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第十八話 モンチャレへの切符

○活動再開○


 4月21日日曜日午前9時。

 白山ダンジョン協会支部のフードコーナーでは久しぶりにナイスキャッチの面々が顔を揃えていた。


「ホントに火傷は治ったの?」


「無理はダメだよぉ~。」


 疲労自体は回復していたが火傷の痛みで金、土の二日間を完全休養に当てていた賢斗。


「うん、まあまだ少し痛いけど、このくらいなら全然平気。

 二人とも今回は色々心配してくれてありがと。」


 挨拶を済ませ、アイスコーヒーを買ってきてから改めて席に着く。


「じゃあさぁ、今日は睡眠習熟だよぉ~。」


「おう、随分お待たせして悪かったな。

 ちなみに桜は何を取得するつもりなんだ?」


「私はすっごい派手なやつぅ~。賢斗はぁ~?」


 派手な奴って何だよ?


「俺は雷魔法だな。

 ほら、勇者スタイルも良いかなぁとか思ってさぁ。」


「うぉ~、なんか超かっこいいねぇ~。」


「先輩は?」


「う~ん、私は風魔法かな、ってそれより賢斗君は足痛いんだったら回復魔法とかにしたら?

 取得できるか分からないけど。」


 ああ、回復魔法か、確かにまだ足が痛いしなぁ。

 まっ、それ抜きにしても回復魔法士ってある程度最大MPを上げた探索者にのみ許された職業、収入もかなり良いって話だし、う~ん、アリだな。


 その後のミーティングでは、今回の睡眠習熟に当たり監視役を立てる事が決定した。

 賢斗が一人の時はそんなもの立ててはいなかったが、三人居るのであればという事でその必要性を各々が了承。

 そして今回その監視役に選ばれた人物は・・・


「もっかい、ジャンケンしよぉ~。」


 かなり楽しみにしていた彼女であったが、この結果に加え怪我で回復魔法を取得する賢斗とまだ魔法スキルの無いかおるに最後には渋々ながらも納得した台詞を口にしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○睡眠習熟○


 午前10時、ミーティングを終えた三人は白山ダンジョンに入った。

 ダンジョン内では誰にも認識されずに放置されたダンジョン外物質は、魔素化し消失する。

 途中大岩ポイントの岩陰を覗いた賢斗は、残されていた筈のカップ麺の残骸が無かった事にその認識を改めて確認していた。

 その後、足の痛みを庇う賢斗を少女二人が先頭に立ちフォローする中、二度のゴブリンとの戦闘を経た彼等は右ルート宝箱部屋まで辿り着いた。


 宝箱部屋に入ると宝箱の後ろ側に桜、前面に賢斗とかおるが並んでしゃがみ込むと睡眠習熟のスタンバイOK。


「それじゃあ、いっくよぉ~。」


 桜が宝箱の後ろ側から上蓋を持ち上げる様に開けた。


プシュー、ドサッ、ドサッ


 白いガスが吹き出すと賢斗とかおるの身体は横倒れとなった。


 おっ、よしよし、今回もちゃんと睡眠習熟の準備が無事整ったな。

 って事で今回取得を目指す回復魔法何だが・・・まっ、習熟方法を考えるのはハイテンションタイムに成った方が良いか。


 ドキドキジェット、発動っ!


 えっと、自身の怪我の回復を単純にイメージした場合、使われるのは体内魔素の変換エネルギー。

 しかし回復魔法は自分以外の他人の怪我を直すといった側面もあり、その際使われているのは体外魔素や魔法を掛ける対象の体内魔素変換エネルギーだったり。

 仮に自身の体内魔素のみで回復イメージを構築した場合、自己治癒的スキルが取得されてしまう可能性大。

 なるほどねぇ、って事は今回自分の火傷を直したい訳だが、その回復イメージには体内魔素と体外魔素の両方を使えば良い訳か。

 となると後は具体的なイメージ内容を・・・


 賢斗は怪我した患部の細胞が再生されるイメージを繰り返す。


 再生、再生、再生、再生・・・


 するとそれは星の瞬きのような速さで繰り返されて行った。


『ピロリン。スキル『回復魔法』を獲得しました。『ヒール』を覚えました。』


 おっ、上手く行きましたっ♪くかぁ~


 15分程経過し、賢斗が目を覚ますと足の火傷も見事に回復。


 お~、もう痛くない、いや~、魔法最高っ!

 よぉ~し、次は雷魔法も取得するぞぉ~♪


「賢斗~、どうだった~?」


「おう、バッチリ。」


 賢斗はパンパンと自分の太腿を叩くと桜に怪我の回復をアピール。


「先輩の方はどうでした?」


「うん、ビックリ、ちゃんと風魔法を取得出来ちゃったぁ♪

 何かねぇ、『ブリーズ』って魔法を覚えたみたい。

 ありがと、賢斗君。ニコリッ」


「ねぇ、かおるちゃん、それってどんな魔法ぉ~?」


 おおっ、そいつは気になる所だな。

 俺も是非・・・ってあれ、何だろう、このデジャブる感じ。

 ちょっと嫌な予感がするんだが・・・


「じゃあ早速使ってみるわねぇ~♪」


 かおるはノリノリで右手を突き出す。


「ブリーズッ!」


 その瞬間、賢斗は舌打ちを一つ。

 桜は口を大きく開けて固まる。

 そこには気まずい時間を予感させる沈黙が訪れていた。


 やっちまったな、先輩。


「あっ、ほらほら、ちゃんと風出てるから、ね?ね?」


 微風を放つ手の前に反対の手を何度も通過させるかおるの顔には悲壮感が漂う。

 俯き全てを諦めたかの様に首を左右に振る賢斗。

 事態は最悪の形で終わってしまうかに見えた・・・がその時。


「うぉ~気持ちいい~。」


 桜はかおるの放つ微風で涼み始めた。


 おお、なんとっ、あいつはまだ諦めちゃいないっ!

 ならばこの俺も。


「先輩、氷魔法も覚えましょう。クーラー要らなくなりますよ。」


「そっ、そう・・・よね、それも良いかも。ふっ、ふふ。」


 よしっ、切り抜けたっ!

 いや~、またこの間の二の舞になるとこだったぜ。

 にしてもこれはもうパーティーの成長って奴を感じざるを得ませんなぁ、ふぅ。


「賢斗も当ってみるぅ~。」


「おっ、そうだな。」


 こんなショボイ魔法に新たな使い道を示してくれた桜さんのご提案とあっては乗って上げない訳には行かないでしょう。


モワァ~


 う~ん、何この生温かくて微妙な感じ。

 こんなんで良く桜は気持ちが良いとか言えたもんだ。


「ど~お~、賢斗くぅ~ん。私の風魔法の感想はぁ?」


 はっ!チラッ・・・こっ、怖いんですけど。


「たっ、大変涼しゅう御座います。」


「ホントにぃ~?」


 助けてくれぇ~。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○フードコーナーでの一コマ○


 午後1時から4時まではスキル取得講座開催の関係で一般の侵入禁止時間となっていた。

 それに合わせ睡眠習熟後左右両ルートの宝箱から魔鉄鉱石と魔銅鉱石を回収した賢斗達は協会支部のフードコーナーでミーティングという名の座談会を開いていた。

 その座談会が10分程経過した頃、隅のボックス席を陣取っていた賢斗の耳に遠くから聞き覚えのある声が届く。


「お~い、賢斗っち~。俺超合格したっしょー。」


 ん、この声は・・・チラッ、やっぱりか。

 そういや今週の試験受けてたんだったな、あいつ。

 しかも委員長と西田さんまで・・・う~ん、実に良い絵だ。

 このままパーティー結成までゴールインしてくれる事を願おう。


「だれぇ~?」


「ん、ああ、俺の学校のクラスメイトだな。」


 仕方ない、ちょっくら相手をしてくるか。


 賢斗は席を立つとフードコーナー入口付近の三人の元へ向かった。


「試験は終わったのか?」


「ああ、もうバッチリっしょー。

 っていうかあの極上の小動物美少女は何方っしょ~?」


「あれはお前の幻覚だ、気にするな。」


「多田君凄いでしょ。みんな合格したのよっ。」


 まっ、言うても合格率80%だし・・・


「ああ、おめでと。西田さんも今日受けてるなんて知らなかったよ。」


「それはそうと体の方はもういいの?学校休んでたし。」


 さっすが、クラス委員長ともなるとクラスメイトの体調にも気を使って下さるんですなぁ。


「あっ、そうそう、風邪とか言ってたけどぉ。」


 あっ・・・そういや学校には、風邪設定にしてたんだっけ。


「ゴホッゴホッ、まっ、まあなんとか、ハーックション。」


「その様子なら大丈夫そうね。」


 おいっ、俺の迫真の演技を無駄にするな。


「あの美少女の名前を・・・あっ、賢斗っち体大丈夫っしょ~?」


 うん、こいつだけ落ちれば良かったのに。


 とひとしきり会話を済ませると賢斗は隅のボックス席に戻った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○モンチャレへの切符○


 賢斗が席に戻ると、かおると桜は何かのパンフレットを広げていた。


「何見てんの?」


 賢斗の質問にかおるは「これこれ」と表紙を見せる。


 あ~モンチャレの参加案内か。


「そういや先輩、古谷先輩が先輩は今回出るのかどうか気にしてましたけど。」


「あらそう、まあ今回はさっきまで出る気がまるでなかったし、言ってなかったかも。」


「って事は、今回も参加するつもりなんですか?」


「うん、さっき風魔法覚えたからやる気出ちゃった。」


 まっ、レベル1じゃアレだが、風魔法だって立派な攻撃魔法、レベルアップすりゃ良い感じの魔法を覚えてくれるだろうしなぁ。


「それで今回は私、パーティー部門で出場したいと思うんだけど、どうかな?賢斗君。」


 う~ん、どうと言われましても・・・

 こんな探索者資格取ったばっかの奴と一緒じゃ良い結果なんて望めないと思うんだが。


「賢斗ぉ~、ポロリもあるよ~。」


 えっ、何その魅力的な響き。


 賢斗がパンフレットを覗き見ると・・・


『~那須ダンジョン温泉ツアー、決勝大会進出者全員ご招待~』


 な~んだ、温泉か。

 混浴なら話も別だが、ポロリのポの字もねぇじゃねぇか。

 う~ん、でもまあこんな美少女二人と一緒に温泉旅行出来るだけでも十分魅力的だよな、うんうん。


「でも先輩、そんな簡単に決勝大会とか出れるんですか?」


「毎回記念参加の私が言うのもアレだけど、攻撃魔法とかあるとかなり有利だと思うんだけどな。

 参加者のパーティーレベルは私達より全然高いけど。」


「う~ん、じゃあちょっとそのパンフ貸して下さい。」


 ふむふむ・・・


********************

予選概要


第1予選開催日 4月28日日曜日

予選会場 苗名滝ダンジョン

予選内容 メンバー数と同数の魔物(レベル5)の討伐タイムアタック

予選通過ライン 討伐タイム上位100組通過


第2予選開催日 5月12日日曜日

予選会場 苗名滝ダンジョン

予選内容 メンバー数と同数の魔物(レベル7)の討伐タイムアタック

予選通過ライン 討伐タイム上位50組通過


第3予選開催日 5月26日日曜日

予選会場 越前ダンジョン

予選内容 メンバー数と同数の魔物(レベル9)の討伐タイムアタック

予選通過ライン 討伐タイム上位10組通過

********************


 ふ~ん、つまり3回のタイムアタック予選を勝ち抜けばめでたく決勝大会進出って事か。


「一応言っとくと、予選会場は他にも幾つかあって、パーティー部門の出場者は毎回全国で500組くらいだったかなぁ。」


 そんなに居るとなるとやっぱり結構厳しい気がしてくるなぁ。

 それに・・・


「これってパーティーレベルの高い方が、断然有利じゃないですか?先輩。

 魔物のレベルが固定されちゃってますし。」


「そうなのよねぇ、決勝大会まで行けばレベル差がポイントになったりするんだけど、予選は参加者も多くてそうもいかないみたいなの。

 でも討伐タイムなんて攻撃手段や敵との相性によって変わって来ちゃうものだし、やっぱり魔法が使える私達は十分有利だと思うわよ。」


 まあ魔法スキルを持ってる事自体は確かに有利だけど。


「ちなみに参加者のパーティーレベルの平均って、どのくらいですか?」


「えっと確か7前後って前に聞いたことあるけど。」


 あ~、やっぱそれだと無理っぽいなぁ・・・

 1次予選の100位以内って考えてもレベル7じゃダメなんだろうし、


「でもそんなに心配ほどでもないのよぉ、第1予選は。

 トップクラスが突き抜けてるだけで、レベル5のパーティーでも予選通過する時あるし。」


 ふ~ん・・・でもうちらのパーティーレベル3程度のもんだし。


「もぉ~、そんなに考え込まなくたって良いのぉ。」


 う~ん、でもなぁ・・・


「パーティーのレベルにしたって私達は今伸び盛り。」


 そりゃレベルが低いとレベルアップがし易いってだけですよ、先輩。


「参加費だって無料だし。」


 ん、まあ無料ってのはメリット以外の何物でもないが。


「別に予選落ちしたって、何がどうなる訳でも無し。」


 確かにデメリットは時間くらいのもんだな。


「きっと賢斗君にも、いい経験になるはずよ。」


 話のタネくらいにはね。


「それに旨く行けば、温泉ツアーにご招待。」


 とはいえ無料で温泉ツアーが当たる福引が引けると考えれば・・・


「賢斗ぉ~、ぽろりもあるよ~。」


 何処にだよっ!


 その後、賢斗達はモンチャレ大会参加申請書に記入を済ませると受付に提出。

 この日のパーティー活動を終え帰路に就いた。


 まっ、二人とも出たそうだったし、付き合ってやるか。

次回、第十九話 謎に塗れた限界突破。

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