第二百三話 嘘か真実か
○嘘か真実か その1○
今日から学校は二学期に突入。
「先の大災害では我が校の生徒である紺野かおるさんと多田賢斗君がとても素晴らしい活躍を・・・」
朝の全校集会、スピーチ中の校長の隣にはお預けを喰らう少女がイライラを隠し笑顔を取り繕っている。
さりとてそのイライラの原因も今朝はしっかり何時もの時間にアパートを出ていたのだが・・・
チャリン、チャリン
ったく、メタリックゲコドンソードjrだぁなんつぅからすっかり騙されたぜ。
解析によるとゲコ次郎はシャドウスケイルのレベル1。
その不遜な態度と深い知識は確かにあの怪物を思わせるが所持スキルはオートディフェンスとシャドウムーブで目下のところ攻撃手段皆無の雑魚であった。
「でもお前の鱗を魔物に投げて攻撃すればレベルアップくらいできるよな」
(いや待て、初めに言っておくがそれは悪手以外の何物でもない。
我は本来81枚の鱗からなる集合体、1枚だけで経験値を得るのは非効率だし何より全ての鱗が揃わなければレベル50に達してもメタリックゲコドンソードに進化できんぞ)
なるほど、それでこんなに期待外れだったのか。
(さあ早く持ってくるがいい。
分かたれた80枚の鱗全てを吸収すれば貴様も望む強い我をお見せできるぞ。グッフッフ)
って言われてもなぁ、あの余ってた鱗素材は全部DDSF、つか国の所有物。
塩漬けにされてたとしてもそう簡単に譲っちゃくれない・・・おっ、赤信号。
じぃぃぃ~~~~
おや、信号待ちしているだけで視線を感じてしまうとは賢斗さんも有名になったもんだ。
というわけで願わくばこれが恋する乙女の熱い眼差であれっ!キョロキョロ
おかしいなぁ、それっぽい女子の姿どころか誰一人・・・
いや待て、あのティッシュ配っとる着ぐるみの中の人、背丈からして女性かもっ!
「すいませぇ~ん、そこの兎さぁ~・・・」
パキュウゥゥゥン
んっ、今何か髪の毛を霞めたような?
「ハッハッハ、のらりくらりとプロの殺し屋の狙撃を避けるとはまるで愚者を演じる道化だな」
へっ、殺し屋?
この歩く良心と云われる賢斗さんがそんなモノに、と言いたいとこだが。
「国際指名手配を受けている世界的な殺し屋が我が国に入国したとの情報が入った。
まあそのターゲットが多田少年だという確証はまだないが今の少年はこの国にとって最重要人物の一人、そういう自覚を持った行動を心掛けてくれ」
昨晩あんなこと言われたばっかだったな。
クルクルゥ、パスパスパスパスッ、
舞い上がる木の葉のようにシャッフルされると六芒星を描いたタロットカードは空中停止。
「ほ~れ、カードもお主をそう言っておる、シュピン!マルハバ♪」
アフロ中年は愚者と星、二枚のカードを少年に掲げ陽気にご挨拶。
なんにせよ、こんな怪し気なオッサンとは関わらん方向に全振りが鉄則なのだが・・・チラッ
あの僅かに煙を上げ放射状にヒビ割れとる穴は見るからにでき立てホヤホヤの弾痕。
しかしそうなってくると先程感じた熱い視線の正体はライフルスコープで遠くから俺を覗く殺し屋のモノだったということに?
くそっ、これでは夢も希望も、いや待て。
ワンチャンまだその殺し屋が絶世の美人スナイパーである可能性もっ!キョロキョロ
「まあ落着け少年よ、さっきの狙撃者ならもう心配ご無用。
連盟のガーディアンが刺客の居たビルの屋上へ向かって行ったからの」
連盟のガーディアン?
クルクルゥ、パスパスパスパスッ、
ってまたカードの曲芸かよ。
シュピン!
「ふむ月か、これまた難儀な話だな。
とはいえムーンエクスプレスを持つ此奴なら可能性もゼロではないか」
なぬっ、何故スラムーン号のことを?
「誰だ、おっさん」
「儂か?儂は占星王、ジュピターキング・稲川様だ、怖いですねぇ」
いや怖くはない。
「ではさらばだ少年、命があったらまた会おう」
「いや待て待て、そっちは満足したみたいだがこっちは聞きたいことが山盛りポテトだぞ」
「フハハハ、別につき合ってやってもいいがお主はそれどころではあるまいて。
もうすぐそこまで次なる危機が・・・」
「そんなモノ迫ってはいないっ!」
しぃ~~~~ん。
「おっ、おい、あの爺さんやべぇぞ、アイティー5だっ!」
ムズムズ、くそっ、防衛失敗か。
ったくアイティー5って何だよ?!クルリ
後方の声に振り向くと赤信号を無視して道路を渡る老人にトラックが迫っていた。
ブゥーッ!ブブゥ――――ッ!
まさか異世界転生5秒前とかいう意味じゃねぇだろうな。
キィィィィィ――――――ッ!
つか次なる危機ってあの爺さんの話じゃねぇか。
バチバチンッ!
急停止するトラック、慌てた様子で辺りを見渡し歩道で老人を抱える少年を見つけた運転手は・・・
「馬鹿野郎ぉ!死にてぇのかっ!」
罵声を浴びせ去って行った。
ブロロロロロォォォ・・・
「ふぅ~危なかったな爺さん、赤信号は渡っちゃダメだぞ」
にしても測ったようにこんな場面に出くわすとは。
あのオッサンまだそこ等辺に・・・キョロキョロ
その目を離した一瞬の隙。
スチャ
サイレンサー付きの拳銃を取り出した老人はニヤリと笑みを浮かべた。
「ゴートゥヘブン、ケント・タダ!」
パキュン
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○嘘か真実か その2○
その1時間後・・・
「ってなことがありまして、気がついたら校門の前に居たというわけです。
いや~朝から大変でしたぁ。フキフキ」
鼻にティッシュを詰めた少年は教室で必死に熱弁を振っていた。
「フッ、俺も教師になって8年目、生徒が嘘をついているかどうかなんてその目を見ればわかる」
ほう、この賢斗さんの澄んだ瞳を信じてくれましたかっ!先生。
「思春期の男子が突然の鼻血に恥じらいを感じてしまう気持ちも十分理解できるしな。ニコッ」
「あっ、いや、違う違う先生。
別にエッチぃことを考えてたら鼻血が出ちゃってあら大変ではなくてですね」
アハハハ
「それよりお前が居ない間に学期始めの席替えも終わっている。
遅刻したお前は罰としてあの窓際の一番後ろだ」
「はっ、光栄です」
何はともあれ遅刻万歳♪
二学期は外の景色見放題のこのVIP席を満喫できるのか。
と席に着きようやく落ち着いた彼は教師が連絡事項を告げる中、相棒のスライムに質問を始めた。
(で、スラ太郎君や、この賢斗さんとしたことが銃を向けられた後の記憶が全くないのだがちと説明してくれるかい?)
(了解ですマスタぁ、あのですねぇ・・・)
弾丸が放たれた瞬間、ゲコ次郎のオートディフェンスが発動、足元から飛び出した鱗がその弾道を逸らした。
しかしそれで何故彼の記憶が無くなっているのかといえば・・・
キィィィン、うっ!カランカランカラン
突然の音に振り向く少年は弾丸との接触で縦回転を始めた鱗と接触、それが見事一発で意識を刈り取る顎先への打撃となっていた。
とはいえこの時少年の鼻血が出てしまったのではないらしい。
(その後は兎さんがやって来てマスターをここまでおんぶしてきたんです。
その間マスターはずっと鼻血を垂らしてニヤニヤ、そのティッシュも兎さんが詰めてくれていましたよ)
う~む、無意識下とはいえ結構な失態だな。
その心優しい兎さんにはお礼とお詫びを、つか誰だよ、その兎ぃ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○嘘か真実か その3○
そして教師の話が終われば今日はもう下校のお時間。
賢斗の下には早速モリショー達が寄ってきた。
「よぉ賢斗っちぃ、さっきの怪しい占い師とやら、このモリショーさんが速攻見つけてやったっしょー」
えっ、ホント?
彼はポチッと動画再生。
『マルハバ♪レディースエンジェントルメェ~ン、ご機嫌如何かな?
今回ジュピターキング・稲川様がお届けする予言企画第3弾、耳の穴カッポじってお聞き漏らしの無きよう。
これより数か月の先、魔の三角地帯バミューダトライアングルにあの浮遊島ダンジョンが集結する。
いや~そこから何が起こるんですかねぇ、この続きはメンバー限定配信で、それではイラリカ♪』
「あっ、そうそう、こいつだよこいつ。
このハートグラサン間違いない」
「このジュピターキング・稲川様は先月突如現れた今話題の占い師。
見た目はかなり胡散臭いけどこの間のメタリックゲコドンソードの出現をピタリと当てたことで絶賛ブレイク中っしょー」
ふ~ん、あのふざけたオッサン占い系ユーチューバ―だったのか。
で、そのユーチューバ―さんが何でまだ世間にお披露目もしとらんスラムーン号のことを知ってんだっつぅ話だな。
「モリショー、そんなオッサンの話それくらいでいいだろ、そろそろ本題に移るぞ。
フッフッフ、多田よ、僕達もついに手に入れたぞ。
見るがいい、この気品漂う深紅の石を」
高橋は綺麗な赤い石を賢斗に見せつける。
「これこそ貴様の言っていたユウゴウガッタインとやらに相違あるまい」
えっ、そんなわけないでしょ。
「はい、間違いなくユウゴウガッタインであります」
あっ、いや、何かゴメン、水谷さん。
「あのね多田君、この石は先日緑山ダンジョン1階層の湖のほとりで拾ったんだけど別に宝箱から出たわけでもないしお金払ってまで鑑定してもらうのも何だなぁって」
あ~それで俺に無料で見てもらおうって魂胆か。
でもまあ幼気な少年少女達の心を弄んだ気分だし解析くらいかまわんけど。
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○嘘か真実か その4○
一方こちらは国際探索者連盟の定例総会の模様。
「・・・驚異的な遊泳能力と超再生。
AからBランク相当の分体を瞬時に100近くも生み出す害悪性はレジェンド級に匹敵。
レベル60を超えたあの魔物がもし外洋に放たれていれば世界は恐怖のどん底に突き落とされていたことでしょう。
またこの怪物の討伐に際し顕著な働きを見せたかの国のSランクパーティー、ナイスキャッチつきましては国際SSランクの評価が妥当と判断致します」
「ふぅ~」
総会を終え特別対策室に戻ったケビィン・ホワイトは椅子に座るなり深い息を吐く。
「総会はどうでしたか?室長」
「ええ、問題なくナイスキャッチの国際SSランク、そしてミスター多田個人への国際Sランク昇格が無事承認されましたよ。
まあ魔石の買取額で判断される日本の基準では個人Bランクに甘んじていた彼ですがあの乗り物系アイテムと融合合体するスライムの力を考えればこの飛び級昇格も当然です」
「確かにあんなエネルギー砲をたった一人の探索者が放てる時点で単なるBランクとして扱うわけにもいきませんしね。
あと話は変わりますが諜報部のソフィアから報告が入っています。
どうやらジュピターキングがそのケント・タダと接触したそうです」
「ほう、ということは彼もまたミスター多田が何等かのプラネットシリーズを所持していると考えているのでしょうか」
「またそれとほぼ同時刻に2度ほどミスター多田は刺客に襲われています」
「で、どうなりました?」
「はい、掴みどころのない対応であっさり危機を回避したかと思えば自爆して呆気なく失神、まるで愚者を演じる道化のようだと彼女もジュピターキングの言葉を借りて言ってました」
「フッ、愚者を演じる道化ですか。
まあ何にせよ、彼女にはもう帰って来ていいと伝えてください。
今回の国際Sランクの肩書が少しは刺客を遠ざけてくれるでしょうし、そもそも彼がそこ等の殺し屋の手に落ちるとは思えない。
それに彼の打った布石がそろそろ実を結んでもおかしくないと思いますからね」
「布石・・・ですか?」
「まあ、これを見てください。パサッパサッ」
『~ついに発見!ユウゴウガッタイン。アマゾンの奥地に眠る神秘の秘宝~』
『~南アフリカのカリナンダンジョンでユウゴウガッタインが発見される~』
「このフェイク記事が何か?
確かに本当に見つかればケント・タダが命を狙われるリスクも減るかと思いますが。
ユウゴウガッタインは実際には存在しない架空のアイテムだと室長も」
「ええ、あの日の彼の発言は真っ赤な嘘、国の保身のためだけに言わされていたものと私も最初は考えていました。
しかし連日のように報じられるこれ等のフェイク記事を見ていてふと思ったのです。
貴女も御存知かと思いますが神の領域とされる一方でアイテム研究の分野では想像、認識、願望、この三つの思念が一定以上蓄積されるとダンジョンで新たなアイテムが誕生すると云われています。
この説を信ずるなら架空であるはずのユウゴウガッタインも将来的に実在化する可能性は大いにあると」
「それはそうかもですが新アイテムの誕生は多くの人々の長年の夢が実を結ぶようなもの、実現するまでの期間は早くても数年と云われていますよ」
「フッ、でもそれは今ほど通信技術が発達していなかった過去の事例がそうだったというだけの話。
あの日彼が放った一つの嘘が今や世界各地に爆発的な広がりをみせている。
この大きな思念のうねり、過去類を見ない速さで新たなアイテムが誕生する可能性は大いにあると感じませんか?」
「いやでもそこまでのことを本当に・・・タラリ
まさに彼は智謀の怪物ですね」
で、その智謀の怪物さんはといえば・・・
えっ、嘘っ、なぁぜなぁぜ?
「さあ賢斗っちぃ。早く意見を聞かせてくれっしょー」
「え~~~~~大変如何ともし難いことですがこの赤い石・・・
本物のユウゴウガッタインだと思われます」
「「「「「うおぉ!やったぁ♪」」」」」
う~む、意味が分からん。
次回、第二百四話 ウサギさんですっ♪




