第二十六話 驚きの相乗効果
○錬金スキル○
5月4日土曜日午前11時、清川ダンジョン入口内。
魔法見学会を終えた賢斗は唐突にステータス解析を椿に頼まれ困惑した表情を浮かべていた。
う~ん、探索者以外の人はスキルも無いし、身体レベルも1のまま。
ステータスを確認したがる意味が分からん。
とはいえお世話になってるし、断る理由も無いんだが・・・
「さっき何か変な声が頭に響いたのよねぇ。」
あっ、そういう事か、これはうっかりしていた。
入り口付近とは言えここはダンジョン内。
意図せず恩恵取得してしまう可能性を事前に説明しておくべきだった。
「お姉ちゃん、それが恩恵取得だよぉ~。」
「あっ、やっぱり?私もうそうじゃないかと思ったのよぉ。」
「済みません、椿さん。恩恵取得の事を・・・」
「「やったぁ~。」」
あれ、姉妹揃って喜んじゃってる?
「ああ、賢斗君、ゴメンゴメン。
恩恵取得の話ならちゃんと桜に前もって聞いてたから心配しないで。
言って無かったけど私も円も最初からこのキャンプでスキルを恩恵取得する予定だったのよ。」
ああ、そゆこと。
まあ桜にも清川の安全性と人気の無さは話してやってたし、折角ダンジョンに入るなら普通の人でもそのくらいの予定は立てるか。
「という事で賢斗君、貴方の解析で私のステータスを確認してくれる?」
「はい、そういう事なら全然構いませんよ。」
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名前:小田椿 20歳(156cm 48kg B84 W58 H86)
種族:人間
レベル:1(0%)
HP 9/9
SM 8/8
MP 1/1
STR : 5
VIT : 6
INT : 8
MND : 8
AGI : 4
DEX : 6
LUK : 5
CHA : 7
【スキル】
『錬金LV1(0%)』
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ふ~ん、錬金スキルを取得したのか・・・まっ、何か納得だな。
コーヒー豆をブレンドしたりサイフォン式でコーヒーを淹れたりは何処となく錬金に近い様な気もするし。
「えっと椿さんが取得したのは錬金というスキルですね。」
「あっ、やっぱり?
じゃあその錬金スキルの事を詳しく調べたりもお願い出来るかな?
就職に役立つってのが私の理想なんだけど。」
桜に聞いて俺が詳細解析出来る事まで知ってるみたいだな、まっ、別に良いけど。
「アハハ、じゃ、そっちも見てみますね。」
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『錬金LV1(0%)』
種類 :アクティブ
効果 :魔素エネルギーを触媒として素材から完成品を錬金する能力。基本成功率スキルレベル×10%。
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へぇ、解析の説明だとこんな感じなのか。
とはいえ就職に役立つかどうか?なんてご要望されても、それなら前にネットで調べた情報の方がよっぽど役に立つ。
錬金は恩恵取得かスキルスクロールでしか取得出来ないレアスキルなのだが、結構有名でネット情報にもその詳細が広く出回っている。
そしてその効果内容を簡潔に言えば素材から直接完成品にしてしまう能力。
ポーション作成や鉱石類の精製等で広く利用され就職先を探すにもそう言った関係のところであれば有利になるのは間違いない。
しかしそうは言ってもどの程度有利になるかといったところはスキルレベル次第。
この錬金スキルには成功率というものが存在し、低レベル程錬金に失敗し素材をダメにする事が多くなる。
またそれに加え成功したとしてもその完成品には劣化の問題もあり、これもまた低レベル程劣化度合いが大きい。
他にも社会的に見てプライベートダンジョンを持ち低レベルの錬金スキル所持者を一から育てる事が出来る企業は一握りの大企業のみ。
低レベルの錬金スキル所持者を取り巻く環境はそれなりに厳しいのがその実態である。
「・・・とまあこんな感じなのでもし椿さんが本気で錬金士の道を目指すなら、錬金スキルをレべリングする事をお勧めします。
あっ、でも椿さんは探索者資格を持ってないですよね。」
「うふっ、それなら安心して、賢斗君。
「スキルはレベルを上げないとあんまり役に立たないよぉ~」なんて桜が言うもんだから、私もこの間資格だけは取得して来たのよ。」
それはそれは・・・随分準備の良い事で。
でもそれならスキル取得講座でスキルを取得しとけば?
つってもあれはあれで安いと言っても3000円掛かる。
この仲良し姉妹の姉的には、妹のお蔭でスキルを取得出来たというのも大事な事なのかもな。
「ああ、そうだったんですか。
それならもう一応はダンジョンに一人で入れますし、この清川の入り口付近なら椿さんでも安全です。
レべリングの方法は多分ダンジョン内でコーヒーを錬金スキルで淹れたりすればOKだと思うんで、もしその気があるならこれから頑張ってみて下さい。」
まっ、結果としてこうして錬金なんて言うレアスキルをゲットしてる訳だし、俺的にはどうでも良い話だけど。
「にしてもホントビックリね。
桜、あんたの話以上に随分この賢斗君って優秀じゃないのっ!」
「あったりまえじゃ~ん。」
「いやぁ、スキルに関しては春休みに結構調べたんで偶々ですよ。
あ~あと錬金士用の錬金釜や錬金棒、それに錬金グローブとかいうのも今朝待ち合わせた店で売ってます。
それを使えば成功率の方も少しは底上げしてくれると思いますよ。」
「もぉ~益々気に入っちゃったわぁ♪
桜、良い子捕まえてきたわね。」
「ま~ねぇ~♪」
う~ん、何だろう・・・この腹立たしい不協和音。
「それじゃあ早く試してみたいし、今朝のなんだっけ、そのクローバーってお店に今からちょっと行ってくるわね。」
持って来ていた荷物を片付け椿はいそいそとキャンプ場の方へと戻って行った。
っとに行動速ぇ人だなぁ、桜の姉ちゃん。
にしても気軽に買い物に行く様な店でもないんだが・・・結構お値段した気もしますし。
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○ビッグウェーブ到来○
椿が去ると賢斗はパーティーとしてのダンジョン活動を開始しようと声を掛ける。
「じゃあそろそろ奥の大部屋まで行ってみますか?
あそこならスライムも居るしハイテンションタイムに魔法をぶっ放すには魔石も稼げて一石二鳥ですから。」
「あら、そんな良いとこあるなら早く行きましょ。」
「そぉ~だねぇ~。」
「ちょっと待って下さい、桜。
私の猫語スキルがまだ取れていませんよ。
桜は簡単だって言ってましたのに。」
おやおや、このお嬢様のお目当ては猫語スキルだったのか。
まあ猫飼ってるし、探索者マガジンにも女性に大人気って書いてあったしなぁ。
「あれぇ、おっかしいなぁ~。
本には簡単だって書いてあったんだけどなぁ~。」
確かになぁ。
このお嬢様もダンジョン内で猫と戯れてたし恩恵取得ならスキルが取れてて全然可笑しく無いのに。
「あっ、閃いたぁ~。
ねぇ、賢斗ぉ、かおるちゃん、円ちゃんも一緒にハイテンションタイムやって良いぃ~?」
ああ、確かにそれなら猫語スキルくらい簡単に取得出来そうだな。
それにハイテンションタイム状態で恩恵取得というのは新たなケース。
どんな結果になるのか俺としても少し興味が湧く。
と言ってもそれはそれ。
桜の親友と言えどもパーティーメンバー以外の人間とハイテンションタイムをご一緒するのはどうだろう。
そんな簡単に俺達のスキル習熟システムを部外者に使わせる訳には・・・
いや待てよ・・・はっ!
彼の頭の中では金髪美少女がうっふんと投げキッスしていた。
こっ、これ程の金髪美少女お嬢様がハイテンションタイムだとっ?!
あ~もう嬉し過ぎて頭がパニックになりそうだ。
これはもう問答無用、全力でこのビックウェーブに乗っるぞっ!
って待て待て俺、ここは早くも頑張りどころ。
何食わぬ感じでさりげなく・・・
「桜ぁ、それ名案ダナー。俺は全然構ワナイゾー。」
「ん、まあ賢斗君がそう言うなら、私も構わないけど。」
いよぉ~し、先輩という鉄壁のガードは切り抜けた。
「やったぁ~♪じゃあ決まりだねぇ~。」
と今回のハイテンションタイムは円を交えて行う事になった。
勝ったな、ムフッ♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○キャットクィーン○
当初奥の大部屋でハイテンションタイムをする予定であった賢斗達。
しかし探索者ではない円の存在を考慮し今回はそのまま移動せず入口付近での活動となっていた。
そして10分程のレクチャーを円に対して済ませるといよいよ金髪美少女によるご褒美タイム、もとい、ハイテンションタイムがその幕を開ける。
スキル共有システム異常なし、システムオールグリーン。
テンションタイム、レッツゴォ~♪
ドクン、ドクドクドクドクドッドッドッドッ・・・・・・・・・
じ~~~~
賢斗はドキドキジェットも発動せずに只々円の様子を眺め続ける。
すると腰をモジモジし出した彼女は切ない声を上げ始める。
「いっ、いやぁぁぁぁあう、うっ、うっ。あっはぁぁぁぁ。」
うお~、生きてて良かったぁ~♪
次第に身体を大きくくねらせ始める円。
賢斗は只々その光景に歓喜の表情を浮かべていた。
が、直ぐそれどころではなくなる。
みゃぁああっ!
円は両掌の上に乗せていた子猫をその豊かな胸に押し付けると力強く抱き締めてしまった。
あっ、子猫が苦しそうにもがいてる。
それなら俺と変わって・・・ってそうじゃないっ!
このままじゃ子猫死んじゃうっ!
「ちょっと待って、円ちゃん。子猫離してっ!」
賢斗は駆け寄り円の腕から子猫を離そうと彼女の左肩と腕の部分を掴む。
「はぁっ、ふぅ~ん。」
するとその手が触れた瞬間、彼女は艶めかしい声と共に仰け反る。
お~これは凄い乱れっぷり・・・ってそれどころじゃないだろっ!
早く子猫を救出しなくては。
ポンッ
瞬間、円は白い煙に包まれた。
えっ、何この煙?
その白い煙が晴れると、そこにはダボダボの衣類を纏った金髪猫耳幼女がちょこんと座っていた。
・・・誰?
「ごろにゃ~~ご。」
へっ、猫語?
色々頭が追い付かない。
「円ちゃん、だいじょぶぅ~?」
コスプレで猫耳付けたりする人は居るけど、本物の猫人なんて聞いた事ないぞっ。
「みゃあ。」
桜が問い掛けると猫幼女となった円は頷いて応える。
「よく分かんないって言ってるよぉ~。」
今頷いてただろっ。
「桜、この猫人化した円ちゃんが何言ってるか分かるのか?」
「うん。今猫語スキル取ってみたぁ~。」
なるほど・・・そういう事ならまだドキドキジェットを温存してるし俺も取ってみるか。
賢斗はハイテンションタイムになると隅で丸くなっていた小太郎に手を伸ばす。
シャァっ!
あらら、さっきの事で完全に怯えちゃってるな。
「そんなに怯えなくて良いぞぉ。
さっきのは事故みたいなもんだからなぁ。」
今度は優しく話し掛けそっと指先を伸ばしてやる。
すると小太郎はクンクンとその指の匂いを嗅ぎ出したかと思うと・・・
ペロペロ
「お~、よしよし。
ホント小太郎は可愛い奴だなぁ。
それでお前のご主人様は一体どうしたんだ?」
「よっ、よく分かんないにゃ。」
小太郎は賢斗の言葉に頷いて応える。
『ピロリン。スキル『猫語』を獲得しました。』
やっぱりこのジェスチャー可笑しいだろ。
まっ、この件はこの際どうでも良いか。
今は円ちゃんの異変についての対処が先決だ。
「円ちゃん、ちょっと今の状態を調べる為に解析してみるね。」
「はいにゃん。」
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名前:蓬莱円 15歳(121cm 23kg B58 W46 H62)
種族:猫人
レベル:1(0%)
HP 2/2
SM 1/1
MP 1/1
STR : 1
VIT : 1
INT : 4
MND : 4
AGI : 1
DEX : 4
LUK : 3
CHA : 15
【スキル】
『キャットクイーンLV1(0%)』
『感度ビンビンLV1(0%)』
『限界突破LV1(0%)』
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おや、またしても限界突破、俺はどうやら天才らしい。
が、今は非常事態、それは一先ず置いておこう。
そして注目しなくちゃならんのは間違いなくこのキャットクイーンとかいう謎スキル。
猫幼女になってる訳だしどう考えたって原因はこいつだろう。
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『キャットクイーンLV1(0%)』
種類 :パッシブ
効果 :猫族のクイーンとしての本能を呼び覚まし、特殊能力を得る効果。
【特殊能力】
『猫人化』
種類 :アクティブ
効果 :猫人に姿を変える能力。スキルレベルの上昇により成長する。効果時間60分。解除不可。
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そういう事か、にしても猫人化の特殊能力とは。
スキルレベルの上昇により成長する点は今後が楽しみだが今は良いだろう。
そして今俺がまず最初に彼女へ伝えるべき事は・・・
「円ちゃん、猫人化の効果は60分で切れるから、直ぐ元の姿に戻れるよ。
それに次からはきっと勝手にその姿に成ったりしないから安心して。」
これを聞いた円は安堵の表情を浮かべる。
「そうでしたか。
少しこのままだったらどうしようかと心配していましたにゃん。」
うんうん、一件落着。
これで取り敢えずこのスキルが呪い染みた代物ではない事が判明した訳だ。
「よかったね~、円ちゃん。」
「はい、この状態なら小太郎ともお話出来るみたいなので、結果オーライですにゃん。」
しっかしここまでとは思わなかったなぁ、こんな獣人化するスキルなんて聞いた事ないし。
それに一度にスキルを3つも、まっ、限界突破と感度ビンビンに関しちゃ俺が天才なだけかもしれんが。
「私も猫語取ってみたわよ。
言ってる事理解できるかしら?円さん。」
「はい、ちゃんと理解出来ますにゃん。」
実際恩恵取得とハイテンションタイムの相乗効果ってのは相当ヤバいな。
次回、第二十七話 お嬢様の体質改善計画。