嘘っ、そんな筈ないわっ!

 今絶対私のスキルを見ようとしてたもん。」


 う~ん、困った。

 流石にその辺はバレバレ、もうこれは万事休す・・・いや待てよ。

 俺がさっき出来ると言ったのは鑑定の真似事。

 ちょっと苦しいかもだがこの何時もの冷静さを欠いてる委員長になら・・・


 賢斗は苦し紛れの大博打に打って出る。


「いや~悪かったって。

 でも委員長って意外と女子力高いんだな。」


 ・・・南無三っ。


「えっ、何それ・・・もしかして・・・」


「ん、何か俺今間違った事言ったか?

 ちっ、またか、ったくホントこのなんちゃって鑑定は役に立たないな。」


「あはっ、どうやら多田君の持ってる鑑定の真似事スキルは大したことないみたいね。」


 白川の顔に安堵の笑みが戻って来ていた。


 おお~、通じた通じた。

 いや~かなりヤバかったが・・・

 やはり「女子力高いね」は女子が喜ぶパワーワードで間違いないらしい。ふぅ~

次回、第四十三話 カラスの群れとスズメバチの巣。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これはあれですね、振り向くとソコにいる・・・怖い方ですねw
[一言] ただのヤンデレストーカースキルにしか見えない… ヤバいスキルじゃないですかっ
[良い点] マイダーリン…これは確かに知られたくないw しかしこれはこれでレアスキルっぽい レベル上がったらどうなることやら
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