第百七十三話 4大ダンジョンラスボス一掃大作戦
○4大ダンジョンラスボス一掃大作戦○
8月15日木曜日、大賑わいだった開業イベントの3日間が終わりギルドクローバーは今日から通常営業。
開店前の行列も今日は30名程と幾分落ち着きを見せたがスキル研の面々には今週一杯アルバイトを継続してもらう事になっている。
一方ファン感謝祭りに駆り出されていた賢斗達については本日からお役御免。
拠点部屋では早速ダンジョン活動再開へ向けパーティーミーティングが開かれていた。
「まっ、今のうち等の状況としてはこんなところだな」
現在ナイスキャッチが攻略中のダンジョンは越前、伊賀、清川の3つ、これらは何れもあとはラスボスの討伐を残すのみとなっている。
「それで賢斗君、何処から討伐に向かうの?」
そして日付は既に満月日の2日目、四人でキャットクイーンを共有することになる今回は上記3つのダンジョン全てのラスボスを順次討伐していく方向で話は進んでいる。
「う~ん、優先度的にはやっぱ越前ダンジョンかな。
なんかまた協会長から依頼が入ったらしくてさ、さっき水島さんに釘刺されたばっかだし」
「多田さん、雲長須鯨のテール肉は絶対ゲットしてきてください。
なんでもお刺身にして食べると絶品らしくてまた蛯名光圀様より依頼が入ってますから。
絶対ですよ?私も食べてみたいのでお土産も期待してます」
ほほう、あのデカ鯨の肉ってそんな絶品食材だったのか。
だったら俺も一回食べてみたいな、ステーキで。
そんな回想をしていると・・・
「では賢斗さん2番目は伊賀ダンジョンでお願いします。
もう小太郎は早く下忍猫ジョブを取得したくてウズウズしていますから」
ふ~ん、確かに小太郎だけまだジョブ持ってないけど。
「お前そんなにジョブ欲しかったのか?」
「なんのことだにゃ?」
まっ、そんなこったろう。
「わかった、じゃあ2番目は伊賀ダンジョン、3番目が清川ってことで」
個人的には清川が一番気になるとこなんだけどな。
「ねぇ賢斗ぉ~、四人で猫女王様になるんだしさぁ、富士ダンジョンの八岐大蛇も討伐しとこぉ~」
確かに月に一度のこのチャンス、最大限に活かすのは当然の話。
「まあそれには賛成だが、3か所のボス討伐が終わった時点でまだ一人余裕があったらってことにしとこうぜ。
3か所周るっつっても敵の数はもっと多いんだし保険は必要だろ」
テイムモンスターに一撃させる手間とかもあるし3分間の猫女王様タイムで順当に事が進むかどうか結構微妙な気もするしな。
「そっかぁ~、でも一応日本4大ダンジョンラスボス一掃大作戦は決定だねぇ~」
おいおい、清川さんは何時日本4大ダンジョンに選出されたんだ?
「にしてもその大作戦が全部成功したら、いよいよテイマーズバトルトップクラス達の背中が見えてきそうね」
ん、そういや確かにテイムモンスター達には一切ジャイアントキリングを共有しない点や経験値が8等分されることを踏まえても今回の3か所のラスボスに加え八岐大蛇まで討伐したとなればこれはもう立派なハイパワーレべリング。
大会まで一週間以上あるこの状況で他の探索者達にはまず不可能だと思われるこの作戦が成功するようならまだテイマーズバトルを諦めてしまうには早い気がする。
・・・おや?
あっ、中山さぁ~ん、この私秘策持ってましたぁ♪
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○雲鯨と天空城○
かくして始まったラスボス一掃大作戦。
最初に出向いた越前ダンジョンは全15階層のフィールド型でワンフロアの広さだけなら富士ダンジョンにも劣らないBランク屈指の攻略難度を誇っている。
とはいえこれまで培った賢斗の探索力は正味4日というごく短期間でこの広大なダンジョンの最終階層到達を可能にしていた。
「うわぁ~まっしろぉ~」
「深い霧ですねぇ」
「いやこれ霧じゃないよ、円ちゃん。
取り敢えず皆・・・クイックイッ」
賢斗が上を指差すと一同は舞い上がる。
上空200m程に達するとその視界はようやく広がった。
「あれ?あんなところにお城がありますよ?」
岩山の山頂に建てられているのは日本式のお城で雲海に浮かび上がるその様は如何にも幻想的な天空城といった光景である。
「あ~これはあのクジラさんが作った雲だったんだぁ~」
一方その城の周りには雲海を我が物顔で泳ぐ3体の雲鯨、レベル39のその魔物達はまるで背から潮を吹き出す様に雲を撒き散らしていた。
また全長30mにも及ぶその巨体はあの八岐大蛇をも凌ぐHP180を誇り、足場もなく自由の利かない空中戦を余儀なくされるこの戦場では大部隊を率いての攻略は難しく一般的には長期戦必至で討伐難易度激高などと評されている。
「うん、まあ状況的には見ての通りだ。
あの城の天守閣がダンジョンコアの部屋らしいんだけどなんか結界があってさぁ、直接転移は無理っぽい。
でもまあ周りを泳いでる雲長須鯨達を討伐すればあの結界も消えてくれるんじゃないかなって」
とはいえこれらの諸問題を気にした様子もなく賢斗達が立てた作戦は至ってシンプル。
あの雲長須鯨の死角となっている背に転移で乗り移りながら各個撃破していくだけの話である。
「まあ何にせよ、あの鯨が吹き出す雲だけは要注意。
アイツ等の持ってる雲魔法は粘性のある拘束雲や複合状態異常効果の雲まで発生させられるからな」
「うんうん、アラ君も使えるようになってきたけど雲魔法ってホント見た目からじゃ効果がわからないのよ」
「ってことで、そろそろ作戦開始といきますか」
最初の猫女王様担当は桜。
彼女は早速クイーン猫エボリューションを発動した。
わおっ、何だ、このロリ巨乳の女王様は。
これは益々将来が楽しみになるじゃないですかっ!
「そんじゃあみんなぁ~、転移するから私の肩に掴まってぇ~、あっ、にゃん」
は~い♡
桜を起点に最初の討伐対象へと転移する一同。
各自自分のテイムモンスターに一撃させると最後は桜が直接パンチ&キックで止めを刺し1体目の討伐は呆気なく終了する。
その結果にホッと一息つく面々だったが・・・
「あっ、ドロップアイテムが落っこってくぅ~」
ちと浮かれ過ぎたか!またこんなくだらないミスを。
雲中に消えゆくドロップアイテム。
これを回収できるのは賢斗くらいなものである。
待てぇ~、俺の絶品鯨肉ぅ~!ひゅ~ん。
ドキドキエンジンを発動した彼は即座に急降下。
ほどなく魔石、雲長須鯨の髭そして雲長須鯨のテール肉の3つを回収し雲中から浮上してきた。
「ふぃ~、危なかったなぁ、この高さから落ちたら流石にダメになっちまうとこだったしな」
がしかし話はこれで終わらない。
「あっ、猫女王様タイム終わっちゃったぁ~」
なぬ?
「あらら、まあでも今のは仕方ないわ。誰もそこまで頭が回って無かったし。
といってもSランクパーティーとしてはあるまじきミスな気もするけど」
早速大作戦失敗か。
かくして猫女王様担当はかおるにバトンタッチ。
ほう、先輩の場合あんまり変わらんな。
ちょっと大人びてみえるけど先生の時ほどの感動がない。
先の反省点を活かしドロップ回収担当者を下に配置し討伐する形に作戦変更、残り2体の雲長須鯨討伐は無事終了し越前ダンジョン攻略はここに終結を迎えた。
とはいえエキシビジョンマッチである八岐大蛇討伐は作戦開始早々断念せざるを得ない状況となったのは言うまでもない。
にしてもどうすっかなぁ。
八岐大蛇討伐なくして俺の頑張ってますよ感は上手く中山さんに伝わるだろうか?
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○イボイボ蝦蟇キングと絡繰り屋敷 その1○
午後に入りキッスシェアリングのクールタイム明けでやってきたのは福井県伊賀ダンジョン。
このダンジョンは全27階層の洞窟型、と言っても内部はお屋敷風となっていて、蝋燭の灯る板張り通路の先には5択扉のある部屋が幾つも点在。
方角ステッキも役に立たないその扉選択を間違えば大量の魔物達がお出迎えといった仕組みで、入った部屋の扉は全ての魔物達が討伐されるまで開かず、転移系アイテムを使えるのが唯一の救いといった具合であった。
とはいえこのダンジョンと桜、円コンビは相性抜群。
桜の扉正解率は8割を超え不正解時に出現する魔物達に対しても最終階層近くまでは円の雑魚処理能力が如何なく発揮された。
結果攻略ロスは最小限に止まり、こちらもごく短期間での最終階層到達を見事に果たしていたのである。
「あれがイボイボ蝦蟇キングだよぉ~、賢子ちゃん」
武道の稽古場を思わせる広いフロアの上座には3m程の巨体に白髭を生やしたイボイボ蝦蟇キングさんレベル32が鎮座していた。ゲコッ!
うわっ、キモいな。
アレを直接パンチ&キックするとか、かなりの罰ゲームなんだが・・・
「つか賢子ちゃん言うなっ!まだ変身もしてねぇだろぉ?」
「そうですよ桜、賢斗さんを賢子ちゃんと呼べるのは賢子ちゃんタイム中だけって前に決めたじゃないですか」
あっ、いや俺の言いたいのはそういうことじゃないっ!
つか何だ?その賢子ちゃんタイムっつう不快なワードは?
なんてことをやっていると、バタンバタンバタン・・・
えっ、増えるの?
壁のそこかしこがクルリと一回転、レベル29のイボイボ大蝦蟇が次々と出現し始めた。
これはちと不味いか?
シャドーボクシングが使えない点やテイムモンスター達に一撃加えさせる手間、3分という猫女王様タイムは只でさえ短い。
・・・いやこれならまだ許容範囲。
「それじゃあ桜、先輩、先にテイムモンスター達に一撃加えさせていってくれ。
頃合いを見て俺も動き出すから」
ギリギリまで変身を我慢すれば多分イケる、俺に関しちゃ30秒もありゃ十分だし。
「りょ~かぁ~い、賢・・・」
賢斗は桜の唇に人差し指を当てた。
わかるな?これから戦場に向かう男に賢子ちゃん呼びはなしだ。
すると彼女は彼の目を見つめ静かに頷いた。コクリ
「それじゃあ私の方もなるべく早く済ませるから」
主人の指示により一角天馬が雲魔法の拘束雲を撒き散らし始めるとスケルトン武者奉行は五月雨スラッシュを放ち出す。
「よし、じゃあスラ坊、そろそろナックルグローブに変形してくれ」
(ナックルグローブぅ?)
「ん、あああれあれ、あの円ちゃんが着けてる感じの奴でいいや」
(あっ、わかりました、マスター)
ほどなくナックル感の無いグローブができあがる。
ふむ、質感は違うが毛並まで再現するとはスラ坊も成長したもんだ。
ガチーンガチーン、よし、準備完了、それじゃ一丁いきますか。
「がんばれぇ~、賢子ちゃ~ん」
おい先生、その変身するまで待ちましたってな顔はなんだ?
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○イボイボ蝦蟇キングと絡繰り屋敷 その2○
鬼出電入は加速の無い光速移動。
30秒間限定だが音速ダッシュを凌駕する機動力を発揮する。
バチンッ、バチンッ、バチンッ、バチンッ・・・
出現した8体の魔物の近くで閃光が走るとその体は音もなく霧散していった。
「ふぃ~、終わった終わった」
「ちょっと賢斗君、凄いじゃない。
何時の間にそんな技身に着けたの?」
そういや先輩達にこれ見せるの初めてだったか。
「あっ、いやこれ雷剣の特技なんで結構前から使えてたんですよ」
「すっごぉ~い、賢・・・ピタッ」
わかるな?
コクリ。
「ところで皆さん、お願いがあるのですが、これを小太郎にあげてもよろしいですか?」
円が手にしていたのはカプセルモンスター(イボイボ蝦蟇キングLV1)、今回の戦利品の一つである。
ほう、それドロップしてくれたのか。
にしてもカプセルモンスター(ジャイアントフロッグLV1)が2100万円で落札されてたことを考えると最早こいつは4、5000万円くらいの価値があるんじゃねぇか?
「別にいいよぉ~、円ちゃん」
まあ先生太っ腹。
「そっ、そうね、わっ、私もそれでいいわよ」
先輩、声震えてますよ。
「賢子ちゃんはぁ~?アハハ」
賢子ちゃんとしてはだな・・・って違う違う、ったく桜の奴め。
ここぞとばかりにおちょくりやがって。
まっ、それは兎も角普通に考えれば子猫にこんな高額アイテムを与えるとか馬鹿のすること。
だがしかし小太郎は最早俺達パーティーの一員、そして各メンバーに相応しいアイテムをゲットした時にはそれを快く提供するのが俺達パーティーのルールでもある。
ここでダメだと言うような奴は小太郎を本当の意味でパーティーメンバーとして認めていないことになってしまうだろう。
「俺も小太郎にくれてやることに全く異議はないよ。
っとに感謝しろよぉ、小太郎」
「にゃあ?」
・・・コイツの教育には異議ありだけどな。
次回、第百七十四話 土偶ロボ車掌と光の盾。
大変お待たせしました、更新は12時です。




