第三十七話 クイーン猫キック
○第2予選を終えて その1○
5月13日月曜日午前6時30分。
第2予選を終えた次の日もナイスキャッチは朝からいつものダンジョン活動。
清川ダンジョン3階層大部屋内では賢斗が早速短剣を振っていた。
シュピンッ、HP 3/15
シュピンッ、HP 1/15
ほい、瀕死処理完了っと。
『ピロリン。スキル『短剣』がレベル3になりました。特技『パラライズエッジ』を取得しました。』
おっ、新特技か、まっ、この辺は学校に行ってから確認するとして。
「お~い、終わったぞぉ。」
「もう賢斗さん、そういう作業は新人の私にお任せください。
私のクイーン猫パンチが火を噴きますよ。」
いや火なんて噴かねぇだろ、そのパンチ。
ついでに言えばこいつら今レベル5だから円ちゃんのクイーン猫パンチではまるで効果がない。
なぁ~んて思っていても・・・
「いや~円ちゃんのロングコートがまた汚れちゃ悪いし。」
こう言っておくのが正解です。
「それはまあ確かに嫌ですが、私の覚悟をきちんと皆さんにお見せしておかなくては・・・」
「あっ、だったら今度ワイルドウルフの毛皮を取ってきましょ。
あれを使えばロングコート代わりに腕に巻いたりできるだろうし。」
あ~、そりゃ良いかもな。
円ちゃんの場合武器性能、つか武器ですらなくたっていい訳だし。
つっても流石にダンジョン産の素材じゃないとダメだろうけど。
「そんなっ、また皆さんにご迷惑を掛けるようなマネは・・・」
「ワイルドウルフなんて簡単に倒せちゃうし全然迷惑じゃないよぉ~、円ちゃん。アハハ~」
「そうは言ってもですよ、桜・・・」
「気にしなぁ~い気にしなぁ~い、まっかせっなさぁ~い。」
「ん~っとにもういつもいつも、桜が相手だと調子が狂っちゃいます。」
「えへへ~。」
ふっ、にしてもあれからそれ程経ってないのに俺達も随分強くなったもんだ。
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○第2予選を終えて その2○
午前8時40分、教室内では担任がHRを進める中、賢斗は自分のステータスをチェック中。
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名前:多田賢斗 16歳(168cm 56㎏ C88 W78 H86)
種族:人間
レベル:6(22%)
HP 18/18
SM 15/15
MP 20/20
STR : 13
VIT : 8
INT : 13
MND : 19
AGI : 17
DEX : 11
LUK : 6
CHA : 11
【スキル】
『ドキドキ星人LV10(-%)』
『ダッシュLV10(-%)』
『パーフェクトマッピングLV10(-%)』
『潜伏LV7(63%)』
『視覚強化LV10(-%)』
『解析LV10(-%)』
『聴覚強化LV10(-%)』
『念話LV3(78%)』
『ウィークポイントLV5(21%)』
『短剣LV3(1%)』
『忍び足LV1(58%)』
『空間魔法LV7(23%)』
『隠蔽LV6(66%)』
『限界突破LV4(2%)』
『感度ビンビンLV2(32%)』
『九死一生LV5(8%)』
『回復魔法LV2(4%)』
『MP高速回復LV4(56%)』
『雷魔法LV4(7%)』
『猫語LV1(7%)』
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いやぁ、今更ながらスキル数だけは大したもんだ。
つってもこれだけスキルがあって今一火力が足りていないってのも相変わらず。
う~ん、最大MPもまだ20ぽっちだし、どうしたもんだか。
賢斗としても昨日の第2予選15位19秒での通過という結果には満足している。
しかし通過枠が10組に絞られる第3予選を見据えた場合、現状で満足していてはその突破がかなり厳しいモノである事もまた明白である。
そこで問題となって来るのが同様の戦法では討伐したタイムにあまり上積みが見込めないという点。
賢斗の予想ではあの発動魔法の変更ロスを抜きにしても現状第3予選のボーダータイムを上回る事は出来ないと思われた。
アレが無くても流石に10秒台前半はキツイだろうし。
打開策になりそうなのは到達速度の速い賢斗の雷魔法なのだが魔法スキル以外の習熟に重きを置いている現状まだ範囲魔法すら覚えていなかったり。
第3予選に向けては前途多難といったところである。
まっ、ぼちぼちやってくしか無いかぁ。
あっ、そういや今朝短剣スキルも特技覚えたんだったな。
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『短剣LV3(2%)』
種類 :アクティブ
効果 :短剣装備時、STR5%上昇、AGI5%上昇。習得特技の使用可能。
【特技】
『ポイズンエッジ』
種類 :アクティブ
効果 :攻撃時の10%の確率で敵を状態異常毒にする。敵HP5%ダメージ/30s。
『パラライズエッジ』
種類 :アクティブ
効果 :攻撃時の10%の確率で敵を状態異常麻痺にする。
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ふ~ん、10%で切り付けた敵を麻痺させるねぇ。
でもこれスキルレベルが上がっても発動率は上がらんし完全にスタンを乗せた斬撃の下位互換だな。
MPを消費しない利点はあるが使い勝手悪過ぎるし、うん。
「・・・・え~再来週からは皆さんが高校に入って初めての中間試験も始まりますので、今から十分準備しておいて下さいねぇ。」
おっ、第3予選の後は直ぐ中間テストか。
う~ん、なぁ~んかこの先ハードなスケジュールになりそうだな。
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○クラス合同探索のお知らせ○
お昼休みの教室内、昼食を取っている賢斗に近寄って来る一人の女生徒。
彼女は彼の視界を遮る様に一枚のプリントを眼前に差し出した。
「はい、これお願いね。」
すると直ぐ様横を向きエネルギー補給を継続する賢斗さん。
「ちょっとぉっ!何食べてんのよっ。」
「えっ、焼きそばパンですけど何か?モグモグ」
「そうじゃなくてちゃんとプリント受け取りなさいって事っ!」
う~ん、お食事中なのにぃ。
「あと今週の日曜日はクラス合同探索をする予定なんだからちゃんと時間を開けておいてよね。」
えっ、クラス合同探索?
・・・何か俺も参加するかの様に聞こえるのだが、気のせいだろうか?
「何それ?」
「もう、今月の探索者委員会で言ってたでしょ。
初めてダンジョンに入る人達のサポートとして今後は月1でクラス毎にクラス合同探索をするようにって。」
おいおい、そんなのアドバイス程度で十分だろうに。
「これならクラスのダンジョン経験者の人達にも協力して貰えるでしょ。」
なぁ~んだ、それなら別に俺が出席する必要は・・・
「あっ、ちなみに探索者委員は毎回強制参加だから。」
ちっ、やっぱりそういう事か。
ならばここは適当に・・・
「あと参加出来ない時はそれ相応の理由が必要になるから簡単に休めると思わない事。」
となるともう逃げ場は、いや待てよ。
今月ダンジョン未経験の奴なんて居たか?
「ちゃんと居るわよ、鈴井さんと水谷さんが。」
あ~、あの高橋と一緒にダンジョン行って怪我した残りの女子2人か。
てっきり高橋の一件で懲りたものだとばっかり。
「どう?諦めが付いた?多田君。ニコッ」
う~ん、実に不愉快な笑顔だ・・・ってちょっと待て。
何委員長の奴さっきから俺の考えを先回りして釘刺してんの?
まさか読心系のスキルなんかを・・・
「そんなの取得する訳無いじゃない。
多田君は顔に出易いだけよ。」
ほらやっぱり。
そんな内容どんな顔すりゃ伝わるんだっつの。
「じゃあ日曜日の午前9時、白山ダンジョン集合だから忘れない様に。
一応午前中で終わる予定よ。ウフッ」
白川は右手をヒラヒラさせつつ上機嫌に戻って行く。
う~む、困った、あっ、でも体調不良は相応の理由になるよな、うんうん。
「そうそう体調には十分気を付けてね。
休む様ならちゃんと診断書を見せて貰うし。」
なっ・・・ちっ、厄介なスキルを手に入れおって。
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○テスト対策 その1○
午後5時、夕方のダンジョン活動を終えた賢斗達はクローバー拠点部屋に帰着。
すると面々はすぐ帰るでもなくテレビを見たり、雑誌を見たりと各自自由にリラックス。
「なあ、うちの高校再来週から中間テストだって言ってたんだけど、桜達の高校はどうなの?」
「あ~うん、おんなじだよぉ~。」
「じゃあさぁ、来週はテスト前だしダンジョン活動はお休みって事にしといた方が良いかな?」
「え~別にテスト前だからってお休みにする必要ないよぉ~。
毎日ちょこっとずつ勉強してるし普段とやる事変わんないもぉ~ん。」
ほ~ちょっと意外・・・つってもこいつはこう見えて俺より偏差値高めの女子高通ってんだよなぁ。
「私も家庭教師に見てもらっているので、試験前だからと言って特に普段と異なる点は御座いませんよ、賢斗さん。」
おうおう高一から家庭教師とか一体何処のお嬢様・・・いやお嬢様でした。
「私も前日にならないとエンジン掛からないタイプだし全然平気よ、賢斗君。」
おっ、ようやく問題児発見。
ソレの何処に全然平気な要素があんだよ。
つっても一番の問題児は俺の方か。
1人暮らし始めてからこっちまともに勉強時間作れてないし。
う~ん、どうすっかなぁ。
「それに今回私には強ぉ~い味方が付いてるの。
ほら、これ見て、賢斗君。」
かおるはそう言うと鞄から探索者マガジンを取り出し賢斗に見せた。
『あなたも学習用スキルでテスト対策~試験勉強に役立つスキル紹介~』
学習用スキル?
雑誌に目を通すとそこには速読、暗記、演算、頭脳明晰といった勉強に役立ちそうなスキルが紹介されていた。
へぇ~速読、暗記、演算の3つは習熟取得も可能かぁ。
ふむ、これは確かに強い味方になってくれそうだ。
「良いっすねぇ、これ。
何か俺も取得してみたくなってきましたよ。」
「でしょう?これさえあれば試験勉強なんて鬼に金棒よ。」
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○テスト対策 その2○
昨日の流れから翌朝のダンジョン活動では皆で学習用スキルを取得しようという事になっていた。
早速大部屋内に入った賢斗達はスライム達の討伐に取り掛かる。
シュピンッ、グサッ、ヒュン、ドスッ、ドォ~~~ンドォ~~~ン
おっし、片付いたなぁ。
「これで学習用スキルの習熟に集中できるわね。」
うんうん、って事でそろそろ始め・・・
「賢斗さん、今私またレベルが上がってしまいました。
何か身体の内から力が湧いて来るようです。」
あ~身体レベルが上がるとちょっとそういう感覚あるよね~。
「そっか、良かったね円ちゃん。」
って事でそろそろ始め・・・ん、何?
軽く流そうとする賢斗を見るや円の頬は膨らんで行った。
「賢斗さん、何時もの様に解析はしてくれないのですか?」
えっ、いや別にして欲しいならするけど、一々身体レベルが1個上がったくらいで・・・
「もう円には興味が無くなってしまったみたいでとっても寂しいです。」
「えっ、いやいやそんな事無いって、今解析させてってお願いするとこだったし。アハハ~」
「そうでしたか、あんまり私を不安にさせてはダメですよ、賢斗さん。」
う~ん、この様子じゃ毎回こっちから解析をおねだりしてやらないと不味そうだな。
まっ、見ちゃダメだと言われるよりはよっぽど良いけど。
「じゃあちょっと解析させて貰うね~。」
「はい、成長した私を見たらきっと賢斗さんは驚いてしまいますよ。」
はいはい、どれどれ~。
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名前:蓬莱円 15歳(160cm 45kg B81 W54 H81)
種族:人間
レベル:5(0%)
HP 5/6
SM 4/5
MP 6/8
STR : 2
VIT : 2
INT : 6
MND : 6
AGI : 2
DEX : 6
LUK : 6
CHA : 20
【スキル】
『キャットクイーンLV4(1%)』
『感度ビンビンLV3(3%)』
『限界突破LV1(76%)』
『念話LV1(32%)』
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ふむ、SM値が5、完全に普通の一般人の領域に入ったなぁ。
とはいえこのパラメータを見る限りじゃとてもレベル5とは思えん。
うんうん、とっても驚きましたよぉ、円お嬢様ぁ。
っておや?
キャットクイーンもまたレベルアップしてたのか。どれどれ~。
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『キャットクイーンLV4(1%)』
種類 :パッシブ
効果 :猫族のクイーンとしての本能を呼び覚まし、特殊能力を得る効果。
【特殊能力】
『クイーン猫キック』
種類 :アクティブ
効果 :猫人化して放つ固定ダメージキック。当たれば必ずHPを1削り取る。
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ほほう、今度はクイーン猫キックなんつぅ技を覚えたのか。
にしても固定ダメージ1の攻撃なんて大して役に・・・いや待てよ。
この技を強制的に相手のHPを1にしてしまうクイーン猫パンチと合わせれば、どんな敵でも2回の攻撃で倒せてしまう凄いコンボ技が完成してしまうのでは?
しかしこうなってくるとあのレベル条件が実に惜しまれるな。
アレが無きゃホントにこのお嬢様、最強だったかもしれないのに。
まっ、何にせよこんな特技を取得してるとは思わんかったし解析はして正解だったか。
つっても格下相手専用のコンボ技にそこまで期待は出来ない。
そしてクイーン猫キック単体で見た場合幾らこっちにはレベル上限が付いて無いと言っても固定ダメージ量が1しか・・・いや待てよ。
彼女の愛猫小太郎のHPは3。
固定ダメージ1の攻撃であっても小さな子猫からすればそれは十分な脅威であった。
ワンキックでも大ダメージ、ツーキックで瀕死状態、もし3回喰らう様な事にでもなれば・・・
いけないっ、このままではっ!
「どうですか?賢斗さん。
存分に驚いて頂けましたか?」
はいっ!小太郎に迫る新たな危機に。
にしてもどう切り出そう・・・
クイーン猫パンチの説明はお茶を濁して説明してある。
ここでクイーン猫キックを普通に説明したら、ちょっと変に思われちまうだろうし。
「う、うん、とっても驚いたよ、円ちゃん。
まさかキャットクイーンスキルもレベルアップしてたとは思わなかったし。」
「はい♪賢斗さんに驚いて頂こうと少し内緒にしておりました。」
「ああ、そうだったんだ。
それで分かってると思うんだけどさぁ、この新しく覚えたクイーン猫キックとかいう特技、小太郎に試しちゃダメだよ。」
「・・・えっ。」
おい、何故このタイミングで目を逸らす?
「これもほらクイーン猫パンチ同様、良く分からない感じだから何かあると悪いだろぉ?」
「・・・あっ、はい、やっぱりですか?
もしかしたらそうなのかなぁって思ってました。」
嘘吐けぇっ!
顔が試す気満々でしたみたいになってんぞっ!
「絶ぇ~対に試しちゃダメだからね、円ちゃん。」
「もぉ、そんなに念を押さなくても大丈夫ですよ、賢斗さん。
私はそんなこと致しません。」
本当だろうなぁったく・・・
でもまあ危ない所だったが、今回はどうやら間に合った様だ。ふぅ~
次回、第三十八話 リフレクトエクスペリエンス。