第二十話 予選前の腕試し
○予選前の腕試し○
4月27日土曜日午前8時。
モンチャレ第1予選を明日に控えた今日は第1予選を想定した予行練習を行うといった計画を立てている。
あれから数日が経過しその間夫々取得した攻撃魔法のレベリングに明け暮れた日々。
ここ白山ダンジョン3階層にはこれからレベル5のワイルドウルフに戦いを挑まんとする賢斗達の姿があった。
はてさて、肝心のワイルドウルフさんはっと・・・
もう既に賢斗のパーフェクトマッピングはレベル10のカンスト状態。
基礎となる表示範囲も周囲5kmまで拡張されこの階層のスタート地点からでも十分魔物の存在の把握が可能であった。
おっ、居ました居ました。
賢斗は近場と2km程先の2個体を確認。
この階層で単独行動してるって事は恐らくどっちもワイルドウルフさんだろう。
「取り敢えず近場に良さ気なワイルドウルフが居ますけど、作戦はどうします?」
「じゃあ最初は私がいくよぉ~。」
「そうねぇ。桜の魔法が一番威力があるし、それがどの程度通用するか先ずは確認しないとね。」
まっ、それが妥当だな。
「じゃあまず俺が突っ込んでスタンを使って麻痺させるから、そしたら桜が火魔法を撃つ。
こんな感じでどうだ?」
「え~、別に賢斗がそんな事する必要ないよぉ~。
私一人で十分だってぇ~。」
「えっ、だってワイルドウルフはかなり素早い魔物だぞ。
この間だって魔法を当てる為に工夫してただろぉ?」
「だいじょぶだいじょぶぅ~、まっかせっなさぁ~い。」
随分自信たっぷりだな、こいつ。
う~む、でもまあ外したとしても敵は単体、そこからでも十分スタンでカバー出来るか。
「了解、じゃあ今回は桜のその言葉を信じて俺と先輩は外したときのフォロー役って事で。」
「うんっ♪」
「分かったわ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ワイルドウルフ戦 その1○
通路を進み先程見つけた魔物との距離が50m程に詰まると対象は移動を開始。
どうやらその辺の距離がこのワイルドウルフの索敵圏内らしく賢斗達は足を止めそれを迎え撃つ作戦に出る。
「桜ぁ、そろそろ来るから準備しとけぇ~。」
「ほ~い。」
スタッ、スタッ、スタッ、スタッ・・・
次第に大きくなる足音を聞きつつ弧を描く通路の先を注視していると駆け寄って来る魔物の姿。
おっ、やっぱりレベル5。
30m程先に姿を現し尚も駆け寄ってくるワイルドウルフ。
「あっ、来たぁ~。
ファイアーランス・アンリミテッドぉっ!」
ボフゥーン
杖から放たれたのは細長い槍状の炎。
それはこれまで彼女が見せていたファイアーボール以上のスピードで飛んで行く。
おおっ、桜の自信はこの新魔法って事か?
確かにこのスピードならイケそうな気もするが、少し撃つのが早過ぎな気も・・・
賢斗が不安視する中、ファイアーランスの魔法は見事20mを超える飛距離をカバー。
しかしそれが対象に到達する間際、ワイルドウルフは身体を横にスライド移動。
射線上からの回避をされてしまった。
あらま・・・惜しかったなぁ、今の。
と賢斗が諦めたその時。
「ロックオンっ!」
クイッ
ワイルドウルフの横を通過するかに見えた炎槍はその軌道を変えた。
えっ、何それ?
グサァボファ・・・・・・ドサァ
脇腹に炎槍を穿たれ炎に包まれる魔物。
数秒後、その身体が消滅を始めると可愛いらしい猛獣が勝利の雄叫びを上げた。
「うぅぅぅぅ~わぁおっ!」
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル4になりました。』
おっ、EXPシェアリングさんありがとう。
「桜、凄いわね~。今魔法が曲がったわよ。」
あっ、そうそうビックリ。
「エヘヘ~、アレはねぇ魔力操作の軌道操作って技能だよぉ~。」
形状変化の次は軌道操作か・・・なぁ~んか俺も欲しくなってきたなぁ、魔力操作。
まっ、それはそれとしてこの分なら明日の第1予選、桜に1体お任せって事で良いかもしれない。
「桜、ちなみにそれって、何発くらい続けて撃てるんだ?」
「う~ん、さっきレベルアップもしたし~、もう2発ぐらい撃てるかもしんなぁ~い。」
「そっか、でも明日の本番を控えてその辺をあやふやにしておくのは不味い。
ちょっと解析させて貰うぞぉ。」
「ほ~い。」
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名前:小田桜 16歳(152cm 42kg B79 W54 H80)
種族:人間
レベル:4(2%)
HP 9/10
SM 6/8
MP 3/16
STR : 3
VIT : 4
INT : 16
MND : 4
AGI : 3
DEX : 6
LUK : 95
CHA : 14
【スキル】
『ラッキードロップLV9(7%)』
『念話LV3(61%)』
『限界突破LV5(43%)』
『視力強化LV6(87%)』
『火魔法LV5(8%)』
『感度ビンビンLV3(8%)』
『MP高速回復LV4(23%)』
『魔力操作LV2(12%)』
『ウィークポイントLV1(5%)』
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・・・やっぱりあったか、ウィークポイント。
まっ、先輩に限界突破を取得させたのが俺じゃない誰かってなれば、桜しかいないわな。
そして謎だった疑問点も今にして思えば、睡眠習熟でのタイムラグが実に怪しさ満点。
大方最初の睡眠ガスで眠ってしまったのは俺だけだったって事だろう。
とはいえこんなトリックの種を今更解明したところでご褒美タイムが帰ってくる訳でもなし。
とっとと話を進めますかね。
って事で只今の焦点は桜のファイアーランスが何回撃てるのかって事なんだが、取り敢えず最大MPは16っと。
でお次はファイアーランスの消費MPを・・・
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『火魔法LV5(8%)』
種類 :アクティブ
効果 :覚えた魔法の使用が可能。
【習得魔法】
『火魔法LV1』 イグニッション 消費MP1 指先に火を創りだす。
『火魔法LV2』 ファイアーボール 消費MP3 火球を打ち出す。
『火魔法LV3』 ファイアーウォール 消費MP5 火壁を創りだす。
『火魔法LV4』 ファイアープリズン 消費MP7 火檻を創りだす。
『火魔法LV5』 ファイアーランス 消費MP9 火槍を打ちだす。
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あらま、さっきの魔法はMP9も消費すんのか。
これじゃ桜にこの魔法を2回撃って貰うのは無理だな。
とはいえ残MPでファイアーボールならもう2発撃てるし、その威力を取ってみても現時点では俺や先輩よりも上だったり。
う~ん、まっ、何にせようちで一番INT値の高い桜の魔法を主軸に据えた作戦で行くのが正解だよな。
となると今度はその連射性能あたりも気になってしまうんだが。
「桜、さっきの軌道操作はファイアーボールにも使えるんだよなぁ?」
「使えるよぉ~。」
「じゃあ、それ使って3発連続で魔法を放つとしたら、時間的にどんだけ掛かりそうだ?
例えばファイアーランス、ファイアーボール、ファイアーボールって感じで放つとして。」
「う~ん、ファイヤーランスは発動に15秒くらい掛かるかなぁ~。
ファイアーボールは5秒くらいで行けるけどぉ~。
でもロックオンする時は当るまで集中してなくちゃだから全部で1分くらいかもぉ~。」
おっ、1分か。
その程度なら予選のボーダータイムを軽くクリアしてるし問題無しだな、うんうん。
「よしっ、じゃあ明日の作戦は桜の魔法を主軸に据えた感じでいくか。」
「いいんじゃない。」
「まっかせっなさぁ~い。」
話が纏まるとドロップしたワイルドウルフの毛皮と魔石を回収、次の標的の元へ向かうのだった。
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○ワイルドウルフ戦 その2○
先の確認で2km程先に居たワイルドウルフが2体目のターゲット。
そして次の実力検証の出番を迎えた二人はワイルドウルフが動き出す50mラインを前にしてしばし作戦会議。
「先輩から行っときますか?」
「それなんだけど賢斗君、私達は協力して一緒にやらない?
私の風魔法はまだレベル2だし、限界突破があるとはいえ、とても一撃で倒せるなんて思えないし。」
ふむ、先輩は一撃じゃ無理とか言っているが、実際問題二回攻撃を当てたとしても無理な気がする。
こと魔法に関しての能力では現状桜にかなり劣る俺達。
魔法だけでレベル5個体を倒せるか検証するにはその方が無難だな。
「そっすね、俺もその辺自信ないですし、二人で一緒に倒すって事で行きますか。」
と二人は協力して戦う事に。
50mラインに足を踏み入れるとワイルドウルフは移動を開始した。
「じゃあ桜はそこでちょっと後ろで見ててくれ。」
「おっけ~。」
桜を残し前に出る賢斗とかおる。
「来ますよっ、先輩。」
「大丈夫。私にも見えてるわよ。」
賢斗は右手を突き出し構える。
それじゃあサンダーボールの初お披露目と行きますか。
「サンダーボール・アンリミテッド。」
バチバチバチィ~
うわっ、速っ。
放たれた電気の塊は尾を引く様にワイルドウルフへ一直線。
あっという間に辿り着くと避ける隙など与える事無く直撃した。
ビリビリビリィ、ドシャ―
すると突進状態だったワイルドウルフは感電麻痺状態となり、床を滑るように倒れ込む。
そしてその隙を逃さず今度はかおるの魔法が放たれる。
「ウィンドボール・アンリミテッド。」
ビュゥゥゥゥ~ン
撃ち出されたのは、直径1m程の渦巻く気流の塊。
球状のその塊が感電状態のワイルドウルフの身体を包み込むと・・・
ビュゥーボファ~バリバリバリィ~
その中で激しい放電現象が始まる。
お~、何か凄ぇ。
激しさを増した電撃と無数の風の刃が未だ身動きの取れないワイルドウルフに襲い掛かり、魔物に継続したダメージを与え続ける。
そして・・・
あれっ、倒せちゃった・・・何で?
「やったぁ♪きっとあれ、真空放電って奴よ、賢斗君。」
あ~、気圧が下がると電気が流れ易くなる的な?
「まさか賢斗君と私の魔法で、こぉ~んな相乗効果が生まれるなんて。」
「そっすねぇ、先輩と俺の魔法は結構相性が良いみたいっすね。」
「そうそう、私と賢斗君はとっても相性が良いのだよ、きみぃ。」
・・・それはどうだろう。
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○ゴブリン集団へのリベンジ戦 その1○
メンバー全員の魔法についての戦力分析も終わると時間的には昼過ぎくらい。
まだ帰還するには早い賢斗達はその後3階層の探索範囲の拡張、つまり賢斗の脳内マップ拡張作業を進めていた。
ゴブリン共の存在を避けながらの2時間、その作業がようやく終わりを迎えると、階層構造は枝道が結構あるものの本筋が楕円を描くようにぐるっと1周。
4階層への階段ポイントは入り口から正反対にある枝道を楕円の中心に向かって進んだ丁度この階層マップの中心点といった場所にある事が判明した。
う~っし、これで3階層のマッピングは完了♪
そろそろ帰るとしますか。
と来た道を折り返そうとしたところで・・・
あらま・・・剣使いが2体、槍使いが2体、弓使いが1体の団体さんかぁ。
ゴブリン集団の構成は前回苦戦した時とほぼ同じ。
しかしあれから弓使い対策も済ませた賢斗には自分の成長を推し量るには持って来いの相手に思えた。
まっ、避けるにしてもかなり遠回りになっちまう事だし、ここは一戦交える事にしましょうか。
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名前:多田賢斗 16歳(168cm 56㎏ C88 W78 H86)
種族:人間
レベル:4(25%)
HP 13/14
SM 12/12
MP 7/15
STR : 11
VIT : 7
INT : 11
MND : 17
AGI : 13
DEX : 9
LUK : 5
CHA : 9
【スキル】
『ドキドキ星人LV10(-%)』
『ダッシュLV10(-%)』
『パーフェクトマッピングLV10(-%)』
『潜伏LV7(42%)』
『視覚強化LV10(-%)』
『解析LV10(-%)』
『聴覚強化LV10(-%)』
『念話LV3(78%)』
『ウィークポイントLV3(21%)』
『短剣LV1(65%)』
『忍び足LV1(42%)』
『空間魔法LV1(12%)』
『隠蔽LV4(56%)』
『限界突破LV2(8%)』
『感度ビンビンLV1(42%)』
『九死一生LV3(2%)』
『回復魔法LV2(4%)』
『MP高速回復LV2(31%)』
『雷魔法LV2(5%)』
~~~~~~~~~~~~~~
よし、MPもこれだけ残ってりゃ大丈夫。
「皆、5体のゴブリン集団がこの先20m地点で待ち構えてる。
倒さないと結構な遠回りになりそうだし、俺が先に行って厄介な弓使いと、う~んそうだな、その他2体くらいは仕留めてみるから、残ったゴブリンの処理は宜しく頼むよ。」
「ちょっと賢斗君、また一人で突っ込む気?」
「ええまあ、でも俺だって前回の反省はしてますし、同じ轍は絶対踏みませんから御安心を。
って事で、ゴブリン2体程度なら今の二人には全然問題ないだろうし、後は宜しくぅ~。」
そこまで言うと賢斗は転移を使いその姿を消した。
「あっ、もう行っちゃったぁ~。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ゴブリン集団へのリベンジ戦 その2○
元居た場所から20m程離れた先。
何の前触れも無く背後に現れた少年に集団の最後方に位置する弓使いゴブリンが気付く事は無かった。
こんにちは。
グサッ!
無防備な背後からの一撃。
グギャァァァー
左胸に短剣が突き刺さったゴブリンは断末魔を上げながら消滅していく。
まず1体っ。
突然の叫びに驚き後ろに振り向くゴブリン達。
賢斗の姿を確認すると武器を振り上げ彼に襲い掛かっていく。
おっ、良いねぇ、今回はみんなこっちに寄って来てくれるんだな。
シュタシュタシュタシュタ
賢斗も自分からその集団へと突っ込み、稲妻ダッシュですり抜けを図る。
スタンッ!
シュピン、ビリビリ
短剣を持つ手にスタンの魔法を発動させ斬撃を加えると攻撃を受けたゴブリンは硬直しその動きを止める。
お~、やっぱりこうやって使うのが正解だな、うんうん。
シュタシュタシュタ、シュピン、ビリビリ・・・
と残りの個体にも次々と斬撃を浴びせ程無く残り4体全てのゴブリンは麻痺状態。
賢斗はしばしその魔物の姿を眺めた。
ふぅ、さて、後はこの麻痺状態の持続時間の検証を・・・
麻痺が切れる前兆の様に、身体が震え出すゴブリン。
おっ、そろそろ限界かな?
チラリと時計に目をやれば効果持続は30秒といったところ。
うん、もういい、分かった。
シュピンシュピンシュピンシュピン
賢斗が攻撃を再開すると、まだ身動きの出来ないゴブリン達は呆気なく討伐されていった。
ふっ、思わず全滅させてしまった。
つか結構余裕あったなぁ~♪
そしてこれはつまりこの俺の成長の証。
もうレベル3のゴブリンくらい幾ら居たって余裕余裕ぅ~♪
「賢斗ぉ~すっごいねぇ~。
1人でぜ~んぶ倒しちゃったよぉ~。」
「おう、まかせろっ。」
「でもなんで魔石しかドロップしてないのかなぁ~?」
・・・ほっとけ。
次回、第二十一話 モンチャレ大会第1予選。




