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第三十一話 中川コーディネート

○帰還のご報告○


 翌朝、軽い朝食を済ませ帰路に就いた一行は、午前9時クローバー前に到着。

 車を降りた賢斗とかおるは去っていく桜に手を振っていた。


「まったあっとで~。」


 はいはい。


 その後二人は拠点部屋に立ち寄りほっと一息。


「ふぅ~、予想以上に良いとこだったわねぇ、清川キャンプ場。

 これも賢斗君のお蔭ね。」


 そうでしょうそうでしょう。


 すると直ぐ部屋のドアがノックされ中川が入室して来た。


「お帰りなさい、二人とも。

 清川ダンジョンでキャンプして来たんですって?」


「あっ、はい、中川さん、それで一つご報告がありまして。

 今度俺達のパーティーに新しいメンバーが加わりそうです。

 一応時期的には6月中旬を予定してるんですが。」


 一般的に専属契約を結んでいるプロ探索者パーティーに於いてそのメンバーの加入と脱退には報告義務が発生する。

 そして探プロ側がそれを承認しない場合は契約内容の見直し等の権利が認められていたり。


「あらそう、一体どんな方なのかしら?」


 見た目は飛び切りの美少女ですけど・・・まっ、きっとうちのボスも気に入ってくれるだろ。


「えっとですねぇ、ゴソゴソ、この右から2番目に写ってる女の子なんですけど名前は蓬莱円さん。

 桜のクラスメイトで年は来月の10日に16歳になるそうです。」


 賢斗は中川にキャンプ先で撮ったスマホの写真を見せた。


 あら、ビックリ、何、この金髪の可愛い子ちゃん。

 普通のアイドルとしてでも十分やってイケそうじゃない。


「とても日本人には見えないけど名前からしてハーフの娘なのかしら?」


「ええ、お母さんがイギリスの方だそうで、普通に日本語喋ってました。」


「そう、とても華やかな御嬢さんだしルックス的には100点満点以上ね。

 と言っても正式に専属契約を結ぶかどうかは面接の結果次第といったところだけど。」


「一応その女の子はまだ探索者資格を取得してませんけど、今回俺達と同行してもうレベル4になってます。

 この時期にこんな高一女子は中々いませんよぉ。」


「うふっ、随分その娘が気に入ってる様ね。

 まあ安心しなさい、今の時点では私もその娘と契約したいと前向きに考えてるから。

 にしてもあの清川での探索でレベル4とは恐れ入るわねぇ。」


「アハハ、ちなみに俺達も今回全員レベル5になりましたよ。

 あっ、そうだ、中川さん。

 ついでに手に入れたアイテムの買取も今お願いしちゃって良いですか?」


「ええ、勿論構わないわよ。」


コト、コト、コト・・・


 何かしら、これ。


 テーブルの上にはスライムジェルの瓶詰が8つに、水魔法のスキルスクロールが2つ。


 キャンプ先は清川ダンジョンって言ったわよね?

 スライムジェルの瓶詰に関しては小田さんが居る事だし辛うじて理解出来るけど・・・


「ねぇ、多田さん。この水魔法のスキルスクロールはどうしたのかしら?

 あそこは低レベルのスライムしか出現しない資源調達には不向きなダンジョンっていうのがこれまでの私の認識だったのだけれど。」


「・・・という訳でさっき言った新メンバーの女の子が居れば今後も手に入ると思います。」


 賢斗がざっくり入手の経緯を説明をしてみると・・・


「多田さんっ!さっきの写真の娘、今直ぐにでもここに連れて来て頂戴。

 絶対うちに入って貰うからっ。」


 やはりうちのボスも気に入って・・・つか想像以上の食い付きなんだが。


 その後契約で10%上乗せされたスライムジェルの瓶詰は1個5万5千円の買取額。

 同じく水魔法のスキルスクロールは1個231万円。

 総額506万円という初めての高額買取りにホクホク顔で帰路に就く賢斗とかおるであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○中川コーディネート その1○


 一旦帰宅した賢斗だったが、アパートにキャンプの荷物を置くと直ぐ拠点部屋に舞い戻っていた。


 いや~さっきの買取で所持金100万越えかぁ。

 これだけあれば半年は生活費を心配する必要がないな。


 でもでもぉ探索者たるものここはひとつ、装備品なんかを揃えちゃうべきですかねぇ~♪

 勇者スタイルだしやっぱ両手剣?

 いやいや武器は一応あるんだから、防具を買うのがベストでしょ。

 でも勇者スタイルの防具となるとフルメタルプレート?

 ・・・そんなもん装備して白山ダンジョン行ったら完全に浮いた存在になりそうだな。

 まっ、そもそも買えんだろうけど。


 とセルフで淹れたコーヒー片手に膨れ上がった口座残高に思いを馳せていると・・・


ガチャリ


「やっほ~。」


「おう、桜。魔石の買取はどうだった?」


「えっとねぇ~、8500円くらいだったかなぁ~。」


 う~ん・・・何かさっきの買取額の前では端数にしか聞こえん額だな。

 まあそれでも魔石としては俺達の今までの最高額だけど。


「賢斗の方はぁ~?」


「ん、聞いて驚けっ、何と総額506万円になっちまったぞぉっ!」


「うぉ~、やったねぇ~♪」


「だろぉ?後で店の方に行って一緒に何か買えそうな奴見に行こうぜ。」


「あっ、いいねぇ~♪」


ガチャリ


「お待たせ~、って何話してたの?

 随分盛り上がってるみたいだけど。」


「さっきの買取金でこの店の装備でも何か買おうかって話てたんですよ。」


「へぇ~、じゃあ私も何か買っちゃおうかなぁ。」


トントン、ガチャリ


「皆さ~ん。お揃いですかぁ、とっとっと。」


 お尻でドアを押す様に入って来たのは大きな段ボール箱を抱えた水島。

 彼女はそれを床に置くと次々とダンボール箱を部屋に運び入れていく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○中川コーディネート その2○


 水島の搬入作業が終わるとその後入って来た中川が口を開いた。


「じゃあ皆、先ずは説明する前にその箱の中の装備品を試着してみてくれるかしら。」


 へっ、装備品?


 指示された通りに水島から装備品の入った箱を受け取ると試着室へと向かう賢斗達。

 その15分後には着替えが終わった面々が拠点部屋に勢揃いしていた。


「はい皆さん、とても良くお似合いですよ。」


 賢斗の姿は先ずアウターとしてスウェード加工された焦げ茶色の革ジャン。


~~~~~~~~~~~~~~

『ワイルドウルフのレザージャケット』

説明 :ワイルドウルフLV3の皮を使用したレザージャケット。DEF+5。

状態 :180/180

価値 :★★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 右手の上腕部分には、CLOVERのロゴが入った控えめでさり気ないワッペン。

 装備だと言われなければ分からないデザインと高級ブランドのスタンダードモデルを思わせる仕上がり。

 洒落た中にも機能性が散りばめられ、その店頭価格は55万円。


 ボトムスは柔らかく加工された黒いレザーカーゴパンツ。


~~~~~~~~~~~~~~

『ワイルドウルフのレザーパンツ』

説明 :ワイルドウルフLV3の皮を使用したレザーパンツ。DEF+5。

状態 :180/180

価値 :★★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 艶消し黒で色合い的にも上のジャケットとよく合いそうなこちらの品は同じく店頭価格55万円。


 そしてお足元には濃淡のある黄土色のレザーブーツ。


~~~~~~~~~~~~~~

『デザートアリゲーターのレザーブーツ』

説明 :デザートアリゲーターLV8の皮を使用したレザーブーツ。DEF+4。

状態 :210/210

価値 :★★★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 硬質素材と軟質素材が見事にマッチングされたこの品は何と驚きの店頭価格120万円。

 そして今回用意された装備はこれだけに留まらない。

 以下・・・


~~~~~~~~~~~~~~

『デザートアリゲーターのベルト』

説明 :デザートアリゲーターLV8の皮を使用したレザーベルト。DEF+2。

状態 :180/180

価値 :★★★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 店頭価格40万円。


~~~~~~~~~~~~~~

『ワイルドウルフのレザーキャップ』

説明 :ワイルドウルフLV3の皮を使用したレザーキャップ。DEF+2。

状態 :80/80

価値 :★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 店頭価格18万円。


~~~~~~~~~~~~~~

『ワイルドウルフのレザーグローブ』

説明 :ワイルドウルフLV3の皮を使用したレザーグローブ。DEF+2。

状態 :70/70

価値 :★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 店頭価格12万円。


~~~~~~~~~~~~~~

『Tシャツ【黒】』

説明 :ポイズンバタフライの幼虫が吐き出す糸で作られたTシャツ。DEF+1。

状態 :30/30

価値 :★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 店頭価格5万円×4個。


~~~~~~~~~~~~~~

『靴下【黒】』

説明 :ポイズンバタフライの幼虫が吐き出す糸で作られた靴下。DEF+1。

状態 :30/30

価値 :★

用途 :防具。

~~~~~~~~~~~~~~


 店頭価格3万円×4個。


 と総額332万円の装備一式。


 う~ん、これ、滅茶苦茶カッコイイんですけど。

 勇者っぽさの欠片もないが、ワイルドな感じが男心を刺激する。

 CLOVERのロゴデザインもシンプルだし、全部が全部オーダーメイド並みのフィット感。

 まっ、オーダーメイド品なんて着た事ありませんけどね。


 にしても俺の好みまで見透かしたかの様な見事なコーディネート。

 こんなもんを俺等に着せて一体何を・・・チラッ


ニコリッ


 ・・・う~ん、怪しい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○中川コーディネート その3○


「今日はそれを着てプロモーション用の写真撮影をして貰います。

 流石にジャージに短剣姿じゃ、プロ探索者には見えないしね。」


 あっ、なぁ~んだ、そゆこと。

 って、おい、誰の恰好がみすぼらしいって?


 別室に移動した一同、中川と水島は撮影の準備を始め、賢斗達はしばしお互いの装備を見せ合う。


「賢斗ぉ~、超似合ってるねぇ、それぇ~。」


「おうっ、桜のも滅茶苦茶似合ってんぞ。

 もうどこからどう見ても立派な魔法使いさんって感じだな。」


「そっかなぁ~、エヘヘ~♪」


 赤と黒の配色で纏められ、火の玉の刺繍がされた漆黒のマントが彼女の火魔法のイメージにピッタリ。


マジカルハット(黒) :24万円


漆黒のマント :200万円


レッドリザードのレザーホットパンツ :35万円


レッドリザードのレザーシューズ :30万円


Tシャツ【赤】 :5万円×4


タイツ【黒】 :5万円×4


 総額334万円といったところ。


「私はどう?賢斗君。」


「先輩はスタイル良いから何着ても似合いますけど、ホントその装備は良く似合ってますよ。」


 何か胸のデカいエルフって感じが実に良い、うんうん。


「ふ~ん、そっかぁ。ウフ♡」


 全身翠色系で纏められ、弓使いで風魔法からイメージしたそのコーディネイトは何処かエルフの様な雰囲気を漂わせる。


グリーンゴートのレザーベスト :35万円


グリーンゴートのレザーホットパンツ :40万円


深緑のポンチョ :150万円


ダークリザードのレザーブーツ :70万円


Tシャツ【白】 :5万円×4


タイツ【白】 :5万円×4


 その総額335万円也。


「じゃあみなさぁ~ん。

 そろそろ撮影しますんで、そっちの壁際に並んで下さぁ~い。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○中川コーディネート その4○


 水島カメラマンによる撮影が終わると片付けをする彼女を残し中川と賢斗達は拠点部屋に戻る。


「ねぇ、皆、その装備は気に入ってくれたかしら?」


「あっ、はい、勿論。

 俺も何時かはこんな装備を自分で買いたくなりましたよぉ。」


「うん、すっごく気に入ったよぉ~。」


「そうねぇ、こんなの着てたら一掃やる気が出ちゃうわね。」


「うふっ、そう、ならそれ今買ってくれないかしら?」


 へっ、どゆこと?

 そりゃ買いたいのは山々だけど・・・


 不敵な笑みを浮かべながら、中川は言葉を続ける。


「貴方達にはこの間、モンチャレでの目標は決勝大会での活躍ってお願いしたわよね?

 でも決勝ってほら、TV中継もされるでしょ。

 今後はCLOVER探索者事務所の名前も背負って活動してもらう訳だし、こちらとしてもこれまでの様な素人装備じゃ困るのよ。」


 ああ、そういう事ねぇ。

 確かに探索者は身に付けてる装備である程度その実力が見て取れる職業。

 実力は兎も角プロになった以上恰好だけでもそれなりにって訳か。

 でも決勝なんて出れるかどうかも分からんのだし、そんな心配まだ早いですよ、中川さん。


「それで今回は特別に商品の値段は300万円ピッタリ。

 受け渡しは今日だけど代金の支払い期日は9月1日って事にして上げるわ。

 あの清川で魔法のスキルスクロールまで手に入れて来る貴方達だし、夏休みを挟めばそのくらい十分稼げるでしょ。」


 ちなみに未成年探索者が高額装備を買う場合でも、その探索者としての収入の範囲内であれば通常探索者法で営業の範囲内とみなされ特に問題は無い。

 一方その範囲を超えたり、ローンを組む様な場合は保証人の同意等多少手続きが面倒になったり。

 そしてこの支払期日の先延ばしという中川の条件は叔父の手を煩わす事を嫌う賢斗にとっても購入を真剣に検討しても良い最低条件をクリアさせるものであった。


 確かに円ちゃんも加入するし、今は無理だが今後の展望は明るい。

 でもこういうのはお金を貯めてから買うもんだろぉ?

 万一300万円を稼げなかったりしたら・・・


「だったら買うぅ~。」


 えっ、先生、もうちょっと悩んだりしないの?


「そう、有難う、小田さん。」


「私も購入します。

 もうこの装備とても気に入っちゃいましたし。」


 なっ、先輩まで。


「助かるわ、紺野さん。」


「で、多田さんは?」


 何だろう、この畳み掛ける様な流れ。

 勿論俺だって欲しいけど・・・


「あっ、そうそう、一つ言い忘れてたけど、もしモンチャレで優勝した場合その装備は全部無料でプレゼント。

 だから是非決勝大会はその装備で頑張って頂戴。」


 えっ、無料?


「やったぁ~♪」


「これは是が非でも優勝したくなっちゃうわね。」


「で、多田さんは?」


「あっ、買いま・・・っと、いえもうちょっと考えさせて下さい。」


 あっぶねぇ~、無料という言葉に思わず条件反射しちまうとこだったぜ。

 そんな簡単に優勝なんて出来っこ無いだろ。


「あら、残念、もうちょっとだったのに。

 でも良いの?

 ここで買っとかないと一人だけ普通のジャージを着た君の姿が全国放送される事になるわよ。

 まあそれはそれで私としては面白そうだから良いけど。ウフッ」


 あっ・・・俺だけジャージで全国放送とか怖すぎるだろっ。


「買います。」


 ってあれ、決勝出れなきゃ問題なくね?

 いや、普段の活動でも同じ事か。

 この二人が購入に踏み切った時点で、俺に選択の余地等残されちゃいなかった様だ。


 こうして三人は中川のコーディネートした装備一式の購入を決めたのだった。

次回、第三十二話 転移の使い方。

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― 新着の感想 ―
将来性抜群な大事な広告塔候補に店頭価格332万円を300万円ってケチ臭くないですか? 同価格帯の例で車の社員割引だって同じかもう少し引いてくれるでしょうに それとも装備品って利益率が極端に低いんですか…
[一言] 28話の感想で述べたけどゲットしたジェルの瓶詰と水のスクロールの比率がおかしいですね。 100対1だから水スクロール2個ならジェルの瓶詰は200個は無いと・・・ それと貴重な水スクロール…
[気になる点] 主人公が優柔不断なところもう少し考えればいいのに今時の学生は、こんなのばっかなの?
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