第三十六話 モンチャレ大会第2予選
○モンチャレ大会第2予選 その1○
午前10時、予選開始時刻になるとダンジョン入口へと滝の裏側通路を進む最初の三組の出場者達、その最後方には賢斗達三人の姿があった。
ダンジョン内に入ると、前方を進んでいた1、2番目の出場者達は早速ウォーミングアップとばかりに体をほぐし始める。
その予選会場を見渡せば、多少は注目度が上がったのか前回の第1予選の時より中央のバトルスペースを取り囲んでいる人々の数が多い。
そして一際目を引くのが大きなデジタル時計の横で額に鉢巻右手にどこかの優勝旗を思わせる大きな旗をブンブンと振り回す女性の姿。
・・・見なかったことにしよう、うん。
程無く予選1組目の名が職員に呼ばれると、そのパーティーが中央のバトルスペースへと進んで行った。
彼等の見た目的には三人とも剣士スタイル。
反対側からは魔物召喚担当者であるローブ姿の探索者が三人フロアの中央へと出て来た。
さぁ~て、今回は一体どんな魔物が召喚されるんですかね?
スタート開始のカウントダウンがゼロを迎える少し手前で召喚担当者達の前に3体の魔物が姿を現す。
ふ~ん、トカゲ型に猪型に狼型ですかぁ。
今回の魔物召喚担当者の召喚傾向としては、素早そうな魔物を召喚するって感じかな。
バシュン、バシュン、バシュン
へっ?うわ~何あれ、あの人達皆で斬撃なんか飛ばしちゃってる。
しかも一撃で全部倒せてるし・・・
う~ん、このパーティー相当強いな。
中でもあのもみあげの長いゴリラ顔は群を抜いてヤバい。
パカッ
『00:08:24』
おっ、そりゃそうだわな、あっという間だったし。
にしても予選1位通過ともなると一桁秒台なのか。
今の俺達じゃ討伐タイム8秒なんて逆立ちしたって無理だし、う~む、これは困った事に。
って待て待て、別にこいつ等に勝たなくても今回の予選通過は50位以内。
元より1組目という事は俺達以上の実力者なんだし、ここで自信を失う必要は何処にもあるまい。
「それで賢斗君。今日はどういう作戦でいくの?」
どういう作戦と言われてもあんな瞬殺劇から俺達が参考に出来る点なんかありゃしない。
強いて挙げれば召喚された魔物については多少素早い魔物が出現する傾向があったって事くらいか。
「先輩、さっきのパーティーが討伐してた魔物って本来素早く動く感じの魔物ですよね。」
「そうねぇ、トカゲ型はちょこまか、猪型は突進、狼型はフットワークの良い走りをする感じかな。」
ふむ、やはりそうなると敵が桜のファイアーストームの効果範囲から逃れてしまう可能性を考慮した方が良さそうだな。
まっ、実際召喚される魔物予測は気休め程度って事だけど。
「じゃあ今回は俺と先輩は協力魔法、桜はファイアーストームは使わずファイアーボール2回で敵を殲滅する作戦でいきましょう。
これでも第2予選のボーダータイムは十分クリアできると思うんで。」
これなら接近されても対処し易いだろうし。
「りょ~か~い。」
「わかったわ。」
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○モンチャレ大会第2予選 その2○
流石に賢斗達より上の予選通過タイムだった2組目も30秒と掛からず第2予選を終わらせた。
そしていよいよ3組目となるナイスキャッチの名が呼ばれ賢斗達は中央のバトルスペースへと歩いて行った。
10、9、8、7、6、5、4、3・・・
召喚担当者と対峙し、カウントダウンに合わせ賢斗は自分の発動する魔法に意識を集中しつつ召喚される魔物に視線を送る。
ぼんやりとした光の中から現れたのは・・・
へっ、亀?
そりゃ気休め程度とは聞いてたが・・・
召喚されたのは同じ亀型の魔物が3体。
「桜っ!作戦変更。ファイアーストーム・アンリミテッド、スタンバイッ!」
魔法スキルの発動には詠唱等は必要ないがイメージの構築時間というものが必要でそこに経験や才能と言った個人差が生じる。
「おっけぇ~、むぅむぅむぅむぅむぅぅぅ~。」
そして途中まで練り上げていた魔法イメージの変更等という芸当は本来まだ経験の浅い魔法スキル所持者が実践すれば、逆にかなり効率の悪い結果を招くものだが・・・
「賢斗~、いけるよぉ~。」
この魔法に関し類稀なる才に恵まれた少女は初の挑戦でそれをいとも容易くやってのけた。
「撃てぇ~っ!」
「ファイアーストーム・アンリミテッドぉ~ッ!。」
ボォファボォファボォファボォファ・・・・
おおっ、勢いで指示出しちゃったけど意外と・・・いや先生だからか。
動きが差して素早くも無い亀型の魔物は出現した火嵐に飲み込まれると霧散が始まり数秒で完全に消失。
よしっ、タイムは?クルリッ
賢斗が素早くデジタル時計を確認すれば・・・
どけっ!、蛯名ぁっ!
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○モンチャレ大会第2予選 その3○
午前10時30分、予選を終えた賢斗達は水島の車へと戻っていた。
「皆さん、予選の方はどうでしたか?」
「うん、超楽勝だったよぉ~♪」
確かになぁ、一瞬マズったかと思ったけど結果オーライだったし。
「ふふっ、その様子じゃ第2予選は大丈夫そうですね。」
「ええまあ討伐タイムはちょっと確認できなかったけど、多分通過は出来るんじゃないかと。」
まあ何にせよ、この感じなら大丈夫でしょ。
と、そんな話をしていると・・・
「よう紺野、お前らの召喚された魔物が何だったか聞かせてくれ?」
古谷が早速自分達の予選に向けての情報収集活動にやって来た。
「えっとねぇ、私達の時は亀型が3体が出てきたわよ。」
「そりゃあお前等ついてなかったなぁ。」
えっ、何で?結構楽勝でしたけど・・・
「亀型は物理攻撃が効きにくいし否が応にも討伐に時間が掛かっちまう。
あんなの3体も召喚されたら召喚担当者に文句の一つも言ってやりたいレベルだ。」
あっ、そっか。
攻撃魔法持ってないパーティーからしたら確かに。
「うんうん、あれ見て私頭が一瞬真っ白になっちゃったわよ。」
とここでスキル研のもう一人のメンバーがご登場。
ニコニコ顔でかおるに声を掛ける。
「あはっ、それはとても残念だったわねぇ~、かおるぅ♪
仇は取ってあげるから、今日は大人しく帰りなさぁ~い。」
「あら優しいのねぇ、綺羅ぁ。
でも貴女にそぉ~んな心配して貰う必要なんて無いわよぉ♪」
・・・始まったな。
コント劇場開幕。
こちとらもうとっとと帰りたいんだが。
「先輩、いい加減帰りますよ。」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、賢斗君。
今とっても良いところなんだからっ。」
う~ん、どの辺が?
かおるを放って呆れた様子で車に乗り込む面々。
「多田さん、先程の件ですが先生に確認したら車でこっから公道に出て人気のない所で転移するならOKって言ってましたけど。」
おっ、中川さんのOKが出たか。
俺のMPも丸々残ってるしそれなら勿論・・・
「ああじゃあ何か悪いですけど俺達は先に転移で帰ります。」
「分かりました、じゃあ一旦山道の方へ行きますね。」
さて、そうと決まれば、チラッ
「綺羅ぁ~、魔法スキルって知ってるぅ~?」
「そっ、そんなの知ってるに決まってるじゃないのっ!」
「ホントかなぁ~♪ニタァ」
ウィーン
「せんぱぁ~いっ、そろそろ行きますよぉ~。」
「あっ、ちょっ、賢斗君、もうちょっと待ってねっ。
今すっごい大事なところなのっ。」
何だろう、置いて帰りたい。
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○モンチャレ大会第2予選 その4○
午前11時、賢斗達は水島を残した形でいち早くクローバー拠点部屋に帰還。
部屋を出ると店頭に居た中川に早速報告を入れる。
「あっ、只今戻りました。」
「あら、皆お疲れさま。
随分早いお帰りだけど結果の方は如何でしたか?」
「ばっちり~♪」
「そう、結構自信ありってところかしら。
まあ第2予選で躓いて貰ってちゃこっちとしても困るところだけど。ウフッ
あっ、あと人目に付かない様光が帰ってくるまであんまり拠点部屋から出ない事。
まだモンチャレ予選を終えたばかりの貴方達はここに居る筈もないんだから。」
とそんな指示の元再び拠点部屋に戻る面々。
ソファに腰を下ろすと、テーブルの上には円が購入して来たお菓子とジュースの数々が並べられた。
「じゃあお疲れ様会を始めるよぉ~。」
ちなみに円の歓迎会を兼ねる案もあったが、正式加入は6月だという事で先送りにしたらしい。
「なあ、桜。
お疲れ様会って具体的に何やるんだ?」
「お菓子を食べながらお喋りしてぇ~、最後に皆で予選結果を確認するんだよぉ~。」
「あ~なるほど、お菓子を食べてお喋りか、ってお前それ普段とあまり変わってねぇぞ。
まっ、予選結果を見るオマケはついてっけど。」
「そんな事無いよぉ~、こういうのは気持ちの問題だしぃ~。
賢斗は文句ばっか言わないのぉ~。プンプン」
へいへい、そっすか。
にしてもアレだなぁ。
一人暮らし始めてこっち、学校にダンジョン活動にと家事は溜まってく一方。
こんな時くらい早く帰りたいとこなんだが、まっ、結果発表の午後3時までなら付き合ってやるか。
「コホン、それではこれより第2予選のお疲れ会を始めたいと思いまぁ~すぅ。」
パチパチ~
上機嫌な桜の挨拶と疎らな拍手の中お疲れ様会なるモノは始まった。
おかしを摘まみつつ第2予選の話に花を咲かせる面々。
丁度昼食前だったのでお昼にはホットケーキを作ったり、午後1時頃水島が帰って来ると彼女も一緒にそれを食べていた。
とはいえ午後2時頃にはその盛り上がりも一段落、それぞれ勝手気ままに雑誌を読んだりテレビを見たり、お絵かきを始めている者まで・・・
予選結果の発表時刻までの時間を持て余していた。
ナデナデ、う~ん退屈、ほれ。
ペロペロペロペロ・・・
賢斗の腕の中で子猫用チューブ式おやつを無心でむしゃぶりつく小太郎。
「美味いのか?それ。」
「やらないにゃっ!」
いや、要らんけど。
「3時になったよぉ~。」
おっ、ようやくか。
ガチャリ
時間を見計らった様に中川と水島も部屋に入って来た。
「皆さん、結果はどうでした?」
「あっ、いやそれならこれから見るところです。」
「そう、じゃあ早く見てみましょ。」
「ええ、じゃあ桜先生、予選結果の確認お願いします。」
「おまかせあれぇ~。」
うんうん、こういうのはLUK値最強の桜に任せるのが一番、まっ、心配ないと思うけど。
桜が座るPCデスクの周りを一同が囲むと協会のHPが開かれたディスプレイを注視する。
「いっくよぉ~。」
ポチッ
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予選通過第15位 ナイスキャッチ 討伐タイム19:32
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「おおっ、19秒。
前回より順位も上がってるぞ。」
「やったぁ~♪」
「うふっ、第2予選突破なんて上出来よっ。」
「おめでとう御座います、皆さん。」
まっ、分かっちゃいたが、これで気分良く帰れるな。
「じゃあ今から予選通過おめでとう会やらないとだねぇ~。」
えっ、いや何故そうなる。
もう結果は確認したしそれなら俺は・・・
「うふっ、じゃあ光、特上生7人前大至急出前を頼んでおいて。」
「はい、先生。」
・・・もう少しここに留まるべきかもしれない。
次回、第三十七話 クイーン猫キック。