第百八十話 ぼりゅ~みぃ⤴♪ぼりゅ~みぃっ⤵!
○最終調整と月面ボーナス その2○
「ほら円、幼女化するのまた忘れてるわよ」
ちっ、余計なことを。
久々なんだし偶にはこんなご褒美のひとつくらいあってもいいじゃねぇか、イィーだ。
かおるの言葉に円は直ぐ様幼女化、満足顔の箱入り娘を睨み付ける賢斗だったが今は先程の不可解な事象も気になっている。
気持ちを切り替えると彼は円のキャットクイーンスキルをチェックしていくことにした。
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『クイーン猫パンチ』
種類 :アクティブ
効果 :猫人化して放つ手加減パンチ。自分のレベル+1以下の相手のHPを強制的に1まで削る。
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おや、自分のレベル+1以下に上方修正されとる、なんで?
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『クイーン猫キック』
種類 :アクティブ
効果 :猫人化して放つ固定ダメージキック。当たれば必ずHPを2削り取る。
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そしてキックの方は固定ダメージが倍に・・・
まっ、1が2になったところで大差ない感じだが。
「どうですか?賢斗にゃん。
これが先程レベル11になったライク ア ビーストの新たな力ですにゃん」
へっ、これってライク ア ビーストが関係してんの?どれどれ。
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『フルムーンビースト』
種類 :パッシブ
効果 :満月パワーが満たされると本能系スキルに上方修正を与える。
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お~こりゃ凄い、他のスキルにまで影響を与えるとは流石リミットブレイク後に覚える特技は一味違うな。
にしてもこの満月パワーって月面だと常時満たされてるって解釈でOKなのか?
いやだとすればこれはひょっとして・・・
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『クイーン猫エボリューション』
種類 :アクティブ
効果 :野生の本能が解き放たれ、一時的にレベルが2倍に跳ね上がる。効果時間5分。クールタイム72時間。満月の日のみ発動可能。
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おおっ、こっちも何気に効果時間が5分に延びとる。
だが今確認すべきは・・・
「円ちゃん、試しにちょっと猫女王様に変身してみてくれる?」
「えっ、賢斗にゃん、今日はまだ満月日ではありませんにゃ?」
「うんうん、そんなの無理に決まってるじゃない」
「まあ無理だってんならそれはそれ。
でもクイーン猫エボリューションの満月日条件は月面だと何時でもクリアされている可能性も考えられるって思いません?
うまくすればこっちなら3日に1回猫女王様に成れるかもしれないんですからこれは絶対確かめておくべきです」
「あ~言われてみればそうねぇ、満月日どころか実際に月まで来ちゃってるんだもの。
分かったわ、だったら円、賢斗君の背中から下りなさい。
猫女王様状態での賢斗君おんぶは禁止事項なんだから」
「ちょっとせんぱぁ~い、この重要な検証の前にそんなしょうもない禁止事項なんてどうだっていいでしょ」
「そうはいかないわよ。
君はどんな時だって下心だけは忘れない強い心の持ち主じゃない」
ちょっと褒めてる感出して丸め込もうとするんじゃない。
「ほら円、今の内に早く賢斗君から下りなさい」
「恐縮ですがお断りします、かおるにゃん。
この背中から下りるくらいなら私はどんな羞恥にも耐えて見せますにゃん」
おお、よく言った円ちゃん、俺の背中は君のモノだ。
「ちょっとなに馬鹿なこと言ってんのよ。
アンタが耐えられても私が見ていて我慢できないわよっ!」
傲慢を絵に描いたような人だ。
「そんなこと言われましてもこればかりは・・・」
とはいえこの執着振りはちと変かも?
いつもならここまで・・・いや待てよ。
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『マーキングLV6(18%)』
種類 :セミアクティブ
効果 :マーキングにより野生の本能が解放されステータスが上昇する。
また満月日期間におけるマーキングエリア内では満月パワーを急速チャージ、マーキング衝動が強化されると共にエリア内でのステータス上昇率が普段の10%もアップ。
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やはりか、しかもこっちに関しちゃキャットクイーン以上に強化されとる。
まっ、本能系の度合いでいったらこっちの方が上っちゃ上の気もするけど。
このマーキング衝動の強化が上方修正なのかはさておき、円の執着がスキルの副作用的効果であるのなら致し方なし。
う~む、にしてもこれから月に居る間はずっと円ちゃんをおんぶしていなきゃならないのか?
かおるも不承不承ながら理解を示すしかなく先程の検証は円をおぶった状態で行われることになった。
まっ、低重力な上に幼女化してりゃあ、空のリュック背負ってるようなもんだけどな。
ともあれ今はそんなこと考えてる場合じゃない。
さぁ来いっ、今度こそ存分に堪能してやるっ!
賢斗はドキドキジェットまで発動してスタンバイ。
すると発動したクイーン猫エボリューションは見事にその効果を発揮する。
おおっ、やはり満月日条件って奴はっ。
以前にも増して野性味を帯びたその身体つきはグラマラスの極み。
ムニュゥゥゥ、くぅぅぅ~、このかつてないほどの質感とボリューム。
そして今の俺なら真っ裸の女王様が俺の背中にその肢体を押し付けていることまでイメージ可能・・・
あっ、ヤバい、幸せ過ぎて頭ん中が桃色に・・・
幸福限界を超え思考を放棄した彼は鼻血を垂らしつつ左拳を高らかに振り歌いだす。
「ぼりゅ~みぃ⤴♪ぼりゅ~みぃっ⤵!ぼりゅ~みぃ⤴♪ぼりゅ~みぃっ⤵!」
「まあ、勇者さまったら歌を♡」
「なに悠長なこと言ってんのよっ!
はいこれ円、即席で悪いけど胸当て鉄板を作ったわ、早く着けなさい」
「えっ、あっ、これを着ければかおるにゃん的にもOKですにゃ?」
しかし円が胸当てを着用しようが既に賢斗の意識は遥か彼方、その歌声が止む事はなかった。
「賢斗ぉ~、帰ってこぉ~い、ペチペチッ」
「桜、そんな優しいやり方じゃ効果ないわよ。
いい加減その変な歌を止めなさいっ、パチンッ!」
「ぼりゅ~みぃ、ブヘッ、はっ、今のはっ!
ありがとう先輩、どうやら今度の僕は遥か彼方の桃源郷に飛ばされていたようです」
「よかったわね、また帰って来れて」
かくしてこの月面では円のスキルに様々なボーナスがもたらされていたことが判明。
今後の彼等にとって実に明るい材料であることは言うまでもないだろう。
「むふぅ、賢斗にゃん。
私のエボリューションを使えばこちらの月ダンジョン攻略も簡単ですにゃん」
うむ、月に来る度毎回猫女王様に成れるのはデカい。
下手したらホントに俺達がこの月ダンジョン攻略者第1号に成る可能性すら出て来たな。
まっ、攻略する気など更々ないですけど。
「よぉ~し、じゃあ来週からは月ダンジョン攻略に乗り出すぞぉ~」
おいおい。
「よく言いました、桜にゃん」
いやいや。
「待て待て、お前等。
確かにキャットクイーンのスキルギミックは最強レベルの代物、単純に考えれば今のレベルからしてレベル60超えの魔物すら瞬殺できるということになる。
だがしかしそれはあくまで発動できたらの話であってそう簡単にいかないのはこれまでの経験で分かってるだろ」
「そうねぇ、レベル60なんていったら地球基準じゃもう伝説級の化け物。
お相手もキャットクイーンみたいな凄いスキルを持っててもおかしくないし、安易に限度上限ギリギリの敵に挑もうとするのは命とりよ」
うんうん、これはあらゆる可能性を考慮した上で慎重に運ぶべき事案。
流石に先輩も俺と同意見みたいだな。
にしても・・・
ほう、その歌をうたうか、この最果ての地で我が同胞に出会えるとは・・・
思考がピンクに染まる時、伝説の扉は現れる。
さあ若者よ、この扉を開けるが・・・ブヘッ!
あの爺さん・・・誰だったんだ?
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○最終調整と月面ボーナス その3○
さてようやく止まって居た最終調整活動を再開。
ここからは賢斗の雷魔法作戦ではなくより消耗面や討伐速度に優れた雑魚処理システムで凡そ10km先の通路区間最奥を目指し足を踏み入れていくことに。
「スラ坊、魔石の回収は頼んだぞぉ」
(了解です、マスター)
「賢斗君、スラ君に魔石を回収させるの?」
「ええ、魔石くらいの大きさだったらコイツでも体内に取り込んでおけると思いますし、俺達が一々拾って周るのも大変じゃないっすか」
「いやそうじゃなくって、集めたって協会で売っちゃイケない話だったでしょ?」
「ああ、まあそれはそうなんですけどなんか勿体ないでしょ。
それに何時か世界の誰もが自由に月ダンジョンを探索できる未来なんてものが来るのだとすれば、こっちの魔石だって売ることができるようになるかもしれない。
そん時のために取っておいてもいいんじゃないかと」
「ふ~ん、まあその頃には私達全員、お爺ちゃんお婆ちゃんになってるかもだけどね、うふっ」
その可能性も全然あるわな。
進み始めてしばらく、背中の猫幼女は軽快に押し寄せる敵を葬っていく。
にしてもほぼ瞬殺で敵の攻撃は飛んでこないし、円ちゃん以外は結構余裕あるなぁ。
「ぼりゅ~みぃ⤴♪ぼりゅ~みぃっ⤵!」
先生に至ってはうたっとるし。
「あっ、色違いだぁ~」
おおっ、一際目立つな、あのショッキングパープルは。
つっても円ちゃんの前でこれだけ魔物が大量湧きしてりゃ、レアが混じるのも当然か。
ちなみにこの賢斗の認識は少しずれている。
本来キャットクイーンの特技招き猫(雌)の効果は悪魔系対象外。
この結果も先程の検証で判明したフルムーンビーストによる上方修正がもたらしているのである。
ともあれそんな道中も5km付近、既にその討伐数も100を超えた辺りに差し掛かると・・・
「賢斗にゃん大変です、急に敵が倒せなくなりましたにゃん」
あ~この辺がレベルアップラインになってるのか。
この展開は頭になかったなぁ、ここは引き返した方が・・・
レベル36といえば今の賢斗達にとっても結構な格上、そんな敵が大量湧きするそこは一転死地へと変貌していく。
って、おいおい、結構な修羅場じゃねぇか、こんなこと悠長に・・・
「ヤバいぞっ!皆っ、緊急退・・・」
撤退指示を出す間もなく放たれる火球。
即座にプチデビルン達の集中砲火が賢斗達に襲い掛かろうとする時・・・
後方にて魔石回収に勤しんでいた多田スラ太郎さんの全身が目も眩むような光を放つ。
ピカァァァ~~~ン、ビィィィィィーーーっ!
えっ、なにこれ?
「うわぁ~、ビームだぁ~っ!」
攻撃を打ち消すように飛んでゆくエネルギー砲はその先に居るプチデビルン達をも一掃してみせた。
「凄いぞっ、スラ坊っ!
何時の間にこんなことできるようになったんだ?!」
(はい、先程レベルアップした時にできるようになりましたぁ)
ほほう、どれどれ。
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『ブリリアント魔力砲LV1(15%)』
種類 :アクティブ
効果 :取り込んだ魔石をエネルギー源とし眩い光と共に放たれる魔力砲。威力はスキルレベルと蓄積された魔力に依存。クールタイム1時間。
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う~む、こんなスキルを覚えるってのはロボ車掌のビーム砲を受けた経験が活きてるのかもしれない。
まっ、何はともあれレベル1でこの威力・・・
こいつは飛んでもねぇ奥の手を手に入れちまったのかもしれない。
「ところでスラ坊、これを撃つのに魔石も消費するみたいだが、回収した魔石をどんだけ使ったんだ?」
(えっ、マスター、全部ですけど何か?)
全部って・・・恐らくここまでで100個以上はあったはず。
そりゃこの馬鹿げた威力も頷けるわけだ。
その後ダンジョン外に転移した賢斗達は再びダンジョン内に突入、レベル36個体の出現区域だけをループし、安全に育成活動は進められていく。
休憩を挟んだ午前1時頃には円が一つレベルアップし、それに合わせ彼等の活動範囲は8km付近まで延びた。
そして午前5時を迎えた頃には円がもう一つレベルアップしとうとう通路区間を完全制覇。
テイムモンスター達の育成具合もスラ太郎がレベル31、一角天馬がレベル33、五右衛門さんがレベル34、烏天狗がレベル35とたった半日の活動成果としては十分といったところであった。
まっ、大会優勝は厳しいかもしれんがこれでもかなり頑張った方だろ。
「お蔭様で私もレベル30になっちゃいましたぁ。
そろそろお荷物卒業ですね」
まっ、茜ちゃんに関しちゃレベル云々じゃなく烏天狗込みってことなら単独行動も安心できるかな。
支援系メインのスキル構成だし。
「ねぇねぇ、フィールドエリアもちっと見ていこぉ~?」
ん、まあ折角ここまで来たんだしチラッと見るだけなら、どれどれ。
軽い気持ちで覗いてみればそこかしこにグツグツと蒸気を上げる池が点在する岩石エリア。
しかしその視界の悪さ以上の危険度に直ぐ気付かされる。
ヤバいな、ここ。
入った途端脳内マップが真っ暗になっちまった。
再び通路区画に戻れば脳内マップは回復、しばし行ったり来たりを繰り返しその原因を探ってみたが今はこのダンジョンを攻略する時ではない。
徹夜明けの彼は気持ちを切り替えると最終調整の終わりを告げるのだった。
「まっ、取り敢えず今日のところは帰ろうぜ、ふぁ~眠みぃ」
次回、第百八十一話 テイマーズバトル予選抽選会。




