第二十一話 モンチャレ大会第1予選
○予選会場到着○
4月28日日曜日午前8時。
モンチャレ第1予選の会場となる苗名滝ダンジョンの協会支部駐車場には午前6時のバスに乗り2時間の長旅を終えた賢斗達の姿があった。
「うぉ~、すっごい滝~」
「そうだなぁ~」
苗名滝は春先のこの時期、雪解け水によりその水量を増し大迫力の絶景を作り出す人気の観光スポットとしても有名。
この駐車場からでもその絶景を望む事が出来た。
「ねぇ賢斗君、景色も良いけど早めに予選の受付は済ませておいた方が良いわよ。
第1予選は受付順で行われるから若い番号ならそれだけ早く帰れるし」
「あれ、って事は先輩、結果発表は見て帰らないんですか?」
「うん勿論、結果発表の時は凄く混んじゃうし、それは後で探索者協会のHPで確認するのが経験者の知恵って奴よ」
ほう、それはそれは。
「ああ、そうなんすか」
まっ、俺もやる事やったら早く帰りたい派だしな。
と急ぎ受付へ向かった賢斗は直ぐに戻って来た。
「いや~、受付番号20番でしたよ、先輩」
「そう、なら予選は10分過ぎると失格だし午前中には私達の順番が回ってきそうね」
おっ、これは予想以上に早く帰れそう、うん。
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○待ち時間は暇である○
午前9時、予選出場者達の集合時間。
ざわざわざわ・・・
苗名滝ダンジョン入口前広場では多くの若い高校生探索者達が集まっていた。
「え~そろそろ予選開始のお時間となりま~す。
受付番号1番~3番の予選出場者の方はダンジョン入口の方へお進みくださ~い」
現場の職員に促され、受付番号1番~3番までのパーティーがダンジョンに入って行く。
いよいよ始まんのか・・・ちょっと緊張して来るな。
そして10分程すると予選を終えた1組目のパーティーがダンジョンから出てきた。
「は~い、受付番号4番の予選出場者の方は、ダンジョン入口の方へお進みくださ~い」
とその後も入れ替わりで1組ずつダンジョンへと入っていき、時間は淡々と流れる。
う~ん、どうも1時間只待ってるだけというのもそろそろ限界。
いい加減緊張感も無くなって来たし・・・
とそんな気の抜けた頃合い、見覚えのある女性が1人賢斗達の元へと近づいてきた。
「ほほ~う、これはこれは。
かおるが初めてパーティー戦に出るなんて言い出すから何事かと思えば。
まさかメンバーに男の子が居るとは思わなかったわ」
ニヤニヤと笑みを浮かべた蒼井はかおるに詰め寄って見せる。
「あっ、あんたに関係無いでしょ、綺羅。
貴方のパーティーなんて、他は皆男子じゃない」
「まあねぇ~、でもあんたはずぅ~っと男の子とパーティー組むのを嫌がってたじゃない。
「男子とパーティー組むなんて私絶対無理ぃ~」とか言っちゃって」
お~、何と挑発的なモノマネ。
にしてもこの先輩にそんな可愛らしい一面が?
う~ん、俺にはとても信じられないんですけど。
「よっ、余計なこと言ってないで、予選がどうだったか教えなさいよっ」
「はいはい、そっちは4分切ってるし例年並みのレベルならきっと大丈夫だから御心配なく」
あれ、安全圏は3分って聞いてたけど、ホントに大丈夫かな?
「そう、それは良かったわね」
「どうもありがと、じゃまたねぇ~、ジグザグお化け君も」
蒼井は最後に賢斗に一瞥をくれ去って行った。
う~ん、その呼び方は頂けないが、それよりここはさっきの耳寄り情報の真偽確認が先だな、うんうん。
「先輩、何で男子とパーティー組むの嫌がってたんですか?」
「えっ、そっ、ひっ、ひみちゅ。」
おおっ、可愛い♪
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○モンチャレ大会第1予選 その1○
「は~い、次は受付番号20番の予選出場者の方、ダンジョン入口の方へお進みくださ~い」
午前11時、2時間程待っているとようやく賢斗達の予選番号が呼ばれた。
バシャバシャバシャバシャ
水の落ちる音を聞きながら滝裏の抉れた岩壁の通路を進めばぽっかりと口を開いたダンジョン入口となる大穴。
そこから中に入り少し通路を歩くと、高さが10m以上ありそうな50m四方の空間が広がった。
うわぁ、中はこうなってましたかぁ。
四隅に置かれた4つの照明。
フロアの壁際には、開始時間を告げるカウントダウン用の電光掲示板に討伐タイムの計測用の大きなデジタル時計。
中央には直径30mほどの円形に白線が引かれ、それが魔物と闘うこととなるバトルスペースを示していた。
「結構人が沢山居るんですねぇ」
「うん、協会職員の他にも警備のプロ探索者や魔物召喚士、回復魔法士といった人達がサポートしてくれてないと危ないでしょ」
そだね。
「受付番号18番の予選出場者の方は所定の位置までお進みくださ~い」
バトルスペースの中へと歩いて行く5人組のパーティー。
それに合わせ、魔物召喚担当者も3人出て来た。
中央で10mの間を置き対峙すると、電光掲示板にカウントダウンが始まった。
カウント10あたりから魔物召喚士は杖を前にだし集中を始める。
カウント2を迎えた辺りで魔物は既にその姿を現す。
出現しているのはムカデ型2体、芋虫型2体に蜂型1体。
カウント0と共に、その魔物達は解き放たれた。
それと同時に動き出す出場者パーティー。
まずは剣装備、槍装備の3人が飛び出し、ムカデ型2体を相手取って戦い始める。
そして盾役らしき1人が芋虫型2体を抑え込む中、弓装備の人が飛び回る蜂型に向けて矢を放っている。
「あ~可哀想、このパーティー完全にハズレ引いちゃってるわねぇ~」
「そうなんですか?」
「うん、蜂型が混じってるし。
古谷君とか綺羅がよくぼやいてたもの。
蜂型に時間食われた~とかって」
へぇ~、蜂型は厄介なのか。
まっ、確かに見てると3m程上空を30cm程の小さな個体が空中で八の字ダンス、弓装備の人が懸命に矢を放っているが一切命中していない。
かといって、飛び道具以外じゃ攻撃すること自体厳しいし、なるほど、倒せる実力があってもこういう風に時間が掛かってしまうケースもあるんだな。
結果、このパーティーは最後まで蜂型を捉えきれず、敢え無く時間切れの失格となった。
う~ん、確かに相性が悪い敵を召喚されたら俺達だって失格になる可能性は十分ある。
まっ、この蜂型の魔物に関しちゃ大丈夫そうだが。
「まあでもそんな顔しなさんなって。
別にうちの出番に出て来た訳じゃないんだからまだ諦めるには早いわよ、賢斗君」
「いや先輩、別に俺はそんな事考えてませんって。
あの蜂型は寧ろ俺達には大歓迎ですし、俺の雷魔法なら恐らく・・・」
「あっ、言われてみれば確かにそうねぇ。ニヤリ」
かおるもどうやら彼の魔法の到達速度の速さに気が付いた様だった。
そして始まる次の組。
「何かまた蜂型が出てますね」
出来れば俺達の時にも出て来てほしい。
「うん、この分なら同じ魔物召喚担当者だし私達の時も蜂型を召喚してくれる可能性は十分よ」
「担当者が変わると召喚される魔物が変わるんですか?」
「うん、まあどうやって召喚する魔物を決めているのか正確なところは不明だけどある程度魔物召喚士の得手不得手とか癖みたいなものが反映されるのは確かよ」
なるほど。
「そろそろEXPシェアリングしとくぅ~?」
「ああ、その必要はないわよ、桜。
どうせ経験値も魔石も手に入らないし」
「そうなんすか?」
「うん、魔物召喚スキルは召喚なんて名前がついてるけど、召喚された魔物は全くの本物って訳じゃなくって魔物のコピーを創り出すようなスキルって言われてるの」
へぇ、そうなんだ。
にしてもコピーとはいえダンジョン内で魔物を倒す経験を積んでるんだし、経験値くらい入ってくれても良いだろうに。
「それより、私にウィークポイントスキルをシェアして欲しいんだけど。
虫系だと何処狙ったらいいか良く分からないのよねぇ」
「あっ、そっすね、スキル共有はそろそろしておきますか」
にしても何だろう・・・ウィークポイントと一番相性が良さそうな武器を持つ先輩だけ、このスキルを持っていない不思議。
この後、この前の組は、5分弱の討伐タイムで予選を終了。
蜂型が居たにもかかわらず討伐に至った彼等はギリギリの時間でありながらも喜びの声を上げていた。
そしていよいよ次は賢斗達の出番を迎える。
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○モンチャレ大会第1予選 その2○
「受付番号20番の予選出場者の方は所定の位置までお進みくださ~い」
さて、ようやく俺達の番か。
「よし、いくか」
まっ、短い期間だったがやれるだけの事はやったし。
「ほ~い」
これでダメなら諦めもつく。
「うん」
って事で、モンチャレ第1予選、張り切って行ってみますか。
バトルスペースの所定の位置に着くとカウントダウンが始まる。
・・・10、9
魔物召喚士が精神集中を始めると賢斗達も最初に発動する魔法に意識を集中。
・・・5、4
出現したのは、ムカデ型1体、芋虫型1体に蜂型1体。
おっ、蜂型さんようこそっ!
・・・1、0
タイムアタック開始っ。
「いっくよ~、ファイアーランス・アンリミテッドッ!た~いぷフェニックスッ!」
桜が先制の一撃を放つ。
ボボフフゥゥゥ~
ムカデ型の魔物へと飛翔する鳥形の炎槍。
おお~、ファイアーランスバージョンだと、細長く鶴っぽいシルエットになって、前よりかっこよくなってる。
って、見蕩れてる場合じゃないな。
「サンダーボール・アンリミテッド」
バチバチバチィ~
賢斗の放ったサンダーボールは瞬間的に蜂型の魔物に命中。
麻痺した魔物は敢え無く空中から落下した。
ボトンッ
「ウィンドボール・アンリミテッド」
ビュゥゥゥゥ~ン
落下した蜂型の魔物を渦巻く気流が包み込むと、真空放電が始まる・・・
ビュゥーボファ~バリバリバリィ~
よし、残すは芋虫っ。
ヒュン
かおるの放った矢を追い掛ける様に賢斗も芋虫型の魔物へと音速ダッシュで駆け出す。
シュタッ
もう限界突破が切れるし、こっちの方が手っ取り早い。
ドス
矢が芋虫の頭部に命中すると同時に。
とりゃあっ。グサッ
飛び上がった賢斗が芋虫の頭上から短剣を突き刺した。
ピクピクピク・・・
あれ、まだ足りない?
グリグリグリグリ・・・
え~い、しぶとい。
と突き刺した短剣を捻りつづけていると・・・
「ファイアーボール・アンリミテッドッ!」
ドォ~~~ン
おっと、バックバック。
ボファァ
芋虫型がファイアーボールの炎に包まれると、その瞬間光の粒となり霧散していった。
よしっ!タイムはっ?
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○モンチャレ大会第1予選 その3○
予選を終えた賢斗達は協会支部前駐車場で帰りのバスを待っていた。
「お~い、紺野ぉ~」
声の方を見れば怪我をした岩下を除くスキル研究部の面々。
「古谷君のパーティーはこれから?」
歩み寄って来た彼等にかおるが声を掛ける。
「ああ、それでお前等が召喚された魔物の情報を是非教えていただこうと思ってな」
「あらそういう事。
それなら私達のお相手はぜぇ~んぶ虫系の魔物だったわよ。
前組も前々組もみ~んな虫系だったし、ホ~ント魔物召喚担当者が手抜きしてるとしか思えない感じだったわ」
「じゃあやっぱり飛んでる奴も混じっていたか?」
「勿論居たわよぉ~、蜂型のが」
「アッハッハ、そいつは正に飛んだ災難だったな。あっ、いや悪い」
「別にそんなつまんない冗談で怒ったりしないわよ。
私、大人だし、うふっ」
「なるほどぉ、つまりは紺野達も何とか討伐には漕ぎ着ける事が出来たって訳か」
「ええ、でもそろそろ魔物召喚の担当者が代わっても可笑しくない頃合いだし、あんまり鵜呑みにすると古谷君達も痛い目を見るかもねぇ」
「ああ、心得とくよ。
でもまあレベル5相手なら何とかしてやるさ」
「ふ~ん、でもどうだかねぇ。
うちの前々組はタイムオーバーで失格になってたりしたわよ」
「まっ、まあ攻撃が届かないってのは、確かに厄介だけどな」
「あっ、でも僕らのパーティーが入った時は蜂型は居ませんでしたよ。
それに前の2組は3分台後半、まあそれでもうちの方が上でしたけど」
「う~ん、となると3分前半は欲しいところだなぁ。
これはちょっと気合い入れてくか」
「えっ、もしかして今回のボーダー4分切るの?」
「ウフ♡まあ綺羅、第2予選で会えないなんて寂しい限りよぉ。
あとは私達に任せときなさぁ~い」
「まっ、まだ予選結果は出てないでしょ。
それよりあんた達は何分だったの?討伐タイムっ!」
「う~ん、どうしよっかなぁ~。ニタァ
予選前の古谷君に余計なプレッシャー掛けちゃ不味いしぃ~♪」
「何よ、それっ!っとに気持ち悪いわね。
良いから言いなさいよっ!」
「え~だって私達の討伐タイムぅ・・・何秒って感じだから」
「「「えっ!」」」
かおるの言葉に口をあんぐりと開け固まるスキル研の面々。
「おっ、おい、紺野。
じゃあお前達は一体何秒だったんだっ?!」
「ウフ♡28秒よ」
う~ん、何だろう・・・
「おい桜、ちょっと離れてようぜ」
「う、うん。そうだね」
この人の仲間だと思われたくない。
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○通過順位○
午後8時、ハイツ令和、201号室。
風呂上りの賢斗はノートパソコンを開く。
カチカチカチ
おっ、あったあった。
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予選通過第24位 ナイスキャッチ 討伐タイム28:14
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ほほぉ~、結構良いタイムだとは思いましたが、何と24位ですかぁ。
そして予選通過が100位までって考えるとこれって結構上位の成績だったり。
にしてもパーティー結成ひと月未満で実質予選準備期間は1週間程。
それでいてこんな上位に食い込んでしまうとは・・・
う~ん、これはひょっとするとホントに温泉旅行へ無料で行けるかもしれない。ムフッ
次回、第二十二話 本能が警鐘を鳴らしている。