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第百六十九話 テイマーズバトルの参加者達

○テイマーズバトル特集○


 テイマー協会本部、特別応接室。


「ようきてくれはったな、銀二君。

 一応仲人を誰に頼むか二人で相談しとこ思うて。

 こういう話はやっぱり電話じゃアレやしな」


「いやまだそういう話になるか結果もでてないだろぉ?」


「だってほら、これ見て。

 なんやナイスキャッチメンバーによる優勝は難しそう言うとるで」


 斎藤は中山に探索者マガジンを差し出した。


『~テイマーズバトル特集~


 これまでのテイマー界は階層間移動もできず、ダンジョン外へ連れ出す事も出来なかったが故に下火だったと言わざるを得ない。

 しかし低濃度魔素抗体ワクチンの開発により今年に入って俄かに脚光を浴び始めたテイマー達。

 そしてそんな中開催される今月の第1回テイマーズバトル大会には多くの方々が注目していることだろう。

 それでは早速その大会の有力候補達をご紹介していく。


 先ず本大会での本命筆頭と思われるのは魔物たらしの異名をもつAランク探索者、九条琢磨氏。

 彼のその高いテイム成功率はこれまでのテイムスキルの制約を一切苦にせず、実戦で味方を増やしながら戦う戦闘スタイルを可能にしていた。

 そしてこの彼が今大会に向けテイムしたのはなんと富士ダンジョンのジャイアントマンモス。

 いきなりレベル31の魔物をテイムできる時点でかなりのアドバンテージがあり、他の参加者の1歩も2歩も先を行っているだろう。


 次点に挙がるのはなんとGランク高校生探索者の緑山茜さん。

 彼女に関しては今まで大した活躍もなくほぼ無名だが何故次点に挙がってしまうのかといえば、彼女自身がレベル8でありながらレベル30の魔物をテイムしてしまうという常識では考えられない離れ業を成功させているからである。

 いったい何故そんなことができたのか全く興味の尽きないところだが、彼女の所属事務所はあのナイスキャッチが所属する事でも有名なクローバー探索者プロダクション。

 この事務所のバックアップ力は予てから定評があり、この辺りにそのヒントが隠されているのかもしれない。


 そして三番手はまだ駆け出しの探索者アイドル、海上愛梨さん。

 自身の探索者ランクはDランクと普通だが何と彼女はあのSランク探索者海上司を祖父に持つ海上家の御令嬢。

 自宅にはプライベートダンジョンを3つも所有し彼女の登録したモフモフラビットはレベル28と尋常ではない高レベルとなっている。


 四番手は現在Aランク探索者であり、元探索者アイドルの市村紫苑さん。

 10年程前までバタフライクイーンとして名を馳せていた彼女のテイムモンスターといえば皆さん御存知のアブノーマルバタフライ。

 今ではすっかりメディアから遠のいてしまっているが当時レベル10だったこの美しい蝶の魔物は大会参加申請時点においてレベル21にまで成長している。

 そして階層間移動の枷が外れた今、テイマーとしてまた探索者としても経験豊富な彼女は上記三名を上回る実力を十分に秘めている。


 そして最後は上記四名からやや見劣るものの要注目の参加者、今や時の人ともいうべきナイスキャッチの小田桜さん。

 彼女はまだテイムスキルを取得したばかりだと言うが、何と初めてテイムした魔物がレベル20の武者スケルトン。

 幸運の加護を受けた彼女の活躍には今大会でも期待が集まるだろう。

 またこの他Sランクパーティーナイスキャッチからは多田賢斗君、紺野かおるさんの両名が出場登録している。

 しかしこの二人に関しては登録したテイムモンスターのレベルがレベル1にレベル3とかなり低く今大会への出場はファンサービスの一環だという公算が大きい』


 ほう、この国でもトップ層はレベル30超えの魔物をテイムしてんのか。


「これはもう式場探しも始めとった方が良さそうやろ?ニコリ」


「いやみやちゃん、よく見ろって。

 この次点に挙がってる緑山茜って娘は優勝したらナイスキャッチに加入する事になってるってこの間話しただろぉ?」


「あっ、あれな、でもよう考えたらあの話はやっぱなしや。

 現時点で無名の女子高生に優勝されても大会としてはちっとも盛り上がらんやろ?

 もしその話を私に承諾させたいなら大会が始まる前にナイスキャッチに加入してもらわんと」


 ちっ、この間妙に返事を濁してたかと思えば・・・


「うっ、まっ、まあそうかもな。

 わかった、その件はまた俺がアイツに伝えてみる事にするよ」


 ・・・にしても賢坊の奴、登録モンスターがレベル1ってのは何の冗談だ?

 ったく、俺があれだけ念を押したってのにふざけんのもいい加減にしとけよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○清川3階層フロア○


 ハッ、ハッ、ハーックション!

 おや、賢斗さん夏風邪?


 ギルド活動終了後、ナイスキャッチの四人はそのまま3階層フロアへ出発。

 トンネルを抜けた先にはまた湖が見え、向日葵が咲き乱れる夏の景色が広がっていた。


「あ~ズズ、ちょっと皆聞いてくれ。

 今日の3階層攻略なんだがこれは桜と円ちゃんに任せていいか?

 探すべきは4階層行のチケットと1階層行のチケットが入った宝箱。

 そしてこの階層の植生から考えるとスライム形の花を咲かせたヒマワリが何処かに生えてる筈だ。

 なっ?大方の攻略方法も見えてるし二人でも余裕だろ?

 俺と先輩のテイムモンスターは桜の五右衛門さんに比べたらまだまだ弱っちいからさ」


「別にいいよぉ~」


「お任せください、賢斗さん」


 プラットホームに降り立つと桜と円は早速方角チェックを開始。

 賢斗とかおるも二手に分かれ自分のテイムモンスター育成に向かった。


 湖畔までやって来ると賢斗はそこに居たスライムに対しスラナイフを投擲。


 ドスッ、ドスッ!

 多少増えた体積と分裂合体スキルのお蔭で現在スラナイフは2本となっている。


 とはいえ3階層フロアの湖畔に居るスライム達はレベル10前後でスラ太郎にとってはかなりの格上。


 シュパンッ! 

 最後はやはり賢斗の雷鳴剣チックな錆に強い剣の出番となっていた。


 ともあれ昼までの3時間程でスラ太郎はレベル3からレベル4、そしてレベル5へと急速なレベルアップを果たしていった。


「あれ?スラ坊、お前投げナイフ術スキルを取得したのか?」


 ・・・まさか投げられてた側がこんなスキルを取得するとは賢斗さんもビックリだぞ。


(あっ、はい、つい先ほど、えいっ!)


 スラ太郎は分体をナイフ形状にして投擲。


 遂にスラ坊にも攻撃手段が・・・


 現状投擲するまで時間が掛かりその飛距離はたった1m、それでいて連射もできず投擲後は回収移動にも時間が掛かるといったお粗末な有様。


 いやこれは当分アテにできそうもないな。


 まっ、それはそれとしてだ、この投げナイフ術ってスラ坊が本来取得するスキルなのか?

 こんな武器系スキルを取得するスライムなんて聞いた事ないんだが。


 勿論賢斗もスラ太郎が普通のスライムでないことはよく理解している。

 しかしそれでも尚彼の様子を見る程に投げナイフ術というスキルが本来スラ太郎が取得するものとは違うのではないか?という疑問が生じるのであった。


 う~む、これはひょっとすると・・・


 午後に入ると更にひと回り大きくなったスラ太郎に対し賢斗は短剣へのモデルチェンジを依頼。

 ポイズンエッジにパラライズエッジ、久し振りに短剣スキルの特技を披露し始めた。


 シュピシュピシュピンッ!

 まっ、使わなくても余裕で倒せるんだが・・・


 そして午後3時、レベル7になったスラ太郎は賢斗の推測を証明するかのように短剣スキルを獲得してしまった。


 あっ、やっぱり・・・


 数日前の茜の神界通信によれば魔物のスキルはレベル条件を満たせば勝手にその魔物固有のスキルが取得されていくと明らかになっている。

 にもかかわらず、今回その固有のスキル以外と思しきスキルをスラ太郎は2つも取得するに至った。

 これはつまり魔物のスキル取得には固有スキルの自動取得システムの他に経験による習熟取得システムもまた同時に存在しているということである。


 とはいえ後者については人と違いどんな魔物であってもそれが可能だという話でも無く、通常であれば魔物は習熟取得しないという認識で何等間違ってはいない。

 では何がスラ太郎をその例外足らしめているのかといえば、それは彼が持つ特大レベルのスキル習熟効果に起因するのである。


 ちなみに以前のハイテンションタイム検証に於いてスラ太郎がスキルを習熟取得することはなかった。

 この理由についてはほぼ0に等しかったスラ太郎の運動能力と魔物全般にいえるイメージ力の低さがその原因と推測される。


 まっ、何にせよこういう感じの方法ならスラ太郎も習熟取得できるってことだな。


「やったな、スラ坊、短剣スキルゲットじゃねぇか」


(はい、マスター♪)


「パカラッパカラッ、賢斗くぅ~ん、たっだいまぁ~。

 どう?見て見て、アラ君の角と翼が随分立派になってきたわよ」


 ふ~ん、そっちのユニサスさんはもうレベル10になったか。

 となるとこの3階層も育成場としては物足りなくなってきたな。


 ゴゴゴゴゴォー

 湖の中央が渦を巻き始める。


 おっ、丁度いい具合にあっちも攻略完了か。


「賢斗ぉ~、終わったよぉ~」


 1階層行チケットと4階層行チケットを手にした桜が箒の後ろに円を乗せ舞い降りてきた。


 ほう、その箒二人乗りできんのか。


「いや~賢斗がスライム形のヒマワリの花なんて言うからさぁ、探すの時間掛かっちゃったよぉ~」


「はい、スライム形の根っこで探したらようやく見つかりましたよ」


 あっ、そっちのパターンだったか。


 プォォォォーッ!

 スラムーン号は湖底のドックへと走り出す。

 戻って来たその車両にはお泊り可能な個室が並ぶ寝台車両が牽引されていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○魔物合成の怪物○


 DDSFまで出動する事態となった森下研究所の火災事故。

 後日開かれた森下グループによる謝罪会見には多くのメディアが集まり、その模様がニュースやワイドショーなどで取り上げられていた。

 といってもその論調は当事者である森下グループの管理体制を非難するというより、迅速な判断により人的被害を出さなかったことやこの施設の安全性。

 また今回の被害を最小限に止めたDDSFへの賞賛に向けられ、世間的にも批判的な風潮は起こらずにいた。


 一方そんな世論もあってか森下グループは今後も研究所の継続を表明し今現在施設の再建工事が既に始まっている。


「全くあんな事故があったってのに先生のしぶとさには恐れ入りますよ」


 篠宮に呼び出され再び研究所を訪れた北村は彼に連れられ今回の被害を受けていない地下区画へと向かおうとしていた。


「まあ減俸3か月程度の処分で済んだのは北村君のお蔭もあったかもしれないね。

 あの時の君の言葉が無ければ私はもう少しシャットダウンの判断を渋ることになっていただろう、それなりに感謝はしているよ」


 エレベーターに乗るとその階層表示はB1~B4までしかない。

 しかし篠宮がキーパネルにパスワードを打ち込むと小窓がスライドしB5のボタンが現れた。


「それで先生、今日はいったい何の用ですか?」


「まあそう焦らずとも黙ってついてきたまえ。

 君には感謝していると言っただろう」


 通常区画のB1~B4まではエレベーターの移動表示はスムーズ、しかし5階層への道のりは結構な時間が経過する。

 ようやくエレベーターが停止すると今度は長い直線通路、ようやく辿り着いたその先は魔物隔離ゲートで行く手が阻まれていた。


「ここは森下でも上層部の一部しか入れない特別区画、きっと君も喜んでくれる筈だ」


 篠宮が虹彩認証によるセキュリティーを解除すると3重構造となっていた隔離ゲートが順に上昇する。


 ・・・随分厳重じゃねぇか。


 隔離区画内に入るとフロアには特大サイズの魔素濃度維持装置が10基。

 その光景に北村は目を大きく見開く。


「なっ、こいつ等はいったい何なんですか?先生っ!」


「ふっ、どうやら驚いてくれたようだね」


 魔素濃度維持装置の中にはゴブリンの上半身に狼の身体、また全身植物化したゴーレム等。


「こ奴等は魔物の合成体、まあ西洋風に言えばキマイラといったところか」


 これまで彼が見た事もない異形の魔物達が眠らされていた。


「魔物を合成すればその能力値は凡そ1.2倍程に強化され、また所持していたスキルも大半は引き継がれる。

 こ奴等は特異個体化現象を引き起こした魔物に匹敵、いやそれ以上のポテンシャルを秘めた魔物なのだよ」


「ど、どうやってこんなものを?」


「なぁに原理的にはそう難しくはない。

 魔物の身体に他の魔物の魔石を埋め込んでやるとやがて2つの魔石は融合し2体の魔物の特徴を兼ね備えた新たな魔物が誕生する。

 まあ詳しいところは幾ら君でも教えてやることはできんがね」


 魔物の合成技術というのはまだ学会でも未発表の極秘技術、今現在その技術手法は篠宮の頭の中だけに存在していた。

 一方この技術を以て既に森下グループは魔物販売事業に参入直前段階、幾ら不祥事を起こそうがこの天才研究者を今手放す考えは森下上層部には最初から無かったのである。


 倫理観も何もあったもんじゃねぇ・・・がこの先生は本物の天才だったってことか。


「そして今日君に見せたかったのはこっちだ」


 篠宮は北村を先導し、最奥の魔素濃度維持装置の前まで歩く。


「この個体は4体の魔物を合成し能力的にはステージ4特異個体にも匹敵するポテンシャルを持つ現時点での最高傑作、鵺だ。

 来たるテイマーズバトル大会に向け北村君にはコイツをテイムしてもらい、是非そこで優勝してもらおうかと思ってるんだ」


 えっ、俺が?


 そしてその魔物販売事業の参入時期となっているのがテイマーズバトル開催後日。


「いや先生、俺はテイムスキルなんか持ってませんが」


 その有益性を大々的にアピールするにはうってつけの大会なのであった。


「ふっ、心配は要らない。

 スクロールとテイマーズリングの準備は当然してあるよ」


 ・・・どうやらこの先生マジでみてぇだな。


「そして大会までにはこの鵺をレベル40までレべリングしておこう。

 なぁに北村君はただ黙って大会期日を心待ちにしておくだけでいい」


 確かにこの化け物がレベル40まで育成されちまったら、諸々の状況含めて考えても今年初開催のテイマー大会くらい簡単に優勝できちまいそうだな。

 にしてもこの俺がテイマーデビューねぇ。

 まっ、折角舞い込んだこのチャンス、それも悪くないか。

次回、第百七十話 下手すると清川はAランクダンジョンかもしれない。

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