第百八十五話 脱ぎたて♡淫靡テーションブーメラン
○脱ぎたて♡淫靡テーションブーメラン その1○
Bブロック2回戦、鵺の対戦相手はヘルマムシグサ、蔦攻撃が厄介なこの魔物の胸部?には石化対策と思しきお札が貼られていた。
そりゃまあ対策くらいはしてくるわな。
試合の方は一回戦と変わらず、序盤パワーウィップにより身動きを封じられ溶解液を浴びた大本命がコロシアムに悲鳴を響かせる。
『あっとまたしても鵺、大ピンチだぁ!』
いやなに、うちの姫様は少しばかりMっ気が強いんでね。
しかし終わってみれば順当決着、最後にはまたしても灰褐色の石像が出来上がっていた。
いいねぇこの成長力、火耐性の次は酸耐性か。ニヤリ
『いや~石化対策のお札もまるで意味を成しませんでしたねぇ』
『まあそれなりの経験者なら知っていることだが状態異常にも威力の概念はあるからな。
このレベル差からして完全防御系以外は焼け石に水ってところだろ』
うんうん、あっしもそんな気がしてたでやんす。
解析スキルの上限解放はこれまでベールに包まれていた新たなステータスパラメータの存在を明らかにしている。
MS(精神量)やSPL(精神力)値も状態異常の威力に影響、延いては高レベルの者が放つ状態異常攻撃ほど高威力であることは近々学術的にも証明されていくことだろう。
そして続く3回戦の対戦相手はファイアーモンキー、これまた万全な石化対策は間に合わずその額には軽減系のお札が一枚。
懲りないねぇ、全く。
ともあれ謁見料を持ってねぇ奴に見せ場をくれてやる義理もない。
「鵺、そいつの攻撃は受けなくてもいい、早々にお引き取り願いな」
ヒョウ~、炎を纏った連撃を気にした様子もなく鵺が前足を軽く横に振るとお相手はコロシアムの壁に一直線。
瞬時にできた頭から埋まりピクピクと痙攣する魔物の光景にしばし呆気にとられる場内だったが、主審が旗を上げた瞬間、大歓声が巻き起こった。ワァァァー
『いや~これですこれ、我々はこういう試合を見たかったのですっ!
にしても今回は打って変って開始早々から圧倒的なパワーの差を見せつける内容。
何故北村選手はこれまでの戦法を変えて来たのでしょう』
『そりゃそうする必要が無かったってところじゃないか。
今の試合鵺はまるで火系統の攻撃を苦にしていなかった。
この点から察するに恐らくあの怪物には相手の特殊攻撃を数回受けることでそれに対する耐性を獲得できる能力なんかがあるんだろう』
だよねぇ、にしても元々敵わないお相手が大会中もどんどん強くなってくとか、これは予選で当たっとく方が正解だったかな。
『なるほど、ここまでの序盤攻撃を受ける戦略にはそういう狙いがあったのですかぁ』
まっ、それはそれとしてこうもあの中山さんと同じ見解になるとはなかなかどうしてこの賢斗さんも解説者的なお仕事に向いてたりして、つってもあの滲み出る説得力は逆立ちしたってマネできませんけどね。アハハ
でもそういや次のモンチャレでスペシャルゲストとして呼ばれてるんだよなぁ。
試合に対するコメントなんかも求められるだろうし・・・
う~む、ここはひとつイメトレくらいはやっとくか。
そして迎えたBブロック決勝戦、鵺の相手はブーメランゴリラ。
身に着けたブーメランパンツは着脱可能で悪臭と共に放たれる高速回転のブーメラン攻撃は見た目以上の高威力。
アレはパンツが汚いという先入観を巧みに利用した実に見事な戦術です。
相手の戦意を低下させ見た目以上の深いダメージを・・・
「ねぇねぇ賢斗ぉ~、あれパンツ何枚履いてんのぉ~?」
知らんがな、つか今試合に集中してっからしょうもない質問は後にしてくれ。
「はっ、これは!今トランクス派の大臣にアレをやって欲しいという国民の声が。
どうです?今からブリーフ派に転向してみては。クイッ」
新調した秘書感アップの伊達メガネと紺色スーツの彼女はアルカイックスマイルで賢斗をチラリ。
幻聴が聞えんなら早めに病院行って来い。
「はっ、あの技だったら私にも」
えっ、マジ?ホントにやるの?
「それでは参りましょう、緑山茜プレゼンツ、脱ぎたて♡淫靡テーションブーメラン!」
なんとっ、その芳しい響きはっ。
「クルクルクルゥ~パシッ!あっ。
いや参った参った降参だ茜。
でも俺をメロメロにしたこの小さなブーメランはありがたく貰っとくぜ。かぶっ!」
パンティを投げられ即座に被る勇者が何処に居る。
「いえそれでは茜がスゥースゥーしてしまいますぅ、返して下さい。
だったらお前にはこれをやろう。
まあ♡勇者様の脱ぎたておパンツを?
さあそいつを履くんだ茜、今度はお前が俺にメロメロになる番だぜ。
あ~れ~、手が勝手にぃ~♪
あはっ、これで勇者さまのぬくもりゲットですぅ、きゃっ♡」
想像以上のとんでも展開、まっ、わかっちゃいたが・・・ってあれ?
少年が茜劇場に目を奪われている間に試合の方は決着。
悪臭及び斬撃耐性を獲得した鵺の勝利に終わっていた。
「・・・やっぱ桜、あのパンツは何枚でもイケるんじゃねぇか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○モフモフラビット○
Cブロック予選が始まるとその2試合目にはブロック最注目の海上愛梨が登場。
その肩口には額に丸い黒ブチのある小さな白銀の魔物が乗っている。
『溜息混じりに羨望と憧れの眼差しが飛びます。
それもそのはずあのモフモフラビットは癒される見た目で世界テイムしたい魔物ランキング女性部門で堂々の第1位に輝いているのです』
『まっ、レア個体ってわけじゃないがあいつは世界最高峰ダンジョンの一つサガルマタでしか出会えない特産種だからな。
なかなかにテイムのハードルが高いってところも人気に拍車を掛けてるんだろう』
へぇ~、男は強さを第一に求めるとこだけどやっぱ女性は愛でタリアンが多いってことか。
「フンッ、ああいう可愛いのに限って性格の悪いポンコツなのよ」
じ~~~~、うん、納得。
とはいえあっちは只可愛いだけのポンコツとは限らんけどな。
試合が始まり最初に動いたのはモフモフラビット。
弾力性のある長毛で全身を覆うと上空へ、何も無い空中でバウンドしたかと思えばそのスピードは徐々に加速しブレードマンティスの周囲を縦横無尽に飛び回る。
『これはいよいよもって速くなってまいりましたぁ。
この実況席からでも視認が困難なこの状況、近くにいるブレードマンティスにとってはかなり厄介なのではないでしょうか』
『いや、全周囲を見渡せる複眼持ちの昆虫系を舐めちゃイケない、あの程度のスピードでは攪乱にもなっていないだろう。
加えてあの硬い甲殻は物理系の攻撃に滅法強い。
あのゴム毬のようなモフモフラビットが勢い任せに突っ込もうものなら返り討ちに遭うのが関の山だ』
加速がピークに達すると後方から相手に接近していくモフモフラビット。
しかし静かに佇んでいたブルーマンティスはその動きを正確に捉える。
ブウォン・・・クンッ
おおっ、ナイスフォーク、あそこまで鋭角に沈み込むとはっ!
空を切る鎌ブレード、石畳にバウンドしたモフモフラビットは瞬間白い輝きを撒き散らしそこから更に急上昇。
ドコォッ!キラキラ・・・
舞い散る結晶の光、まるで鋼鉄の塊がぶち当たったかのような衝撃が硬い甲殻に覆われた魔物の身体をくの字にへし折る。
『ああっと、ブレードマンティス悶絶ぅ!
吹き飛ばされたまま起き上がれませんっ!』
『ふっ、こいつは一本取られちまったな。
氷ってのはマイナス70度以下になると鋼鉄をも凌ぐ硬さになる。
本来防御スキルであるエマージェンシーフリーズをこんな風に使って来るとは』
『あ~あの瞬間モフモフラビットは氷結系のスキルを発動し身体を硬化させていたんですか。
まさに氷の魔球といったところですねぇ』
おおっ、氷の魔球、うちのスラ坊もエアリアルは使えるけど、あの鋭く落ちるフォークは厳しそうだな。
瀕死の大ダメージを受けたブレードマンティスだったがどうやら討伐は免れていた様子。
救護班が横たわる魔物を取り囲む中、小さな魔物を肩に乗せた少女は涼しげな表情を残し戦場を後にしていった。
『いや~モフモフラビットってこんなに強かったんですか?
大人気なのも頷けます』
『まっ、危険度の高いダンジョンに生息する魔物ほどそれに比例して伸び代的なポテンシャルも高いと言えなくもない。
だがダンジョンに居る野生のモフモフラビットはあんな技使わんしさっきの氷の魔球に関しては間違いなく彼女の育成の賜物。
ここはあのお嬢さんのテイマーとしての力量を褒めてやるべきとこだろうよ』
いいなぁ、中山さんにいっぱい褒めてもらえて。
その後もCブロック予選では海上組の強さが存分に披露され、すんなり決勝トーナメント進出が決まる。
『はい、おこげとは小さい頃からよく遊んでいました。
亡くなったお爺様から頂いた大切なお友達なんです。ニコッ』
おおっ、全く笑みを見せなかった氷の美少女からこれほどの笑顔を引き出すとは・・・
やはりこのインタビュアーやり手だな。
『そして次はいよいよ決勝トーナメント、意気込みをひとつお聞かせください』
『この大会私にはお爺様の名を汚す悪者に鉄槌を下すという使命があります、それまでは絶対に負けられません』
ふ~ん、そんな不届き者がこの大会に、全く以てけしからんな。
この賢斗さんも応援してやるから存分に頑張りなさい。
『そうですか、では海上選手、最後にファンの皆さんへ一言お願いします』
いやアンタ、ファンへのメッセージは一言じゃダメだって言ってただろぉ?
『首を洗って待ってなさい、多田賢斗っ!』
ブフォッ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○脱ぎたて♡淫靡テーションブーメラン その2○
次のDブロックが始まるとその次のブロック出場予定の茜が部屋を出ていく。
「それでは行って参ります、勇者さまぁ」
「うん、茜ちゃんの烏天狗なら予選くらい簡単に突破すると思うけどまあ一応頑張ってね」
「はい、優勝して勇者さまのご褒美をゲットですぅ」
えっ、そんな約束したっけな?
「あっ、うん、わかったわかった」
そして彼女がドアを閉めると船室内は取調室へと早変わり、鋭い視線を飛ばすかおるの尋問が始まる。
「で賢斗君、あの海上愛梨って娘とはどういう関係?
正直に告白すれば今回だけはお咎めなしってことにしてあげる・・・かも?」
かもってなんだよ、全然正直に話す気にならんだろ。
ともあれ・・・
「それはこっちが聞きたいくらいですよぉ。
一度も会ったことないですし」
「ホントにぃ?」
「うん、ホントホント」
「なぁ~んか嘘臭いなぁ」
「ホントですってぇ」
「賢斗君、ここで正直に言った方が罪が軽くなる・・・かも?」
だから罪に問われるようなことはしていないっつの。
あっ、そうだ、こういう時こそ何時もタイミングよく俺の嘘を見破る先生の力を披露してもらおうじゃねぇか。
チラッ、さあ先生、このわからず屋に今回の俺は嘘をついてないと言ってやってくれ。
「えっ・・・あっ、かつ丼?」
そうそう、やっぱこういう時は・・・ってそうじゃないっ!
「あ~あったあった皆さん、さっきのはきっとこれのことだと思いますよぉ。
先々週のゴシップ雑誌ですけどほら、多田さん『雷鳴剣の正当後継者現る』とかって持ち上げられてるでしょ。
海上家の御令嬢としてはこの記事の内容が面白くなかったんじゃないですかね」
えっ、そんなものが、う~んそういう雑誌は見ねぇからなぁ。
水島さん、グッジョブ。
「あ~そうだったんだぁ、疑っちゃってゴメンね賢斗くぅ~ん」
「だから言ったでしょ!」
「はい、ご褒美チョッポぉ~」
ふぅ~、まっ、わかればよろしいポリポリ。
でもあれだなぁ、女性が大っ嫌いだった男性と結婚するってのはよくある話。
いざ実際に会ってこの賢斗さんのあったかぁ~い人柄を知っちゃうとその強い思いは一転恋心に変わっちゃったりなんかして・・・
おや?この私なんだか新たな恋の足音が聞えて参りました。
と特に注目株の居なかったDブロックの時間はあっという間に過ぎ、次はいよいよEブロック。
ナイスキャッチに新加入した巫女装束の少女がテレビ画面に映し出された。ウワァァァー!
うわぁ~デビュー戦だってのにこの声援。
『さあご注目ください。
ナイスキャッチに新加入した話題の美少女緑山茜がテレビ初登場。
彼女はダンジョンを祀っている神社の巫女で護符スキルや神楽舞スキルが大得意、パーティーでは後方支援担当と聞き及んでおります』
『そうか、支援系の中でもバフ系ならこの大会のルール上使える。
神楽舞なら当てにし辛いテイマーズサポートなんかより余程役に立つだろうな』
うん、茜ちゃんの場合、多分烏天狗はハズレ個体だろうし。
「まだ表立った活動は殆どしていない状況ですけどそこはやはりナイスキャッチの新メンバーということでかなり注目されてますね」
開始の合図と同時に華麗な舞を披露し始める。
「いざ、豊栄の舞。シャーンシャーンシャーン
続いて剣の舞。シャーンシャーンシャーン」
薄ボンヤリとした光が全身を覆うと防御、攻撃力がそれぞれ強化、烏天狗は威圧するように対戦相手との距離を詰めていく。
それに応じて対戦相手のボクサーウルフはじわじわと後退。
やっぱ一回戦くらいは余裕だったなぁ。
なんてお気楽モードで試合観戦していた賢斗だったが、その片隅に映る少女の姿に顔色が怪しくなっていく。
ん、あれはまさか・・・また始まってる?
「いや~ん、これはもう優勝まっしぐらですぅ」
少女は両手を頬に当て身体をフリフリ。
俄かに嫌な予感が・・・
「よくやったな、茜。
いえいえこれくらい大したことないですよぉ」
あのとんでもストーリーを声の聞こえない画面越しでも何となく分かってしまう俺は天才か?
「そんなことないさ、あっ、そうだ、何かご褒美が欲しいとか言ってたっけ。
はい、勇者さまぁ、茜のファーストキスを貰ってください♡
なに言ってるんだ茜、それでは俺へのご褒美になってしまうじゃないか」
不味いっ、誰か茜ちゃんを止めてくれっ!
『おや、これはっ!鴉天狗、ボクサーウルフの脇を素通り・・・』
「でもまあそれもいいだろう、早速俺達二人のご褒美タイムと行こうじゃないか。
はぁ~い、ん♡・・・」
くっ、万事休す!
『え~、コッ、コホンッ、場外っ!』
緑山茜、予選Eブロック初戦敗退。
次回、第百八十六話 ネームド強化と桜の初陣。




