第百九十七話 世界をペテンにかけてくれ
○世界をペテンにかけてくれ その1○
とその少し前・・・
キィィィィィ――――――ン、ドボォォォ――――ン
音速を超えるスピードで海上を移動していた鬼ハンヤンキーバイクが真っ裸の男を背に海中へとダイブした。
「室長、今遠くで何かが・・・」
「おっ、恐らく小さな隕石か何かでしょう」
こんな幻覚が見えるとは私もかなり疲れが溜まっているようですね。
そして海中の巨大戦艦もこの黒い機影を捕捉。
「隊長大変です、もの凄いスピードで移動する謎のいや、この識別信号は・・・」
フッ、待ってたぜ。
「まっ、あまり歓迎したくはないが適当に甲板のハッチを開けといてやれ」
すると程なく・・・ウィーン
「よぉ鉄ぅ、よくもこの俺様に残飯処理を押し付けてくれたなぁ。
ついでに武蔵の初陣に同行させる話まで反故にしやがって」
DDSFの隊員服を着こみながら一人の男が艦橋に入って来た。
「おおっ、これは中山さん、流石の私も今回ばかりは貴方が死んでしまったものかと。
いや~再会できて良かった良かったぁ♪」
「ちっ、白々しい演技しやがって・・・」
「そう目くじら立てんなよ、一刻を争う事態だ、この判断も仕方がないと少しは理解できるだろぉ?
それよか銀二、お前さんまだやれそうか?」
「ああん、そいつぁひょっとして道連れニトロダイナマイトをまだ使えるかって意味か?
だとすれば答えはNOだ、つーかあの技の威力を以てしても流石にあの怪物を一撃で仕留めることなんかできねぇぞ」
「だろうな、だから今回はお前が大爆発を起こすと同時に海中から超火力をぶっ放す。
つまるところお前の人間爆弾はカモフラージュであくまで本命はこの武蔵の五輪砲ってわけだ。
つっても肝心のお前がその調子じゃこの苦肉の策も机上の空論。
あとは武蔵の存在を明るみに出すか、あの怪物を外洋に逃がし全世界を巻き込むか。
まあどっちにしろこの国は国際的な窮地からもう逃れられんだろうな」
「フンッ、知ったことか・・・
と言いてぇとこだが世界をペテンにかけるとかお前らしからぬ面白そうな内容だ。
何なら俺の代役が務まりそうな奴を今すぐ紹介してやろうか?」
「フッ、褒めるつもりもねぇがオメェの代わりがそう簡単に見つかるわけ・・・」
ほれっ
あん?
『誰かこの窮地を救ってくれぇぇぇぇ!』
ピカァァァ~~~ン、ビィィィィィーーーっ!
はぁ?スライムがビーム砲だとぉ!
「ブッヒャッヒャッヒャ、流石は賢坊のスライムだ。
いや~あれなら俺の大爆発より自然に誤魔化せるんじゃねぇか?
クックック、あ~腹痛ぇ」
「冗談もそのくらいにしておけ。
そりゃ魔物単体の威力としちゃ上等だが流石に乗り物系兵器の超火力とは比較にもならん。
武蔵の五輪砲をあのスライムが撃ったと思わせるなんざ到底無理な話だ」
「なぁ~にそこはハッタリが効くかどうかの問題だろ。
あのスライムは海エリアブースト型、海中に入れば更にもう一段階ギアの上がる可能性がある。
そしてこの超希少種を育て上げたのが常識のまるで通用しないビックリ箱の賢坊だ。
このコンビが協力しこれまで誰も見たこともないテイムモンスターとの合体技を放つ。
とまあこんな筋書きなら多少分不相応な超火力をぶっ放したところでそれを納得させるだけの説得力があると思わないか?」
ったく、こいつの馬鹿な空想癖も偶にちょっと嬉しいタイムリーを打ちやがるから始末に負えねぇ。
確かに未知の可能性ってのは誰にも否定できんし、言い逃れの口実としては十分だからな。
「で、あの坊主はすんなりOKしてくれるのか?」
「まっ、実力的には空も飛べれば転移もできる、只逃げ回るだけの話なら断る理由はねぇだろう。
報酬面に関してはこの武蔵に乗れるだけでもアイツ自身は飛び上がって喜びそうだがあそこのギルマスは相当聡いからな。
Sランクに対する定額報酬の他に怪物がドロップした魔石以外のアイテムがあれば好きなものを一点進呈くらいの条件をつけたらどうだ?
この作戦でアイツは大活躍したことになるんだしそのくらいの追加報酬がないと却って不自然だろ」
「まっ、そのくらいは問題ないか。
なら時間の惜しいこの状況だ、悪いがお前は今から話をつけに行ってきてくれ」
「ああわかった、10分後にはここに最高のエンターテナーを連れて来てやるよ」
中山が去ると大黒は大臣への緊急回線を繋ぐ。
「蒲生大臣ですか、先程説明した内容ですが少し変更がありまして・・・
ええ、中山銀二に代わり多田賢斗という少年が・・・
いえご心配には及びません、必ずや多田少年がこの国の未来を救ってくれるはずです・・・ガチャリ」
これで話は通した。
『ナイスキャッチの多田賢斗だぁ!』
まっ、俺もあの坊主のことならもう知っている。
『『『『『あっ、存在感っ!』』』』』
フッ、その調子で世界をペテンにかけてくれ。
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○世界をペテンにかけてくれ その2○
シ――――――ン
おやおや?賢斗さんマジパねぇっす的な声援はどうした、皆の衆。
先生の浮き輪サンバカーニバルとか水島メソッドに落ちた先輩のけしからん姿はまた何時拝めるかわからん超激レアショットですぞ?
はっ!まさか渾身の存在感ポーズに何か問題が?
『鵺は討伐されましたが我が国が誇るAランクパーティーの姿には言葉もありません。
早くも救護班が駆け付けてくれましたがあの完全石化状態を何とかできるのでしょうか』
あっ、そゆことぉ、まっ、レッドライオンさん達はあのまま放置しちゃったからなぁ。
ともあれこの賢斗さんとていきなりあんなエグい状態異常に直面しちゃったら対処に困りまする。
専門家が待機している状況を考えればあそこはお任せするのが一番だったでしょ、うんうん。
しかしてその専門家達が応急処置を始めているのだが・・・
「ヒールが打ち消された?」
「なっ、ポーションも効きません」
「むぅぅ、となるとこの状態異常には呪詛が掛かっているな」
一口に呪いといってもその内容は多種多様。
しかし状態異常と同時に掛けられている場合は得てして治癒回復系のアイテム、魔法の効果を阻害するものが殆どである。
「おい、聖水だ聖水っ!
早くしないと手遅れになるぞ」
ちなみに救護班が携帯する聖水は市販だとなかなか手に入らない高級品。
それを惜しみなく使用していったのだが・・・
「くそっ、呪詛レベルが高過ぎる」
ね?呪詛系状態異常レベル10とか洒落にならんヤバさでしょ。
毒に侵されていなければまだ対処のしようもあったはず。
手持ちの30本全てを使い切ったところで救護班の人間達は・・・
「ちょっと何やってるの!早くなんとかしなさいよ」
市村紫苑の言葉に悔しげな表情を浮かべた救護班のリーダーは静かに頭を深く下げるのだった。
「力及ばず・・・申し訳ありません」
おいおい、専門家ともあろう方々が情けない。
それだと折角助けたレッドライオンさん達が死んじゃうでしょっとにもぉ~。
「ねぇ茜ちゃん、かなりヤバい呪いが掛かってるみたいだけど巫女さんパワーで何とかできる?」
「あっ、それでしたらこれをどうぞ、勇者さまぁ。
どどぉ~ん緑山神社謹製解呪のお札、大人気のこれを使えばどんな呪いもイチコロ、あっ、ちなみに私は勇者さまにイチコロですよぉ♪」
いやその売店クオリティのお札を持って出ていったら俺が恥かいてイチコロでしょ。
『ああっと、あの人はもしかしてっ!』
えっ、誰か来たの?
っとに、だから腕のいい人間も一人はよこせっちゅうとったのに。
「そんな顔で突っ立ってると邪魔になるだけやで」
「なっ、協会長が何故こんなところに・・・」
「ええから少し下がっとき、この子等まとめて私が面倒みたるさかいに」
「でっ、ですがこの状態異常にはかなり凶悪な呪いが・・・」
はいはいと制した彼女は彼等の前に出ると・・・
「シャンッ!サンクチュアリ」
ブフォォォォォ~
錫杖を地面に打ち付けると直径10mにも広がった魔法陣から白い光が立ち昇る。
『この美貌、そして世界的にも数少ない聖魔法の使い手となれば・・・』
そして散らばった石片へ手を伸ばすと・・・
「ババッ!リストレーション」
えっ、あんな状態のアブノーマルバタフライまで治す気か?
『かつては伝説のパーティー、ゴールデンエスカルゴの回復役』
カタカタカタカタッ
散らばっていた石片が宙に浮き、集結、蝶の造形が復元されてゆく。
「ほないくでぇ、シャンッ!エクスキュア、エリアハイヒール」
溢れ出した2色の光が彼女を中心に渦を巻く。
赤羽達の体から無数の小さな塵のようなものが浮かんでは消え・・・
底知れない治癒と回復の力がその空間に存在した全ての状態異常を打消し瀕死だった者達を急速に回復させていった。
『今では回復魔法士協会そして新設されたテイム協会の会長をも兼任される多才ぶり。
近々あの中山銀二氏との結婚も噂されるこの人こそ、浪速の聖女斎藤雅さんであります!』
ウォォォォ――――浪速の聖女様ぁ!!!!!!
「いやもうそんな歳やあらへんて」
『いや~もうかなりの観客が避難しておりますがお聞きくださいこの大歓声』
ほうほう、あんな綺麗な凄腕回復士が中山さんの婚約者だったとは。
「危ないところをありがとうございました、雅の姉さん。
溜まっていた疲れまで全部吹っ飛びましたよ」
「フフッ、そうそうちゃんとお礼を言うのは大切やで。
とはいえ事態の収拾に尽力してくれはったんやし主催者としてこのくらいは当然や。
まっ、これ見て他から厄介事持ち込まれるんは勘忍やけどな」
浪速の聖女様ぁ!!!浪速の聖女様ぁ!!!
にしてもなんだかなぁ、結局・・・
ひゅ~ん、シュタッ!
「フッ、どうやらいいとこぜぇ~んぶ雅に持ってかれたみたいだな」
あれ、中山さん!?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○世界をペテンにかけてくれ その3○
「エキサイトダックから入電。
ギガントドーナツの沖合10kmの海上でゲコドン再浮上、映像切り替えます」
鎧武者を思わせる鋼の甲殻、背部から突き伸びた6本の剣が翼の様に広がると巨躯はゆっくりと浮上を開始する。
何だぁ?この悪夢は・・・
完全に空中へ浮かび上がったその尾先には凶悪な大剣がぶら下がっていた。
「エキサイトエッグの解析が終了。
対象は名称がメタリックゲコドンソードに変化し更なる進化を遂げた模様。
レベルは70にまで上昇し最早伝説級の領域に達しているとのことです」
ちぃぃ、こうも裏目に出ちまうとはな。
こんな悪魔を解き放っちまったら全世界が大パニックだぞ。
一方少年の下へ向かった銀二さんの様子は・・・
「いや~僕は絶対中山さんは生きていると信じてましたよ。
でもあんな美人と結婚したくないとか何時か誰かに殺されると思います」
「お前なぁ、別嬪の嬢ちゃん達にこんな恰好させといてよくそんな台詞を・・・
とぉ、今はこんなくだらんことで言い争ってる場合じゃなかった。
賢坊、今日はお前にDDSFから正式な指名依頼だ」
へっ、正式な指名依頼?
プチュン
コロシアムのメインスクリーンにも海上に浮かぶメタリックゲコドンソードの姿が・・・
キャアアアア―――
更なる脅威が目前に迫ったことを知り残っていた観客達も一斉に避難を開始した。
『急な移動は大変危険です、皆様どうか落ち着いた行動を』
うへ~あんなのがもうこの近くまで来てんのか。
「フッ、お誂え向きに人払いもできたな、で話の続きだがあれの討伐作戦にお前も参加してくれ。
賢坊んとこの社長にはさっき話を通したし後はお前の返答次第だ」
あらま、うちのボスも了承済みとは流石です。
つってもなぁ・・・
「中山さんに頼られるのは光栄ですけどきっとお役に立てませんよ?
あんな怪物に雷鳴剣を使ったところで大したダメージにならないと思いますし、スラ坊のブリリアント魔力砲だってしばらくは撃てませんから」
「あのビーム砲もう撃てないのか。
まっ、別にそれは構わない」
へっ、どゆこと?
「詳しい内容は後で話すとして今回お前に求められるのは格上の強敵と対峙しても生き抜くだけの立ち回りと周囲を魅了する演技力。
ギリギリの戦場で大芝居をうてる命知らずなエンターテナーが今回の作戦ではどうしても必要なんだ」
いえいえ、僕はこれでも命を大事にがモットーですけど?
「なぁ~に心配するな、お前だったらやれる、ここは俺を信じて一緒に来てくれ。
そうだ、もしOKしてくれたら男の浪漫を地で行くような乗り物系アイテムがお前を待ってるぞ」
えっ、男の浪漫を地で行くような乗り物系アイテム?
あっ、でもそれって多分クレイジーバットのことでしょ。
「フッ、何か勘違いしてるみたいだから教えてやるがあれは恐らく世界最強クラス。
その存在自体が秘匿されるこの国の秘密兵器だ」
ひっ、秘密兵器ぃ♪
「行きますっ!」
「まっ、そう来なくっちゃな♪」
「だったら私も行くぅ~」
「よく言いました、桜。
当然私もついていきます」
「まあボス戦は皆一緒って決まりだしね」
「これは女を上げるチャンスですぅ」
「すまんすまん、今回は賢坊だけで・・・」
クルリッ、ムムムムッ!
「あっ、いや、アハハ・・・嬢ちゃん達もよろしくな」
「「「「はい♪」」」」
まっ、これも必要経費か。
早速コロシアムを出て一路海底で待つ大黒の下へ向かう一向。
「ちょっと中山さん、まさかこの女王様プレイが男の浪漫とか言うつもりじゃないでしょうね」
「いや嬢ちゃん達までついて来るとか予想外・・・
お前だけなら俺のスカイデーモンでひとっ飛びだったんだがな」
しかもあいつ等ときたら女王様の側近ポジションで見てるだけだぞ。
「ちょっとそこぉ!
無駄口叩かずキリキリ漕ぎなさぁ~い♪」
「「いっ、イエス、ぐっ、グリコーゲン?」」
次回、第百九十八話 メタリックゲコドンソード討伐作戦Ⅰ。




