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第二百二話 夏の終わり

○メタリックゲコドンソード討伐作戦 その18○


 天から伸びた光柱を浴び怪物の巨躯は霧散してゆく。


「やりました、今度は頭部もしっかり捉えています」


 いや、安心するのはまだ早いかもしれない。


 その予感は的を得ていた。

 霧散の最中、一枚の大鱗が海へと落ちてゆく。


 チィィィ、やはりあの逆鱗には桁外れの防御が・・・


 全てを諦めその無力さを噛み締める男。

 だがその時、一筋の光が上空でたなびく。


 きらきらぁ~~ん


 ほ~れ、やっぱりこうなった。


 ボォム、キュンキュンキュキュキュどちゅ~~~~ん


 大空に弧を描いたそれは海面に向け急旋回。

 落ちゆく大鱗へと真っ直ぐに。


「五右衛門しゃ~ん!」


「やっちまえ、桜」


 息をのむ瞬間、甲高い音が鳴り響く。


 パッキィィィィ―――ン


 空中静止した大鱗はゆっくりと左右にスライド。

 音もなくチリチリと消滅してゆく。

 一方大仕事を果たしたマジカルピンクちゃんはくるくるとキリモミ飛行。


(賢斗ぉ、大変だぁぁぁぁ~~~~!)


 天高くすっ飛んでゆくその先には・・・


(MPがすっ空かぁ~ん)


 フッ、そりゃ大変だな。


 ひゅ~~~ん、バサッ


「ないすきゃっちぃ~♪」


 満面の笑みを浮かべる少女と共に海上に移動したスラマーメイド号に降り立つとその背後では大量の戦利品が次から次に海へと落下していた。


 ボシャン、ボシャボシャ――――ン


「巨大魔石のドロップを確認、今度こそ間違いなく討伐完了です」


「よし、至急エキサイトダックを回収に向かわせろ」


 フッ、まさかこの俺まで観客にさせられていたとはな。

 確かに最高のエンターテイメントだったぜ。


 んじゃ先生、そろそろ・・・ん?


 少年を睨んだ少女は首に手を回す。


 あっ、はい、まだっすか。


 そうこうしている間に内部への階段から他のメンバー達もいそいそと。


「うわぁ、風が気持ちいいわねぇ♪」


「はい、やっと重労働から解放されましたぁ」


「ちょっと桜、賢斗さんにご迷惑ですよ、早く降りなさい」


「えっ、いいじゃ~ん、ご褒美ご褒美ぃ~」


 ほどなくスラマーメイド号はギガントドーナツに着岸。

 そこへ美魔女の二人に雷鳴剣アイドル、ソードダンスとガンマニアのメンバー達、ふんどし姿の長刀使い等が続々と集まって来た。


「坊や達お久し、また一段と強くなったんじゃない?」


「ねぇ、そのスライム何処で捕まえたの?」


「まあこのくらいやってもらわなくては後継者失格ですからね」


「フッ、今回は貸し一つだぜ、多田ぁ。

 この服部さんへの感謝も忘れんじゃねぇぞ」


「一々そんなこと言うから煙たがられるんですよ、服部君」


「賢子殿ぉ~、会いたかったですぞぉ」


「あ~~~ボインじゃない時は賢子ちゃんって言っちゃダメなんだよぉ~」


「なっ、確かに今はツルペタですな」


 五月蠅い、むしろこっちがスタンダードだ。


『ご覧ください皆様。

 これが大災害からこの国を守った英雄達でありますっ!』


「そんじゃあ皆いっくよぉ~」


 えっ、流石に抱っこしたままじゃ・・・

 いいや、ここは何とかしてみましょう。それっ!


 かくして伝説級にまで成長を遂げた怪物はその最後を迎える。

 災害の終わりに待っていたのはビシッとS字のポーズを取る少年少女達の姿であった。


「「「「「「「「「「あっ、勝利の型っ!」」」」」」」」」」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○ユウゴウガッタイン○


 あの災害の後、失ったスラ太郎の核も再生されリトルマーメイドとの融合合体も無事解除。

 とはいえ必要となればまた何時でも完全上位互換であるスラマーメイド号に融合合体させられると思っていたのだが・・・


「お前もわかってると思うがあの融合合体、今後人前で軽々しく使うなよ」


 えっ、何で?


「国は現状お前等に何か制限を掛けるつもりはないらしいがこれはあくまで国を救った英雄に対する国民感情に配慮したもの。

 しかしあの超火力が何時でも容易に使用可能だと分かれば諸外国からの圧力は今後強くなるだろう。       

 そうなった時今と同じ判断を国が下してくれるとは考えないことだ。

 今の自由を守りたければもう二度とアレはできないくらいのブラフも打っておくことだな」


 確かにあんな超火力をぶっ放せば問題にもなるかぁ。

 つってもそんな都合のいいブラフなんて・・・う~ん。


 そしてこの翌日には延期されてたテイマーズバトル大会の表彰式が行われた。


「優勝者の多田賢斗さんには超激レアのテイム剣、ブルーレースアゲードが贈られましたぁ」


 ワァァァァ―、パチパチ


 いや~今更テイムスキルがゲットできる剣なんか貰いましても。


「それでは第1回テイマーズバトル大会に見事優勝された多田組に少しお話を伺ってみましょう。

 今のお気持ち、そしてファンの方々へのメッセージなどありましたら」


 あっ、そうだ!


「僕は魔物なのにこんなに沢山の人が応援してくれてとってもとっても嬉しいです。

 これからも頑張るのでよろしくです!」


 清川ダンジョンに入る人に格安レンタルすれば儲かるかも。


「これはこれはスライムさんご自身にお応えいただけるとは」


 後でボスに相談してみよぉ~っと。


「ところで今度は多田さんご本人にお聞きしたいのですが・・・」


 あっ、はい、やっぱ俺も喋らないとダメ?


「あの究極融合合体、今一度見せていただくことは可能でしょうか?」


「えっ、普通に無理ですよ」


「と言いますと?」


 いやこれ以上は何も・・・う~ん。


「詳しくは言えませんけどあの融合合体、今はもうできないんですよ。

 あれをするには・・・そう、ユウゴウガッタインというアイテム図鑑にも載ってない珍しい石が必要なんです。

 2つ目なんて勿論手に入ってませんし今後も無理なんじゃないかとごじゃりま・・・」


 ちっ、長すぎたか。


「なるほどぉ、それは非常に残念、ですが今後の更なる活躍にも期待しております。

 この度は優勝おめでとうございましたぁ!」


 ワァァ―――


 フッ、まあ専守防衛を貫きたい日本としてはそうでも言っておかないと、といったところでしょうか。

 ともあれ世界のパワーバランスにも影響を与える程の大きな力。

 最早各国は彼を放ってはおかないでしょうね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○スラ太郎フィーバー○


 一方清川高原の中腹には何時の間にやらこんな立て看板が。


『ようこそスライムの聖地、清川ダンジョンへ』


 連日の特番やらでスラ太郎の出身ダンジョンが周知された影響か・・・


「あっ、たっださぁ~ん、昨日ブリブリダイナマイトぉ~♪」


 ギルドクローバー前には清川ダンジョンの進入許可を待つ探索者で長蛇の列が。


 はい、ぶりぶり。


 またギルド内に目を移せば喫茶店でスラ太郎パフェが新登場。


「いらっしゃいませ~」


 売店ではマグカップにぬいぐるみ、お饅頭などスラ太郎グッズがズラリと並んでいたり。


「お買い上げありがとうございましたぁ」


 今や国を救ったお喋りスライムは大人気である。


 う~ん、この人気振り、既に俺以上では?


「あっ、多田のお兄ちゃんだぁ、ねぇ、スラ太郎君出してぇ」


 ほう、多田のお兄ちゃん呼びは中々ポイント高いぞガキんちょ、よかろう。


「パタパタ・・・おはようございます、マスタぁ」


「おうスラ坊、早速で悪いがこのお子さんと握手でもしてやってくれ」


「あっ、こっ、こんにちはぁ♪」


 恥らいながら右手を突き出す女の子。


「はい、多田スラ太郎です、こんにちは。ニョキ~、ギュッ」


「わ~い♪」


「コソコソ・・・多田さんってホントは優しい方なんですね」


 いえお母さん、そういうことはもっと声を大にして言っていただかないと。キリッ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○メタリックゲコドンソード討伐記念式典○


 そしてとうとう夏休みも最終日。

 この日は午後からメタリックゲコドンソード討伐記念式典が行われる。

 今はまだ午前中なのだが賢斗達ナイスキャッチのメンバーは水島と共にDDSF本部へと足を運んでいた。


「ようこそお越しくださいました、どうぞこちらへ」


 受付の職員に案内されたのはメタリックゲコドンソードのドロップアイテムが並べられた閲覧室。


「あっ、来たわね、皆」


 そこには先に鑑定役として呼ばれていた中川の姿。

 他にも先日の災害で顕著な働きをみせた探索者達八名、中山銀二や踊り子シスターズ等が顔を揃えていた。


「フッ、ようやく最大の功労者のお出ましだな」


 午後の式典では感謝状と共に災害時の尽力に対する褒賞としてこの十三名にドロップアイテムが1点づつ進呈される。

 それに伴い各自の希望に少しでも沿うよう進呈されるアイテムを事前に決めておこうというのが今ここに集められた主旨である。


「選ぶ順番はお前等が最初だ。

 早いとこ貰うアイテムを決めちまってくれ」


 アイテムを選ぶ順番はDDSFが裁定した貢献度評価の高かった順。

 また賢斗については指名依頼の特約報酬分も合わせこの場で2点のアイテムを選択できる。


 あれ、思ってた以上に凄そうなんだが。


 長テーブルの端から空飛ぶ自在剣、フライングエスパーソード。

 終ぞお目に掛かったことのない伸縮自在の尻尾装備、メタリックスケイルテール。

 遊び心満載の水属性遠距離武器、長舌絡繰り水鉄砲。

 鱗型手裏剣が飛び出す暗器小手、メタリックスケイルガントレット。

 それぞれ中川の作成した鑑定書付きで並んでいた。

 ちなみにあの怪物がドロップする可能性の中で最大のレアリティを誇っていたのは水をも両断する大剣水無月。

 しかし桜先生の強運が万全でなければそんなモノがドロップすることはまずない。


 流石に伝説級ともなると超レアドロップじゃなくてもこのクォリティってわけか。

 でもまあ今回この辺は・・・ポリポリ


 少年はそこを興味なさ気に通り過ぎる。


「賢坊、鰭酒は残しといてくれよ。

 爺ぃの奴が五月蠅ぇからよ」


 へ~い。


「坊や、スキンオイルとスキンパウダーは選んじゃダメよ」


 う~ん、これがパワハラという奴か。

 ともあれ一つ目はもうこの絶品尻尾肉と決まっている。

 あと俺の場合はもう一個選んでもいいって話なんだが・・・う~ん。


 もうこれ以外となるとこの少年とは無縁の浮遊のスキルスクロール。

 そしてトランプサイズの鱗素材が大量に並んでいるだけである。


 こんなの一枚貰っても防具一つ作れないぞ。


「あっ、ボス、この最後の鱗、鑑定書付け忘れてますよ」


「ああそれ欠陥品なのよ。

 意味の分からない結果が出ちゃって鑑定書も作れやしない。

 鱗を選ぶんだったら他のを選びなさい」


 ふ~ん・・・って何だろう。

 アナウンスもあったしちゃんと討伐したはずなんだが。


 そして午後の式典が終わると進呈された品々はこのようになっていた。


 多田賢斗・・・大魔蝦蟇の尻尾肉×1塊(2kg)、鱗素材×1(鑑定書なし)

 小田桜・・・大魔蝦蟇の尻尾肉×1塊(2kg)

 紺野かおる・・・大魔蝦蟇の尻尾肉×1塊(2kg)

 蓬莱円・・・大魔蝦蟇の尻尾肉×1塊(2kg)

 緑山茜・・・大魔蝦蟇の尻尾肉×1塊(2kg)

 中山銀二・・・大魔蝦蟇の尻尾肉の鰭酒

 梅田梅の丈・・・浮遊のスキルスクロール

 北条澪・・・大魔蝦蟇の肌油

 北条奏・・・大魔蝦蟇の肌粉

 海上愛梨・・・フライングエスパーソード

 伊集院信長・・・メタリックスケイルガントレット

 服部高貴・・・メタリックスケイルテール

 樋口敏樹・・・長舌絡繰り水鉄砲


「おい銀二、いったいこの結果は何なんだ?

 確かに怪物の尻尾肉となれば舌が震えるうまさだろう。

 だがオークションにでも出せば武具の方が間違いなく尻尾肉より高く取引されるはずだ」


「まっ、お前のいう打算的な結果にならなかったってのはナイスキャッチの奴等があの四人を仲間だと認めてるってことだろ。

 戦利品に武具があった場合仲間内でまず考えるのは誰がそれを持つべきかであって、単純に高価な品を一番活躍した人間が貰うって話にはならねぇからな。

 今回はDDSFが御丁寧に選択順を勝手に決めてはいたが、あいつ等はそんなもん関係なく只死地に駆けつけ共に戦ってくれた仲間にあの武具を使って欲しかったんじゃねぇか」


 まっ、そういう奴等だからこそ手を貸したくなるのかも・・・


「今夜の私は肉食獣だぁ~!がおぉ~ん」


「「「「がおぉ~ん♪」」」」


 いや銀二、ありゃどう見ても生粋の肉好き集団だろ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○夏の終わり○


 最後の夜は清川キャンプ場でバーベキュー大会。

 ギルドクローバーの関係者達が絶品尻尾肉に舌鼓を打つと10kgもあったお肉はあれよあれよと猛獣達の胃袋に。


「ゆけぇ、肉型花火ぃ~!」


 どどぉ~ん


 食事を終えた肉食獣が火魔法花火を始めると・・・


「「「「がおぉ~ん♪」」」」


 一方賑やかな場から外れ草むらに腰を下ろした少年は徐に一枚の鱗を取り出す。


 クルッ、シュピン


 やっぱ考え過ぎだったか。


「あっ、それ不良品の鱗でしょ。

 でもそこまで無価値な物を選ぶ必要なかったじゃない。

 他の人達もちゃんと希望の品をゲットできてたみたいだし」


 少女はそう言いながら少年の隣に腰を下ろす。


「それはそうなんですけど・・・

 この鱗、あの時の逆鱗みたいに解析でアンノウンって出たんすよ。

 もしかしたらって心配になるじゃないですか」


「そんな危ない鱗だったら事情を話してDDSFに預かってもらった方が良かったじゃない」


 あっ、確かに・・・


 どどぉ~ん


「凄い顔してるわよ」


 花火が二人を照らす中、また一人の少女が少年の下に駆け寄ってくる。


「さあ勇者さまぁ、最後のお肉を茜がお届けぇ~~~今だぁ!」


 その少女のスカイダイブは烏天狗がしっかりインターセプト。

 皿の上のお肉だけが少年へと宙を舞う。


 っととぉ・・・あれ?


 ショックで反応の遅れた少年が尻尾肉を鱗で防御すると・・・


 えっ?


 一瞬で消える尻尾肉、その原因を思考する間もなく今度は・・・


「賢ちゃ~ん、この剣使ったら私もテイムスキル取れちゃったぁ~、キャッ、ドテッ!」


 ひゅるひゅるひゅる~~~~ん


 鞘から抜けたブルーレースアゲードは回転しながら少年の方へ。


 なっ、危なっ!


 バシッ、くるっ、グサッ


 ブルーレースアゲードの柄を掴むとクルリと回して地面に突き刺した。


「ったく、綺羅お姉ちゃん、俺じゃなかったら大怪我してたとこっすよ」


(まさか我の存在を見破るとは)


「アハハ、ごめんごめん」


 ん、あれ?


(グッフッフ、驚いておるな)


 どん、どどどどぉ~ん


 満天の星空を彩る花火が一際大きく辺りを照らすとテイム剣に縫い止められた影が地面で蠢いていた。


 ・・・ぽん!なるほど。


(我こそはメタリックゲコドンソードJr、この世界を滅ぼす者なり)


 どどぉ~ん


「いや、今日からお前、多田ゲコ次郎な」


(なっ、貴様ぁ、何だ、そのふざけた名はっ!)


 虫の音が夏の終わりを告げる高原の夜は涼やかに更けてゆくのだった。


 リィィ―――ン、リィィ―――ン

次回、第二百三話 嘘か真実か。

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