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第三十二話 転移の使い方

○中川コーディネート その5○


 契約書にサインを済ませると晴れて新装備は賢斗達の物となった。

 中川が出て行った拠点部屋では・・・


 う~ん、まさかこの俺が300万円もする装備を買ってしまうとは・・・

 つか凄ぇな、あの人、貧乏人の俺にこんな大金使わせるとか。


「賢斗君、こんな良い装備が手に入ったのに、何そんな難しい顔してるのよ。」


「そうだよ賢斗ぉ~、優勝したら無料だよぉ~。」


 だってそんな簡単に俺達が優勝出来る訳ないだろぉ?

 そりゃ完全に中川さんが俺達に撒いた餌だっつの。

 つっても見事に二人ともその餌に食いついてモンチャレに向けてやる気満々。

 ホ~ント、うちのボスはキレッキレだわ。


「へいへい、そうですなぁ。」


 とはいえこうなったらホントに優勝しちまってうちのボスの驚いた顔を拝むのも面白い。

 そうすりゃこの新装備も無料になっちゃいますしぃっ♪


 自分も見事に食い付いてしまっている自覚がない賢斗であった。


「あっ、そうだ、賢斗ぉ~。

 円ちゃんの事ちゃんと言っといてくれたぁ~?」


「おう、一応話は通しておいたぞ。

 あのお嬢様の誕生日は6月って話だったし、加入は6月に入ってからって。」


「え~、ダメだよ賢斗ぉ~、もっと早くしないとぉ~。

 円ちゃん、ここにも遊びに来たがってたし~。」


「ああもうそれなら中川さんも早く連れて来いとか言ってたし、後は桜の好きに話を進めてくれ。

 あのお嬢様をパーティーに誘ったのは桜なんだしな。」


「うん、わかったぁ~。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○カモンカモン○


 午後1時30分、何やかやと時間を食われた三人であったが、ようやく当初の予定である白山ダンジョンへとやって来た。

 2、3日振りの来訪なのだが、賢斗の頭には少し嫌な予感が過る。


ウイーン


 自動ドアが開くと同時に受付へ目をやれば、ハッとした表情を浮かべる蛯名っち。

 慌てた様子で机上の手旗を右手に掴んだ彼女はそれを振りながら猛烈にアピール。


 ちっ、ハズレか。

 にしてもあの旗、何て書いてあるんだ?


 赤字で描かれたその文字は・・・『ビバ!ナイスキャッチ』。


「なあ桜ぁ、あの人と仲良くできそうか?」


「どっ、どっかな~。タラリ」


 う~む、うちの先生をこれ程怯えさせるとは・・・


 侵入申請用紙の記入を終えると賢斗は無駄な抵抗と知りつつも他の受付の列に並んだ。

 しかし順番が回って来てみれば・・・


「たっださぁ~ん、目が合ったんだから私の方に並びましょうよぉ~。カモンカモン。」


 指先をウェ~ブさせた左手を賢斗に向かって突き出す彼女。


「にしても何ですか?そのおっとこ前な装備は。

 この蛯名っちのハートを鷲掴みにしちゃう御つもりですかぁ?

 いやぁ、跳ねるぅ~!」


 何がだよ、ったく、キャラ濃過ぎなんだっつの。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○転移の使い方 その1○


 午後2時、ようやく大岩ポイントでハイテンションタイムの消化を始めた賢斗達。

 すると予てから待ち焦がれていたアナウンスが賢斗の頭に響く。


『ピロリン。スキル『空間魔法』がレベル7になりました。『長距離転移』を覚えました。』


 いっ、今、確かに長距離転移って言ったよなっ。

 よしよし、空間魔法レベル7にしてようやくお目当ての魔法を覚えてくれたかぁ。

 帰還魔法を覚えてからこっち全然新魔法取得の音沙汰無かったし、ちょっと不安になってたんだよなぁ~♪


「桜、先輩、今やっと長距離転移ってのを覚えましたよ♪」


「えっ、ホントぉ~?」


「長距離転移って言ったら、一度行った事がある場所なら直ぐに転移出来ちゃう奴よね?」


 そりゃそうでしょう♪


「ええ、今度これ使って皆で転移できるか試してみましょう。」


「そうね、皆で一緒に転移出来れば清川とか他のダンジョンにだって行き放題だし。」


 うんうん。


「じゃあ賢斗ぉ~、今から皆で清川に行ってみよぉ~。」


「いや悪ぃけど今はMPが足りないからまた今度な。

 清川なんて行ったら片道切符になっちまうだろうし、そしたら帰還報告出来なくなるだろぉ?」


「あっ、そうだねぇ~。」


「なら賢斗君、ここは試しに宝箱部屋辺りまで転移してみるってのはどう?

 あそこからだったら時間的にも十分間に合うでしょ。」


「あっ、ですね。」


 長距離転移が他者と一緒に転移可能かどうかを試す分にはそこまで遠くへ転移しなくて十分。

 賢斗は両手で二人と手を繋ぐと長距離転移を発動してみる事に。


 転移っ!


 すると瞬間的に彼の姿はその場から消え、辿り着いた先はイメージした右ルートの宝箱部屋。

 しかし両手で繋がっていた筈の二人の姿はそこに無かった。


 あらら、皆と一緒にってのは無理なのか?


 そこへ姿の見えない桜から念話が入る。


(賢斗ぉ~、だいじょぶぅ~?)


(ああ、全然大丈夫だけど桜達はまだ大岩ポイントか?)


(そうだよぉ~。)


(そっかぁ、じゃ、やっぱ俺だけしか転移できなかったみたいだなぁ。)


(ふ~ん、なぁ~んかつっかえないねぇ~。)


 うっせ・・・でもまあ確かに。


 意気消沈する中、賢斗は二人の待つ大岩ポイントへと戻って行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○転移の使い方 その2○


 10分程で二人の元へ戻ると彼女達も残念そうな表情を浮かべていた。


「何かちょっと期待外れな魔法だったわねぇ。」


「ですね。皆一緒に転移出来なきゃ普段のダンジョン活動の移動に使えませんし。」


 一人が遠くへ転移出来るだけでも十分凄い魔法である、がそれはそれ。

 長距離転移を利用してあちこちのダンジョンへの移動に活用しようと目論んでいた彼等にとって物足り無さは否めなかった。

 しばらく三人で思案に暮れていると・・・


「じゃあさぁ~、今度は私を抱っこしてやってみるぅ~?」


 あっ、確かにそれならイケるかも知れない。

 それに先生を抱っこするのは、小柄で軽いし可愛いしの三拍子そろった大歓迎のご提案。

 これを断る理由等全く・・・いやあるある、もうMP殆ど残ってねぇし、ちっ。


「俺もそれ良い考えだと思うんだけどさぁ、残念ながらもう長距離転移出来る様なMPは残ってないんだよ。」


「そっかぁ~。」


「なら賢斗君、短距離転移で試してみたら?

 あれなら少ないMPで使えるでしょうし。」


 あっ、なるほど。

 他者同時転移の可否を試すだけなら短距離転移でも十分その役割を果たせる。


「了解っす。短距離転移ならまだ使えるんで試してみましょう。」


 二人も頷くと賢斗は早速桜をお姫様抱っこ。

 クリクリした目で好奇心一杯に賢斗の顔を見つめる桜。


 いや~、相変わらず可愛いですなぁ、こんちくしょ~。


 と賢斗が本題を忘れ呆けていると・・・


「ほら、賢斗君。早くして。」


 かおるの不機嫌そうな声。


 へ~い。


 それじゃあ行きますかぁ・・・転移っ!


 瞬間イメージ通りに2m程移動した賢斗。

 そしてその両腕には未だ小さな少女の感触が残っていた。


 おっ、出来ちゃったっ!


「賢斗ぉ~、やったねぇ~。」


「おうっ。」


「次はかおるちゃんの番だよぉ~。」


「えっ、桜は何言ってるのかな?

 私は別に良いわよ。ほっ、ほら、賢斗君のMPももう無いだろうし。」


 桜の言葉に少し慌てた様子のかおる。


 おやおやぁ、これはもしかして、ニヤリ


「えっ、もう一回くらいイケますけど?」


 ・・・嘘だけど。


「えっ、あっ、そう?

 でも、あっ、そうそう、もうそろそろ帰還予定の時間が来ちゃうでしょ?」


「もしかして先輩、恥ずかしいんですかぁ?」


「そっ、そんな事ないもんっ。」


 おおっ、可愛い♪

 ・・・この恥ずかしがり屋さんめ。


 こうして一応は他者と共に転移が可能な事は判明したのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○愛でられてる?○


 活動を終え帰還申請に向かった賢斗達。

 受付までやって来るとまたしても手旗を振り続ける蛯名っちと目が合った。


 う~ん、随分度が過ぎた感じになって来たな。


 そんな彼女の額を見れば今度は『ナイスキャッチ命』と書かれた鉢巻まで・・・


 曲がりなりにもプロ契約した俺としてはこうして熱烈な応援をしてくれるサポーター的存在は大事にせにゃならん立場だったりするが・・・


 いや待てよ。


 こいつ趣味が追っかけとか言ってたよな。

 それってつまり対象は誰でも良いんじゃないか?

 只趣味でやってるだけだろうし、うんうん。


 であればもうそんな個人の趣味に付き合ってやる必要もあるまい。

 嫌われようが何しようがここはビシッと言ってやって、大人しく他の奴に乗り換えて頂くとしよう。


 賢斗は蛯名っちの前に立つと強めの口調で声を掛ける。


「帰還申請お願いします。フン」


「ようこそっ、多田さん。蛯名っちワールドへ。

 私も多田さんに負けじと新装備を装着してみましたよぉ。」


 俺に張り合った結果がそれなのか。

 つかそんな事はどうでも良い。


「蛯名さん、一つはっきり申し上げますとその鉢巻と手旗は迷惑です。

 止めて貰って良いですか?フン」


 よし、言ってやったぜっ。


「いやぁ、多田さんに蛯名さんなんて言われると、何だかしゃっちょこばっちゃいますねぇ。」


 蛯名っちは両手を頬に当て上目使いでパチパチ。


 う~む、どうもこいつとはやはり意思の疎通が上手く行かん。

 ・・・お怒りアピールがちと足りなかっただろうか?


「いやそんな事より、その鉢巻と手旗はもう勘弁してくれって言ってんのっ。フンッ」


 これでどうだ?


「おやぁ、もしかして多田さん。

 蛯名っちに応援されるのが恥ずかしいんですかぁ~?」


「はい、とっても。フンフンッ」


 よし、これで幾らアレなこいつでもちっとは伝わっただろ。


「こんのぉ、恥ずかしがり屋さんめぇ~。

 可愛いぞこんちくしょ~っ!」


 手強いな、俺は今完全に愛でられてる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○転移の使い方 その3○


 翌日、5月7日火曜日午前6時。

 賢斗達はクローバー拠点部屋に集合。

 何時もなら直ぐ朝の日課に出掛けて行く彼等なのだが、今日は一つその前に・・・


「じゃあ取り敢えず出発前に三人で転移出来るか検証しておきましょう。」


「そうだねぇ~。成功だったら今日から清川に行けちゃったりするもんねぇ~。」


 うんうん、それであの白山ダンジョンの主ともおさらば出来る。


「けっ、賢斗君、それは夕方で良いんじゃないかな?

 朝はほら、時間的にも余裕がないし。」


 う~ん、相変わらずの拒否反応か。

 でも・・・


「何言ってるんですか?先輩。

 こんなの大した時間掛かりませんって。」


 今日はもう逃がしませんよぉ~♪


「じゃあ、桜。抱っこするぞぉ。」


「ほ~い。」


 と桜はすんなり賢斗にお姫様抱っこ。


 うんうん、朝から先生は可愛いですなぁ~。

 と、イケないイケない。

 本日のお楽しみは、次の問題児の方だし。


「じゃあ次は先輩の番ですよ。

 俺が桜を抱き上げていますから、先輩は俺の後ろからおぶさる感じで来て下さい。」


「うっ、うん。」


 そうそう、抱っこで転移OKだった時点で、先輩が俺におんぶされるのは最早避けられない道。


「何やってんすか、先輩。早くして下さい。」


 いやぁ、顔を真っ赤にしちゃって・・・こんな先輩、ずっと見ていられるぅ~♪


「そっ、そんな簡単に言わないでよっ。

 むっ、難しいんだからっ。」


 にしても何時までそんなモジモジしてるんですかぁ?


「何も難しく何か無いですって、先輩。

 ガバァーっと来てくれて良いですから。ガバァーっと。」


 ったく、憂い奴め。

 早く楽になればいいのにぃっ♪


「あっ、そうだ、賢斗君。

 もう1回手を繋いだ転移を試してみましょ。」


「それ昨日ダメだったじゃないですかぁ。」


 相変わらず往生際の悪い人だなぁ、もう。


「何とぞ賢斗様、最後の1回だけ、ねっ、ねっ。」


 普段の彼女は何処へやら、かおるは下げた頭の上で両手を合わせ、何とも哀れな醜態を晒していた。


 ハァ・・・これも武士の情けという奴か。


「はいはい、分かりましたよ先輩、あと1回だけですよ。

 でもそれがダメだったらちゃんとおぶさって下さいね。」


「えっ、ホントっ!

 わっ、分かった、これっきりにする。」


 仕方なく桜を降ろしてやる賢斗。

 三人は今一度手繋ぎ短距離転移を試す。


 転移っ!


 あれっ?


 瞬間、想定外の事態に賢斗の頭は追いつかない。


 何が起きたの?


「やっ、やった、やった。上手く行ったわよ、賢斗君っ♪」


 右隣ではしゃぐかおるをじっと見つめる賢斗。


 このアマ、何しやがったっ?!


「かおるちゃん、今どうやったのぉ~?」


「それはねぇ、転移の瞬間ジャンプしただけよ。

 床に足をついてなければ、イケるかなぁって。」


「あったま良いぃ~♪」


「でしょ~♪」


 ちっ、なるほどねぇ、そういう解釈が正解だったか。

 そんな程度の条件で済むのなら、今後長距離転移をパーティーの足として有効活用して行ける。


 でも何だろう、この釈然としない感じ。


(ざんね~ん賞ぉ~♪)


 くっ、この死にぞこないめ。

次回、第三十三話 新たなホームダンジョン。

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[気になる点] 今考えと、お姫様抱っこで転移失敗してたら背中から落下かな?コワ
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