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第百八十八話 うむ、ご苦労

○非凡なる強運が奏でる幸運の連鎖 その4○


 なんとか初戦の勝利を飾った桜だが試合後の五右衛門さんはかなり深刻なダメージを受けていた。

 となるとまた先程使った釜茹で地獄の出番と行きたいところだがこの技には結構なクールタイムがあるらしい。


(どどどどうしよ、賢斗ぉ~。

 五右衛門さん、今日はもう釜茹で地獄使えないんだってぇ~)


(いやそれよりお前、体は平気なのか?

 試合中結構辛そうにしてただろ)


(えっ、あっ、そっちのが気になるぅ~?)


(んっ、ああ)


(すぅ~っごいとってもぉ~?)


 いや、そこまでじゃないかも・・・


(まっ、まあな)


(そっかぁ~♪)


 でどっちだよ。


 普通であれば棄権してもおかしくはないシチュエーション。

 しかし初戦ではかなり苦戦していたものの桜達はそもそもこのブロック内で最有力の格上、1割強のHPであってもそれなりに勝算は残されている。

 そう考えると彼女の強運が当てにならなくなった今の状況を加味してもここで棄権するのは何だか勿体ない気もしてくるというものである。


(まっ、やるだけやってみりゃいいんじゃねぇか。

 ヤバそうならすぐ降参できるんだし、その方が諦めもつくだろぉ?)


 と降参宣言を保険に臨んだ2戦目のお相手は左手に日の丸扇子、右手には仕込みの入った番傘を広げ、鉄茶釜鎧に身を包んだ狸戦士のチャガマードラクーン。

 石舞台の上で扇子と傘の見事な芸を披露すると客席からは拍手喝采が飛ぶ。


『・・・いや~実によく育成されているのが伺えます。

 そして一方のスケルトン武将は中山さんが予想されていた通り初戦のダメージが殆ど回復できていませんね。

 まあ小田選手の方は復調、というかかなりの上機嫌に見えますが』


 ふんふふっふふぅ~ん♪


『まあ嬢ちゃんの様子はさておき、ああいった特殊技にはクールタイムが付き物だからな。

 貴重なアンデットの回復技ってことを考えればスキルレベルの低い内は一日一回使えりゃ上等な部類だ』


 そしていざ試合開始の合図が鳴ると狸戦士は仕込み傘を抜こうともせず一向に攻撃を仕掛けてこない。

 それもそのはずでこの大会のルール的に残HP率の算出はあくまでそのテイムモンスターのMAXHPが分母。

 つまりこのまま何もせずタイムアップになればチャガマードラクーンに勝利が転がり込むのである。


『やはりチャガマードラクーンサイドとしては防御に徹する作戦でしょうか』


『まっ、面白みには欠けるが当然の選択だろうな』


「いっけぇ~、五右衛門しゃ~ん」


 まっ、相手がそういうつもりならこっちから打って出るしかないわな。


 特攻したスケルトン武将は長刀による連撃を放つ。


 キンキンキィィィ―――ン


 しかしチャガマードラクーンは鉄茶釜の中に全身をすっぽり収納し格上の魔物が放つ斬撃をものの見事に防いで見せた。


 ほう、なかなか防御が堅いな。


『いやぁ流石は重戦士系盾役探索者に定評のある分福アーマー、その性能に偽りなしといったところですね』


『レアドロップのあの鎧はオークションでも数千万は下らない逸品だからな。

 結構なMPを持ってかれるが一定時間あらゆる物理攻撃を完全に防御できる性能はこの状況的にも打ってつけだ』


 ふ~ん、あれってそんなに凄い鎧なのか。

 でも茶釜着込むってどうなんよ、知り合いが着てたら爆笑もんだし、へそで茶が沸いちゃうでしょ。

 あっ、うまいっ!


『っとここでスケルトン武将手を止め一転居合の構え。

 またあの空間斬りの大技が見られるのか』


『攻撃系なら釜茹で地獄に比べ使用制限は緩いはず、ここで使えたとしてもおかしくはない。

 そしてあの技の本質が通常の攻撃から逸脱していることを考えれば・・・』


 抜かれた長刀は紫炎を纏いながら美しい半円を描く。

 パキィィィィ―――ン


『なんとぉ、物理完全防御の分福アーマーが真っ二つ、ここで堪らずお相手は降参宣言だぁ!

 にしてもあの斬撃もやはり普通じゃないですね』


 まっ、空間そのものを斬っちまうから多分防御力とかは関係ないんだろうな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○非凡なる強運が奏でる幸運の連鎖 その5○


 そしていよいよPブロック決勝。

 3試合目を迎えた五右衛門さんのHPゲージは2割弱といったところ。


『さあいよいよ決勝トーナメントへの最終チケットを賭けた戦いが始まります。

 自慢のギガマックスショックで快進撃を続けるワサビンジャーに対し蓄積ダメージでとても万全な状態とは言えないスケルトン武将、この勝負の行くへは果たして。

 そして今ぁ、試合開始の合図が鳴りましたぁ!』


 ワサビンジャーはこれまでの試合同様、開始直後から超激辛山葵フレーバーの放出を開始。

 あっという間に石舞台全域に拡散してゆく。


『ちょい辛、中辛程度なら我慢して戦うこともできるがギガマックスともなると激痛に加え呼吸困難で戦闘どころではなくなる。

 吸引したが最後、普通であればリタイア必至といったところだな』


 うんうん、激辛で死んじゃうこともあるからね。

 ギガマックスショック恐るべし。タラリ


『ですが中山さんは先程スケルトン武将の圧勝だと予想しておられました。

 お時間の都合で最後まで聞けませんでしたがあのギガマックスショックをいったいどう攻略するのでしょう』


『まっ、そいつはすぐにわかるさ』


「いっけぇ~、五右衛門しゃ~ん」


「御意」


『こっ、これは流石に無策にも程があるのではないでしょうか。

 スケルトン奉行自分から死地に突っ込んで行きますっ!』


『いや、これでいいんだよ』


『えっ?』


 スケルトン奉行は漂う山葵フレーバーを物ともせずワサビンジャーを秒殺。


 スパンッ!許せ同胞、急所は外してある。


『なっ、呆気ない幕切れと同時に大きな疑問が浮かびます。

 中山さん、何故スケルトン武将はギガマックスショックを耐えられたのでしょう?』


『いや耐えられたっつうより効果が無かったんだよ。

 数多の魔物の中にあってアンデット系ってのは完全に呼吸を必要としていない。

 おまけにあの山葵フレーバーを取り入れる体内すら無いんだから効果が無いのも当たり前の話だろ』


 そだね、目ん玉無いから目にも来ないし。


『勝負あり、勝者小田桜組っ!ワァァァァァーーーー』


 かくして小田組の決勝トーナメント進出が決定した。

 どこぞから運エネルギー枯渇状態の彼女が相手関係に恵まれ過ぎでは?

 なんて声も聞こえて来そうだがはてさて・・・


『確かに理論上は運エネルギー枯渇状態の人間が新たに幸運現象を引き起こすことはない。

 だが幸運の形なんてものは人それぞれで千差万別、一過性で終わる時もあれば大きな最終目標に向かい連鎖していくことだってある。

 そしてこの後者の場合一連の幸運が一つの幸運現象と考えられ運エネルギーやその代替として使われる精神力が枯渇しようと一時停止するだけで完全に止まることはない。

 実際には幸運の連鎖が尻切れトンボに感じるケースも多いがこれについては幸運の質の問題になってくるってのがこの理論での考え方になる。

 まあここまで来ると後付で都合よく解釈してるようにも感じるだろうがそもそも理論なんてのは結果から法則性を導き出すものだからな』


『なるほどぉ、そういう考え方ですかぁ』


『ともあれ個人的に一つ注意しておきたいのはどんな事象もその要因は多岐に渡り運要素ってのはその一つに過ぎない。

 何かを成し遂げた成果の本質はあくまでその人間がそれまで積み上げて来た努力がメインでどれだけの運要素が介入したにせよこの大前提は忘れちゃイケないだろう。

 好ましい結果だからとLUK値の高さばかりに目をやるのは正当な評価の妨げになりかねないってことはしっかり胸に留めておいてくれ』


『確かに仰る通りでありますねぇ。

 幸運を呼び寄せるにもそこに至るまでの経緯があったればこそ、何もせず天から幸運が降ってくるようなことなどそうそうありませんからね』


 まっ、あいつの場合運要素の介入度合が尋常じゃない気もするけどね。


『まあ何にせよだ、俺も専門家ってわけじゃないから運エネルギー云々の質問はこれくらいにしておいてくれ。

 まだ物足りないって奴は渥美太郎が若い探索者アイドルとイチャついてるなんとか大学って番組のアーカイブでも漁ってみるといい。

 確か以前この理論を取り上げていた回があったはずだ』


 ふむ、それは是非ともチェックせねば・・・おっ。


「たっだいまぁ~♪。

 やったよ、賢斗ぉ、ホントに勝てちゃったぁ~」


「ああ、だから言ったろ、今回は楽勝だって」


「じゃあ早速いってみよぉ~」


 いってみよぉ~って何を?


「えいっ。パタパタパタ」


 う~ん・・・ひょっとしてこれは茜ちゃんのアレか?

 よっとぉ。ニパッ、ドキッ


 なっ、流石先生、美少女免疫持ちの賢斗さんをこうも簡単に動揺せるとは。


「よっ、よぉ~しほれほれ~、何時もより大きく揺れておりますぅ~」


「キャハハハ、あっ、そうだ賢斗ぉ、私にもいつでも抱っこ権ちょうだぁ~い」


 いや優勝したならいざ知らず予選突破如きでそれはちと贅沢ってもんだ。

 幾らお前が可愛くおねだりして来ようと・・・

 頑張れ、俺の美少女免疫力。


「いや円ちゃんのアレはキャットクイーンの本能がそうさせるのであってだな、お前の場合は只の抱っこ好きだろ」


「え~ダメなのぉ~?賢斗のばかばかぁ、グスン」


 えっ、あれ、嘘、俺の抱っこ権如きでそんな反応想定外なんですが・・・


「あっ、いや、今のなしなし。

 いいともいいともいいともぉ~♪」


「えっ、ホントぉ~、やったぁ~♪」


 かくしてこの少年の美少女免疫なるものは簡単に突破され少女は望んだ報酬を手に入れる。

 果たしてあの幸運の連鎖の最終目標とは?

 その本当の答えは今この瞬間に最高の笑顔を見せた少女だけが知っているのかもしれない。


「あっ、そうだ先輩、俺も決勝トーナメントに残ったことですしいつでもアルプスフニフニ権ください」


「一応聞くけどそれってどんな権利かな?」


「それは勿論男の夢が盛大に詰まったアメージングでボリューミーな・・・」


 ブヘッ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○決勝トーナメント抽選会○


 予選が終了した日の夜、闘技場に設けられた特設ステージでは大観衆の見守る中、明日の決勝トーナメントに向けた枠順抽選会が開催された。

 まずは円盤ルーレットにより使用されるバトルステージが各組合せごとに抽選されその後に選手達がガラガラ抽選機により枠順を決めていくという流れ。

 その模様を見守るギガントドーナツ5階の一室では・・・


「バトルステージは森林、沼地、砂漠、雪原、火山の5種類か。

 にしても今の建築技術ってのはダンジョンさながらの巨大ジオラマまで作っちまうのか?」


「ちゃうちゃう、あれはダンジョンコアの複製を使こうてフロアの一部を再現させるんやて。

 技術的にどうこうちゅうより資金面や時間的に普通のやり方はまず無理やしな」


「ほぉ~う、人工のダンジョンコアねぇ。

 しかしあれは神所有のインテリジェンスウェポン、確かに今のAI技術の発達は目覚ましいところだがあのオーバーテクノロジーを本当に複製できたとは俄かに信じられん話だな」


「まあ複製いうても機能の一部を利用できる程度のモノや言うとったし鉄っちゃんが心配するようなことは何もあらへんで。

 運用テストもしっかりやっとるやろしそもそも何か問題あったら国の建築許可なんて下りへんはずやろ、なあ銀二君」


『さあ次はいよいよ選手達の枠順抽選、今回もテイムモンスターのレベル順で行われていきます』


「んっ、ああ、そうだな、こっからが大事なとこだぞ、みやちゃん」


 ダメやこの人、また人の話聞いとらんわ。


 その頃、森下研究所の所長室では・・・


『さあ大本命の北村選手が10番枠を引いたのに対し続く九条選手は果たして何番枠を引き当てるのか。

 ガラガラガラ、コロン、おっとこれは7番枠、2強対決の実現は決勝の舞台となりそうです。ワァァァァァ―』


「まあ枠順が何処だろうと優勝に変わりありませんが、沼地エリアの戦いでは些かスマートさに欠けてしまいそうですね」


「教授、先週海外で落札したワイバーンの魔石が今さっき届きました。

 どちらにお持ちしましょう」


 間に合いましたか。

 大会中の特異個体化が許されるなら、こちらが鵺に新たな力を授けても問題ないでしょう。


「今晩中に使うつもりだから地下の特別実験室の方に運んでおいてくれたまえ」


 やはり鵺には空も飛んでもらって観客の度肝を抜いてやりましょう。


 一方富士ダンジョン入口付近のメインスクリーン前では・・・


「よぉ、樋口、やっぱお前もアイツが気になるか」


 しっかり決勝トーナメントに残ってやがる、ったく。

 相変わらず抜け目のねぇ野郎だな、あいつは。


『ガラガラガラ、コロン、でました、市村紫苑選手は13番枠、初戦は森林ステージでの試合となりました』


「ええ、今後の探索者業界を生き抜くにはテイムモンスターは必須とまで言われてますからね。

 来年のあの場所には僕も居なければならないと思ってます。

 そういう服部君もでしょ?」


「ああ、うちの社長もそういうとこ五月蠅ぇからな。

 今踊り子の姉さん達と一緒に良さ気な相棒を探してるとこだよ」


 ギルドクローバー執務室では・・・


『さあ続きまして次はナイスキャッチの小田桜選手、いったい何処の枠を引き当てるのか。

 ガラガラガラ、コロン、でました、小田選手は14番枠、初戦は市村選手との対戦となります』


 あら、小田さんには珍しくかなり厳しそうな枠になったわねぇ。

 初戦の市村紫苑はかなりの強敵だし、その後にはあの鵺も居る。

 少しはマシな前半ブロックに入るものとばかり思っていたけれどこれも運を使い過ぎてる影響なのかしら。

 で2強の潰し合いが望めなくなったこの状況。

 貴方にはまだ勝算はあるの?多田さん。


 いや~完全に詰んじゃってるなぁ。

 だがしかぁ~し、準優勝にもしっかり優勝の文字が入っているではないか。

 これはもう優勝したと言っても過言では・・・

 はっ、この理論でいけばひょっとして準々優勝まで許されるのでは?おお~♪


『さあ次は多田選手の枠順抽選となります』


「あっ、はい」


 さて馬鹿な考えはこのくらいにしてここは少しでも頑張った感を演出するため前半ブロックでも狙っておきますか、簡単だし。


『ガラガラガラ、コロン、でました、多田賢斗選手は1番枠、初戦は砂漠ステージでの試合となりました』


 クルリんこ、うむ、ご苦労。

次回、第百八十九話 おかしいおかしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新待ってました ゲームだとアンデッドって弱点多いイメージだけど、 利点もけっこうありそうだなー 次回更新も楽しみにしています
[一言] 更新があると思ってなかった! この作品好きだったから、マジで嬉しい!!
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