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第二十五話 魔法見学会

○連休は清川で その3○


 5月4日土曜日午前9時、クローバー拠点部屋。


「今日から清川ダンジョンで、2泊3日のキャンプですかぁ。

 羨ましいですねぇ。」


「アハハ、連休なんでリフレッシュも兼ねて行って来ますよ。」


「光さんも行きますか?清川。」


「いやぁ、一緒に行きたいところですけど、私お店があるし。」


(賢斗~、そろそろお店に着くよぉ~。)


「おっ、先輩、どうやらお迎えが来たみたいですよ。」


「そう。じゃあ光さん、行ってきますね~。」


「はい、気を付けて行って来て下さい。」


 拠点部屋を出た賢斗とかおるが店の前まで行ってみると国産のSUV車が1台止まっていた。


ガチャ


「やっほ~。」


「お早う、桜。」


「おう、桜、お前の姉ちゃん、カッコイイ車乗ってんなぁ。」


「ま~ねぇ~。

 あっ、荷物は後ろに積んじゃってぇ~。」


 車の後部に荷物を積ませて貰い賢斗とかおるは後部座席に乗り込む。

 すると運転席に座る女性が振り向いて挨拶して来る。


「おはよう、お2人さん。

 私は桜の姉の椿って言います。」


 カーキ色のマウンテンパーカーにデニムといった出で立ち。

 メガネを掛けたその顔立ちは、言われなければ桜と姉妹には見えない。

 しかし気さくな感じは桜と変わらず、それに加えて優しいしっかりお姉さんな雰囲気を纏っていた。


「君が賢斗君でそっちがかおるちゃんかな?

 今回はまあお互い気を使わず、楽しく行きましょう。」


「「はい。今回はよろしくお願いします。」」


 挨拶が済むと車は一路もう一人の参加者である桜の友人宅へと向かう。

 その車中では三人が女性同士で和気藹々と話に花を咲かせる。

 そして只ボーッと流れる景色を眺める賢斗の目には何時しか延々と続く和風の高い木塀が映っていた。


キィー


 ん、何でこんなとこで止まんの?


「じゃあ円ちゃん呼んでくるね~。」


 えっ、嘘。


 まるで武家屋敷の様な立派な門には蓬莱龍之介と書かれた表札。

 車から出た桜はその下にある呼出しブザーを押していた。


 う~む、監視カメラが付いてる家なんて初めて見たな。

 ・・・どうやら円ちゃんと言うのは、かなりのお嬢様らしい。


 賢斗が車窓越しに桜の様子を眺めていると5分くらいしてその重い門が開き始めた。


 えっ、何?

 円ちゃんて外国人さんだったの?


 扉から出てきたのは可愛い系白人美少女。

 胸元まで伸びた長めの金髪に切れ長で少しタレた大きな目にはキラキラとした蒼い瞳。

 良く通った鼻筋と透明感のある白い肌がお嬢様然とした上品な雰囲気を纏う。

 そんな少女の姿に賢斗は目が離せなくなっていた。


 流石にこいつは驚いたな。

 この和風の豪邸から西洋のお姫様が出て来るとは。

 っていうか、桜の女子高のお嬢様レベル高過ぎねぇか?

 あ~、なんか近づいて来るだけで緊張してきた。


 同行している執事が彼女の荷物を積み込み、それが終わると賢斗が座る後部座席のドアを開けた。


「黒沢、今日はついて来なくて良いですからね。」


 急ぎ席を詰める賢斗とかおる。


「ですが円御嬢様、それでは・・・」


「良いですからねっ!」


「・・・畏まりました。」


 あっ、日本語通じるんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○連休は清川で その4○


 ドアが閉まると車は再び走り出す。


 いや~、これがエレガントな香りという奴ですかぁ。

 隣に座っているだけで幸せ気分。


「初めまして、賢斗さんとかおるさんで良かったですか?

 私は蓬莱円と申します。

 本日はキャンプに御一緒して頂けるという事で楽しみにしておりました。

 宜しくお願い致します。」


「はっ、はい、蓬莱さん。

 こちらこそ宜しくお願いごじゃりま・・・」


 痛っ・・・頑張れ俺。


「こちらこそ宜しくね、円さん。」


「はい、賢斗さんも円で良いですよ。

 桜のお友達なら今日から私達もお友達です。」


 うん♪俺もお友達になる。


「じゃあ円ちゃんって呼ばせて貰います。」


 にしてもしっかしまあこんな本物のお嬢様がお友達って、一体桜の交友関係ってどうなってんだか。


 その後の車中ではかおるが椿に大学生活についての話を色々と質問し積極的に会話をする中で少しずつ友好関係を築く努力をしていた。

 一方賢斗は窓際を取られたので軽く寝たふりをしながら秘かにエレガントな香りを楽しむ。

 するとその香りの発信源である円が膝の上に乗せた藤製のバスケットに話し掛け始めた。


「小太郎、もうちょっとだから我慢してね~。」


 みゃあ。


「猫ですか?」


 空気に徹するのも良いが、お邪魔させて貰ってる身としては先輩の様に少しくらい積極的に会話をしておくべきだよな、うんうん。


「あっ、はい、生後2か月のペルシャ猫です。

 この前お父様に買っていただいたんです。もう可愛くて可愛くて。」


「アハハ、それは良かったですね。」


 ペルシャ猫って買うと20万位した様な・・・流石は金持ち。


「ええ、大人しくてとても良い子なんですよぉ。ねぇ、小太郎。」


 みゃあ。


「清川に着いたら賢斗さんも小太郎と一緒に遊んであげてくださいね。」


「はい是非、俺も猫派ですから喜んで。」


 とか嘘だけど。


「そうなんですかぁ?可愛いですよねぇ。」


 にしても清川キャンプ場の湖畔で子猫と戯れる金髪お嬢様かぁ。

 お~、凄げぇ絵になる。


 そしてそこに交じって一緒に遊ぶ俺・・・違和感半端ねぇな、おい。

 やっぱり猫と遊ぶのは止めとこう。


「賢斗ぉ~、もうちょっとで着くよぉ~。」


 おっと、いかんいかん。危うく自分への嫌悪感で鬱になるところだった。


「おお、車だとやっぱ早いな。」


 50分程走らせた車が山の中へと入るとそこからは蛇行する急勾配。

 その山道を登りきったところで見えてくるのが清川ダム。

 そしてダム湖外縁の道を5分程進めば清川キャンプ場に到着である。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○魔法見学会 その1○


 午前10時30分、キャンプ場に着くとまずは全員でテントの設営。

 賢斗も自分が借りた1人用のドーム型テントの組み立てに取り掛かる。


 えっと先ずはこのポールを差し込んで・・・ビュゥ~~バサバサァ

 あっ、待てぇ~。


 とマゴついているとそれを見兼ねた椿が手伝いにやって来た。


「すいません、素人で。」


「うん、良いわよ、気にしないで。」


 いや~今回は、この人のお世話になりっぱなしだなぁ。


 と何とかテントの設営を終え必要な荷物を車から降ろすと一段落。

 女性陣の様子を窺えば、2ルーム型のテントにテーブルと椅子をセットし湖を眺めて寛いでいた。


 おっ、良いタイミング。


「あっ、これ、俺から差し入れなんで、好きな時にみんなで食べて下さい。よいしょっと。」


 賢斗は彼女達のテントにやって来ると手に持ったクーラーボックスをテーブルの上に置いた。


「賢斗ぉ~、それ何~?」


「ちょっとリッチなカップアイスだよ。」


パカッ、サッサッサッサッ


 クーラーボックスの蓋を開けた途端、即座に獲物を狙う手が四方から一斉に伸びた。


 ふむ、結構な人気・・・ちょっと奮発した甲斐があったな。


 としばしアイスクリームを食べながら会話を楽しむ一同。


「桜ぁ、俺と先輩はこれ食べたらダンジョンへ行く予定だけどお前はどうする?」


「それなら勿論私も行くよぉ~。」


「では私も小太郎と一緒に行かせて頂きます。

 桜に魔法を見せてもらう約束ですので。」


「あ~そっか、じゃあ私も~。取り敢えず暇だし。」


「じゃあ最初に魔法見学会だねぇ~。」


 おっ、早速か。

 まっ、俺としても早めに片付けておきたい案件だし、丁度良いな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○魔法見学会 その2○


 キャンプ場から歩いて清川ダンジョンへと移動した一同。

 そしてダンジョン外では攻撃魔法は原則禁止。

 この魔法見学会なるものは入口から少し入ったところで催される。


 椿はディレクターズチェアに腰を下ろしサイドテーブルに置かれた淹れたてのホットコーヒーを楽しみながら頬杖をついて桜を見守る。

 しかもそのコーヒーはサイフォン式の道具を使った本格派で、辺りには先程からコーヒーの良い香りが漂い寛いだ雰囲気を醸し出していた。


 一方円はサイドテーブルにバスケットから出した小太郎を置くと「お手っ!」と声を掛けている。

 しかし中々上手く事が進まない彼女は子猫の手を取ると自分の掌に乗せ「はい、良く出来ましたぁ」とお褒めの言葉を授けていた。

 そして金色に輝く毛並がどこか高貴さを感じさせる子猫と金髪のお姫様が戯れるこの光景もまた何とも優雅で和やかな雰囲気を周囲に漂わせ続ける。


「賢斗君、ここってダンジョン内よね。」


「はい、まあ入口付近ですけどね。」


 何だろう、この見事な癒し空間。


 そうこうしてる間に桜のスタンバイも終わる。


「それじゃあ始めるよぉ~。」


 おう、何か居たたまれないので早くしてくれ。


「いっくよぉ~ファイアーボール・た~いぷフェニックスぅ!」


 お~例の鳥さんか。

 確かにこういう風にすれば、魔法も一芸として見た事無い人には結構楽しめるよなぁ。


「うわぁ、可愛い魔法ですね、桜。」


「火魔法って鳥さんが飛んでいく魔法だったのねぇ、知らなかったわ。」


 いやそれ桜オリジナルだから、椿さん。

 とはいえお二人とも、なかなかの好感触。


「次いっくよぉ~。

 ファイアーボール・ダブル・た~いぷフェニックスぅ!」


 ん、ダブル?


 桜の突き出した両掌から2羽のずんぐりした鳥形ファイアーボールがダンジョンの奥へ向かって飛んでいった。


 おっ、2発同時発射だからダブルか。

 ちょっとサイズダウンしてるみたいだけどこれは魔力操作の新特技かな?


「最後いっくよ~。ファイアーランス・アンリミテッド・た~いぷフェニックスッ!」


 お~、これはモンチャレ第1予選の奴か。

 この大きくてかっこいいシルエットの鳥さんを最後に持ってくる辺り・・・

 桜の奴め、やりおる。


「うわぁ、すっごぉ~い、桜、最高ですよ。」


「火魔法ってこんなに派手なのねぇ。

 これは良いもの見させてもらちゃったわ、桜有難う。」


 椿と円が大はしゃぎで称賛の声を上げると桜も「ま~ねぇ~」と満面の笑みで応えている。


「じゃあ次は賢斗の番だよぉ~。」


 いやいや、そんな簡単に言わないでくれるかな?桜さん。

 この盛り上がりの後魔法を披露するとか、ちょっとした罰ゲーム気分なんだが。

 う~む、これは完全にイベントプログラムを桜に任せた俺の判断ミス。

 誰がどう見たって前座は俺と先輩の方だろう。

 こうなればもうせめて場を凍らせない程度の物を何とかお見せするしかあるまい。


「先輩、ここは協力しましょう。」


「そっ、そうね、私も今そう思っていたところよ、賢斗君。

 先ずは私からいくわね。」


「御意っ。」


「ウィンドボール・アンリミテッド。」


ビュゥゥゥゥ~ン


「サンダーボール・アンリミテッド。」


バチバチバチィ~


ビュゥーボファ~バリバリバリィ~


「うわぁ、なんかこれ面白いです。」


「ふふ、まるで科学の実験みたいな感じねぇ。」


 これを見た二人はまずまず楽しめたご様子。


 ふぅ、何とか及第点の評価で切り抜けたか。チラッ


パチンッ!


 賢斗とかおるは視線が合うと口角を上げハイタッチを交わした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○魔法見学会 その3○


 そんな魔法見学会が終わるとそのままダンジョン入口でしばし休憩。


「椿さん、俺もコーヒー貰っていいですか?」


「どうぞどうぞ、是非飲んで頂戴。」


 とカップを受け取り何気に口を付けてみると・・・


 うわっ、何か知らんけど滅茶苦茶美味い。


「このコーヒー滅茶苦茶美味いですね。」


「そう?まあこれは私のオリジナルブレンドだから褒めてもらえて嬉しいな。

 モカとグアテマラ、コロンビアの3種類のコーヒー豆を使ったものよ。」


「へぇ、そうなんすかぁ。

 淹れ方もサイフォン式でやってましたし、ホントこだわってますよねぇ。」


「そうかなぁ。でもまあほんの少しだけこだわってるかも。」


 いえいえ、キャンプ用具にしたって貴方がこだわり派なのは一目瞭然。

 桜も魔法にこだわってる感じだし、これは血筋だろうか?う~む。


 と賢斗が椿と会話していると・・・


「そう言えば桜、あんたさっきダブルとか言ってファイアーボールを2発同時に放ってたでしょ。

 アレどうやったの?」


 あっ、それ俺も気になってた。


「あれはねぇ、魔力操作のレベル3で覚えた発動数操作って特技を使うんだよぉ~、かおるちゃん。」


 あっ、やっぱりか。

 ちょっと覗かせて貰おう。


「桜、その魔力操作スキルちょっと解析で見せて貰って良いか?」


「いいよぉ~。」


~~~~~~~~~~~~~~

『魔力操作LV4(36%)』

種類 :アクティブ

効果 :取得特技の使用が可能。

【習得技能】

『形態操作』

種類 :アクティブ

効果 :発動魔法の形状変化が可能。

『軌道操作』

種類 :アクティブ

効果 :発動魔法の軌道変化が可能。

『発動数操作』

種類 :アクティブ

効果 :発動魔法の発動数を増やせる。相対的に威力減少。

~~~~~~~~~~~~~~


 ふ~ん、やっぱこのスキル、かなり有能だな。

 やれる事がどんどん増えていくし、この後俺も取得してみるか、うんうん。


 と一人納得顔の賢斗に椿が声を掛ける。


「ねぇ賢斗君。

 その解析とかいうので私のステータスも見て貰らって良い?」


 ん、どして?

次回、第二十六話 驚きの相乗効果。

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