第百七十四話 土偶ロボ車掌と光の盾
○土偶ロボ車掌と光の盾 その1○
8月16日金曜日、満月日3日目の今日は清川ダンジョンの土偶ロボ車掌を討伐する日。
午前10時、賢斗達が清川ダンジョン5階層駅に転移してみれば、背丈2.5m、褐色のメタルカラーボディに車掌服を身に纏った土偶ロボ車掌が先日放置したままの状態で立っていた。
今回の作戦もまたまず敵の背後に転移しテイムモンスター達が遠距離攻撃で一撃、その後猫女王様が最後を締めるといったシンプルな内容である。
にしてもこんな作戦がアイツに通用するのだろうか?
これ程の強敵相手にテイムモンスターの育成とか言ってる場合じゃない気もするんだが。
改めて解析した賢斗の頭にはそんな疑問が浮かぶ。
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名前:土偶ロボ車掌
種族:魔物
生体種別:魔物目土偶科ロボ属ロボ車掌種(レアランク:★★★★★)
進化形態:通常3
総個体数:5
状態:良好
特性:レベルアップに伴う演算能力向上(極大)。
レベル:46(2%)
≪能力限界値≫
HP 116/116
SM 150/150
MP 128/128
MS ∞/∞
SP 0/0
≪基礎能力値≫
STR : 48
VIT : 56
INT : 100
MND : 101
AGI : 38
DEX : 66
LUK : 35
CHA : 55
SPL : 0
【ジョブ】
『ガーディアンロボ車掌LV1(0%)』
【スキル】
『腐食耐性LV10(-%)』
【強属性】
なし
【弱属性】
雷属性
【ドロップ】
『土偶ロボ車掌AIカード(ドロップ率100.0%)』
【レアドロップ】
なし
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『ガーディアンロボ車掌LV1(0%)』
ランク :SSR
ジョブ効果 :DEX+15上昇。
【関連スキル】
『運行管理LV10(-%)』
『ルート構築LV10(-%)』
『オートメンテナンスLV10(-%)』
『超高感度レーダーLV10(-%)』
『ピンポイントバリアLV10(-%)』
『光魔法LV10(-%)』
【スペシャルスキル】
『スーパーオートカスタマイズG』
種類 :アクティブ
効果 :必要に応じパーツを生み出し改造を施す。
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八岐大蛇戦の時には転移しパンチを放つ時にはもう敵の攻撃が迫って来ていた。
超高感度レーダーに光魔法・・・
やはりこのレベルの強敵には接近するだけでもかなりの危険を伴うと考えておいた方がいい気がする。
「なあ皆、ちょっと作戦変更。
先ずは俺が偵察がてらスラ坊に一撃させてくるから皆はここで待っててくれ」
「何よ賢斗君、今更そんなこと言って」
「いや先輩、やっぱアイツかなりヤバい雰囲気出してるじゃないですか。
ここはまず勇者オーラを使える俺が奴に接近して一回様子見した方がいいと思うんですよ」
「う~ん、まあ君の意見も一理あるわね。
私もちょっと簡単に考え過ぎかもって感じてたところだし」
あの時はなんとかなったが、今回もそれが通用するとは限らない。
ここは最大限の注意を払い慎重に事を運ばなければ。
話が纏まるとスラ坊をロングソード形態に。
直ぐに飛ぶ斬撃を放てる態勢を取った賢斗は土偶ロボ車掌の背後に転移した。
すると魔物は彼がそこに姿を現すことを予知していたかのように・・・
えっ、何でこっち向いてんの?!
キランッ、ビィィィ―――ッ!
転移時の空間の歪みまで感知した魔物の目が怪しく光ると熱光線を照射。
直撃したそれは熱膨張による大気爆発を巻き起こす。ボカァ~ン
ヒュ~~ン、ドゴォ―ン
そして勇者オーラに守られているとはいえ賢斗の体は湖岸まで吹き飛ばされてしまった。
ハハ、やっぱこうなったか。
背後転移による一撃すら叶わないとはあまりのムリゲーさ加減に笑えてくるな。
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○土偶ロボ車掌と光の盾 その2○
一旦拠点部屋に撤収し作戦を練り直すこととなった賢斗達。
とはいえそこで決まった代案はあの熱光線を防ぐ盾を準備するというもので作戦自体はあまり先程と変わっていない。
ともあれその光魔法対策の防具について早速水島を呼んで相談を持ち掛けていた。
「えっ、光魔法の熱光線を反射する盾ですかぁ?」
「はい、ミラーシールド的な防具があれば光線も反射できるかなぁなんて」
「いやまあ確かにミラーシールドはかなり有名ですけどそういった完全防御の純粋なダンジョン産防具は・・・」
全ての魔法を弾き返すと言われるオールマジックミラーシールドなどはイギリスの大英ダンジョン博物館に展示されている。
また光魔法限定防御のプリズマティックシールドはその造形の美しさから過去10億円以上の高値で取引されていたり。
総じて特定の魔法を完全に防御するアイテムとなるとそれはもう立派な伝説級アイテムであり、極稀に世界的なオークションでその姿をみせたりするもののお気軽にダンジョンショップで購入できる代物ではないのである。
「一方ダンジョン産素材を使ったオリジナル防具についても・・・」
如何にダンジョン産のガラス素材を用いたとしても反射率100%の鏡や透過率100%のプリズムを作製することなど技術的に不可能。
ある程度ダメージを軽減できる程度のオリジナル防具は存在するがそれについても作れる職人が限られ完全な売り手市場、ダメージ半減効果程度の盾だとしてもそのお値段は1億円以上とかなりの高額となっている。
「・・・とまあ造形が難しい上、高レベルの熱耐性系の付与効果も必要となるので、一人の職人が作れる様な防具じゃないんですよぉ。
需要的にも完全受注生産ですし今日中に手に入れるのはどう考えても無理です」
う~む、ちと簡単に考え過ぎていたようだ。
にしても水島さん変わったなぁ、前は売る気全開でグイグイ来てたのに。
「はぁ、これじゃあ完全にお手上げね。
来月の満月日までに何かいい手立てを考えましょ」
ですなぁ、来月までお預け、しかも1億円以上もする盾を購入するとか・・・
「そだねぇ~」
なんかいい手が見つかればいいけど。
「仕方ありません、ここは富士ダンジョンの八岐大蛇討伐に切り替えましょう」
いや待てよ、ダンジョン産素材に高レベルの熱耐性付与?
「いや皆待ってくれ。
この賢斗さんに一つ妙案が閃いたんだが。ニヤリ」
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○土偶ロボ車掌と光の盾 その3○
清川1階層通路に移動すると賢斗は準備したレーザーポイントの光をスラ太郎に当てる。
「んじゃスラ坊、いくぞぉ~。ビィ~」
すると既に50cm程にまで丸々と成長したスラ太郎の身体はその光を吸収、放射状に拡散した。
透過性の単結晶宝石は光学分野でも使われている。
魔物とはいえスラ坊はジュエル系だもんな。
「おおっ!凄ぉ~い」
「綺麗ですねぇ」
ふっ、一々驚くなよ、宝石に光を当てりゃこうなるのは当たり前だっつの。
「でも賢斗君、スラ君を使って光を拡散しようっていうアイデアは悪くないけど、透過率100%でもない限り熱が蓄積するって話だったわよ?
それにアクアマリンって宝石の中ではあまり熱に強くないってどこかで聞いたことあるし」
えっ、そなの?でもまあ・・・
「その辺は心配要りませんよ、先輩。
俺がコイツに触れていれば大気圏再突入プロテクトの効果がスラ坊にも及びますから」
「あっ、なるほど、そういうことかぁ。
あったまいいぃ賢斗君、とっても素敵よ。アハハハハ」
これで1億以上の出費をしなくて済むわ♪
「なぁに、これくらい大したことありませんよ、アハハハハ」
うむ、安上がり万歳♪
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○土偶ロボ車掌と光の盾 その4○
かくして再戦に向けた準備は整った。
再び5階層駅に赴いた彼等は早速作戦を決行、賢斗が魔物の背後に転移すると・・・
キランッ、ビィィィ―――ッ!
予想通り魔物の目が怪しく光り熱光線を照射した。
すると前に位置するスラ太郎がその光を受け止め拡散、作戦は順調に進行していくかに見えたのだが・・・
(マッ、マスターとても暑いですっ!)
へっ?
確認するとスラ太郎のHPは見る見るうちに減少していく。
なっ、ヤバい、ちゃんとスラ坊に触れてるってのに。
ハイヒーーールッ!
にしてもこれはどういう・・・あっ、まさかっ!
大気圏再突入プロテクトの効果も内部発生する熱には及ばない?
そこへ他のメンバー達が彼の後方に転移してくる。
「ちょっと賢斗君、話が違うじゃない。
ウォーターウォールっ!」
かおると桜が前方に水の壁を作り一角天馬が雲の壁を生み出す、しかし高熱を放つ光線はそれを難なく突き破る。
「円ちゃん、長くは持たないっ!
早めにやることやってくれぇっ!ハイヒールッ!ハイヒールッ!」
「了解しました。
皆さんが作ってくれたこの舞台、決して無駄には致しません。
シュッ、シュシュッシュ、とうっ!」
ビィィィ―――、ピタッ。
レーザー照射が止むと土偶ロボ車掌の身体は霧散を始めていた。
ふぃ~、どうやら片が付いたか。
「おいスラ坊、大丈夫かっ!?」
(はっ、はい、マスターがハイヒールを掛け続けてくれましたから)
ほっ、まあ何にせよ良かった。
とても褒められたもんじゃ無かったけど。
危うく俺の失策でこいつを人柱にしてしまうとこだったしなぁ。
にしてもなんかコイツ前より光ってんな、って何だ?
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名前:多田スラ太郎 (ブリリアントアクアマリンスライム)
生体種別:魔物目スライム科ジュエル属ブリリアントアクアマリン種
進化形態:特殊6
総個体数:1
状態:テイム
特性:レベルアップに伴う身体形状変化能力(極大)。同硬化能力の向上(極大)。同スキル習熟効果(極大)。同スキル取得率(極大)。同特異個体化発生率(極大)。
・・・
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解析してみればスラ太郎は3つレベルアップしレベル24に、オマケに新たなスキルまで獲得されている。
ブリリアントアクアマリンスライム?
発光、光吸収、光増幅、光反射、高熱耐性・・・
今の戦いでコイツこんなの5つも取得しとる。
「なんか凄いぞ、スラ坊。
命張った甲斐があったじゃねぇかっ♪」
(はい、マスター♪)
今回はヤバかったが次また同じような攻撃を仕掛ける敵が現れた時はこの新たな力がきっと役に立つ。
あっ、そだ、勇者にはやっぱ光の盾が似合うよな?
今度写真見せてスラ坊に覚えさせよう、うんうん。
かくして予想に反し総力戦の様相を呈した戦いはなんとか清川ダンジョンラスボス討伐達成という結果を残したのだった。
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○ギャラクシーエクスプレス その1○
ドロップした極大魔石と土偶ロボ車掌AIカードを回収すると建造ドックの中に足を踏み入れる。
するとその中はだだっ広いフロアの真ん中にダンジョンコアが乗った台座があるだけだった。
プライベートダンジョンに探索者協会の攻略認定はされないが一応写真撮影を済ませた賢斗達は5階層を後にした。
しかしこうして清川ダンジョンの下層攻略が終結を迎えて尚まだ一つ謎が残されている。
そう、それは未だ閉ざされたままである発進基地の最後のゲート。
いったい6番ゲートの先にはなにがあるのか?
その謎を解き明かすべく発進基地に戻った賢斗達はスラムーン号のVIPルームのソファに座り6番ゲートを眺めていた。
やっぱラスボス倒しても開いてなかったか。
「きっとあの中にはお宝がてんこ盛りよ」
うむ、それもよきかな。
「違うよかおるちゃん、あの中にはおっきな人型ロボットが隠されてるんだってばぁ」
おおっ、俺もソレ希望、乗れちゃう系の奴で。
「違いますよ、桜。
あの中は土偶ロボ車掌の製造工場、開けたが最後土偶ロボ車掌が大量に襲ってきます」
おいおい怖いこと言うんじゃないっ!
ホントに出てきたら洒落にならんだろぉ?
「で、賢斗君、どうやったらあの扉は開くのかしら?」
「あっ、いやそれついてはもう必要なピースは全て揃ってますよ。
こんなカードがあのラスボスから100%の確率で通常ドロップ。
そしてスラムーン号VIP車両にある模型台座の挿入口。
こんなの謎解きでもなんでもないですから。
ってわけで皆、そろそろあっちの模型台座の方に集まってくれ」
賢斗は立ち上がると他の面々もそれに続いた。
はてさて6番ゲートの先には何があるのやら。
「それじゃあ入れてみるぞ、それ」
賢斗が土偶ロボ車掌AIカードを台座の挿入口に差し込むとそのサイズは見事に一致、すんなり奥に吸い込まれた。
プチュン、ガーガガッ。
するとこの階層のジオラマを映し出していたホログラムが消灯。
・・・認証、認証、パッ。
ほどなくカプセルの表面に小さな土偶ロボ車掌が映し出された。
「ご乗車有難う御座いマス。
この機関車はギャラクシーエクスプレス、スラムーン号。
現在車両強化プログラムを実行中、しばらくお待ちくだサイ」
へっ、ギャラクシーエクスプレス?
中はブラックアウトしたまま表面には幾つものプログラム進捗が表示され100%になっては消えていく。
そんな様子を眺めつつ10分程経過するとようやくプログラムコンプリートの文字が表示された。
「お待ちどう様でシタ。
車両強化プログラムが完了、多田賢斗サマはこのスラムーン号の運行管理システムへのアクセス権を獲得しまシタ。
さて何処へ向かいましょうカ?」
カプセルドーム内のホログラムが復活するとそこにはまるで宇宙から見た地球と月が浮かび上がっていた。
次回、第百七十五話 はじめての宇宙。




