第百九十八話 メタリックゲコドンソード討伐作戦Ⅰ
○メタリックゲコドンソード討伐作戦 その1○
格納庫で翼を休めるエキサイトスワン。
キラ―ン、キラ―ン、キラ―ン、キラ―ン、キラ―ン
案内されるまま賢斗達は目を輝かせつつ船内を移動。
うっひょ~、ワクワクが止まりませんなぁ。
ほどなく船橋の司令室に通された。
そぉ~~~~、ガシッ!
「この手は何ですか?賢斗さん。
円は今とても忙しいのですよ」
ひと様の乗り物系アイテムでおイタは止めようね。
プルプルプルプル・・・
「よく来てくれたナイスキャッチの諸君、私はDDSF隊長を務める大黒鉄也、この度は作戦への協力に感謝する。
フッ、多田少年には以前にも世話になったな」
いや~DDSFの隊長さんに名前を覚えてもらってるなんて偉くなったもんだ。
「では早速だが今回依頼する内容について少し説明させてもらおう。
20数年前のバウンダリィブレイクでダンジョン外へ出た孤島の魔物は度重なる進化の果てに今やレベル70、Sランクダンジョンの最終ターゲットにも匹敵する危険な存在へと変貌を遂げている。
こんな怪物に対抗できるのは最早乗り物系兵器の超火力くらいなもの、事態を重く見た国もこれまでひた隠しにして来たこの武蔵の使用許可を出すに至った。
だがそれは何もこの艦の存在を明るみに出して良いというわけではない、つまり今回の作戦は武蔵の存在をうまく隠しつつ進める必要があるわけだ。
そこで多田少年とその相棒のスライムにはメタリックゲコドンソードと対峙し武蔵の五輪砲をあたかも自分達が放った様に立ち回ってもらいたい。
ともあれ五輪砲とはどんなものかまずは知ってもらう必要があるだろう、おい、演習時の映像を出してくれ」
「はっ」
グオォ――――ン
船首の上部が口を開けるように展開、地水火風空の文字が浮かぶ五つの水晶玉が現れる。
それぞれ黄青黒緑赤の発光を開始、放たれた5色の光線は集束点でWの形を描き海を割りながら飛んでいく。
ドゴォォォォォ――――ン
遥か彼方の島は跡形もなく消失、遅れて轟音が鳴り響いた。
「五輪砲とは対象の知覚外、超長距離射撃を可能としたビーム砲、その威力については見てのとおりだ」
ふむ、このとんでもない火力が回避不能な光の速さで飛んでいくとか確かに世界最強クラスだわ。
「といっても今作戦に於いて五輪砲に回せるエネルギーは今見た映像時の凡そ半分、加えて海底から撃つため威力は更に落ちる。
だがそれでも先程君のスライムがギガントドーナツで見せたビーム砲とは比較にならん威力であることに変わりはない。
そこで多田少年には普通にビームを放つ振りではなく見た者に威力が上がって然るべきと思わせる何かド派手なアドリブ演出もお願いしたいと考えている」
えっ、威力が上がって然るべきと思わせるド派手なアドリブ演出?
まあスラ坊だったら巨大化も・・・
つっても大きくなったくらいであんな火力出るかなぁ?
「俺からも一つアドバイスをしておこうか。
今回に限っちゃ風呂敷はデカければデカいほどいい。
例えるならいざという時にしか放てないお前と相棒の究極で絶対無比な合体技とかな。
まっ、そんくらい盛大なハッタリをかましておかないと後でもう一回見せてくれとかいう馬鹿が次から次に湧いてくるぞ」
確かに実際には撃てないとしても日寄って中途半端な感じになるのはむしろ逆効果か。
自慢じゃないがこの賢斗さん、そういったプレッシャーには人よりほんのちょっぴり弱いとこあるし。
「尚、沿岸の防衛態勢はうちの部隊の他にも各地の探索者事務所に緊急協力要請を既に打診している。
他のことは一切気にせず多田少年には心置きなく自分のミッションに専念してもらいたい」
はいはい、にしても究極で絶対無比な合体技とかどないせちゅうねん。
「続いてここに居る各自の役割を伝達する。
まず中山氏には多田少年と同行してもらい彼のサポートをお願いする。
推薦した以上拒否権はないからな」
「ああ、わかってるよ」
「木下はこのまま武蔵に残り今作戦の最重要任務、五輪砲の射手をやってもらう。
ぶっつけ本番の一発勝負だが必ずあの怪物にブチ当ててくれ」
「お任せください、身も心も蕩けるような熱い一撃を必ずお見舞いしてみせますわ」
「あとナイスキャッチの他のメンバーについてだが今回は多田賢斗君個人への指名依頼という形を取っているためこちらから何か指示を出すことはできない。
だがもし善意で協力してくれるというのなら相模湾沿岸の防衛に加わってもらえるとこちらとしては非常に助かるとだけ言っておこう」
まっ、こんなのに乗せてもらったんだからお前等も少しは仕事しろよ。
「では残りの者は今の持ち場を継続、何かあればその都度俺が指示を出す」
「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」
「これよりメタリックゲコドンソード討伐作戦を開始する」
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○メタリックゲコドンソード討伐作戦 その2○
作戦開始の号令がかかると賢斗は中山と甲板ドックへ向かう。
「ほらよ賢坊、この通信用インカムが五輪砲の発射タイミングを教えてくれる。
ってなんだぁ、難しい顔しやがって」
「いや~技が放たれるまでのメカニズムとか威力が増してくイケイケ感とか。
急に究極で絶対無比な合体技とか言われてもなかなかイメージ湧きませんよぉ」
「フッ、その辺のこだわりはお前らしいな。
だがまあ俺がああ言っといて何だがこの作戦多田賢斗という探索者がやる気になった時点でもうある程度は成功したようなもんだ。
まっ、それもここまでお前が一貫してきたイメージ戦略のお蔭だな」
へっ、イメージ戦略?
「中にはお前を稀代の天才策士などと鋭い見解を示す奴も居るが一般的な多田賢斗という探索者に対するイメージは鬼畜で頭のおかしい常識デストロイヤー」
はて、空耳かな?
「お前のその先を見越した知略によりこの国の人間はどんな不自然な現象が起ころうとお前がやればあ~またかってな感じに落ち着くはずだ」
中山先生、ショックが大き過ぎて消化が追い着きません。
「そういやこの間も探マガの記者に賢坊のことを聞かれてな。
これもお前の為だと思いしっかり何しでかすかわからんイカれたビックリ箱だと答えておいてやったぞ。アッハッハ」
うわぁ~い、やったぁ!じゃない。
「まあ話が少し逸れちまったが今お前が優先して頭を使うべきポイントはどうやってあの怪物に一撃当てるかだ」
いやもう攻撃できるほどの力は残ってません。
「この作戦が完遂された時、伝説級の怪物が齎す莫大な経験値がいったい誰のものになるのか。
うまくすれば俺とお前の山分けだぞ」
ん、あれ、莫大な経験値?
おおっ、確かに超長距離から攻撃する武蔵は今回経験値獲得可能範囲から余裕で外れとる。
「お前にはパーティーがSランクになったくれぇで満足してもらっちゃ困る。
早いとこ個人でもSランクに相応しい実力って奴を身に着けてもらわねぇとな」
えっ、そのために態々こんな依頼を?ウルルン
「はいっ、不肖この多田賢斗一生中山さんについていきます」
っとにもぉ、優しさボンバーなんだから。
「フッ、調子のいい奴め」
とはいえこれがかの有名な情緒不安定という奴か。
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○メタリックゲコドンソード討伐作戦 その3○
にしても俺一人だけ飛躍的にレベルアップかぁ・・・モワ~ン
まさかそんな日が来ることになろうとは♡
「銀二おじちゃん、私もビーム撃ちたぁ~い」
ってなぜ先生達がそこにぃ!!!
「私もどちらかといえばビームは即座に撃ちたい派です」
うん、でしょうね。
「えっ、このおじ様に頼めばビームが撃てちゃうんですかぁ?」
撃てちゃわない。
「あっ、じゃあ私もそれで」
おい、手抜きはやめろ。
「と言われてもだな、賢坊はどう思う。
正直俺は嬢ちゃん達の実力までよくわからんからな」
普段であればこいつ等に聞かれた時点でジ・エンド、この俺だけ飛躍的レベルアップとか夢のまた夢である。
だが今回は探索者界の重鎮が間に入ってくれている。
「こいつ等も一応転移は使えますけどあのクラスの怪物は転移先を狙い撃ちしてくることも十分考えられます。
最悪九死一生で復活できる俺とは違いこいつ等にとっては危険すぎるミッションじゃないですかね」
今ならこの賢斗さんの至極真っ当な意見にこいつ等だってそう容易く反論できまい。
「そうか、まっ、こいつの言葉もきっと嬢ちゃん達の身を案じてのこと。
今日のところはコイツのサポートを俺にまかせておいてくれ」
シ―――――ン
ふむ、やり申した、普段だったら絶対こうはなっとらん。
「まっ、今回は別に俺が一人でボスを倒しに行くわけじゃない。
お前等はあの隊長さんが言ってたように沿岸防衛の方にでもまわっとくのがベストだと思うぞ」
ジトォォォォォォォォ・・・・・・・・・
頑張れ俺、今少しでも表情を崩せば全てが水泡に帰す。
「じゃ、そゆことで。クルッ!」
スタスタスタスタ・・・もう少し・・・もう少し・・・もう我慢の限界です♡エヘッ♪
「確保ぉ!」
ガシッガシッガシッガシッ!
コラコラ、これはいったい何のマネだい?君達。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○メタリックゲコドンソード討伐作戦 その4○
そんなことをやっている間にしばし静けさを保っていた怪物が動きだす。
一瞬巨躯が膨張したかに見えたその直後・・・
パァ―――ン
まるで胞子を撒き散らすように無数の鱗を周囲に飛ばした。
いったい何をするつもりだ?
「なっ、大変です、突如レーダーに多数の魔物反応」
まるで亀の甲羅の様に硬質の鱗の一つ一つが頭部、手、足、尻尾を生やし始めた。
チッ、そういう手合いだったか。
「エキサイトエッグにより反応の正体が判明。
対象名はメタリックウロコドン、レベルこそ20前後ですが今の鱗拡散により一瞬で50体の魔物が出現したことになります」
「おい、この情報を今すぐ沿岸の今泉班にも連絡・・・なっ!」
パァ―――ン
「只今の第二次拡散によりメタリックウロコドンの数は80にまで増加。
なっ、こっ、この二次個体のレベルは30前後のようです」
更に強化されただと・・・おい待て、冗談はやめろ。
パァ―――ン
三度繰り返された分体増殖によりその数は100体にまで膨れ上がる。
パラパラパラパラ・・・
ほう、なかなかに統制のとれた動きです。
まずは陸から突き出たサンフラワー島を落とすつもりでしょうか。
「室長、もうこれは世界的脅威として強制介入すべきでは?
仮にこの国が兵器に属する乗り物系アイテムを所持していたとしてもあの脅威に対抗できるかわかりません」
「確かに尤もな意見です、ミッシェルさん。
ですが先進国たるこの国がこの期に及んで我々に応援要請すらしていないというのはどうも引っ掛かります。
ここから先は私の我儘ですがもう少しお付き合いください」
生半可な乗り物系兵器では最早太刀打ちできない。
となれば出てくるのは恐らく・・・
そしてメタリックウロコドンの先発部隊がとうとうサンフラワー島に到達。
間近に迫った魔物の群れを見据え少女は太刀を天に掲げる。
やはりあの男には敵いませんね。
あの試合、私に棄権するようしむけたのは今この時に備えよという意味でしたか。
『おやぁ、あの稲光混じりの黒い雲はもしかしてぇ!』
見ていて下さい、お爺様・・・
「雷牙っ!」
ピカッ、ゴロゴロゴロゴロォ!
『ああっと、これは凄い雷撃だぁ!』
また一方緊急協力要請の打診を受けた探索者事務所から指示を受け名立たる探索者達もここサンフラワー島に集結しつつあった。
おうおう、落雷エリアでもねぇのにどうやら本物の雷鳴剣使いまで居るみてぇだな。
「もぉ、あんなのが居るお蔭で私達の到着が全然注目されてないわね。
奏、私達は沖へいくわよ、本命の本体は沖の方だって言ってたし」
「はいはい、どうせ買ったばかりのウィングブーツを使ってみたいだけでしょ。
あっ、高貴君達はそこで大人しく沿岸防衛をよろしくぅ!じゃあねぇ~♪」
あんなもん学生探索者に買えるわけもなく、かといってここでレベル20の雑魚を相手にしていても・・・ん、あれは。
「お~い樋口ぃ!その漁船どう・・・いやそれに俺達も乗せてくれ。
どうせお前もアイツのところへ向かうんだろ。
ここは共闘といこうぜぃ」
「まあこの船も守ってくれるのならいいですよ、貸し一つということで」
そして熱海から出た一艘の小舟は波に揺られてどんぶらこ。
シャキン、スパスパスパスパスパンッ!
ふむ、これぞ愛の切れ味。
スチャ
今参るぞ、賢子殿。
次回、第百九十九話 メタリックゲコドンソード討伐作戦Ⅱ。




