第二十八話 コバルトブルースライム
○コバルトブルースライム その1○
清川ダンジョン1階層大部屋内。
ハイテンションタイムの消化を兼ねたスライム討伐が終わるとお次はドロップ品の回収作業。
「賢斗ぉ~、こんなのが3つもドロップしてたよぉ~。」
むむっ、流石は桜先生。
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『スライムジェルの瓶詰』
説明 :スライムの体液でできたスキンケア用品。
状態 :良好。
価値 :★★
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ドロップ率0.01%もお構いなしだな。
「桜、それスキンケア用品みたいだぞ。欲しかったりするか?」
「いらないよぉ~。
私お肌ピチピチだしぃ~。」
「じゃあ先輩は?」
「私だってこういうの欲しがる年じゃないわよ。」
まあうちのメンバーみんな肌綺麗だし、これは買取だな。
「それで桜先生。
まだ円ちゃんのレベルは上がってないけどこの後はどうするんだ?」
「もっちろん、下にいくよぉ~。」
あっそ。
「まっ、それは良いけど今のでスキル共有しちゃったし今度円ちゃんが疲れたら回復出来ないぞ。」
「何を言ってるのですか、賢斗さん。
円はこれっぽっちも疲れてはいませんよ。」
あ~、はいはい。
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○コバルトブルースライム その2○
大部屋の隅にあった階段を下りるとそこは清川ダンジョン2階層。
単純な構造は1階層と同じで、真っ直ぐ伸びる通路を150m進めばまた同様の大部屋に辿り着いた。
部屋の中を覗けばこちらも同じ様にまたスライム達が蠢いている。
お嬢様の足がまたプルプルを始めてるけど・・・
まあ取りあえず、ここのスライムを倒してから考えるか。
と大部屋の中に入って確認するとレベル2のブルースライムが11体。
まっ、スライム如きがレベル2だろうが俺達の敵じゃないな。
なぁ~んて思ってたら・・・
「賢斗ぉ~、MPなくなっちったぁ~。」
ふむ、敵が弱かろうが等しく魔法を1発ずつ放つ必要はあるからな。
桜はスライム2体を討伐したところで戦線を離脱した。
一方かおるの様子を窺えば彼女の場合1階層での戦闘で既にMPが尽きている。
「もう、中々当たってくれないわねっ!」
必死に矢を放つ彼女だがまだ1体のスライムも討伐出来ぬまま残HPを1まで削ったスライム相手に手を焼いていた。
賢斗も雷魔法でブルースライムを3体倒したところでMP切れがやって来た。
残りは突っ込んで行って倒すしかなさそうだな。
と賢斗が飛び出そうとしたところで声が掛かる。
「賢斗さん、私今レベルアップしたみたいです。」
おっ、じゃあ本作戦終了か。
別にスライムを全滅させるのが目的じゃないしな。
「お~い、みんな~、撤収~。
円ちゃんレベル上がったってぇ~。」
「ほ~い。」
「了解。」
と6体のスライムを残し大部屋を立ち去る一同。
しかしそこで賢斗の足だけが止まる。
ん、今1体変な色のブルースライムが居なかったか?
一人振り向き今一度大部屋内のスライムを確認する賢斗。
やっぱりあの個体だけどう見ても色が濃いぞ。
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名前:コバルトブルースライム
種族:魔物
レベル:2(6%)
HP 12/12
SM 10/10
MP 13/13
STR : 2
VIT : 2
INT : 4
MND : 2
AGI : 1
DEX : 6
LUK : 4
CHA : 1
【スキル】
『水魔法LV2(1%)』
『物理耐性LV2(56%)』
【強属性】
水属性
【弱属性】
火属性
【ドロップ】
なし
【レアドロップ】
『スライムジェルの瓶詰(ドロップ率0.01%)』
『水魔法のスキルスクロール(ドロップ率0.0001%)』
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あっ、やっぱりコバルトブルースライムだって。
水魔法スキルまで持ってるし1体だけ違う種類のスライムが混じってる。
にしても肝心な時に皆仲良くMP切れとは・・・
上手く行けば桜の力で水魔法のスキルスクロールが手に入ったかもしれないのに。
とはいえここはそう焦る必要も無いか。
この清川ダンジョンで俺達以外の人は見てないし、また出直せば良いだけの話だな。
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○お嬢様の初レベルアップ○
大部屋を出ると案の定、円はハァハァと息を切らしながら膝を折り床に手をつきへたり込んだ。
顔色を窺えば青ざめており額にはかなりの汗。
正に満身創痍といった感じである。
あらら~、予想以上の疲れ方。
まあ取りあえずレベルアップの確認もあるし、解析しておくか。
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名前:蓬莱円 15歳(160cm 45kg B81 W54 H81)
種族:人間(疲労中)
レベル:2(0%)
HP 2/3
SM 0/2
MP 1/3
STR : 2
VIT : 1
INT : 6
MND : 6
AGI : 2
DEX : 6
LUK : 5
CHA : 19
【スキル】
『キャットクイーンLV2(1%)』
『感度ビンビンLV1(33%)』
『限界突破LV1(0%)』
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お~、最大SM値が2に上昇、良かった良かった。
これで一応桜達のミッションは達成ってことでいいのかな?
にしても(疲労中)かぁ・・・これ相当だよね~、分かる分かる。
「円ちゃん、最大SM値が2に上がってるよ。良かったね。」
「やったねぇ~。」
「はぁはぁ、はい、有難う御座います。」
「じゃあ帰りは、賢斗君が円さんをおんぶしてあげて。」
えっ、いんすか?
・・・先輩とは思えぬナイスパス。
「それがいいよぉ~。
円ちゃんちょっと辛そうだしねぇ~。」
本当にあのドリームボールを体感しちゃって良いの?
いやでもこれは先輩をしてそうも言ってられない緊急事態という事か。
となれば溺れた女性に人工呼吸をして上げるのと同義、うん、心得た。
「そっ、そんな、私は全然平気ですし、そっ、その恥ずかしいです。」
あらら、まっ、こんなお嬢様じゃ恥じらいが勝つのも頷けるか。
すると顔を赤らめ俯く円の耳元でかおるが小声で何やら説得している。
「分かりました、賢斗さん。ご迷惑をおかけします。」
おや、何を話したかは知らんがあっさり円ちゃんが俺におんぶされる事を了承してしまった?
う~ん、何か確か前にもこんな事あったなぁ。
これは明らかに怪しい。
分かってる、分かっている・・・けどそれでも前に進むのが様式美という奴か。
「分かりました、先輩。喜んでっ!」
賢斗は円の前に立ち、背中を向けると屈んだ姿勢でスタンバイ。
程なく彼の首に彼女の両手が回された。
さあ来いドリームボール1号2号っ!
・・・んっ、消える魔球?
賢斗の腰にスルリと尻尾が巻き付く。
「お世話になりますにゃん。」
「・・・・・・うん。」
かおるは満面の笑みで盛んに賢斗に念話を送るが、彼はキッと彼女を睨みつけ着信を断固拒否し続けていた。
くそっ、今度絶対セクシーボイスを使わせてやるっ!
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○清川の夕べ○
その後ダンジョン入口に居た椿と合流し一緒にキャンプ場へと戻る事になった。
ちなみに猫人化した円については賢斗がダンジョンを出た後もおんぶを続け、潜伏&忍び足の効果で第三者に気付かれない様対策を取っていた。
キャンプ場に着くと疲れていた面々は誰もその時間から夕食の準備をする気にはなれず、円の猫人化が解けるのを待ち全員で近くにあるスーパー銭湯へ。
その行った先でお風呂と夕食を済ませ帰って来ると時刻は午後8時過ぎ。
ようやく落ち着いた面々は星空の元テント前のテーブルセットに腰を掛け、湖畔でコーヒーやミルクティーを片手に清川の夕べを楽しむ。
そして和やかな語らいがひと段落すると、賢斗は先だってのコバルトブルースライムの話を持ち出してみた。
「・・・という訳で、うちには桜が居るしあいつを倒せば水魔法のスキルスクロールが高確率で手に入ると思うんだけど、後で行ってみないか?」
「そうねぇ、水魔法のスキルスクロールかぁ。
勿論買取に回すんでしょ?」
「うん、もしドロップしたらそのつもりですよ。
水魔法だったら睡眠習熟で何とかなると思いますし。」
「私は別にいいよぉ~。
ちょっとお疲れさんだけどねぇ~。」
よし、じゃあ決まり。
「桜が行くなら私も一緒に行かせて貰います。」
えっ、マジ?
「円、無理言ってないで、今日はもう寝ときなさい。あんた身体弱いんだから。
それに探索者でもない人間が、ホイホイついて行ったら迷惑になるでしょ。」
「はぁ~~い。」
円は唇を尖らせつつも素直な返事で応えていた。
ほっ、お嬢様の強がりも椿さんには通じないらしい。
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○コバルトブルースライム その3○
午後10時30分、目的はコバルトブルースライムの討伐ではあるが、どうせならという事でドキドキジェットのクールタイムを考慮しこの時間からダンジョン入りした三人。
1階層大部屋のスライム達はリスポーン前で蛻の殻。
すんなり2階層大部屋までその足を伸ばした。
そして早速中に入り先程討伐しなかったスライム達を確認してみると・・・
あれ、おっかしいなぁ。
コバルトブルースライムが見当たらない。
数も5体に減ってるし、う~む、これは一体・・・
「色が違うスライムなんていないよぉ~。」
「賢斗君、本当に居たの?
そのコバルトブルースライムって奴。」
「ええ、あの時は確かに居たんですけど・・・」
納得が行かない賢斗は1体ずつスライム達を解析していく。
するともう一つの変化に気付く。
あれ、何でこいつだけレベル4なの?
スライムにもボス的存在が居たりするのかな?
聞いた事無いけど。
「まあ賢斗君、別に君を責めてる訳じゃないんだからそんな難しい顔しなくて良いわよ。
コバルトブルースライム何が居なくたって、ハイテンションタイムを消化しに来たと思えば全然無駄足じゃ無いんだし。」
「うん、きっと何処かに逃げちゃったんだよぉ~。」
「まあそっすね。」
・・・何で居なくなったんだろうなぁ。
消えたコバルトブルースライムとレベル4のブルースライム。
この事実にあれこれ思考を巡せど、この時の賢斗にはこれだと思える様な答えを導き出す事は出来なかった。
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○本日の御予定○
明くる日、5月5日午前7時。
椿の作ったホットサンドとコーヒーで朝食を取る面々。
ふあ~あ、いや~人から朝食を作って貰える幸せ、有り難いですなぁ。
「今日お姉ちゃんはどうすんのぉ~?」
「私は悪いけど今日も桜達と別行動、一人でコーヒー錬金をさせて貰うわ。
1つくらい錬金スキルのレベルを上げて帰りたいし。」
「そっかぁ、じゃあ私達は今日も皆で円ちゃんのレベルアップ計画だねぇ~。」
ふ~ん、まだ続くんだ。それ。
「桜、皆さん、昨日は有難う御座いました。
今日は何時にも増してとても体調が良いんです。
これも皆さんが私のレベルアップに手を貸して下さったお蔭です。」
円は笑顔で賢斗とかおるに頭を下げる。
まあSM値が1つ上がっただけでも元の値が1だから2倍になったとも言える。
本人からしたら雲泥の差かもしれないわな。
とはいえ桜のレベル1時のSM値が5だった事を考えれば、まだまだ同年代女子の平均にも遠く及ばないってところか。
(先輩、今日も桜の何ちゃら計画に、付き合うって事になってますけど?)
(良いじゃない別に。
乗りかかった船だし私は最後まで協力するって言ってあるわよ。
それにこんな金髪美少女に感謝されるなんて賢斗君も悪い気しないでしょ。)
う~ん、確かに。
つか先輩と桜がそれに協力する時点で、ハイテンションタイムの消化を兼ねてたりもするからな。
朝食を終えると一同は清川ダンジョンへと向かった。
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○コバルトブルースライム その4○
午前8時、ダンジョン入口で椿と別れると、賢斗達は1階層の通路を歩いて行く。
「円ちゃん、小太郎はどうしたの?」
「あっ、今日は椿姉さんに面倒見て貰うように頼んじゃいました。
何か昨日から直ぐ逃げ出す癖が付いちゃったみたいで、困ったものです。」
「そっか。」
このお嬢様、自分が小太郎にした事憶えて無さそうだな。
と会話をしつつ進んで行けば昨日とは違い彼女の足は1階層大部屋前に辿り着いてもプルプルしてはいなかった。
へぇ、やっぱ昨日より随分マシになったみたいだな。
「じゃあハイテンションタイムは2階層でやるからここの大部屋のスライム達はレベル1だしなるべくMP温存な。」
賢斗が声を掛けると桜とかおるも頷き、EXPシェアリングを済ませると大部屋の中に入った。
よしよし、ちゃんとリスポーンしてくれてるな。
ちゃ~んとレベル1のスライムが11体居るし。
ってあれ、11体?
「ちょっとみんな、ストップストップ、攻撃スト――プッ!」
「ど~したのぉ~?」
「何よ、賢斗君。」
「この中に、コバルトブルースライムがいる。」
次回、第二十九話 虚弱体質のお嬢様では探索者にはなれない。