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第三十九話 チームプレイとポンコツスペック

○コングラッチレ~ショ~ン○


 午後4時30分、属性付与効果を得た武器を携え意気揚々と四人が向かった先は白山ダンジョン。

 活動の中心を清川に変更した今、賢斗にとってここに来るのも結構久々な感じである。


 自動ドアが開き彼が受付に目をやれば予選で討伐タイムの確認を妨害していた女性がそこに座っていた。


 ・・・ハズレ日か。


 そんな彼女は賢斗の視線を感じるや手旗を手に取りフリフリ開始。

 視線を逸らすとその手は見事に停止した。


チラッ、フリフリ、チラッ、フリフリ


 一瞥をくれた一瞬を確実に捉えてくるとはある意味流石だな、アイツ。


チラッ、フリフリ、チラッ、フリフリ


 何だろう、ちょっと楽しくなってきた・・・って何やってんだ?俺。

 まっ、兎も角ここまでマークがキツイ状況じゃ避けても所詮無駄な足掻き。

 今日は大人しくコイツのとこに並んどくか。


「侵入申請お願いします。」


「コングラッチレ~ショ~ン、たっださぁ~ん。パチパチ~。

 今回も凄かったですねぇ、魔法一発でドカ~ンて。

 蛯名っち大興奮でしたよぉ~。」


 うん、知ってる。


「それであんまりはしゃぎ過ぎて後で怒られちゃいましたぁ~。」


 それにしちゃ元気一杯だな、おい。


「でもそんな事でめげちゃう様な蛯名っちじゃ御座いませんよぉ~。」


 だろうな。


「ア~はいはい、分かったから早く侵入申請お願いします。」


「おやおや多田さんともあろう御方がそんなせっかちさんではイケませんよぉ~。

 とはいえ仕事の出来る蛯名っちはもう既に申請受付を終えているのでしたぁ~。フリフリ」


 ふぅ~、やれやれ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ライトニングダガー○


 ダンジョンに入った賢斗達は右ルートの宝箱部屋を目指し第1ポイントからの右ルートを進んでいた。

 すると程なくゴブリン1体と遭遇、賢斗は強化された短剣の試し切りとばかりに単身突っ込んだ。


シュピンビリビリッ


 稲妻を描く軌道が魔物の脇を通り過ぎると斬撃を浴びたその切り口からは僅かに電撃が零れる。


 おっ、いい感じ。

 ちゃんと動きも止まってるし麻痺効果が乗った斬撃になってるぞ。


 属性付与効果を得た愛剣の感触を確かめると賢斗は背後から魔物に止めを刺した。


「賢斗君どお?その短剣の使い心地は。」


「中々良い感じですよ、これ。

 魔法を掛ける必要も無くなりましたし。」


 MPが節約できるのは有り難いな。


「そっか、でも余裕がある時は敢えてスタンを掛けておくことをお勧めするわよ。

 その方が短剣に経験を積ませられると思うし、麻痺の効果もその分上がるだろうし。」


 あっ、成程、なら極力使っといた方が良さそうだな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○チームプレイ その1○


 程無く右ルート宝箱部屋に到着した賢斗達は今日の目的の一つ目である睡眠習熟を始めていた。


 宝箱を開けるのは桜。


「じゃあ開けるよぉ~。プシュー」


 彼女は火魔法をカンストするまで他の魔法に興味はないと自ら監視役を買って出ていた。

 そして特に問題も無く15分が過ぎ寝ていた三人が一斉に目を覚まし始める。


 パチリ、よし、結構簡単に取れたな。


 今回賢斗が取得したのは魔力操作。

 空間魔法の取得経験がある賢斗にとってそれ程難しい部類では無かった様である。


「あはっ、やりましたぁ。

 皆さんのお蔭で私も無事土魔法を取得することが出来ましたよ。」


「私も水魔法を取得できたわ。」


 おっ、二人もちゃんと取得出来たみたいだな。


「これで皆が魔法使える様になったねぇ~。」


 にしてもメンバー全員魔法スキル持ちとか、ホント贅沢なパーティーだよなぁ、俺達。

 まっ、それはそれとしてだ、誰かが新魔法をゲットした時には直ぐその場を立ち去るのが鉄則。

 間違っても「新しい魔法を見せてくれ」等とは言ってはイケない。


 分かってるな?お前等。


 送った視線の意味を理解した桜とかおるがコクリと頷く。


「よし、撤収ぅ~。」


「お待ち下さい、賢斗さん。

 折角新魔法を手に入れたのですから皆さんに披露しなくては。

 では、行きます、サンドシャワー。」


 賢斗が制止する間もなく発動される円の新魔法。


 なっ、このお嬢様自分から火の海に飛び込みやがったっ!


サラサラサラ・・・・


 彼女の右掌からは砂時計の様に少量の砂が床へ静かに落ちていく。


 ・・・終わった。


「えっ、あっ、あれ?これって・・・」


 起きた現実に困惑し始める円、だがしかし・・・


「円ちゃん、凄く綺麗な砂だねぇ~。」


 桜は落下していく砂を両掌で受け止めていた。


 おおっ、流石は先生・・・まだ試合は終わっちゃいない。


「ホ~ント、キラキラしていて綺麗ねぇ。

 小瓶に入れて取っておきたいわ。」


 先輩も上手いっ、桜の作った良い流れに即座に乗っかっている。

 となれば俺もここは・・・


「そっすねぇ、俺も土魔法取りたくなったよ、円ちゃん。」


「そっ、そうですか?

 私もお見せした甲斐がありました。ふふっ」


 見たかっ、俺達のチームプレイっ!


「じゃあ、そろそろ行きましょうか。」


「そっすね。」


 ふぅ~、危なかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○チームプレイ その2○


 ホッと胸を撫で下ろす面々。

 しかしまだ危機は過ぎ去っておらず、事態は一人の犠牲者を生み出す。


「あれ、かおるさんも魔法をお取りになられたんですよね?」


 その瞬間三人の表情に衝撃が走った。


「えっ、そっ、そうね。」


 おい、お嬢様、間違ってもその先を口にするんじゃ・・・


「では、かおるさんの魔法も見せて下さい。」


 あっちゃ~・・・今度こそ終わった。


「そっ、それはほら、あっ、そうだ、今ちょうどMPが切れちゃってるのよぉ。

 悪いけどまた今度見せて上げるわ。」


「ああそうでしたか。

 それなら仕方ありませんね。」


 と思ったら先輩上手いこと逃げやがった・・・流石の往生際の悪さだな。

 まっ、何にせよこれで事無きを得た訳か。


 でも何だろう、果たしてこれで良いのだろうか?


 パーティーメンバー間での認識共有はとっても大事。

 それはこれからパーティー入りする円ちゃんにも同じ事が言えるだろう。

 であればだ、ここは敢えて避けるのではなく、レベル1魔法の恐怖に立ち向かう姿を彼女にお見せするのが先輩メンバーである俺達の務めなのではないだろうか?うんうん。


「せんぱ~い、何言ってんすか。

 ちゃんとMP12も残ってるじゃないっすか。」


(なっ、ちょっとっ、賢斗君っ!)


(済みません、先輩。

 これも円ちゃんの為なんで。)


(何訳のわかんない事言ってるのよっ!)


「えっ、そうなんですか?

 やったぁ。それでしたらかおるさんの魔法を見せて貰えますね。」


「あっ、あら、そうだったかしら?賢斗君ありがとう。ヒクヒク」

(賢斗君、貴方裏切ったわねぇ。)


「うわぁ~、楽しみです。」


(えっ?何の事っすか?

 それより先輩、もう観念して下さい。

 円ちゃんがお待ちかねですから。)


 ほれ、はよやれ、不思議と心が全く痛まん。


「うぅ~もう、分かったわよ、やれば良いんでしょ、やれば。」

(後で憶えておきなさいよぉ。)


 かおるは賢斗を睨み付けながら右手を前に突き出した。


「ピュッ、ピュアウォーター。」


ジョボジョボジョボ・・・


 うむ、何と理想的な放物線・・・まるで小便小僧だな。

 これをご覧頂ければきっと円お嬢様にもレベル1魔法の恐怖が分かって貰えるでしょう。うんうん。


 賢斗が満足げな表情を浮かべていると・・・


クルッ、バシャバシャバシャ


「なっ、ちょっ、冷てっ、ちょっと先輩っ、何やってんすかっ!」


(ふふっ、私をここまで追い詰めた貴方が悪いのよ、賢斗君。)


 くっ、このバカタレ、俺を巻き込むんじゃないっ!


 そんな二人を円は温かく見守っていた。


「うふっ、水浴びができるとてもいい魔法ですね、かおるさん。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ポンコツスペック その1○


 その後3階層スタート地点へと移動した賢斗達。

 今日の目的の二つ目はここでワイルドウルフの毛皮を手に入れる事である。

 既に賢斗の脳内マップは1体のワイルドウルフを捕捉、少し通路を移動してやると魔物の方から彼等へ接近し始めた。


「桜ぁ、そろそろ来るぞぉ~。」


「りょ~か~い。」


スタッスタッスタッ・・・駆け寄って来るワイルドウルフ。


「ファイアボール・アンリミテッドッ!ボファッ」


 おっ、前より大きくなってるじゃん。


ヒュ―――ン


「ロックオンッ!クイッ、ドォ~~~ン」


 杖が強化され威力の増した火球はレベル5のワイルドウルフを一撃で殲滅して見せた。


「凄ぇなその杖、結構威力が増してたぞ。」


「そだねぇ~、私もちょっとビックリしたぁ~。」


 ドロップした毛皮はそのまま円にプレゼント、今日の賢斗達の予定はこれで全て終了であった。

 しかし「じゃあ帰ろうか」と声を掛ける賢斗にまたしても円が待ったを掛ける。


「ちょっと待ってください、賢斗さん。

 こんな嬉しい贈り物をされては私の勇姿をご覧に入れない訳には参りません。」


 えっ、どゆこと?


「さっすが円ちゃん、賢斗ぉ~、近くにゴブリンとか居ないのぉ~?」


 円は早速貰ったワイルドウルフの毛皮を右手に巻くと片手でパンチを放つ素振りをして見せた。シュッ、シュッ


 あっ、そういう・・・


 彼女ももうレベル5になっている。

 普通に考えればレベル3のゴブリンに近接戦を挑もうが後れを取る事はないだろう。

 しかしそのステータスを比べてみれば・・・


 う~ん、返り討ちにあう未来しか見えない。

 先生も乗り気の様だがこいつも身体能力面ではどっこいどっこいだからなぁ。


「よしわかった、なら1階層に行こう。

 もうすぐこの辺に他の探索者さんが通り掛かるし円ちゃんの猫人姿を見られちゃ不味いだろぉ?」


 まっ、1階層なら単体だしレベル1のゴブリン相手なら流石に・・・だよな?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ポンコツスペック その2○


 嘘吐き賢斗の誘導で程無く1階層へ移動した一同。

 すると第1ポイントから200m程右ルートを進んだ地点で1体のゴブリンを発見していた。


「じゃあ円ちゃん、あそこにいるゴブリンを倒してみて。」


「承りました、賢斗さん。いざっ。ポンッ」


 猫人化した円の姿はキャットクイーンのレベルアップによりもう見た目は中学生くらい。


 おおっ、しっかり出るところも出て・・・

 これはもうおんぶはアウトなレベル?


 彼女はゴブリンへと駆け出した。


「円ちゃん、がんばれ~。」


テケテケテケ、スカッ


 あっ、避けられた。


スカッ、スカッ、スカッ


 っておいおい、全くパンチが当たってねぇぞ。

 っと、不味いっ、シュタッ、シュピンッ!


 飛び出した賢斗が擦り抜け様に斬撃を放つとゴブリンは硬直状態に。


「円ちゃん、今のうちに。」


「分かっています、賢斗にゃん。

 えいっ、ポフッ、とうっ、ポコン」


 円のコンボが決まると霧散していくゴブリン。


「けっ、賢斗にゃん、あっ、あれはフェッ、フェイントという技ですにゃん。

一応お礼を言っておきますが、次から助太刀無用ですにゃん。」


 う~ん、実に見苦しい、がっ、そういう事にしといてやろう。


「すっごぉ~い、あれフェイントだったんだぁ~。」


 先生、それ以上は勘弁して差し上げろ。


「今度教えてぇ~。」


 にしても折角の特殊能力だが・・・


「勿論です、桜。」


 使い手のポンコツスペックで台無しだったな、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○猫人化能力の秘密○


 本日の予定を全て消化し後は帰るだけの賢斗達であったがここで一つ問題が発生する。


「賢斗君、それで帰りはどうするの?

 円の効果時間切れを待ってると、帰還予定が怪しくなりそうだけど。」


 あっ、確かに、っとにお嬢様が急にあんな事言い出すから。

 でもまあその辺は特に問題は・・・


「じゃあ俺が円ちゃんをまたおぶって出口まで向かいますよ。

 潜伏を使えば他の人には気付かれませんし。」


「ダメよ、円はもうかなり発育しているもの。」


 だから何?と言いたいところだが流石にチェックが早いな。

 まあ俺もほんのちょっとアレかなぁ~とは思っていたが。


「じゃあどうします?」


「そうねぇ。」


「じゃあ抱っこがいいかも~。」


 うん、この際抱っこでもウェルカム。


「えっ、何言ってるの?桜。

 抱っこもほら、ちょっとアレでしょ。

 あっ、そうだ、今回は手を繋ぐ感じで行ったらどうかしら?

 転移でも上手く行ってるし、うん名案ね。」


「いや先輩、転移となぞらえて考えるならどうやって床に足を付けずに移動するんですか?」


「あっ・・・これはとっても由々しき問題になってきたわね。」


 なぁ~にが由々しき問題だっつの。

 抱っこしてくらいこの際仕方ないでしょ。


 よっこらせっと。


 賢斗は徐にかおるを抱っこした。

 すると彼女は「きゃっ」と小さく驚きの声を上げたが特に抵抗する素振りは無い。


「桜ぁ、一応先輩で抱っこ状態の潜伏が可能か試してみるから確認宜しくぅ~。」


「ほ~い。」


 賢斗は潜伏&忍び足を発動すると付近を適当にウロウロ。


「どうだぁ~?」


「うん、大丈夫みたいだよぉ~。」


 おし、やっぱイケるな。

 にしても何だろう、さっきから先輩がやけに大人しいのだが。


「先輩、確認終わりました。

 抱っこ状態でも潜伏可能みたいです。」


 と賢斗がようやくかおるの様子を窺えば上目使いにアヒル口、拗ねた様子で真っ赤になっていた。


「はっ、早くおろしなひゃい。」


 おおっ、可愛い、こいつぁ掘り出し物だな。


 と一悶着が終わった頃合い、円が三人に言った。


「私はおんぶで構いませんよ、ポンッ」


「「「あっ。」」」


 猫人化能力は幼女の姿に戻れるらしい。

次回、第四十話 俺達はとんでもない化物を生み出してしまったようだ

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