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第二百五話 純白のバニーガール

○極秘依頼○


「今回お前達に依頼するのは20年ほど封印され続けてきた海底ダンジョンの調査同行。

 未だほぼ手付かずのこのダンジョンは入るなり大海原が広がり、強力な海棲魔物と数多の幽霊船がその行く手を阻む。

 まあSランクのお前等にこの話を持ってきてる時点でその危険度は推して知るべしといったところだな。

 とはいえ今回はあくまで調査、安全マージンを十分取った上で無理だと判断すれば即時撤退、こんな方針で進めてくつもりだ。

 どうだ?良い返事を聞かせてくれればまた武蔵に乗せてやれるぞ」


「まあそういう感じなら多分いいんじゃないっすかね。

 皆も武蔵にはまた乗りたがってましたし」


「そうか、じゃあ煮詰めた話はまたお前等のギルドに行った時するとして・・・」


 ん?そだ、アレも一応聞いてみるか。


「あのぉ、ひとつ質問ですけどこの依頼の報酬としてあのメタリックゲコドンソードの余ってた鱗を貰うことってできますか?」


「何だ、数を揃えて小手でも造るつもりか?

 まあ研究機関やら博物館への贈呈話も持ち上がっていたが掛け合えば少しくらいの融通は利くと思うぞ」


「いやそれがですねぇ、できたら80枚全部欲しかったりなんかして。アハハ」


「なんだとぉ、あんな鱗でも全部となれば億は下らん価値があるぞっ!」


「いや~他にお金とか一切要らないんでそこを何とか」


 ったくいったいこいつは何考えてやがる。

 とはいえあの怪物を倒した最大の功労者はこの坊主。

 俺個人の感情論で言えば全部くれてやりたい気もするが・・・


「わかった、だがそれはあくまで成功報酬ってことにさせてもらうぞ」


 成功報酬?


「鹿児島県坊ノ岬沖230kmの海底には当時世界最大と云われた戦艦大和が今尚多くの戦死者と共に沈んでいる。

 この海底の墓標の隣にぽっかり開いた大穴が今回の調査対象、坊ノ岬沖ダンジョンだ。

 多かれ少なかれダンジョンってのが土地の記憶に影響を受けているのはお前も知っているだろう。

 このダンジョンには恐らく、いや間違いなく乗り物系アイテムとして生まれ変わった我が国最強の戦艦が眠っているなんて言われていたりする。

 そんなわけでお前に課すミッションは大和オブジェクトの発見とそのキーアイテムの入手。

 今回の調査中にこの両方が達成されたなら怪物の鱗は全部お前にくれてやるよ」


 まっ、今回の調査で入手まで漕ぎ着けるのはまず無理。

 仮に達成できたとしても大和が手に入れば上も文句は言って来んだろ。


「う~ん、でも達成できなかった場合俺の報酬ってゼロなんすかね?」


「まあそうだな、達成できないにしろタダ働きさせるわけにもイカんか。

 なら手付として調査前に10枚、どちらかひとつ達成で追加20枚、両方達成で残りの50枚全部が報酬ってことでどうだ?」


 ほうほう、最低でも10枚は確保できると。


「いっすねぇ、それ」


 と後日ギルドクローバーではナイスキャッチも立ち会いの下、指名依頼契約についての話し合いが。


「そんなわけで今回の最大目標は乗り物系アイテム、戦艦大和の入手。

 とはいえ調査期間についてはこの目標が未達であっても年内中には終了、日程に関してはナイスキャッチのメンバーがまだ学生である点、また武蔵のメンテナンス等を考慮し隔週土日の二日間と言った感じで進めていく予定だ」


 隔週なら空いてる週末は月ダンジョンにも行けるかな?

 最近忙しくて全く行けなかったけど。


「そして報酬については月毎更新でSランクパーティーへの基本指名依頼料300万円を毎月支払うつもりだ。

 まあ個人でSランクの多田君が金銭報酬を断っていなければ個人メンバーランクの合算額を適用することもできたんだがこればっかりは決まりなもんで」


 ふ~ん、DDSFの依頼料って普通こんなもんなのか。

 って考えるとあの鱗全部貰うとか相当無理な注文だったかも・・・


「ええ、そちらの取り決めならこちらも十分承知していますわ。

 でもここまでの長期契約となるとこちらの負担も大きい、多田以外のメンバーにも達成時の特約報酬を是非お願いできないかしら」


「それは勿論ですよ、こちらとしても出来得る限り対応したいと考えております」


「ではその内容については事前にこちらのリストに纏めておりますので是非御一考を」


 リストを渡された大黒の目が止まる。


 ~特約報酬内容~

 小田桜・・・DDSFの隊長を1日やってみたい。

 蓬莱円・・・武蔵の五輪砲を撃ってみたいです。


 おい、何だ?この小学生の夢みたいな報酬は。


 かおると茜については掛かった日数×10万円のボーナスとあまり夢のない内容となっていた。


「まっ、まあ恐らくですが可能でしょう。

 五輪砲の発砲については演習時のダンジョン内、場所と時間はこちらで指定させていただくことになりそうですが」


「ありがとうございます」


 というわけで何とか指名依頼の内容交渉も無事終了。


「あっ、そうだ、今のうちに多田少年にはこれを渡しておこう、中には例の鱗が10枚入っている」


「あっ、どもっす」


「それでは私はこの辺で。

 たった数か月で3機の乗り物系アイテムを発見したナイスキャッチの並はずれた探索力、大いに期待しています」


 数時間後・・・

 夕暮れとなった北山崎ダンジョン、入口付近の崖の上では・・・


「ほれ、とりあえず10枚ゲットしてやったぞ」


 10枚の鱗を地面に置くと少年の影が伸び影空間へと引きずり込む。


(おほっ、これは♪グフフ、やるではないか我が主)


「これでお前、ちっとは強くなったのか?」


(ああ勿論だ、今後は鱗シールドを同時に11枚展開できるぞ)


 あっ、うん、それだけ?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○純白のバニーガール その1○


 キーンコーンカーン・・・


「では明日からやる土佐日記は日本最古の日記文学。

 土佐国から平安京に帰る際、作者の紀貫之が女性になり切って書かれたとされています。

 まるで何処かのSランク探索者が思い浮かんじゃいますね」


 アハハハ


 ムスッ、余計なこと言っとらんで授業終わったらとっとと帰れ、竹内先生。

 にしてもふぁ~あ、最後の授業は眠気もクライマックスだねぇ・・・ゴシゴシ、チラッ


 2km離れたビルの屋上。


「あんな窓際席で大あくび、まったく命を狙われている自覚はあるのかしら。

 私が居なければもう3回は死んでいましたし、何時かはその凡庸に隠された真の実力が見れるものだと期待していましたけど。

 きっとあのお兄様に勝ったとかいう話もミッシェルの冗談よ」


「ほ~う、あの過大評価の若造が天王に?

 確かに笑えない冗談です」


 なっ、シュシュッ!


 突然の気配に肘撃ちと回し蹴り、だがホラーマスクの男はヒラリと躱し距離を取る。


「お~恐い恐い、着ぐるみ姿でその身のこなしとは」


「ようやく現れましたか」


 気付けばビルの屋上に霧が立ち込めてきていた。


「こう見えて私結構臆病者でして。

 にしても国際機関の連盟があんなガキ一人に些か肩入れが過ぎるのでは?」


「確かにね、でも貴方のような大物のターゲットになるほどの重要人物。

 そういう見方もできるんじゃなくって、リスキースマイル」


「おや、やはりバレてしまいましたか。

 貴女が去るのを待っていたのですがこうして出て来て正解でしたね、パチンッ、パラライズスリープ」


 白かった霧は明滅すると灰色に変色。


「ククッ、知っていますよ、そのディフェンス形態には状態異常も無意味」


 えっ!?


「ですがこれならどうでしょう」


 ジジジ・・・


 なっ、嘘っ!


 眼前の男の姿は幻か、突如感じた背後の気配に振り向こうとするウサギさん。

 しかし後ろのファスナーを少し下げられるとその姿は純白のバニーガールに変身、麻痺と睡魔でその場に倒れ込んだ。


「そしてそのバニーガール姿は攻撃特化の紙装甲、状態異常への耐性も皆無と伺っています。

 あのうつけ者のSランクにも少しは感謝しなければイケませんね。

 厄介だった連盟の兎をこうも簡単に無力化できたのですから。ニヤッ」


 まさかっ、あれを見られていた?


「にしても貴女の情報を集めるのには苦労しました。

 とはいえ幼少期から幾度となく痴漢、強姦、果ては誘拐までされかけたという話も満更嘘ではなさそうです。

 男の欲望を否が応にも掻き立てるその圧倒的な美貌、まるで気品と透明感漂うお伽噺の姫君があられもないバニーガール姿を晒しているかのよう」


 この男、いったい何処まで私の情報を・・・


(SOSですお兄様、直ぐこちらまで来て下さい)


 ・・・えっ、嘘っ、返事がない?


(冗談はやめてっ、ほら、ソフィアがピンチですよ、お兄様ぁ!)


「ニヤリ、頼みの綱のケビィン・ホワイトなら来ませんよ。

 あの男が貴女のピンチに決まって現れるなんて情報にもしっかり対策をさせていただいております」


 まっ、まさか最初の霧は思念結界!


「そしてこの指輪は私からのプレゼント」


 リスキースマイルは身体の自由を奪われた女性の手を取ると指輪をはめる。


(お兄様っ!どうかっ!どうか返事をっ!)


「そしてこちらのマスターリングを私が嵌めればもうそのいやらしい身体は私の物、貴女ほどの美貌なら私と恋に落ちるに相応しい」


 なっ、まさかっ、この指輪は・・・


 絶望的状況の中、純白のバニーガールはその瞼を静かに閉じていった。


「なあ指パッチン男、そいつを着けるとホントにこのマッターホルンとヴァイスホルンを好きにできるのか?」


「ああ、これは超々激レアのフォーリンラブリング、狙った相手とフォーリンラブっちゃえる夢のアイテムだ。

 って貴様ぁ、何故そこに居るぅ!」


 眠りに落ちたバニーガールをそのすぐ横で鼻にティッシュを詰めた少年が見つめていた。


「いや何故って、こんなメルヘンゴージャスセクシーバニーが居たら地球の重力以上に引き寄せられるだろ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○純白のバニーガール その2○


 なっ、なぜだ、Sランクの探索者でもダンジョン外での索敵範囲は精々数百mが限度。

 しかも今このビルの屋上は私の霧結界で・・・


「で、どうすんだ?パッチン仮面。

 暗殺稼業の殺し屋がSランク探索者と真昼間から正面切って戦うとか流石に分が悪いだろ。

 別にこのウサギさんを置いてくんなら逃げちゃってもいいけど」


「クックック、逃げる?何処にそんな必要があるのです。

 昼間だろうと何だろうと私は何時でも姿を消せる、パチンッ、カメレオンタイム」


 そう言うとパッチンマスクの姿が景色に溶け込むように消えてゆく。


「あんなボロアパートで毎晩高いびき、隙だらけの貴男などその気になれば何時でも殺れるんですよぉ!」


 パキュパキュパキュウゥゥゥ――――ン!!!!


 何処からともなく声が聞えると12個の弾丸が四方八方から飛んでくる。


 カランカランカラン・・・


 一方ゲコ次郎のオートディフェンスはそれなりの有能さを発揮。


 クイッ、ヒュン


 1つ弾き損ねたが少年はそれを首を傾げて回避。

 殺し屋の銃弾をバニーガールを凝視したまま少年は凌ぎきってみせたのだが・・・


 パコンッ!


「ズキンズキン・・・ほっ、ほれ、お前の攻撃なんか俺には全く通用しないぞ。

 わかったら今のうちに降参しろ」


「いや貴男、今凄く痛そうにしてますよ?」


 くそっ、ゲコ次郎め。


「そして健気に余裕を装っていますが姿の見えない私の方がどう考えても形勢は有利、クックック」


 まあ確かに見えちゃいないんだが・・・スッ、ここだろっ!


「精神洗浄ぱぁ~んち」


「なっ、ブヒャッ!」


 ヒュー―――ン、ボンッ、ゴロゴロゴロォォォ・・・ドカッ!


「あのなぁ、姿を消すとか気配を断つとか空間把握が使える人間にそういうの効かないんだってば」


 まっ、この使い方最近気づいたんだけどね。


 高架水槽の影に潜んでいた殺し屋は屋上に叩きつけられピクピクと痙攣状態。


 にしても一々相手すんのも面倒いとか考えてたらこの始末か。

 ウサギさんには怖い思いをさせちまったな。


「ヒール、ほれ、これでもう動けるだろ。

 ちっとは反省したか?」


「はいそれはもう、これより私、警察へ自首しに行こうかと。

 貴方様には大変ご迷惑をおかけしました」


「うむ、よろしい」


 殺し屋は何処か晴々とした足取りでビルの中へと去って行った。


 精神洗浄って本来こういう感じに使うのかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○純白のバニーガール その3○


 さてと・・・じぃぃぃぃ~~~~~


 再びバニーさんの横にしゃがみ込む少年。


 にしてもある程度予想はしていたが妹の方もえげつないほど美形だな。

 サラサラとしたストレートブロンド、気品溢れる整った顔立ち、これもう耳長くしたら完全にエルフだぞ。

 そしてこの美しさに目を奪われ油断していると寝姿でも重力に抗い続ける欧州の名峰達がさあ召し上がれと囁きかけてくる。

 こんなの女性にとっちゃ理不尽の極みだし男にとっても過度に欲望を刺激するだけの高根の花。

 ええいっ、こんなもの、こうしてやるっ!


 ツンツン・・・プルンプルン


 わおっ♪思い知ったか♡

 っとイカンイカン、つい自分の無力さに怒りが込み上げてしまった。

 こんな人類の最高傑作みたいな妹が居たらまず間違いなく溺愛しとるだろうし、流石の賢斗さんでもあのケビィンさんを敵に回すようなマネはできない。

 こりゃもうこれ以上俺が妙な気を起こす前にさっさと起こした方が良さそうだ。


「キュア」


 ・・・あれ、起きない?

 麻痺と睡眠の状態異常表示は消えとるし、ってことはこれ普通にお昼寝しとるだけか?

 まあ昼夜を問わず俺の警護してりゃあ重度の寝不足にもなるわな。

 となるとこんなところで寝ていたんでは風邪ひくし、ギルドの医務室にでも運んでやるのが一番か。


 と、バニーガールを抱きかかえようとする少年だったが・・・


「んん、ううぅ~ん」


 耳元には薄い唇からの甘い吐息、眼前では底の見えない胸の谷間がちょっと寄ってく?と囁いていた。


 ななななっ、これはイケないっ!エロエロ指数が高過ぎる。


 少年は彼女を一旦下におろした。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい、あのまま行ってたら完全に俺の理性ぶっ飛んでたぞ。

 どうする?あっ、そうだ、こういう時こそ何時も俺の邪魔をするアンポンタンをこの場に呼べば・・・


 コロコロコロォォォ・・・コツン


 なっ、この指輪はっ!!!

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― 新着の感想 ―
指輪を嵌めるという誘惑に勝てるのか、続きが楽しみです。
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