第百九十話 アメダス
○ハーレムキング対決 その4○
はてさて予想に反し見事ナンパを成功させてしまった主人公だが・・・
「コングラチュレーション、ミスター多田。
今回は私の負けのようですね」
「いやいやっ!
初めっからこの娘、俺に用事があったみたいなんすよぉ。
こんなの反則もいいとこですって!」
「チッチッチッ、ノープロブレム。
そんな偶然もまたナンパの醍醐味というものです。ハッハッハ」
「いやいやいやっ!
この多田賢斗、こんな勝ち方では到底納得できません。キリッ」
「そのこだわりには私も最大限敬意を表しましょう。
ですがミスター多田は既にこの後の約束をそこの少女としているのでは?
レディを蔑にするなど紳士にあってはならないことです」
ぐぬぬ、紳士なんかくそ喰らえなんだが・・・
「この続きがお望みとあらばそれはまた次の機会にすべきでしょう」
かといってケビィンさんはこの娘の放置を許しちゃくれないだろう。
「そしてミス蛯名っち、貴女にはこのエキサイティングなひと時に心からの感謝を」
くそっ、ダメか、やっぱ完全に詰んでる。
「いつかまたこんな機会に恵まれることを楽しみにしていますよ。
ではごきげんよう、お二人とも。ハッハッハ」
あ~せめてコイツだけでも・・・
いったいどちらが勝者なのやら。
最後まで必死に食い下がろうとする少年を華麗に躱し、金髪ダンディは爽やかな笑顔を浮かべクールにその場を後にするのだった。
ケビィ~~~~ン、カムバァ~~~~クッ!
「おとといきやがれコンチクショー!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○静かな海と黒い影○
月明かり照らす静かな海。
南硫黄島沖200mの海上には水兵姿のアヒルイラストが波間に揺れている。
ふ~ん、昆虫系は短距離飛行も可能、にしてもどいつもこいつも夜の方がお盛んねぇ。
やはり作戦開始は日中がベストだと隊長に言っとくべきかしら。
偵察飛行艇エキサイトダックの機上からライフルのスコープ越しに島を眺めていた女性は甘い香りを残し機内に戻る。
「木下班長、たった今上陸チームのプチダック3号がダンジョン入口を発見したようです」
情報収集能力に長けたその機内には3面のメインモニターに加え小型偵察機の数に応じた10個のサブモニター。
高さ2mの横穴、これならあの巨大化した怪物達が再びダンジョンにってこともなさそうね。
「ならこれまでの奴等の行動パターンから最適な上陸ポイントとルートを割り出してみて。
今回は降下作戦のような目立つ手段を使えないだろうし」
「はっ、あと今し方大黒隊長から連絡がありまして・・・」
えっ、隊長から♪
「何でもコア撤去後もあの化け物達は消滅せず残ってしまうと」
「・・・あらそう、でもそれ本当なの?」
「ええ信憑性はかなり高いかと、あの中山銀二にも応援要請をされたそうですから」
確かにそこまでするってことはほぼ間違いなさそうね。
とはいえレベル50越えの超進化個体が8体。
幾ら隊長の大胸筋が逞しいと言っても・・・モワ~ン、あらやだ。
ザッバ―――――ン
なっ、なにあれ!
突如盛り上がる海面、その余波が停泊するエキサイトダックにも襲い掛かる。
「総員今すぐ配置に着きなさい!
気合入れて漕がないと高波に飲み込まれるわよぉ!」
鍛え抜かれた隊員達が高回転でペダルを回し始めるとものの数秒で動力ゲージは80%を突破。
ガチィン、アヒルの目が火の玉にスライドし両翼が慌ただしく羽ばたきを開始した。
しかしこの機体、離水には少し時間が掛かるようで・・・
うふっ、飛ぶと思ったでしょ。ガチャン
レバーを前に倒すと翼は停止、水掻き付きの足部が回転を開始する。
「エキサイトダッグ、緊急潜航っ!」
今度は打って変って一瞬でその姿を海中に消した。
ドォプン、チャプンチャプン
そして再び白い機体が海上に顔を出すとまるで何事も無かったかのように辺りは静けさを取り戻していた。
ダンジョン入口が発見されたのは陸上、だったら今のは何かしら?
「班長、海中チームのプチダック8号の反応が突然消えました」
・・・少し嫌な予感がしてきたわね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○アメダス その1○
千載一遇の大チャンスが・・・ハッ、ハハ
ショックを色濃く残す少年、だがそんな彼に少女の容赦ない言葉が追い打ちを掛けた。
「いい加減そちらの話は済みましたか?キッ!」
グスン・・・俺には落ち込んでる暇さえないのか。
かくして近くにあったベンチに座るご両人。
ほれ、お前からこうなった経緯をしっかり説明してだな、丁重にって・・・キョロキョロ
蛯名っちさんはビルの影にて三脚を立て撮影準備が整ったとばかりにOKサイン。ニカッ
あの野郎ぉ、今すぐ多田ハーレムから除籍して・・・
いやいや、そも俺が多田ハーレムなるものの存在を認めてどうする。
「ではまずこの記事を見てもらいましょうか。パラパラパラ」
えっ、あっ、はいはい、ってあれ、この雑誌は確か・・・
『~どど~ん、雷鳴剣の正当後継者現る、その名は次代のミラクルルーキー多田賢斗~
かつて雷鳴剣の使い手として名を馳せたSランク探索者、海上司。
彼の愛剣は使い込むほどに成長しついにはレジェンドウェポンの高みにまで到達。
数々の雷系付加効果に加え雷雲を呼ぶ力まであったとされるその豪剣に憧れ、富士ダンジョンの雷雲エリアでは未だに雷鳴剣アタックと名付けられた危険行為を犯す探索者達が後を絶たない。
こうした中、先日のマジックストーンコンペティションにおいて私はある若者の姿に目を奪われた。
その人物の名は多田賢斗、彼が愛剣を掲げると空に雷雲が現れた、勿論これは雷雲エリア外でのこと。
そして放たれた一撃はタイミング、威力共に申し分なく、その姿はまさにかつて海上司が使っていた雷牙を彷彿とさせるものであった。
とはいえ彼の所属するナイスキャッチがこの大会期間中に富士ダンジョン攻略を成し遂げ天叢雲剣を入手していたと聞けばこれにも納得。
天候を自在に操るといわれるこの三種の神器のひとつであれば、幾らでもかの雷鳴剣の代役は務まっただろう。
だがしかし、私はここで一つの違和感を覚えずにはいられなかった。
時系列的に考えて彼が雷牙を放った映像はまだ富士ダンジョン攻略中のもの、つまり当時の彼に天叢雲剣を使うことは不可能だったはずなのだ。
不思議に思い後日筆者が本人に直接訊ねてみたところ・・・
「ええそっすよ、あの時使ってたのは何時もの愛剣です。
天叢雲剣には劣ると思いますが普段使ってる剣でも雷雲くらい呼べますんで。
といっても元はそこ等で売ってる安い短剣だったんですけど。アハハ」
と驚きの回答が返ってきたのである』
そういやこんなこと聞かれたっけ。
にしてもこんな俺をピックアップしてる雑誌を見せてくるとか、やっぱりこの娘俺のファン?
「安価な短剣が長剣に?ましてや雷雲を呼ぶ力を手に入れる?
そんな馬鹿な話があってたまりますか。
剣の成長というものは素材力が命、あまり知られてはいませんが雷鳴剣も一角天馬の角を素材に造られているのですよ」
なわけないか、つか妙に詳しいな。
となるとこの随分と剣の進化に造詣の深い地味子ちゃんは誰?
「その険しい道のりを慮り誰一人後継を残すことなくこの世を去ったお爺様が毎年多くの怪我人が出る今の状況を喜ぶはずありません。
あなたの嘘はそんな現状に拍車をかけかねないものなのです」
ってあれ、そのお爺様ってつまり・・・ポンポンポン、チ~ン
「うそぉ~ん、この地味子ちゃんがあの海上愛梨なのかぁ!?」
「まったく明日の対戦相手の顔も覚えていないとは。
って誰が地味子ちゃんですかっ!」
いやいやいやっ!俺は悪くない。
あの超美少女がこんな地味子ちゃんフォルム搭載型だとは普通気づかんだろ。
「そもそも大会の最中に街中でナンパ勝負するような軽薄男が聡明で優しかったお爺様の後継を語るなど言語道断、万死に値します」
また随分とご立腹で、まっ、ここまで最悪な形の出会いもそうないだろうけど。
ざわざわざわ・・・海上愛梨がこんなところに?ヒソヒソ
ヤベ、人が集まって来ちった。
「あ~わかったわかった、ともかくそういうことなら場所を変えよう。
君は俺の雷鳴剣が本物か知りたいわけだろぉ?
だったらダンジョンにでも行って今から実演してあげるからさ」
「いいでしょう、といっても私に貴方のなんちゃって雷鳴剣は通用しませんよ。
その化けの皮を完膚なきまでに剥がして差し上げます」
いや~新たな恋の足音がなんて夢見た頃が懐かしい。
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○ワイバーンの魔石○
その頃、森下研究所の地下施設では・・・
『よ~し鵺、そのまま大人しくしているんだ、これはお前の為にやっていることだからな』
培養液が満たされたカプセル内には胸部を裂かれ大きな魔石を剥き出しにされた魔物の姿。
「君が居てくれて助かったよ北村君、もう鵺には麻酔の類が効かないだろうからね」
この男を立ち合わせるのはあまり気乗りしませんが、この際仕方がないでしょう。
「フッ、このくらいお安い御用ですよ、先生」
様々な耐性を獲得する鵺の黒霧も憎悪を糧とするその特性故か痛覚系の耐性だけは獲得できない。
痛みに苦しむ魔物をなだめつつ施術は着々と進められてゆく。
なっ、あんな馬鹿デカい魔石を?
今回融合されるワイバーン魔石は鵺のそれとほぼ同サイズ、肉をそして臓器を押しやり隣に無理やり押し込まれ始めた。
おいおい、随分な力技じゃねぇか。
「HPゲージ10%を切ります」
「問題ありません、続けてください」
『頑張れ、鵺。あともう少しの辛抱だ』
ほどなく魔石の埋め込みが完了、膨れ上がった胸部を晒す魔物は力なく沈黙していた。
流石の女王様も虫の息ってところか、フッ、俺としたことが案外心が痛むもんだな。
「さあ先生、とっとと回復してやってくれ。
あんな化け物でも一応俺の大事な相棒なんでね」
「回復?君はいったい何を言っているんだい。
融合の本番はここからじゃないか」
時間経過と共に自然治癒が働き回復を図ろうとする鵺に対し微弱な電流を流し適度なダメージ負荷でそれを阻止、まさに生かさず殺さずといった具合を維持し続ける。
かくしてこの数時間後、瀕死の魔物の身体からおびただしい光が放たれる瞬間が訪れるのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○アメダス その2○
さて最近めっきり御無沙汰となっている北山崎ダンジョン。
そのスタート地点の断崖の上では剣を掲げた少年に瓶底眼鏡少女が訝し気な視線を送っていた。
「雷雲カモォ~ン」
ゴゴゴゴォォォ、晴れ渡った夜空に雷雲が立ち込める。
そりゃ、バリバリバリッ!
剣を投げると見事小島の木に突き刺さりそこに雷が落ちた。
うむ完璧、これで納得してくれたかな?
否、目の前で実演したわけだから納得しないはずがない。
少年が剣を回収して戻ると・・・
「まあその剣に雷雲を呼ぶ力があるのは認めましょう。
ですがそれなりに高い確率で落雷のタイミングを見切る強者もこれまで数人居りましたが下手をすれば大怪我必至の雷鳴剣に失敗など許されません。
100%成功することが証明されるまで私は納得しませんよ」
あらら、俺以外にも被害者が?
にしてもどうすっかなぁ、この娘が納得するまで成功させ続けるって・・・
成功すること自体は簡単だが如何せん俺のドキドキジェットには制限時間がある。
「何か他に手っ取り早く証明する方法はないの?」
「フンッ、そうですねぇ。
なら雷牙を同時に3発放てたら貴方のことを認めてあげます」
へっ、そんなことで?
あの様子ではどうやらこれの難しさが正しく理解できていないようですね。
どんな予知系、直感系スキルであれ、落雷の刹那複数の情報全てに瞬間対応することなどできません。
同時発射ねぇ、まっ、投擲スキルマックスの賢斗さんならイケるでしょ。
「へ~い、そんじゃあ行きますよぉ」
利用ではなく操作、貴方の俄仕込みの雷鳴剣がこの領域に達しているとでも?
さあ、無様な姿を晒すのです。
そりゃそりゃそりゃ!
しばし上空を眺めた少年は山なりに3本の剣を続け様に投げた。
軌道、タイミングにズレのあったそれ等は頂点で落雷を誘うと小島の木に見事同時に突き刺さった。バリバリバリッ!
よし、ハイテンションタイム中の賢斗さんに不可能はない。
「こんなもんでよかったかな?」
そろそろ効果時間も終わっちゃうし。
星の数あるスキルの中で儂が生涯を賭けようやく辿り着いた答え。
それがあれば雷鳴剣に無限の可能性を与えてくれるだろう。
「なんでしょう、とても気分が悪いです」
あらら、思い通りにならなかったもんだから拗ねちゃったよ。
「局地的な気圧、気温、降水量、風向、風速を瞬時に分析しそのタイミングを正確に割り出す。
こんなことができるスキルは一つしか考えられません」
あれれ、ひょっとしてドキドキ星人を御存知で?
つーかマズい、ひた隠しにしてきた賢斗さん最大の秘密が・・・
「貴方も持っているのですね。
死を覚悟したお爺様が私に託した幻のスキル」
えっ、貴方もってホントっ!?
「天気予報系の最高峰、アメダスを」
・・・さっ、帰るか。
次回、第百九十一話 決勝トーナメント開幕。




