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第百八十一話 テイマーズバトル予選抽選会

○テイマーズバトル予選抽選会 その1○


 相模湾沖20kmの海上に浮かぶ人工島サンフラワー。

 数年前完成したこの島は本土と10分程の海底トンネルで結ばれ、国際的な海上輸送拠点として有名になりつつも、数々の宿泊施設やテーマパークまである夏のリゾート地としての顔を合わせ持つ。

 そしてこの夏、そんなサンフラワーの更なる観光面強化を目論み完成したのが収容人数10万人の多目的円形コロシアムギガントドーナツである。

 日本で唯一魔物同士の決闘が行えるこのダンジョン外施設はサンフラワー本島と2kmの長大橋で結ばれた海上に浮かび、地理的な安全面も最大限考慮。

 また短時間で5種類のフィールド変更を可能とする多層型可変フィールドやバトル時の観客席を幾重もの結界が守る多重結界バリアシステムなどを採用し世界的にみても最新鋭の技術が注がれていた。


『さぁ続いて降りて来たのは本大会の主役候補、Aランク探索者の九条琢磨っ!

 その表情からはやるべきことは全てやったそんな自信が伝わってきますっ!

 そしてサブモニターの方をご覧ください、これがレベル39のジャイアントマンモスです。

 この巨体の威圧感、うまく伝わっているでしょうか』


 ワァァァァァァーーーっ!


 8月23日午前9時過ぎ、既に観客席の9割方は満たされ、巨大スクリーンには大型フェリーから続々と降りて来る出場者達の姿が彼等のテイムモンスターを撮影した録画映像と共に映し出されている。


 一方その同時刻、コロシアム最上階にある関係者用フロアの一室ではテイマーズ協会会長斎藤雅、現Sランク探索者中山銀二、DDSF隊長大黒鉄也の三人が盛り上がるコロシアムの様子を見下ろしていた。


「よかったな、みやちゃん。

 テイマー協会長としての初イベントが大盛況で。

 今日明日の予選日チケットまで完売したそうじゃないか」


「おおきに、そやけどここ借りるのにべらぼうな賃料取られとるんやで。

 これでもカツカツがいいところや」


『そしてこちらはもう一人の主役候補、登録締め切り間際に下馬評を大きく塗り替えた人物、北村和也です。

 不敵な笑みを浮かべる彼の身体レベルは13。

 しかし驚くことなかれ、テイムしたのはなんとレベル45の鵺でありますっ!

 いったい何をどうすればこのような芸当が可能となるのでしょう』


 ちっ、アイツかぁ、ったく、最後の最後にえらい奴が出て来てくれたもんだぜ。


「おい銀二、お前はアレをどう見る?」


「あん、全出場者が出揃った今、あの怪物は間違いなく今大会最強、チート級の化け物だな。

 それを使役するテイマーの熟練度が足りてない点を加味しても結果の方は変わらんだろう」


「おいおい、俺が聞きてぇのは大会予想なんかじゃねぇよ。

 お前も口にしたようにレベル45つったらもう立派な化け物クラス。

 そんな魔物をレベル13ぽっちの奴さんがちゃんと管理できてんのかって話だ。

 仮にこの海上施設でアレが暴れ出しでもしてみろ。

 10万の大観衆がパニックになり兼ねねぇぞ」


「ふっ、鉄、そりゃお前の職業病だ。

 確かにテイム状態ってのはレベル差に大きな開きがある程不安定になり勝ちだって話は間違っちゃいない。

 だがそもそもそれが起こる確率は交通事故以下って話だ。

 そんなもん事故が怖くて車に乗らねぇのと一緒で、一々気にしてたらまたお前白髪が増えちまうぞ」


「そうやそうや。

 それにたとえ魔物が暴れ出すような事態になってもこのギガントドーナツには最新鋭の結界シールドが張られてるんやで。

 取り越し苦労もいい加減にしときや」


「うるせぇっ、お前等もちったぁ最悪の事態って奴を想定しやがれってんだっ!

 このお気楽夫婦が」


 世の中絶対なんてものはねぇ。

 その結界シールドだって何処まで持つか分からねぇだろ、ったく。


「おい、ちょっと待て、鉄。

 俺達はまだ結婚すると決まったわけじゃないぞ」


「なんや、アンタ。

 アレ見てもうてまだそないなこと言うとるんかいな」


 ぐぬぬっ、確かにあんなのが出てきちゃこれはもう完全に詰んでるか?タラリ。


「あっ、そっ、そうだみやちゃん、ボクシングには階級制度ってのがあるだろぉ?」


「そやな銀二君、せやけど今更遅いで。

 もう大会当日やし。ニコッ」


「ガハハ、いい様だな、銀二。

 大方お前はゴールデンエスカルゴ時代の鉄の掟、雅に手を出した奴は真っ裸で繁華街全力疾走の刑を気にしてんだろ」


 当たり前だ、今の俺があんなことしたら洒落にならん騒ぎになっちまうだろっ。


「だが安心しろ、あれから10数年、俺も敏夫もとうの昔に結婚したし大人になった。

 あの忌まわしい掟はこの際時効ってことにしといてやるよ」


「なにっ、それホントか、鉄っ!」


 パーティー解散後も掟は存続の一点張りだったコイツの口からまさかこんな言葉が飛び出すとは。


「なんや、そないな協定があったんかいな。

 どおりでこの人昔ちょいちょい留置所にお泊りしとった気がするわ」


「まあ未だにお前等二人が一人身を貫いてるってのはつまりそういうことなんだろ。

 流石に結婚しても雅が子供を産めないなんてことになっちまったらこっちの罪悪感も半端ないからな」


 ハハ、そっ、そうか、長年繋がれていた枷から解き放たれた気分だ。

 そして最大の障害が無くなった今、みやちゃんとの結婚を妨げるものは何もない。


 はずなんだが・・・


 次代の若者達に夢の続きを託すこともまた美徳だと思える歳になっちまった。

 だがその反面やりたいことは減るどころか増えていく。

 あと1年、いや半年、夢を追う今少しの猶予って奴が俺は欲しかったんだがな・・・


「あっ、噂をすれば出て来たでぇ」


 ワァァァァァァーーーっ!


『さぁこの大歓声をお聞きください。

 最後に降りて来たのは今や時の人、Sランクパーティーナイスキャッチのメンバー達です。

 その人気だけなら優勝間違い無しといったところですが、このテイマーズバトルではいったいどんな活躍をみせてくれるでしょうか』


 いや~船なんて小学校以来だったなぁ♪

 まあ潜水艦にはちょいちょい乗ってましたけど、アハハ。

 おっ、やっぱ近くで見るとデカいなぁ、ギガントドーナツ。


「ほら賢斗ぉ~、あそこにカメラあるよぉ~」


 あっ、ホントだ、イェ~イっ!


『ああっとリーダーの多田賢斗ぉ、カメラに向かってVサイン。

 これはまさかの優勝宣言でしょうかぁっ!』


 おっ、お前まさか、あの怪物相手にやれんのかっ?!


 えっ、あっ、いやいや、カメラ見るとついついVサインしちゃうでしょ?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○テイマーズバトル予選抽選会 その2○


 大会プログラムの進行は最初にコロシアム5階の大広間で予選トーナメントの枠順を決めるくじ引き抽選会を行い、その後に開会式という運び。

 先ずはその予選抽選会の模様が今や遅しと待つ観客の下へと届けられていた。


『さあ皆様、メインスクリーンをご覧ください、早速予選トーナメント抽選会の模様が映し出されております。

 今大会の出場総数は250名以上、初日、二日目はA~Pの16ブロックに分かれた予選トーナメントが行われ、そこで勝ち残った16名により決勝トーナメントが行われるという運びになっております。

 果たして決勝トーナメントに進むのは誰なのか?

 この予選トーナメントの枠順も大変重要と言えるでしょう』


 そしてこちらはその抽選会場の様子。


「そろそろ予選トーナメントの抽選会を始めます。

 今回この抽選順は主催者側の意向により登録者のテイムモンスターレベルが高い順に行っていきますのでご了承ください」


 まっ、そっちの方が見てる方も盛り上がりそうだもんな。


「それでは最初の抽選者はテイムモンスターレベル45の鵺、北村和也選手、檀上の方へどうぞ」


 にしてもこれは参ったな、ホントにあのオッチャンが一番最初に呼ばれてるじゃん。


 昨夜の最終調整で覚えたスラ太郎のブリリアント魔力砲であれば九条のジャイアントマンモスを倒せるかもしれない。

 そんな期待を胸にこのギガントドーナツまでやって来た賢斗だったが彼が水島からこの北村和也出現の報を聞かされたのは会場入りした後のこと。

 またあれ以降魔石集めにも注力してはいたが如何せん燃費の悪いあの技を十分な威力で放てるのは恐らくこの大会では1回が限度といったところ。

 勝てる見込みすら無かった昨日までと比べれば少しはマシだが、この北村と九条が潰し合いでもしてくれない限りナイスキャッチメンバーの優勝は夢のまた夢といった状況となっていた。


「ガラガラガラ、コロン、出ました、北村選手はBブロック2番。

 今日の午前中には彼の鵺を見ることができそうです」


 ここまで凄いテイマーだったなんて聞いてないっつの。


「続きましてテイムモンスターレベル39のジャイアントマンモス、九条琢磨選手こちらまでお願いします」


 そしてこっちの九条って人が昨日までの日本テイマー界ナンバーワンか。

 う~む、こうなったら奥の手を試してみるか。


 ムムムムムゥ、あの人もBブロックを引いてしまえっ!


「なにやってんのよ、賢斗君」


「えっ、いやちょっと俺の念力パワーでトーナメントの抽選操作を・・・」


「ガラガラガラ、コロン、出ました、九条選手はJブロック1番。

 こちらは予選2日目の第一試合、明日の予選も見どころ十分となりそうです」


 ・・・ちっ、ダメだったかぁ。

 確率は16分の1、流石に2連荘でBブロックが出るミラクルはそうそう起こりませんなぁ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○テイマーズバトル予選抽選会 その3○


 とはいえまだ決勝トーナメントの枠順決定も残ってる。

 ここは俺達メンバーの誰も欠けることなく決勝トーナメントに進めるよう全力を注ぐ方向に切り替えるとするか。


「では次、レベル35の烏天狗をテイムする緑山茜選手ご登壇ください」


 あっ、そうだった、下馬評番付を一つ下げたが茜ちゃんはなんとか3番手をキープしてたんだった。

 ホントだったら俺があの九条って人から大金星をあげ、その隙に茜ちゃんが優勝するってのが俺の描いた筋書だったんだが。


「勇者さまと同じブロックになりますようにぃ、せ~のっ」


 おい巫女さん、祈るんなら他のメンバーと同じにならないよう祈っとけ。


「ガラガラガラ、コロン、出ました、緑山選手はEブロックの16番となりました」


 まあ兎も角、まずは茜ちゃんがBとJブロックを回避か、まずまずの滑り出しだな。


「では続きましてレベル35のアブノーマルバタフライを擁する市村紫苑選手お願いします」


 ふ~ん、この人も同レベルの3番手に上がってたのか。


「ガラガラガラ、コロン、出ました、市村選手はHブロック8番。

 二日目午後の試合となります」


 まっ、最悪俺的にはHブロックもアリだな。


 市村のテイムモンスターアブノーマルバタフライは状態異常技に特化する一方で基礎能力自体それ程高くない。

 賢斗の見立てでは大海のお守りという全状態異常回避のスペシャルスキルを持つスラ太郎であればブリリアント魔力砲を使わなくてもかなり善戦できると踏んでいた。


 つっても、できることなら格上の居ないブロックを引き当てたいところだけど。


「続きましてレベル34、モフモフラビットの海上愛梨選手、こちらまでご登壇ください」


 で、5番手が雷鳴剣の生みの親、海上司のお孫さんか。

 へぇ~、駆け出し探索者アイドルって話だったがいやいや。

 あの隙のない立ち居振る舞いは剣士のソレ、滲み出るオーラがこの賢斗さんの目にはしっかり見えてますぞ。

 なぁ~んて適当なこと言ってみたりして。


 っておやおやぁ、直に見るとこれまたすんごい美少女じゃないっすかぁ。

 美少女免疫持ちのこの賢斗さんがビックリしちゃうなんて、うむ、君は特Sランクに認定してあげましょう。


 っておやおやおやぁ・・・

 なんで目が合ってんの?


 壇上に上がった彼女は僅かに首を捻ると賢斗の方へ凍った視線を一つ。


 う~む、やっぱ俺を見てるよな?

 しかもあんなに熱い視線を・・・はっ、これはひょっとするとあの美少女は俺のファンっ?!

 結構有名になっちゃってるし、この可能性は否定できませんぞ。


「なによ賢斗君、あの海上愛梨って探索者アイドルと知り合い?」


「いやぁ~知り合いってわけじゃないっすけど」


「そう、ずっと君の方見てるから知り合いなのかと思っちゃったわ。

 でもそれなら彼女の目があまり良くないだけだったみたいね、なんか目つきも悪いし」


 おや、目つきが悪いとな?

 アレはてっきり恋する乙女の熱い眼差しかと・・・


「ガラガラガラ、コロン、出ました、海上選手はCブロック4番に決定しましたぁ」


 そんな彼女は結果が出ると壇下に降りる際・・・


「スタスタストーン、ドテッ、あっ、大丈夫ですか?海上選手」


 あらあら、なんと見事な落ちっぷり、残念だが先輩の意見が正しいようだ。

 まっ、目があっただけで気があるなどと勘違いするのは男の性、気をつけるとしよう。


「こっ、このくらい平気です、キッ」


 っておい、また睨まれてるんだが?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○テイマーズバトル予選抽選会 その4○


 その後6番手には二人目のナイスキャッチメンバー小田桜が壇上に呼ばれる。


「ほ~い」


「ガラガラガラ、コロン、出ました、小田選手はPブロック15番です」


 おっ、桜は明日の最終予選かぁ。

 にしても流石はうちの大先生、俺のなんちゃってサイコキネシスとは一味違いますなぁ。

 番付上位者の居るB、C、E、H、Jブロックを避けつつ全トーナメント枠中唯一第1試合が回避できるシード枠を引き当てるとは。


「先輩もなるべくB、C、E、H、J、Pブロックは避けて下さいよぉ。

 つってもこればっかりは運次第ですけど」


「まあ任せておきなさい、桜には及ばないにしろ私のLUK値だって結構高いんだから、君は自分の心配でもしてなさい」


 確かにそうだが、この自信たっぷり感は逆に心配だ。

 この人、ここ一番でやらかす節があるし、う~む。


 それから数人のトーナメント抽選を経てかおるは14番目。


「どうかB、C、E、H、J、Pブロックになりませんようにぃ!」


 おいおい、そんなにお願いしちゃったらアンタの場合多分逆効果だぞ。


「ガラガラガラ、コロン、出ました、紺野選手はAブロック1番です。」


「やったぁ♪」


 おや珍しい、俺の嫌な予感も杞憂におわったか。


「ほら、言ったでしょ。

 違う方を引く方が確率は高いんだから、こんなの当り前よぉ♪」


 まっ、確かにそうなんだが・・・解せんな。

 ・・・はっ、そうか。


「ええ、御見それしました。

 記念すべき第一回テイマーズバトル大会。

 その最初の試合枠を引き当てるとは、もうこれは神様が先輩はテイム大臣だって言ってるようなもんじゃないっすか」


 この称号があればたとえ優勝できなくてもテイム大臣くらいにはなれる。


 賢斗の言葉を聞いた彼女の顔は笑顔のまま凍りつく。


 ふっ、そう落ち込むな、アンタは精一杯最高の仕事をしてくれたさ。


 そして迎えた18番手、ようやく賢斗の順番が回ってきた。


 さてAブロックも埋まったからあと残る当たり枠は9つ、つっても俺の場合最悪Hブロックもアリだから実質16分の10を引き当てる簡単なお仕事ってとこか。

 俺のLUK値だって今や一般平均は遥かに上回る数値だし、何かの間違いでも起こらん限りここで薄い方を引くようなヘマはしないはずだ、うんうん。


 と分かっちゃいてもやっぱりちと緊張してしまいますなぁ、流石に予選落ちじゃあ中山さんに合す顔ないですし。

 っとイカンイカン、この賢斗さん最大の敵はプレッシャー。

 ここは何も考えず気を楽にしてこのガラガラを回すことに注力するとしよう。


 いざっ!


「ガラガラガラ、ビクッ、コロン、出ました、多田選手はAブロック2番になります」


 えっ、嘘・・・クルリんこ。


 振り返ると視線の先の彼女は鬼気迫る形相で念力送信ポーズ。


 おいお前、言いたいことが山ほどあるんだが。

次回、第百八十二話 厄介なジレンマ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。一連托生が彼女のキャッチフレーズだと思われますね。墓穴を掘る主人公とは相性が良いかと笑
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