第三十五話 第2予選日朝の光景
○第2予選日朝の光景 その1○
拠点部屋に初めて訪れた日以降円は朝夕共に拠点部屋を訪れ賢斗達のダンジョン活動にも同行する様になった。
となれば当然コバルトブルースライムとの遭遇を期待する賢斗達は夕方の活動で清川1、2階層に居るスライム達の元へも足を運び、水魔法のスキルスクロールを一つ入手するという上々の結果を得ていた。
しかしその次の日また清川へと向かった彼等の成果は芳しくない。
そこであれこれ原因を考えてみた彼等が出した結論は・・・
どうやら招き猫(雌)の効果は初遭遇時にしか発動しないのではないか?という事。
つまり瀕死処理して魔物を放置した次はレア個体であるコバルトブルースライムは一切出現していなかったのである。
とはいえそれが分かったからと言って瀕死処理をしていると金策が捗らないジレンマが直ぐ解決される事も無く只時間だけが過ぎて行く。
チャリンチャリン
いや~モンチャレ予選を前にして金策に100%舵を切る訳にもいかなかったしなぁ。
つってもスライムジェルの瓶詰も2つ手に入ったし、総額242万円。
俺一人の取り分だけでも54万4千5百円とか、文句言ったら罰が当たっちゃうでしょ~♪
キィー
5月12日日曜日午前7時、クローバーの駐車場には自転車を止める賢斗の姿。
気付けば既にモンチャレ第2予選日の朝を迎えていた。
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○第2予選日朝の光景 その2○
拠点部屋のドアを開けると既にソファに並んでお喋りしている桜と円。
その飼い主の膝の上では小太郎が脱出の機会を窺っていた。
「おはよう。二人とも。」
「あっ、おっはよぉ~。」
「おはよう御座います、賢斗さん。」
挨拶を済ませセルフでホットコーヒーを淹れると賢斗も対面のソファに腰を下ろした。
ガチャリ
「おはよう、みんな。
ちょっと遅れちゃったかな。」
「大丈夫ですよ、先輩。
今日の予選は前回と違って10時スタートですから。」
「あっ、そっか。
第2予選は参加者が減ってるから、スタートも遅くなるんだったわね。」
「光ちゃんが7時半にここを出るって言ってたよぉ~。」
「そういや円ちゃんは今日一緒に行っても暇なだけだと思うんだけど、本当について来るの?」
「はい、それにご心配には及びませんよ、賢斗さん。
その為に小太郎を連れて来てありますから。」
う~ん、何も起きなければいいが・・・
「円ちゃん、ちょっと小太郎を抱かせてもらっていい?」
「ええ、勿論。
賢斗さんも猫好きだって言ってましたし、存分に可愛がって上げて下さい。」
言ってたね~。
子猫を受け取り抱きかかえて撫でていると、小太郎が話し掛けて来る。
「恩に着るにゃ、あにきぃ。」
「おう、任せとけ。」
「そういやお前、この間も大変な目に遭ったみたいだな。」
「うん、また急にお花畑が見えたにゃ。」
なっ、お前・・・
「そっか・・・よく頑張ったな。」
「あにきぃ~。」
賢斗の胸に顔をスリスリする小太郎。
ほう、猫も中々可愛いもんだな、うんうん。
「それで身体の方はもう大丈夫なのか?」
「うん、全然大丈夫にゃ。
今は元気一杯だにゃ~。」
「ふっ、そっか、でもまあ一応俺が解析でお前のステータスを確認しといてやるよ。」
「勝手にするにゃ。」
どれどれ・・・
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名前:小太郎 0歳(0.2m 0.6kg)
種族:ペルシャ猫
レベル:1(0%)
HP 3/3
SM 3/3
MP 1/1
STR : 1
VIT : 1
INT : 1
MND : 1
AGI : 2
DEX : 1
LUK : 3
CHA : 6
【スキル】
『九死一生LV1(2%)』
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ブフォッ!
「ちょっと賢斗君、コーヒー臭い唾吐き出さないでよっ!
汚いわねぇ、もう。」
トントンガチャリ
「みなさぁ~ん、そろそろ出発しますよぉ~。」
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○第2予選日朝の光景 その3○
午前7時30分、水島所有のミニバンに乗り込むとクローバーを出発する一行。
目的地となる第2予選の会場は前回と同じく苗名滝ダンジョンである。
ちなみに長距離転移を覚えた彼等が前回と同じ苗名滝ダンジョンへ行くのに何故それを使わないのかと疑問に思われるかもしれない。
とはいえこれについては中川から事前に指示が出されていた。
「モンチャレ大会予選という公の場に姿を現す事になる以上、何処で誰に見られているか分からないわ。
空間魔法を秘匿するつもりなら、ちゃんと交通手段を使用したアリバイを作っておくべきね。」
まあ転移石を持ってると勘違いでもされた日にゃ、かなりの高確率で身の危険が生じそうですし。
にしてもそこまで気を使わねばならんとは流石にうちのボスは頭がキレますなぁ。
さて2時間程経過し時刻は午前9時30分。
車は無事苗名滝ダンジョン協会支部に到着した。
駐車場に降り立てば停車しているバスは3台。
前回50組程居た参加者も10組程度と明らかに少なくなっているのが分かる。
賢斗は取り敢えず予選の受付を済ませに向かった。
ウィーン
いや~今回も直ぐ帰れそうで良かった良かった、って、あっ。
受付近くまで来てみれば、手旗を持った見覚えのある人物が窓口に。
そういやこいつ、第1予選の時も応援で派遣されたとか何とか・・・
賢斗がさり気なくスゥ~っと重心を他方の受付へ傾け始めた瞬間。
「たっださ~ん、こっちこっち。
蛯名っちはここですよ~。」
手旗を振って猛烈にアピールを始めた受付嬢。
うっさい、だから反対の窓口に向かったんだろっ。
「あ~居たんですねぇ。
まさかこっちに来てるなんて気づきませんでしたよぉ。
じゃ、予選の受付お願いします。」
「そうでしたか~。
いや~私のアピール力もまだまだですかねぇ~、反省反省。」
・・・にしても余所の支部でもこの調子なんだな、こいつ。
「それにしても最近あんまり白山支部に顔を出さなくなりましたけど、どうしちゃったんですかぁ?
蛯名っち超絶心配でしたよぉ~。」
「いや一身上の都合なんで気にしないで下さい。
それより予選の受付をお願いします。」
「あっ、でしたね~。
今日は前回の通過順位を反映してナイスキャッチの予選開始はなんと3番目ですよぉ、パチパチ~。」
あっ、なら別に急いで受付済ませる必要無かったな。
そして3番目とは実に良い感じの順番。
前回は3組ずつダンジョン内に入る感じだったし、これなら丁度2組分の様子見が出来る。
「蛯名っちも仕事そっちのけで見に行きますから、今回も美少女達をこき使って是非頑張ってくださいね~。」
人聞きの悪い事言うんじゃないっ!
つか試合そっちのけで仕事しろっつの。
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○第2予選日朝の光景 その4○
受付を済ませて戻った賢斗は早速その内容をご報告。
「俺達は予選3組目だって。開始は午前10時からだから、今日は早く帰れそうだぞ。」
「やったねぇ~。」
「でもあんまり早く帰っても、やること無いけど。」
「え~帰ったら拠点部屋でお疲れ様会をしようよぉ~。
お菓子とジュース買ってきてさぁ。」
「あっ、そうねぇ、円の歓迎会もまだだし、桜、今良い事言ったわよ。」
「そっかなぁ~。」
「ではその買い出しは予選に出ない私が担当致しましょう。」
・・・緊張感の欠片もねぇな。
「あっ、そうだ、賢斗君、帰りは転移で帰っちゃダメなのかしら?」
「う~ん、車でこの予選会場から出ちゃえば、中川さんの指示内容からして大丈夫な気もしますけど。
一応水島さんに確認して貰ってからの方が良いかもっすね。」
つっても予選後に俺のMPが残っていたらの話だけど。
「ああ、そっか、じゃあ後で確認しておいて貰いましょ。」
と、車の前でそんな立ち話をしていると・・・
「よう紺野、バスに乗ってなかったから心配してたが、ちゃんとこっちに来てたんだな。」
歩み寄って来たのはスキル研のメンバーである古谷と蒼井の二人。
「うん、今日は事務所の車でこっちに来たから心配かけちゃったみたいで悪かったわね。」
「ねえ、ちょっとかおる。
その事務所の車ってどういうこと?」
「ん?あっ、ゴッメ~ン。
ちょっと口がすべちゃったぁ。忘れてくれる綺羅ぁ♪」
あらら、またスイッチ入っちゃってるよ、この人。
「何勿体付けてんのよぉ。
いいから早く教えなさいよっ。」
「それはほらぁ、もっとお願いの仕方ってあるって言うかぁ♪」
あ~あ~こういう時の先輩はご機嫌だなぁ。
まっ、こんな無駄話はほっとくか。
こっちは幾つか第2予選のお話を古谷先輩から聞いておきたいところだし。
「ねぇ、古谷先輩、第2予選のボーダータイムってどのくらいですかね?」
「そうだなぁ、まあ例年で言えば、2分前半ってあたりじゃないか。」
おっ、それくらいなら今回も何とかなるかも。
「出て来る魔物って予測出来たりするものなんですか?」
「う~ん、まっ、気休め程度にはな。
でも過信は禁物だし、正確に予測できるパーティーなんて居ないと思うぞ。
どこも前の組の様子とか予選の終わった知り合いの情報からある程度の推測を立てるくらいのもんだし、つまりはそうやってこの大会を楽しんでるってだけの話だ。」
ふ~ん、なら実際のところ早い予選順がそこまで不利になるって訳でもないのか。
「ところで多田達の予選順は何組目なんだ?」
「えっと、3組目ですけど。」
「おお、やっぱり第1予選で1分切るパーティーは予選順も早いな。」
「先輩達は、どのくらいだったんですか?」
「アハハ、俺達の予選順は21番目だよ。
お前からすりゃ大した事無いと思うかもしれんが、これでも俺達としては過去最高の討伐タイムでの第1予選突破だ。
普通なら大喜びしていたところだったんだけどな。」
あら、思いの外デリケートな部分に触れてしまった様だ。
「いっ、いやぁ、偶々運が良かっただけの話ですよぉ。アハハ~」
「ふっ、まあ何にせよだ。
第1予選をそんな順位で抜けたお前等がこの大会で何処まで上り詰める事が出来るのか少なからず俺も期待してる。
精々うちの高校の弱小イメージを払拭出来る様頑張ってくれ。」
「えっ、弱小イメージ?」
「ああ、お前も知っての通りうちの高校はまだ歴史の浅い新設校で第3予選にすら進出した生徒がこれまで出て居ない。
他校の知り合いと話す時にはどうしたってナメられちまうんだよ。」
ふ~ん、そんな方とお話ししなきゃ良いのに。
「ちなみにどの辺まで行けば良い感じっすかね。」
「う~ん、まあ第1予選は一般のスポーツ大会で例えるなら地区予選みたなもんだ。
そして今回の第2予選が県大会、第3予選が地方大会で決勝が全国大会。
まっ、相手にもよるが第3予選にでも進出してくれれば俺としては鼻高々って感じだな。」
「そうなんすかぁ。
まあやるだけやってみます。」
「おう、じゃあまた後でな。」
一しきり会話を終えると古谷は一人右手を上げて去って行く。
そんな彼を見送る賢斗の後ろでは・・・
「そう言えば装備も高そうなの着てるし、一体何がどうなってるのよぉ?かおるぅ。」
「仕方ないなぁ、綺羅ちゃんはぁ。
わ・た・し・・・プロになっちゃったのぉ~。
どぉ、羨ましいでしょ?ウフ♡」
「えっ、その話もっと詳しくお願いします、かおる様。」
コントが佳境に差掛かっていた。
次回、第三十六話 モンチャレ大会第2予選。