第三十八話 リフレクトエクスペリエンス
○テスト対策 その3○
さて清川3階層大部屋までやって来ていた賢斗達は下準備を終えると学習用スキルの習熟取得活動を開始。
面々は持ってきた鞄から教科書を取り出した。
ちなみに四人が今回選んだ学習用スキルは全員揃って速読スキル。
雑誌情報では3つの学習スキルが習熟取得可能とされていたが、特にどの教科が苦手といった特徴のない彼等にとってこの速読ならほぼ全教科で有効という判断らしい。
そして少女達三人がドキドキジェットを発動し素早く教科書のページを捲って行く中、一人出遅れている人物がここに。
しっかしアレが出来ればこんなの取る必要も無いんだが。
この賢斗の述べるアレとはハイテンションタイム中の高速思考のスキル化であり、実は以前彼はこれに挑戦しようとしたが、その方法にすら辿り着けなかった。
というのはハイテンションタイム中の高速思考状態は高速化された血流による副産物。
それを習熟しようとすればドキドキジェットのオンオフの繰り返しが求められ、クールタイムがある以上土台無理なお話だったのである。
ともあれボヤキを入れつつもようやくドキドキジェットを発動すると彼の頭は冴え渡り、集中力は増し、気持ちが昂ぶる。
そんな1秒が1分程に感じられる加速した思考世界の中、何とも適当にパラパラと教科書を捲って行く。
『ピロリン。スキル『瞬間記憶』を取得しました。』
あっ、ヤバい、違うの取れちった。
その瞬間ハイテンションタイムは終了、彼の周りでは女性陣が喜びの声を上げていた。
「やったぁ~、取れたよぉ~、速読スキルぅ~。」
「はい、ホントに簡単に取れちゃうんですね。」
「うんうん、これでテスト対策は完璧よ。」
「あれぇ~、賢斗はぁ~?」
「・・・とっ、取れたよ。」
う~ん、こうなっては後でもう一遍・・・いや待てよ。
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『瞬間記憶LV1(0%)』
種類 :アクティブ
効果 :瞬間的に見たものを覚えることが出来る。発動時間0.1秒。クールタイム10分。
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おおっ、やっぱこれはこれで良い感じじゃん。
テスト対策にも対応できそうだし、ここは結果オーライという事にしておこう、うん。
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○テスト対策 その4○
翌日5月14日火曜日午前9時50分、朝の授業風景。
「循環小数とは、ある桁から先で同じ数字の列が無限に繰り返される小数の・・・」
教師の声が響く教室の中、内職に勤しむ一人の男子生徒。
ペラン、くわっ、フムフム。
彼は教科書を1ページ捲ると目を見開き一人納得顔で頷いていた。
「それに対し、循環小数でない小数は無理数と言われます。例えば円周率とか・・・」
しかしそれが終わると教師の話に耳を傾けるでもなくボケーっと時を過ごし、10分程経つとまた先程と同じほんの数秒の作業を繰り返していた。
キーンコーンカーン・・・
よぉ~し、終わった終わった。
おっ、よしよし、記憶した内容はちゃんと細部まで憶えてる。
しかもイラストや写真とかまで明確に思い出せるしこれなら地図や一覧表への対応も可能・・・速読よりこっちの方が多分優秀だな、うんうん。
とはいえ発動が一瞬で終わってしまうのが割とネックだなぁ。
開いてる2ページ分しか記憶出来ないしクールタイムが10分もある。
もうちょっとこう効率良く作業を進められれば・・・
あっ、他の教科の教科書も机の上に並べとけば良いだけの話かも?
ニヤリ、よし、次はこの作戦で行ってみよう。
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○高校生ランキング○
時間は進み既にお昼休み。
菓子パンをコーヒー牛乳で流し込む賢斗の元にモリショーが御訪問。
「賢斗っちは今ランキング何位くらいっしょ~?」
「ん、そんなの一々確認してねぇよ。
どうせ10数万位辺りだろうし、あんなの高一の俺達が気にしたって仕方ないっつの。」
「分かってないな~、賢斗っちは。
高校生の俺達の間でランキングって言ったら、高校生探索者ランキングの事っしょ―。」
「何それ?」
「そんなの探索者協会のランキングから高校生のデータを抽出して、勝手にランキングしてるサイトのことっしょ―。」
へぇ~、そんなのあんのか。
「ちなみにパーティーランクも集計してたりするっしょー。」
「ふ~ん、で、お前はそのランキングで何位なんだ?」
「気になる?パチパチパチ・・・」
・・・ならねぇよっ!
とそこへ今度は鈴井と水谷を引き連れた白川が御訪問。
「多田君、今週の合同探索なんだけど、緑山ダンジョンでいいかな?」
「なかなか良いところですよ、緑山ダンジョンも。」
「お願いであります。」
この緑山ダンジョン、賢斗も知識としては知っている。
フィールド型ダンジョンで1階層に出現するのは低レベルの虫と植物系の魔物。
そして低階層であるそのフロアに於いても採取ポイントがそこかしこに存在し、お手軽に薬草系アイテムを採取できたりするこの辺では白山ダンジョン以上に人気のダンジョンである。
あ~緑山かぁ、まっ、あそこも悪くないんだけどな。
では何故彼が今までそこに足を運んでいないのかと言えば、それは自宅アパートからの距離。
30kmという道のりは清川程ではないにしろ平日普段通い出来るモノではない。
もっと近くにあれば俺も結構通ってたと思うし。
とはいえ初心者指導するだけの今回、態々そんな遠くまで行きたくないんだが。
「何で急に緑山に変更すんの?」
「それは鈴井さんが採取スキル、水谷さんが調合スキルを恩恵取得してるのよ。
たから薬草系のアイテムが欲しいっていうのがまず1つ。」
確かにそんなスキルを恩恵取得したなら、緑山ダンジョンに行きたくなるわな。
「次は私達ラブリィエンジェルも白山ダンジョンばかりで飽きちゃてるってところが2つ目ね。」
ぷっ、ラブリィ・・・恥ずかしくないんかな?
まっ、まあそれはさて置き飽きてるって事は委員長達は無理せず同じ階層で探索してるって事だな。
レクチャーしてやった身としては安全重視の活動を継続している点は褒めてやろう。
「最後は水谷さんのお父さんが緑山ダンジョンまで大き目のワンボックスカーで送り迎えしてくれるそうなの。
交通費も浮くしどうかなって思ってるんだけど。」
ふ~ん、まっ、交通費に関しちゃ白山ダンジョンにすれば掛からん訳だし魅力にならんが。
「賢斗っちぃ、偶には他のダンジョンも行きたくなるっしょ~?」
そりゃね。
まあ何にせよ俺的にそこまで反対する理由も無いか。
つか寧ろ転移ポイントが増えて良いくらいだし。
「そこまで話が進んでんのなら、俺も別にそこで良いよ。」
「それは快諾と受け取って宜しいのですね。」
「ああ。」
「良い人であります。」
「良かった、プロ探索者様の多田君が居れば安心だしね。」
ふ~ん、委員長は俺が探プロ契約したのを知ってるみたいだな。
とはいえ写真はアレだったが探索者マガジンにプロフィールまで載ってたもんな。
「えっ、賢斗っちがプロ探索者ってどういうことっしょ~?」
まっ、気付かんバカもいたけど。
「じゃあ日曜日の朝9時に校門前集合だからよろしくね。」
あれ?でも俺がプロ探索者と知った上で初心者が護衛を頼んで来るという事はギャラが発生しても良くね?
よし、抗議しよう、出来ないけど。
「うん、分かった。」
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○リフレクトエクスペリエンス その1○
午後4時、賢斗が拠点部屋のドアを開けると・・・
「ありがとぉ~、かおるちゃん。」
「うんうん、また消耗したらやったげるから何時でも言って。」
何やら桜がかおるから自分の杖を受け取っていた。
「何してたんですか?」
「ああ桜の杖の修復と強化をしてあげてたの。
賢斗君の短剣もついでにやったげるから早く出しなさい。」
「あっ、じゃあ先輩、これお願いします。」
かおるの手に渡った短剣を解析してみると・・・
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『魔鉄鋼のダガ―』
説明 :魔鉄を使用して打たれたダガー。STR+5。
状態 :11/60
価値 :★
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うわっ、11/60だって。
まだ貰って1か月くらいだってのに武器って結構消耗するんだな。
かおるは短剣を受け取った短剣を鞘から抜き、刀身と鞘の二つを横向きにテーブルに並べた。
「じゃあ始めるわね。」
彼女は抜身の短剣の剣先部分に先ずは掌をかざした。
するとその剣先は白い輝きを放ち始める。
ほほう、何か面白いな。
剣先が完全に光に包まれるとかおるは掌をゆっくり右へと移動、通過した部位に目をやればまるで新品と思える程の光沢具合。
おおっ、凄い凄い。
いや~自分の武器が修復されるのって何か気分良いな。
その後鞘にも同様の作業を施すと程無く修復作業は終了。
「はい、賢斗君。終わったわよ。」
「あ、どもっす。」
あれ、何か刀身の色が前とちょっと前と違うな。
まっ、こっちの方がカッコイイから良いけど。
刀身を抜いて眺めたそれは以前より青みがかった色合いとなっていた。
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○リフレクトエクスペリエンス その2○
さて耐久度の方はちゃんと回復してますかね。
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『魔鉄鋼のライトニングダガー』
説明 :魔鉄を使用して打たれたダガー。雷属性(弱)。STR+6。
状態 :70/70
価値 :★★
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ってあれ、何気に凄い強化具合だな、これ。
見た目も前よりちょっとカッコイイし、いや~先輩様様だなこりゃ。
「先輩、凄いっすよ。
この短剣雷属性のエンチャントまで付いちゃってるし、ライトニングダガーなんてカッコイイ武器名に成っちゃってますよ。
先輩の強化修復ってこんなに凄かったんすね。」
「え~そうなのぉ~?
賢斗ぉ~、私の杖も調べてみてぇ~。」
桜にせがまれ彼女の杖も解析してみると・・・
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『火の杖』
説明 :小魔石を3つ埋めこまれたひのき製の杖。火属性(弱)。ATK+4。
状態 :110/110
価値 :★★
用途 :武器。
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あっ、こっちもだ。
「おお、桜の杖も火の杖火属性(弱)が付与されて、火の杖に名前が変わってるぞ。」
「うぉ~やったぁ~♪」
「にしてもホント凄いっすねぇ。」
「そう、二つとも属性エンチャントまでされてたかぁ。
うふっ、まあでも種明かしすると今回二人の武器にやったのは強化修復じゃなくってリフレクトエクスペリエンスっていうリペアスキルの新しい機能なのよ。
武器自身の使い込まれた経験が修復時に反映されるって話だったけど、流石はレベル10で追加されるだけあるわねぇ。」
なるほど、この属性付与は俺がスタンを乗せた斬撃を多用してた結果という訳か。
「あと強化修復の場合1回しか強化出来ないんだけど、このリフレクトエクスペリエンスに関しては武器に経験を積ませれば何度でも強化出来るみたい。」
へっ、回数無制限なの?これ。
「完全破壊しない様大事に使い続ければ二人の武器もどんどん強化されちゃうって訳。」
「かおるちゃん、すっごぉ~い。」
「だな、この先輩に貰った普通の短剣がもしかしたら凄い武器に成っちまうかもだぞ。」
等と強化された武器に喜びを分かち合ってる三人だがリペアスキルというものはそこまで所持者が少ないスキルでもない。
仮に際限なく武器を簡単に強化し続ける事が可能なのであれば、既に先人の誰かがそれを成し遂げていて然るべきといったところ。
「うんうん、新しい武器を買い替えて行くのが一般的だけどこれがあればその必要も無い。
お財布にもとっても優しいのよ。」
おお~確かに。
事実この方法で伝説級の武器にまで強化された等という話はこの世界で一切出回っておらず、つまりはそういう事。
リフレクトエクスペリエンスでの強化に必要な経験というものは回を重ねる毎により深く濃密なモノが必要とされていくのである。
「かおるちゃん、この杖大事に使うねぇ~。」
「うんうん、桜の杖ももっと凄くなっちゃうわよぉ。」
とはいえそんな強化上限の壁があろうとも、ある程度まで武器を強化する事が出来るのもまた事実。
今の彼等がそんな先々の事を気にする必要等何処にも無いだろう。
「でもホント一気にこの短剣に愛着が湧いて来ましたよ。」
「でしょう、愛しの綺麗で可愛いかおる先輩に貰った武器なんだからちゃんと大事に使うのよ、ウフッ♪」
おい、無駄に引っ掛かる部分が多いんだが・・・
「「はい」は?賢斗君。」
次回、第三十九話 チームプレイとポンコツスペック。