第百八十四話 エリアブースト型
いや~難産でした。アハハ、ペコリ
○エリアブースト型○
大盛り上がりだった初戦はその一方で相次ぐ審議に加え石舞台の破壊と予定に大幅な遅れをきたしていた。
とはいえその後は順調で誤審を誘発させた張本人も試合内容をガラリと一変。
普段とは一味違う高威力の大波が見事予選の場外ルールにハマり、開始十数秒で決着がつく快進撃を連発。
正午を過ぎた頃には遅れもほぼ挽回され、Aブロック予選決勝の舞台でもその勢いは止まらない。
『あっとまたもや決まったぁ、ブリリアントアクアマリンスライムの大波場外直行便っ!
ガッチリとした体格のフルムーンベアも5mを超える大波の前にあえなく場外落下だぁ!ウォォォォー!』
オッズ的には再三に渡る低評価を受けるが見事決勝トーナメント進出を果たすのだった。
イェイ、楽勝~♪さぁ~て戻るか。
「あっ、多田選手ちょっと待ってください。
これから勝利者インタビューがありますので」
えっ、予選通過如きでそんなもん必要ないでしょ。キリッ
ワァァァァ―、だがどうやらここでの彼の拒否権はないらしい。
そして勝利者インタビューの模様が巨大モニターに映し出される中、実況席では早くもAブロック予選の振り返りが行われている。
『場外ルールを最大限利用し最小限の労力で勝ち上がる。
このほぼ手の内を見せない抜け目の無さはご主人様譲りといったところか』
『アハハ、本当に2回戦以降は大波スキルしか使ってませんでしたからねぇ。
ともあれアクアマリンという名前からもあのスライムが海エリア特化型なのは容易に想像できます。
海に囲まれたギガントドーナツの立地を味方につけたこのタイプは決勝トーナメントでも頭一つ抜けた存在と言えるのではないでしょうか』
『待て待て、確かにこの建物内に居て尚海エリア特化型だけはどんな特殊フィールドだろうと常にエリアアドバンテージが得られる。
とはいえエリア特化とフィールド適正の両面を考えた場合、このタイプがとりわけ有利って話にはならねぇよ。
一応素人さん向けの説明をしておくとエリア特化ってのは得意エリアの範囲内でステータス等が上昇することを言うのに対しフィールド適正ってのはその場所で持てる能力をどれだけ発揮できるかということ。
幾ら海エリア特化型のアドバンテージ圏内つってもこのタイプの大半は海棲の魔物だし、ある程度陸戦を熟すタイプも居るがそれにしたってオールラウンダー型と比較すりゃあフィールド適正的には劣ってしまうからな。
それにどんなテイムモンスターを出場させるかってのはもっと色々な要素を考慮すべき問題だ。
少し昔の統計になるがエリア特化時の強化度合平均は大凡レベル2個分、これからすると自身のテイム力や手駒の育成状況、無差別級のレギュレーション下ではこれ等をより重要視すべきなんだよ』
『そういえばAブロック予選にはある程度陸上戦を熟せそうな海獣系のトドモンや半漁人系のマグロマンも出ていましたがオールラウンダー型の前にあえなく敗退。
素人側の私ではありますが中山さんの仰りたいことがわかった気がします。
多田選手のスライムにしろ動き自体は決して褒められたものではありませんでしたからね』
『まっ、あのスライムの動きに関しちゃ底辺劣等種が故なのか判断に迷うとこだがな。
ともあれ長期間準備に時間を掛けた主催者側だって馬鹿じゃない。
海エリア特化型がルール上特に制限されていないことにもそれなりに理由があったりするわけだ』
『しかしそうなると決勝トーナメントでの多田選手の活躍はかなり厳しいのではないでしょうか。
あの大波スキルがいくら強力だと言っても場外ルールは予選だけの特別ルールですし、試合後のお相手は皆ピンピンしていましたから』
『大波ってのは相手にダメージを与えることを主眼に置いたスキルじゃないからな。
だがあの多田賢斗がこれで終わるようなタマだと思うか?
さっきの説明をした手前幾分憚られる気分だが、ひょっとするとここまでの解釈も既にアイツの描いた策の上で踊らされてる可能性がある』
『えっ、おかしな点なんて何かありましたっけ?』
『どうだかな、だが違和感とまでは言わないが気になる点はあった。
大波というスキルは実のところ操作系スキルで海水を生み出せるわけじゃない。
陸上であの規模を実現するには大波と水魔法の両スキルをカンストさせる必要があるんだよ』
『ああ、そうなんですか』
『そりゃあのスライムが初めっからこの2つを高レベルで所持していた可能性はある。
だがそうでなかった場合、正味ひと月という限られた育成期間の大半をこのスキルギミック構築に充ててしまうのはどう考えても愚策だ』
『確かに本番は決勝トーナメントですからねぇ』
『そしてこれを踏まえて一回戦の最後を振り返ってみると、あのスライムはものの見事に自分の姿を消していただろ。
まあこっちもこっちでこれだけ見れば幻系や擬態系のスキルが簡単に推察できてしまうんだが、大波とコイツのどちらも使うとなると妙に頭に浮かんじまう魔物が居てな』
『なんですか?その魔物って』
『リバイアサンだよ、お前さんでも名前くらいは知ってるだろ』
『ええ勿論、数多の海に棲まう魔物の頂点に君臨するリバイアサンは名実ともに有名ですから。
発見されている海底ダンジョンの中で最高峰との呼び声も高いマリアナダンジョンのラスボスがリバイアサンであると判明して早30年。
シャローディープやメイルストロムといった凄まじい威力の海魔法を使われたが最後、一瞬で大型パーティーも崩壊し未だ討伐者ゼロの伝説級の怪物です。
そういえば大波や蜃気楼を使うという情報も・・・あっ』
『ニヤリ、そう、今にして思えばこの二つは海魔法によるものだって考えるのが一番シックリくる。
この魔法まで知ってるとはお前さん、かなり上等な部類じゃねぇか』
『いや~それほどでも、アハハ。
ですが魔法の威力は使い手の魔力に依存しますし、あれが海魔法だったとしてもリバイアサンと同じくらい強いということにはならないと思いますよ』
『俺は別にあのスライムがリバイアサンと同等の強さだなんて言うつもりはねぇよ。
だがあの伝説級の怪物を最強足らしめている海魔法にはまだあまり知られていない秘密があってな。
エリア外での効果が極度に抑えられる分海エリアでの効果が爆発的に跳ね上がる、云わば魔法自体がエリア特化型なんだよ』
『えっ、それってつまり、いや、ちょっと待って下さい。
もしそうであるなら他との相乗効果で通常の特化型とは比べものにならない・・・』
『フッ、流石に頭の回転が速いな』
テイムの可否を語るなら常識的にはまず不可能。
『他のエリア特化型とは一線を画した特定エリアに超特化するSクラスの危険種』
だが北村和也の鵺然り、紺野かおるの一角天馬然りこの常識は既に過去のものとなりつつある。
『この手の魔物が出るダンジョンは国が進入禁止にしてるし世間的に馴染みはないだろうが、その筋の人間にはこう呼ばれている』
新時代の足音、ここでもその先頭に居るのはお前なのか?賢坊。
『エリアブースト型ってな』
とAブロック予選の振り返りの最中、お立ち台に上がらされたその少年の様子は・・・
『そっ、そっすね』
『ウフッ、あのナイスキャッチのリーダーということで何かと注目の集まる多田選手ですが決勝トーナメントでの更なる活躍も期待しております』
『あっ、ども』
『ということで最後に応援して下さっているファンの皆様に向け二言、いえ三言はお願いします』
むっ、一言じゃダメなのか、くそっ。
『おっ、応援ありがとうございました。
決勝トーナメントも頑張りますので引き続き応援よろしくお願いごじゃりま・・・くぅぅぅ』
『クスッ、やはり多田選手はサービス精神旺盛ですね。
どうもありがとうございましたぁ~♪』
悪戦苦闘の末、してやったりの女性インタビュアーを向こうに観衆の期待に見事応える撃沈の一幕を演じていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○鵺○
自分の試合は終わったが今日はまだ茜のEブロック予選も控えている。
本日はもうお役御免の賢斗だが、向かった先は乗って来たフェリーの客室でここは大会期間中試合の無い選手達の待機場所としても使われていたり。
「ガチャ、ただいまぁ」
「あっ、サービス精神旺盛さんが帰って来たぁ~」
五月蠅いっ、ほっとけ。
「勇者さまぁ、とっても素敵でしたぁ」
ほう、これが噂に聞くラブビジョンという奴か。
「民衆の期待に全力で応えるお姿、大変ご立派でしたよ、テイム大臣」
一々秘書感をだしてくるなっ!鬱陶しい。
ったく、そのポジション楽しそうだな。
「じゃあ多田さんも帰ってきたところでお昼にしましょうか。
今からルームサービスを頼むので好きなメニューを選んでください」
うんうん、お腹すいちった、おっ、もうBブロック予選が始まるのか。
つけっ放しにされた部屋のテレビに目をやると・・・
『いよいよ今大会の大本命、北村選手の登場です』
ウェストサイドゲートが開き大型トレーラーが乗り入れて来る。
は~ん、やっぱあのオッサンまだテイマーズコールも使えないみたいだな。
ほどなくコンテナの扉が開くと体高3m程もある四足歩行の魔物が姿を現した。
顔は猿、胴は狸、足は虎、尻尾は三匹の蛇、ヒョウヒョウと鳴き声を上げ血走った眼で周囲を威嚇するその姿は黒い煙のようなオーラに覆われている。
『ああっと、これは禍々しいと申しましょうか強烈なホラーインパクト。
大本命の登場に歓声が沸くどころか場内は異様な静けさに包まれております』
うむ、アップ映像は止した方が良い。
心臓の弱い人が見たら危ないから。
対戦相手が石舞台上にレベル28の炎亀をコールすると試合開始の合図が鳴る。
いったいこの怪物はどれ程強いのかに注目が集まる中、まずは炎亀が口から火炎玉攻撃を放つと鵺はそれを避けようともせず・・・ドカァ―ン
あれ、喰らっちゃった、どったの?
『これは初手から炎亀の攻撃が命中、様子見でもしているのでしょうか』
ヒョウヒョウ~と鳴きながら全身を焼く炎にもがき苦しむ鵺、そこへと追い打ちの火炎玉が飛んで来る、ドカァ―ン
あらら、また真面に喰らっちゃったよ、これはひょっとしてひょっとするかも・・・
なぁ~んてね、これはより強さをアピールするためにあえてピンチを演出しているとみた。
やるな、あのオッサン。
『おおっ、今度の火炎玉は特別製だぞぉ、大きさがさっきまでとは比較になりません!』
先程までの2倍はあろうかという火炎玉。
レベル差を考慮してもこれを喰らえば大ダメージは免れないと思われたが、ドゴォ――ン
『ああっとぉ、これも見事に決まってしまったぁ!』
嘘、もしかしてこれマジな奴?
流石に今のは洒落にならんと思うけど・・・ワクワク
『北村選手の鵺が圧倒的な票を集めていましたが早くも試合は後半戦に突入。
このまま行けばまさかまさかの初戦敗退が待っています』
うんうん、こちらも俄かに夢が膨らんでまいりましたよぉ。
するとその時、鵺の眼が光る。
あっ、やっぱり?
全身を覆っていた炎は瞬く間に鎮静化。
フッ、ようやく来たか、全くヒヤヒヤさせやがって。
「いいかい、北村君。
鵺のオーラは憎悪のオーラ、相手の攻撃を喰らうことで極短時間に受けた攻撃に対する耐性を獲得する優れものだ」
頃合いの敵にはうちの化け物の養分になってもらわないとな。
「しかも同時に受けた憎悪を猿なら発狂、狸は幻惑、虎は威圧、蛇は石化といった4種の状態異常攻撃に転じて使うこともできる、どうだい?凄いだろう。
と言ってもあの子はカプセル育ちのお嬢様、実戦を知らない彼女を最強の女王様にできるかは君の手腕に掛かっているということを肝に銘じておいてくれたまえ」
へいへい、分かってますって教授。
こう見えて攻め時と引き際の判断だけは自信があるんでね。
「鵺、もういいぞ、この相手は用済みだ。
そろそろ反撃開始と行こうじゃないか」
ヒョォ~、主人の号令に鵺は歓喜の鳴き声を上げた。
『なっ、なんだぁ?この攻撃はっ!』
全身を覆っていた黒オーラが放出されると炎亀がその黒い煙に包まれる。
『ああっと、これはっ!』
黒煙が晴れそこに残されたのは鈍い灰褐色となり完全に凝固した炎亀の姿。
石化による対戦相手戦闘不能、主審の旗が上がると試合は2分50秒で決着を見たのだった。
「大臣、皆で相談した結果オーダーは全員一緒にワクワクうな重セットということになりましたが如何でしょうか?」
「うむ、それもたまにはいいんじゃないか、紺野君」
失くしたワクワクは早めに取り戻すとしよう。
次回、第百八十五話 脱ぎたて♡淫靡テーションブーメラン。




