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第百六十七話 清川鉄道

○清川鉄道 その1○


 8月4日日曜日、この日から賢斗達は清川ダンジョンの攻略を本格的に着手、手始めに先ず1階層の地下を調査した。

 その結果1階層の地下にも先に繋がる通路はあったが3階層で見つけた様なフィールドフロアは存在しなかった。

 では何があったのかと言えば四隅に蝋燭の明かりが灯った8畳間程の小部屋。

 部屋の中央には宝箱もあり早速ドリリンガーから降りた面々だったが、その宝箱の前で四人は倒れてしまった。


 気が付けば蝋燭の火は消え既に6時間程経過。

 その原因を調べるとどうやら部屋の四隅にあった蝋燭が睡眠アロマトラップになっていたようである。


 またそれはそれとして宝箱はまだ未開封状態でそこに佇んでいる。

 気を取り直して桜がそれを開封してみれば中身は何の変哲もない木製のブーメラン。

 彼女がそれを手にすると宝箱は消滅しそれがユニークトレジャーであることを物語っていた。

 ともあれ睡眠アロマトラップにかなりの時間を浪費させられた彼等はこの日の探索を切り上げ拠点部屋に帰還することとなった。


「光ちゃん、このブーメラン幾らくらいになるかなぁ~?」


「まあ一応ダンジョン産の武器ですし、5万円くらいならお引き取りしても宜しいですけど」


 う~ん、やっぱそんなもんか。

 ユニークトレジャーつってもハズレがあるって話だったし。

 まっ、ちょっと前なら5万円でも大喜びしてたとこだけどな。アハハ


「そんなガッカリしなさんなって。

 ちゃんと他にも収穫があったじゃない」


 えっ、他の収穫?と言いますと・・・


「ほら、あの1階層の隠し部屋だったら睡眠習熟に使えそうでしょ?

 今後は態々協会のある白山ダンジョンに行く必要もないしあのトラップルームは私達にとって大収穫よ」


 おお、確かに!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○清川鉄道 その2○


 翌8月5日月曜日、この日も昨日に引き続き清川ダンジョン攻略に着手、2階層の地下調査から始めることになった。

 今度こそフィールドフロアが見つかるのか?

 そんな期待を胸に掘り進めていったのだが、見つかったのはまたしてもトラップルーム。

 そこのトラップは毒アロマで部屋に入った瞬間ろうそくに火が付き不用意に入れば毒状態を免れない。

 とはいえ猛毒という程のことも無くしばらくは活動可能で四人は取り敢えずそこにあった宝箱を開封することに。


 するとそこに入っていたのは一枚の切符の様なモノ。


「乗車チケットだってぇ~。

 行先清川2階層って書いてあるよぉ~」


 彼女がソレを手にしても宝箱が消滅しない事からどうやらこのアイテムはユニークトレジャーではないらしい。


 ふ~ん、で、何に乗せてくれんだよ。


 2階層行きのチケットなるモノを入手したはいいが解析説明でもその使い方は一向に分からない。

 また現在自分達が居る階層が2階層であり、そこに行くチケットに何の意味があるのか皆目見当がつかなかった。


 しかしその後3階層大部屋の更に地下をドリリンガーで掘り進めていくと妙な事象に直面することになる。


 これってどういうこと?


 一定深度に達すると掘り進めている筈なのに深度計はその深さを更新せずループ状態に陥ってしまう。

 疑問の赴くまま1、2階層地下を再調査、すると重大な事実が発覚した。


 そこにあるはずの階層間隔壁が存在していないのである。


 う~む、ひょっとするとこれは・・・

 階層間隔壁が存在しないってことはこれまで1、2、3階層と考えていた洞窟部分は新たに発見したフィールドフロアへと繋がる単なる通路であり、その全てがこの清川ダンジョン1階層だと言えなくもない。

 この推測が当たっているとすればあの妙なチケットの使い道だってまだ・・・

 にしてもあそこに乗りものなんかあったか?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○清川鉄道 その3○


 数々の疑問が渦巻く中3階層のフィールドフロアへ移動した賢斗達。

 ドリリンガーを降りかおるが自慢気に方角ステッキ100を使ってみると・・・


「下層の通路、あれ、倒れないわ」


「いや先輩、乗り物って言ってやってみてください」


 しかしそれでも方角ステッキ100は倒れない。


 あれ、おかしいな、てっきりあの湖の底にでもチケットを使う乗り物が沈んでいるのかと・・・


 ラスボスの位置、ダンジョンコアの部屋、色々と試してみるも必ず当たるそのステッキが方角を指し示す事はなかった。


「あっ、あれレア個体かなぁ~?賢斗ぉ~。

 ヴァーニングレッドスライムにモスグリーンスライムだってぇ~」


 おっ、そういや円ちゃんが居るんだったな。


「なんですか?賢斗さん。

 円に惚れ直したみたいな顔をして。

 なんならおぶさって上げますよ?」


 ふっ、おんぶをご褒美みたいに言われましても・・・

 まっ、これだけのスライムの楽園、これ以上のモノを望んだら罰があたるかもしれないな。


 暗礁に乗り上げてしまった疑問は一旦横に置き、賢斗は深層探索方針一色だった頭を切り替える。


「そんじゃあレア個体の討伐は桜先生に一任するとして残りのスライムはテイムモンスターの育成相手として役立ってもらおう。

 そうこうしてりゃこのフロアの調査も少しは進むだろうし」


「ほ~い、じゃ行ってくるねぇ~、どちゅ~ん」


 箒に跨り飛び立つ桜。


 ほえ~何あれ?

 杖が強化されてあんな高速飛行までできるようになってたのかよ。


 彼女は時計回りに湖畔を飛びファイアーボールによる対地ピンポイント攻撃を開始。

 そんな彼女を追い地上では五右衛門さんがスライム達を両断しつつドロップ回収をしていた。


 う~む、放っとくと一人で全滅させそうだな。


「お~い桜ぁ~、ちっとは手加減するよう五右衛門さんに言ってくれよぉ~」


「ほ~い」


「では私は湖の中を調査致しましょう。

 私と小太郎まで参戦しては賢斗さん達のテイムモンスターの育成相手が居なくなってしまいますし」


 コクコク、そうしてもらえると助かります。


 サンバカーニバルにお着替えを済ませた円は小太郎と共に湖の中へ足を踏み入れていった。


 ・・・あの形はやはり欧米の血、純血日本人には絶対に到達し得ない領域だ。うむっ♪


 と頷きながら彼女のお尻を見送っていると・・・


「ほら賢斗君、どう?パカパカ・・・」


 一角天馬に跨ったかおるは自慢気に弓を引いたサジタリウスポーズを披露した。


 いや今それどころじゃ、あっ、ほらもう水の中に・・・


「私射手座だし、こういうの似合うでしょ」


「どう?と言われましても、その馬随分小さくなりましたし傍から見ると何だか動物虐待してるみたいです」


 今んとこポニー種の馬より小さいんじゃねぇか?


「何よそれ、う~ん、でもやっぱりそう見えちゃうかなぁ?

 この子が成長するまで乗らない方がいいのかも・・・」


「ブルブルブルゥ、ヒヒィ―ン」


「あは、私は軽いから大丈夫ですって、賢斗君」


「ああ、さよで」


「うん、私軽いから」


 分かったっつの。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○清川鉄道 その4○


「そんなことより先輩、俺達も早くテイムモンスターの育成に取り掛かりましょう。

 折角五右衛門さんに手加減をお願いしてるんですから」


「あっ、それもそうね。

 じゃあアラ君行くわよ、突撃ぃー!パカラッ、パカラッ」


 一角天馬は走り出すとスライムの核を踏みつけていく。


 おお、レベル3の癖にやるもんだなぁ、あの馬。

 まっ、種族的な強さに差があり過ぎるけど。


「スラ坊、こっちも負けてらんねぇぞ」


(はいっ!マスター)


「よし、じゃあ先ずはそこに居るスライムを一人で殲滅してみてくれるか?」


 賢斗の投擲補助があればこの格上スライム相手であっても討伐は可能であろう。

 しかしそうなれば当然獲得経験値は二分されてしまう。

 またスラ太郎は2レベルアップにより体積が微増加、変形もできるようになっている。

 これ等の現状を鑑み育成に重きを置くならいち早くスラ太郎単独討伐に舵を切るのは当然の選択であった。


 スラ太郎を地上に置くと彼は前傾重心に変形しつつ単独移動を始める。


 ゴロン・・・ゴロン・・・


 しかしその変形速度は壊滅的で素早さを語るどころではない。

 また伸ばされた刺突触手にも鋭さが微塵も感じられず、その光景はあたかもスライム同士で挨拶を交わしている様にしか見えない。


 ニョキニョキニョキニョキ、チョンッ、ようっ!


 ともあれ練習を重ねていけばその内に、そんな淡い期待を30分程抱き続けていたが結局彼の勇姿を拝むことはできなかった。


 う~む、やはり魔物の成長起点はレベルアップ時に集約されてるみたいだなぁ。


 見兼ねた賢斗は新たな指示を彼に出す。


「よし、スラ坊、もういいから今度はこれと同じ形に変形してみてくれ」


 賢斗が手にしたのは昨日手に入れた木製のブーメラン。


(はい、それならお安い御用です)


 お安い御用という割に・・・うむ、やっと終わったか。

 変形完了に5分程掛かったが硬度的にはまずまずの及第点。

 んじゃ、ドキドキジェットを発動っ!


「いけっ!スラブーメランっ!」


 地表スレスレにスラ坊をアンダースロー。

 クルクルクルゥ~グサグサグサァ!

 殺傷力が上がったV字型スラ太郎はものの見事に点在していた三体のレベル5スライムを撃破し戻って来る。


 クルクルクルゥ~パシィッ!


『ピロリン。スキル『ブーメラン術』を取得しました。』


 おおっ♪やはり回転力も加わったブーメラン攻撃なら只の投擲とは雲泥の差。


「いい感じだぞ、スラ坊」


 経験値は分散されるけど今はこの調子でドンドン・・・ってあれ?


 手にしたスラ太郎の身体は硬質なものからブヨブヨ体に戻っていた。


(マシュタ~、目が回りますぅ~)


 あっ・・・ゴメン、ソコ考えてなかった。


 5分程するとスラ太郎は三半規管の機能障害からようやく復活。

 先程の反省点を活かし今度は小型ナイフ形状になってもらった。


 まっ、やや威力に劣るもののこれなら目を回す事もあるまい。


 先ずは一度練習をと辺りを見渡し標的を探す。

 すると林の木々の中、地上1m程のところにスライム型のコブがある木が目に入った。


 おっ、アレ丁度いいな、それっ。


 シュッ、ドスッ!小気味良い音と共にスラナイフは見事そのコブに突き刺さる。


 よしっ、これならレベル5スライムを倒すことだってできるだろ。


 そんなことをやっていると・・・


「お~い賢斗ぉ~、たっだいまぁ~。

 ほらぁ~、見て見てぇ~」


 あら、お早いお帰りで。


 桜は胸に7つのスキルスクロールを抱えていた。


 水魔法はもとより、火魔法に風魔法、土魔法に毒魔法、おっ、雷魔法におおっ!


「炎魔法のスキルスクロールまであるじゃん。

 やったな桜、それお前欲しがってただろ」


「うん♪火魔法と炎魔法のイメージがごっちゃになっちゃうからさぁ~」


 まっ、イメージが固まらなきゃ睡眠習熟といえども魔法スキルを習得できないからな。


「あっ、お帰り、五右衛門さぁ~ん」


 遅れて戻ったスケルトン武者奉行は懐からボタボタとスライムジェルの瓶詰を落としていく。


 うむ、こっちの数は尋常じゃないな。


 パカラッパカラッ、そうこうしてるとかおるも帰還。


「ふぅ、なんとかアラ君がレベル5になってくれたわ。

 どう?もう動物虐待には見えないでしょ?」


 いやまだポニー程度の大きさですし・・・

 あっ、そだ、スラ坊回収しないと・・・トコトコトコ


 それは木に突き刺さったスラ太郎を引き抜いた瞬間だった。


 スポッ、えっ?


 目の前の木が霧散を始める。


 ダンジョンの木ってナイフが突き刺さった程度で消滅するか?


 ゴゴゴゴゴゴォー、えっ、何だ?


 フロア全体に地揺れが起き、濁流の音に目をやれば湖中央付近の水面が渦を巻き始めている。


 なっ、何が起きてんの?


 急いで湖畔に駆け寄るとまるで底が抜けたかのように湖はその水位をどんどん下げていく。

 そして幾ら注意深く湖面を見渡せど湖調査に当たっていた円と小太郎の姿を見つけることはできなかった。


 不味いっ!円ちゃんはまだ長距離転移が使えない。

 短距離転移じゃ水中から地上への転移なんて・・・くそっ!


「お~い、円ちゃ~んっ!」


「はい、何ですか?賢斗にゃん」


 心配したのも束の間、彼女の名を叫ぶとその姿は彼の背にあった。


 あっ、いえ無事で何よりです。


 見上げればオーラウィングで空に浮かぶ子猫の姿。


 ふっ、小太郎の奴いい仕事してるじゃねぇか。


「うぉ~すっごぉ~い」


「にしても驚いたわねぇ、まさかこんなものが沈んでいたなんて」


「ええ、私が先程潜った時にはあんなものありませんでしたにゃん」


 湖底の中央にはターンテーブルに乗った黒いSL。

 そこから放射状に延びる5本の線路の先には番号の書かれた分厚いゲート。

 ダンジョン出現から50年以上、これまで誰も見る事がなかった清川鉄道発進基地がその姿を現した瞬間だった。


 ・・・どうやらあのチケットの使い道が見つかったようだな。

次回、第百六十八話 蒸気機関車 スラムーン号。

更新時間は午後3時です。

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[一言] ターンテーブルで行き先を変えるSLとかロマンですなー
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