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第十九話 謎に塗れた限界突破

○第1予選のボーダータイム○


 4月22日月曜日午前7時。

 ナイスキャッチの面々は朝の日課であるハイテンションタイムを消化する為何時もの大岩ポイントにやって来ていた。


 そして今回賢斗が取得を目指しているのはMP高速回復スキル。

 その習熟方法は限界突破を発動して最大MPを倍に増やしMPの回復速度を一時的に上げてやる事。

 またその際に周囲の魔素を体内に吸収しようと意識してやる事で更に習熟の効率が上がる。

 桜から聞いた話で賢斗はこんな内容をイメージしていた。


 限界突破っ、発動っ!


 よし、最大MPが倍になった。

 あとは周囲の魔素を吸収するイメージを・・・

 ああっ、くそっ、もう10秒たったのか。

 桜も言ってたけどやっぱ1回じゃ取得は無理だなぁ。


 レベル1状態の限界突破の効果時間は10秒。

 その習熟可能時間はとても短い。


 でもまあやり方自体は合ってるだろうから、続けていればその内取得出来んだろ。


 予想通り時間切れ終了、余った時間の活用案として次に賢斗が考えていたのは回復魔法のレベリング。

 こちらは何の問題も無く上手く行き、ヒールの魔法を3回使用したところで・・・


『ピロリン。スキル『回復魔法』がレベル2になりました。『キュア』を覚えました。』


 おっ、よしよし、今回はこんなもんかな。


 と朝の日課は無事終了。

 二人と共に出口へと歩き出した。


「あっ、そうだ、先輩、作戦の方はどうします?」


「えっ、作戦って何の?賢斗君。」


「何のって、モンチャレ第1予選の作戦ですよ。

 レベル5個体3体なんて、攻撃魔法を俺達皆が取得してもそれだけで安心していられるとは思えませんけど。

 桜のファイアーボール・アンリミテッドにしたってレベル5のワイルドウルフを一撃で討伐とは行かなかったんですから。」


「あら、賢斗君がそんなにやる気があったなんてちょっとビックリよ、私。」


「ちょっと茶化さないで下さいよ。

 出るからには第1予選突破のボーダータイムくらい把握しておきたいですし。

 それともこのまま俺達が出て簡単に予選を突破出来るんですか?」


「はいはい、私が悪ぅ御座いました。

 第1予選の討伐タイムは大体3分切れれば安全圏、5分超えるともう無理って感じかな。」


 ふ~ん、ボーダーラインが3分か。


「でもそうねぇ、良く考えたら賢斗君の言う通りかも。

 今の私達ってレベル5の魔物3体を倒せるかどうかも怪しいところだし。」


 そうそう、毎回記念参加の人もようやく理解出来たか。

 現状俺達はまだレベル5個体を3体同時に倒した事すらない。

 そんな奴がぶっつけ本番でタイムアタックとか無謀も良いところだっつの。


「でもどうしたものかなぁ。

 風魔法を取得して浮かれてたけど、レべリングして次の魔法を覚えても桜の火魔法の威力には遠く及ばないだろうし。」


 確かに火魔法はその威力に於いて他の4元素魔法に比べ秀でている。

 それに先輩には弓があるし、風魔法と比べると弓の方がまだ戦力になりそうな気もする。


「かおるちゃんも限界突破を取れば良いんだよぉ~。」


 まっ、限界突破はオールラウンドに使えるし、弓であろうと魔法であろうと取得しておくに越した事はないスキルだしな。


「もう、何言ってるのかな、桜は。それはダメに決まってるでしょ。」


 あれ、何で先輩は拒否ってんだ?

 間違いなく戦力アップに繋がるし、限界突破の習熟方法ならもう既に・・・はっ!

 限界突破を習熟取得するにはハイテンションタイム中に感度ビンビンを解除しなければならないのかっ!


「え~、なんでぇ~?」


「何でって、そんな簡単に限界突破が取得出来る訳ないでしょ。」


 ふっ、謎はすべて解けた。


「そっかなぁ~、何時の間にか取れてたよぉ~。」


 ここは全力で桜の加勢に加わらなければっ!


「先輩、大丈夫ですって。

 習熟方法なら俺がしっかり把握してますからぁ。」


「もうっ、それだったら私が取得したくない理由も分かるでしょっ!」


 ほっぺを膨らませ賢斗を睨むかおる。


「はい、お気持ちは重々お察しします。

 ですが先輩、想像してみて下さい。

 俺と桜はもう既に取得しています。

 一人だけ限界突破を取得しない者が居た為に予選落ちなんて事になったら・・・」


「そんな事言われたって・・・」


「あ~、俺ずっと皆と一緒にパーティー組んで居たかったなぁ。」


「あ~もうぉ、分かったわよっ。

 取ればいいんでしょ、取ればっ!」


 わ~い、やったぁ~♪


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○お昼休み、教室内○


 昼休憩となりざわつき始める教室内。

 何時もの菓子パンとコーヒー牛乳で昼食を取る賢斗にモリショーが声を掛ける。


「賢斗っち~、今日はこの俺が新たに手に入れたスキルの前にひれ伏すがいいっしょー。」


 ん?モグモグ


「アピール全開っ!」


 何これ、スキル?

 心なしか高速瞬きのスピードが更にアップし眼力も強くなってる気がする。モグモグ


「これで賢斗っちも、俺をパーティーに入れたくなったっしょー。」


 確かにスキルの効果か知らんけど、何時にも増して熱意を感じるな。


「ならん。モグモグ」


 まっ、ダメなもんはダメだけど。

 にしても何考えてこんなスキルを恩恵取得しちまってんだか。

 スキル取得講座でナンパでもしてたのか?こいつは。


「それよりモリショー、お前この間委員長と西田さんと一緒に居ただろ。

 パーティー組もうって話にはならなかったのか?」


「いや~、それが委員長には先約が居るらしくってさぁ。

 その話はお流れになったっしょー。」


 ちっ、委員長め、誰とそんな約束を・・・ん?

 その約束ってもしかして・・・


「あっ、いや悪い、モリショー。その先約っての多分お前の事だから。」


「えっ、それどういう事っしょ~?」


 賢斗が事情を説明してやると、モリショーは委員長の元へスキップしながら去っていく。


 まっ、委員長はこのクラス一の美少女だし奴も不服はあるまい。

 今度こそお前のその良く分からんスキルの力を存分に発揮して来い。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○雷魔法○


 午後5時、夕方のパーティー活動は右ルート宝箱部屋にて睡眠習熟となっていた。

 朝の部ではかおるの限界突破スキル取得の件が持ち上がっていたが、それ以前からの話として桜の睡眠習熟初体験を優先した形である。


「ん、んん~。」


「どお?賢斗君。

 雷魔法スキルは取得出来た?」


 目を覚ました賢斗に監視役のかおるが声を掛ける。


「あっ、はい。何とか。」


「そう、これで皆攻撃魔法を取得しちゃったってことになるわね。」


「にしても先輩、桜の奴まだ寝てますけど、どうしたんすかね?」


 一緒に睡眠状態になった筈なのに・・・う~ん。


「そうねぇ、睡眠ガスを吸い込んだ量が多かったのかな?

 まあでも気持ちよさそうな寝顔だし、きっと大丈夫よ。」


 ふ~ん、吸い込む量で睡眠状態になる時間って変わるんだな。


「うっ、う~ん。」


 とそんな話をしていると桜も目を覚ました。


「あっ、賢斗ぉ~、雷魔法は取れたぁ~?」


「ああ、バッチリ。」


 賢斗は親指を立てて応えてやる。


「じゃあさぁ、雷魔法見せて見せてぇ~。」


「おう、任せろ。スタンっ!」


バチンッ


 突き出した右掌から一瞬電気が走る。


 おやっ、これだけ?


~~~~~~~~~~~~~~

『雷魔法LV1(5%)』

種類 :アクティブ

効果 :覚えた魔法の使用が可能。


【習得魔法】

『雷魔法LV1』 スタン 消費MP1 生み出した電撃を敵に与えて、麻痺させる。

~~~~~~~~~~~~~~


 あ~なるほど、相手に直接触れて麻痺させる感じの魔法か。

 見た目かなり地味だったからちょっと焦ったぞ。

 とはいえレベル1で覚える魔法だし、こんなもんだろ。


「ありがとう賢斗君っ。期待通りよっ。」


 何を喜んでいるのか知りませんけど、そんなに俺は落胆等していませんよ?

 二人の魔法を見てたんだし。


「なんかすっごくショッボかったねぇ~。」


 と言ってもそれはそれ。

 もう少しオブラードに包んでくれても良いんじゃないですかね?桜さん。


「バカね、桜。これでようやく賢斗君にも私達の気持ちを理解して貰えたって事なのよ。」


 いやだから俺はだな・・・


「あっ、そっかぁ~。」


「私達のパーティーは今、新たな絆で結ばれたわ♪」


 くそっ、この二人、どうあっても俺が傷ついてる事にしたい様だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○魔力操作○


「ところで桜は何覚えたんだ?」


「え~見たい~?どうしよっかな~。」


 えっ、何勿体付けてんの?

 お前もさっさと洗礼をうけてしまえ。


「桜先生、是非お願いしますよぉ~。」


「えへへ~、仕方ないな~♪」


 うん、単純、ほ~ら見せてみろや、ショボイやつ。


「いっくよ~、ファイアーボール・・・。」


 ・・・ってあれ、何で火魔法?


「た~いぷ、フェニックスゥッ!」


 桜の持つ杖の先に火の玉が出来上がるとそれは次第にその姿を鳥の形に変えて行く。


ドーン


 今の何?


 鳥型の火球はダンジョンの壁にぶつかると威力的には通常のファイアーボールと大差はない。


 これは発動魔法の形状操作ってところか?

 随分ずんぐりしたフェニックスさんだったけど。


「ねぇ~ねぇ~、かっこいいでしょ~。」


 ・・・確かにちょっとかっこいいかも。

 これじゃちっともショボくないし。


「それで桜先生、どんなスキルを取ったらあんな凄いやつが放てるんだ?」


「これはねぇ~魔力操作ってスキルだよぉ~。」


 へぇ~、そんなスキルもあるんだな。


「ふ~ん、どうやって取得したんだ?」


「鳥さんになれぇ~って一杯お願いすれば取れるよぉ~。

 いっつも練習してたけどようやく今日取れたんだぁ~。」


 ・・・なるほど、自分で調べろって事か。


~~~~~~~~~~~~~~

『魔力操作LV1(4%)』

種類 :アクティブ

効果 :発動魔法の形態変化の構築が可能。

~~~~~~~~~~~~~~


 はは~ん、通常のハイテンションタイムでトライしても失敗し続けた訳だ。

 こんな魔法のイメージを改変する様なスキルなんて魔法スキルを取得するのと同等のイメージ強化が必要そうだからな。


「賢斗君、ここはグッと堪えて上げて。

 桜だって何も悪気があってあんな火の鳥を見せつけた訳じゃないの。

 只ちょっと傷ついた賢斗君への配慮が足りなかったというか・・・」


 いや、俺は寧ろあんたの方に腹が立つんだが?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○謎に塗れた限界突破○


 明くる日、午前6時。

 白山ダンジョン大岩ポイントでは意気揚々と朝のハイテンションタイムに臨む賢斗の姿があった。


「さあ先輩、今日こそは限界突破の取得目指して頑張りましょう。

 僭越ながらこの私、背中を摩る役を買って出る所存で御座いますよぉ。」


「あ~ら、残念。

 それもう桜に頼んであるわよ、賢斗君。」


 なにっ!


「君は少し離れて雷魔法のレベルリングでもしていてくれるかな?」


「頼まれちゃったぁ~。アハハ~」


 ちっ、がまあいい、俺もそこまで鬼ではない。

 こうなればこの目にその姿、しっかり焼き付けてやるとしよう。


「へいへい、分かりましたよ。」


 とスキル共有を済ませると何時ものダンジョン活動が始まった。

 そして今回賢斗は当然ドキドキジェットを発動せず、テンションタイム状態をキープ。

 二人の様子を逃す事無く窺い続ける。


じ~~~~


じ~~~~


じ~~~~


 う~ん、何だろう、この何時もと変わらない感じ。

 ・・・なかなか始まらないんですけど。


「ファイアーボール・アンリミテッド・タイプフェニックスっ!」


ドゴーン


 飛翔した火の鳥が横壁に衝突するとドゴーンという結構大きな音がダンジョン内に響き渡る。


 おっ、桜の奴鳥さんを限界突破使って撃ってるのか。

 火魔法、限界突破、魔力操作と3スキルを同時使用するとか、桜の奴も効率良くアクティブスキルを上げるコツを掴んだみたいだな。

 つかあいつの場合はそこまで考えちゃいないか。

 偶々やりたい様にやってたら上手く行きました的な感じに違いない、うんうん。


 まっ、それは良いとして、限界突破を併用すると桜の魔法の威力は2倍。

 つまりは壁に当たった時の衝撃音もデカくなる訳で、通りすがりの探索者さんが居たら結構な迷惑になるレベル。

 ふ~む、これはもう他に魔法を放っても大丈夫そうな場所を探しておいた方が良いかもしれない。


 っていうか何やってんだ?桜の奴は。

 先輩の背中を摩るという大任を仰せつかって置きながら。

 ったく。早くしないと終わっちゃうだろぉ?


「ウィンドボール・アンリミテッドっ!」


 へっ、あんりみ?


 かおるの突き出した手の先からは球体状の渦を巻く気流が放たれていた。


 そしてダンジョン活動を終えた帰り道。

 賢斗の胸中にはモヤモヤとした感情が燻り続ける。


 う~ん、可笑しい。

 俺はずっと二人の事を見ていたのに、桜が先輩の背中を摩るシーンなんてものはまるで無かった。


(いや~残念だったね~、賢斗君。)


(何がですか?先輩。)


(だってほら、私もう限界突破取得しちゃったしぃ。

 見たかったんでしょ?私のあ・で・す・が・た。)


 くそっ、いつの間に限界突破を取得したんだ?この女狐は。


(べっ、別に見たくなんか、なかったでごじゃります。)


(ぷぅ~クックック、無理しちゃってぇ~。

 念話で噛む人初めてよぉ。アハハ~。)


(そんなに俺をからかって楽しいですか?)


(うん、とっても♪)


 ちっ、聞くだけ無駄だったか。


(じゃあねぇ、可哀相だから良い子良い子してあげよっかぁ~?)


(はい、是非っ!)


(いや、そこは断りなさいよっ!)

次回、第二十話 予選前の腕試し。

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